第14話 それぞれの戦い④~倫~


【娘の日記】


認知症のお年寄りにとって家から出て一人外歩き回る


施設内の廊下を歩き回るにはきちんと意味がある


一日中歩いているおばあさんは


『子供にご飯を作らなければならない』


おじいさんは


『仕事に行かなければならない』


黄昏時と言われる夕方になれば


『子供を迎えに行かなければならない』


『夕飯を作らなければならない』


『家に帰らなければならない』


その人その人の深い理由があるのだ


しかし残念な事に


車椅子に乗って頂き、車椅子の後ろに紐を付けて廊下の手すりに


いわゆる


『拘束』


という行為だ。お腹にベルトを巻いて… 車椅子から立ち上がれない様に…


なぜそのような事をされるのか分からないお年寄り達にとって、恐怖でしかないと思う。お声で叫んだり泣いたり


それでも職員の都合というものが優先されるという現実に、私はとてもショックを受け、私はその行為に慣れてはいけないと言い聞かせながら仕事をしていた


夜間はベッドから起きて歩き回る人に対して、両腕に紐を付けてベッドの柵に…


オムツをしていても排泄の感覚がある人は、トイレに行きたいという思いから一晩中ベッドガタガタ揺らし


いえ

外してほしいという当たり前訴えを、紐を外すという 行為で必死に抵抗していたのだと思う


私は家で仰向けになり、両手を横に開いて 天井をじっと見つめ事がある。私の場合はだんだんと神経が眉間に集まってきてツンという感覚が起きて


とてもじゃないけれど、じっとなんて無理だったのを覚えている


あまり動き回らない、1日の大半を横になって過ごしている人達に対しては 何十人かを大部屋に布団をひいて…


『雑魚寝』という表現が ぴったりな 状態で寝かされていて…


プライバシーも何もあったものではない


仕切りがないからおむつを替える時に 、大勢の人たちの中で…大事なところを晒されながらオムツを変えられるという…

初めに就職した所がたまたま、そういう施設であったと信じたい


大多数の施設がその様な事をしていないと言い聞かせて…


慣れる事…受け入れる事納得が出来なかった…


私は人への優しさを忘れないよう、その様な人間でいようと固く誓って…


介護の仕事にやりがいはある。お年寄りも大好き!しかし人間関係というものは私にとってどうにもこうにも …克服し難い難問ばかりの課題であった…


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