SS(二次創作)昔話 あるいは、エヴァの話。
SSの読み方は、未だによく解りません。
ショートショートなのか、サイドストーリーなのか……私は面倒くさいので、ずっとエスエスって読んでいますが。
◆ ◆ ◆
奇水です。電撃文庫などで書いてます。小説を書き出してそろそろ三十年になりますが、ネットで書いてるのはもしかしたら二次創作小説の方が多いかもです。具体的なタイトルはここではあげませんが、十年以上前はネット小説といえば二次創作の方が読まれると言われてたもので、最盛期では一回の更新で二十四時間以内に3000pvついてたものです。懐かしいですね。今では到底そういうの無理です。
さて。
二次創作という言葉がいつ頃からあるのかはよく解りませんが、大塚英志先生がどこかで書いたのが初出らしいです。そのテキストは多分、未読なのですが、そこらの事情に興味がある人はネットにも多分そんなにいないと思うので、軽く触れるだけにして、語源ではなく、意味を言うと「オリジナルを一次創作として、その作品を元に原作者以外の手によって作られた創作物」くらいのものです。
回りくどいでしょうか?
回りくどいかもですが、ここらは一応、ざくっとですがある程度定義づけておきます。そうしないと後々面倒くさいことになるからですが、とりあえずパロディとかパスティーシュとか言われるもの全般を指していると思えば、ぼんやりと把握できると思います。
私がここで話すことは、いわゆるSS……ネットで発表される二次創作の小説を主に指している領域に、それも主に2000年から2005年前後のエヴァンゲリオンの二次創作に限定しておきます。
黎明期のエヴァSSのことについては、現在のネット小説事情にかなり影響しているということはしばしばツイッターなどで言及されることがありますが、実際のところ、当事者の多くはSSを書くのも読むのも引退し、一部の書き手はほぼほぼ当時のことは口をつぐみ――
現代ではあまり語る者もいないというありさまです。
まったく、ではありませんし、ネットの何処かに思い出話を書いたテキストが転がっているのかもしれませんが。
以下のものはエヴァSSについての個人の思い出話にしか過ぎず、しかも20年を経た現在、記憶違いも多くあることは想像に難くなく、他の人の記憶、記録と整合しないこともあると思いますが、それでも一つの証言として遺して置かねばならない――という使命感があるわけでもなく、まあなんとなく書いといてもいいかな、くらいの動機で残すものです。
たいしたことではないですが、まあないよりはマシってくらいで。
前置きはこれくらいにして……。
◆ ◆ ◆
私がエヴァのSSに遭遇したのは、たぶん、1999年の年末あたりだったと記憶しています。
その頃、とある古書店を経営していた私は、あれこれとあって会社を解雇されたりもしつつ、店番などしながらどうしたものかと悩んでました。
当時はまだ不景気が本格化しだしたばかりの頃で、思い返せばいろいろとやりようはあったのですが、その頃の私はほぼノリと勢いで師匠から譲り受けた古書店をどうしたものかと試行錯誤しつつ、見当違いに雑なことばかりやってました。
師匠がどういう人で、どういう経緯で古書店を譲り受けたのかについては、またいずれかの機会で。
とにかくろくに客もこないので、暇な時間を見ては近所のネット喫茶にいってました。
その頃にはネット喫茶があったのか? と思われる方もいるかもですが、すでにありました。ただ、そこは個人の喫茶店が店内に三台ほどのパソコンを置いて、格安の値段で最初の一時間を100円、次から30分ごとに100円という値段設定の、本当にネットを置いた喫茶店……という形態でした。
定額つなぎ放題というサービスがまだまだ一般化する途上、ネットがまだ今ひとつ普及してなかった頃だからこそできた形態だったと思います。
多分まだその店、現存しているような気がしますけど。
私がそこでネットをするようになったきっかけそのものが、二次創作に関係してなくもないですが、エヴァではありません。
『ブギーポップは笑わない』のファンサイトを見たくなったのです。
ファンサイトというものの存在は知っていましたが、ブギーポップ(以降ブギポと略す)のそれについては『電撃hp』で知りました。
『電撃hp』はアスキー・メディアワークスが当時刊行していた小説誌で、後に『電撃文庫MAGAZINE』へと引き継がれることになるのですが、創刊したばかりの頃は電撃文庫自体が『ブギーポップは笑わない』の人気によって隆盛していたということもあり、ネットで見られるブギーポップのファンサイトの紹介記事があったのです。
それを読んで、当時ブギーポップシリーズにドハマリしていた私は当然のようにそれらを見たくなり、古書店の近所にあるそのネット喫茶に出入りすることになったのでした。
ちょっと前置きが長くなりましたが、『ブギーポップは笑わない』ファンサイトも一ヶ月もあれば回るだけ回ることができ、そうなるともうネットをする用事がなくなるかというとそうでもなく……私はいつしか、ネットそのものにはまり込んでしまっていたのでした。
そうして『絶望の世界』などの有名なネット小説などを経由して、ある日なんとなく気まぐれに「オリジナル小説」で検索してでてきたのが、あるエヴァンゲリオンの小説だったのです。
その頃の私にとって、「エヴァンゲリオンの二次創作」という存在自体が不可思議な、ほとんどありえない代物でした。
なんというか、いわゆる夏エヴァ――二次創作界隈での通称はEOE――を観た一般オタクである私は、「現実へ帰れ」というメッセージを割と真面目に受け取った……わけではなく、この作品に込められた、作り手の拒絶、のようなものを感じてしまったのですね。
ここらは当時伝わる話を諸々まとめると出てくる素直な感想でもあり……
私自身がエヴァンゲリオンという作品に対してさほどの思い入れがあったわけではない、というのもあいまって、なんとなーく、夏エヴァ以降のエヴァには関わらないでいました。
監督もオタクに好き勝手いわれるの、もう嫌なんだろう。
仕方ないね。
くらいの、共感なのか諦観なのか、そういう気持ちを抱いていたのです。
夏エヴァ直後にエヴァの同人誌やアンソロをまとめてゴミにだしたオタクの記事も何かで読んだ記憶があります。
だからまあ、夏エヴァ以降にエヴァの同人誌だとかパロディだとか、好んで作っている人たちがでてくるとは思えず、しかもそれが1999年頃にいるはずもない……と、思い込んでていたわけです。
本当に、この頃の私は、未熟でアホもいいところで、他の人が同じ作品を観たって同じような感想をいだくはずもない、なんてごくごく当たり前のこと、知っていたはずなのにどうしてか思い至らなかったようです。
――なものですから、初めてネットでエヴァSSを読んだ時は、上手く言い表しにくいですが、変な衝撃がありました。
読んでみると、その作品はエヴァの本編とは異なる結末に至って、それから十五年ほど経過していた時代を舞台にしたものでした。
かつてアスカと愛し合っていたのに、アスカは死に、生き残ったシンジは教師になって、そしてかつて愛した少女と同じ姿、同じ名前の女の子と出会う――
今から思えば、本編ifからのアフターものという分類されるものでしょうかね?
初めてモニターで見る横書きテキストの小説……というわけではなかったのですが、その作品は当時の私からすると、かなり独特の書き方がされていました。
横書きのネット小説ならではの文体というものでしょうか?
当時も、そして現在もそれほど珍しいものではなかったのですが、私はそれに魅せられ、そして初読の翌日に更新というのも重なり、なんといいましょうか……当時にはなかった言葉ですが、「ハマった」のです。
◆ ◆ ◆
ここからさらにネット二次創作小説という沼に、ずぶずぶと足を踏み入れていくのですが……気がついたらかなりの文字数を書いてしまっていますね。
今回は最初にはまらせたきっかけであるエヴァSSの思い出について、そのさわりだけを語るにとどめておくにします。
…………いえ、もう少しだけ書き継いでおきましょう。
その、私を沼に沈める端緒となったSSですが、その後、ずっと更新がなく、どういうわけか、その続きが出たのは三年ほど後だったと記憶しています。さらにその後は、今となっては解りません。
書き手の方々にとっても、夏エヴァから何年も何年も、それこそ五年十年と情熱も維持するというのはできなくなっていたでしょうね。
私自身も書き手となっていたのですが、ここ十年ほどエヴァSSは書いていません。
多くの書き手たちもそのようで、かつて私を魅了していた作品の多くがネットの海の中に沈んでしまい、今やアーカイブでもかなりが掘り返すのが難しくなっているのが現状です。
あるいは、あの人たちの多くの原動力になっていただろう、エヴァという作品に抱いていた感情が新劇場版の登場によって浄化されてしまったのかもしれません。
21世紀になってから制作された、文字通りの「新世紀のヱヴァンゲリヲン」……の、序・破・Q……は、多くの人の期待と不安を煽り、そしてとうとう、ようやく、最後の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されるのです。
決着が、ついてしまうのです。
私たちを長く長く惑わせていたエヴァという物語の結末が、ついてしまうのです。
「あのSSを書いていた人は、今はどういう気持でいるのだろうか……」
もしかしたら、全てに納得して二度とSSは書かなくなるかもしれないし、あるいはその結末にも納得いかず、自分のみたかったエヴァの物語を再開するかもしれない。
そして私自身も、かつて書ききれなかった物語を再開するのか、新規に作り出すのか……。
なんとなく、そんなことを、公開予定日だった1月23日の――その前日の22日になって思ったのでした。
そして言わずがもなのことですが、公開予定日はコロナ禍を受けて再度延長ということになってしまいました。
私たちは、まだもうしばらくエヴァに振り回される日が続きそうです。
――ちょっとだけ、ホッとしています。
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