第36話 私を私として助けてくれた

るな「お年寄りは、何をしても何を言っても分からないだろうから。なんて。アナタ達の勝手な言い分なんだから。 お年寄りが同じ事何回も言うのは、その人にとって初めて言う事だから。脳の傷付いてしまった部分によって、 一人一人 症状がちがうの!」


涼也「分かるよ」


リョウくんがちっちゃく頷きながら聞いてくれるから… 心が涙でグチャグチャなココロノナカを、感情だけで話してるのに『分かるよ分かるよ』って…


溢れる思いが止まらなくなっちゃって…


るな「芳井(よしい)さんは、 むやみやたらに怒ったりしてるんじゃないの。 介護する側の態度や言葉に怒っているのよ。左側の脳が傷付いててしまって、右側の半身が麻痺して怒りっぽくなってしまったのは、 症状の一つなのもあるの。けれど、介助者が四つ折りまでしてお渡しすると、動かせる左手で巻いて下さるおしぼりは、本当に綺麗なの」


涼也「あの日も、種橋や市の職員に対す態度を怒ったんだもんね…」


リョウくんの気配り優しさ… 私が話しやすい様に話題を振ってくれたんだよね…


るな「上手に話ができないお年寄り達と、 会話をしながら作業するのだってリハビリの一つよ 『ぺちゃぺちゃと話しながら、仕事してんじゃないよ』『そんなに悠長に、おしぼり巻きをさせたりとかしてるんじゃない 』 無駄話とか、ただ自分が楽をしたいが為にお手伝いしてもらってた訳じゃないもの。だから気にしないって思ってた。けどね…芳井さんが『う、うるさい!お、怒るなら俺を怒れ!いつも、い、いつも…るなちゃんを…ふ、風歌ちゃんはどうしたんだっ』 怒鳴ってくれた時私は本当に嬉しかった…」


涼也「ずっとずっと、るなちゃんや、ふうちゃんが理不尽な事で怒られたり、 何か言われたりするのを見ていて下さったんだよね」


るな「リョウくんの事もよ。私の事を名前で呼んで下さった事は無かった。 時に娘さんの名前で呼ばれる事があってもそれでも私は話をして下さる様になった事が嬉しかった。 私を私として、私の為に怒って下さった芳井さんの、そのお気持が… 私は本当に嬉しかった…」


涼也side


るなちゃんの心からの優しさが、芳井さんには伝わっていたんだよ?


種橋や市の職員達は知らないだろうけどね?その日の事はバッチリ録音してるしね…るなちゃんに断りも無く悪かったけどさ。今の会話だって…

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