第51話 Beat Communication

『今日のBeat Communicationは、いつものスタジオから飛び出して、ビートランドフェス、夏の陣。ここ、ステージDからサリーがお届けします。最初のゲストは…この方』


『こんにちは。サティこと、朝霧沙都です』


『フェスのトップという大役、お疲れさまでした』


『いえいえ、自分で言うけど、適任でした(笑)』


『あ、分かってらっしゃる(笑)でも本当に素晴らしかったです』


『ありがとうございます』


『DANGERではベーシストとして活動されてましたが、今手にしてるのはギター。その違いで何か苦労された事はありますか?』


『いえ、昔からギターには慣れ親しんでたので(笑)』


『あ~そうですよね。おじい様は、あの世界のマノン(笑)』


『どこに行っても、朝霧って名前を出すと『もしかして!!』って言われました(笑)』


『そのもしかして!!でしたね(笑)ところで、DANGERを脱退された後、デビューと同時に全米やヨーロッパツアーを遂行されるって、かなり異例かつハードなプロモーションでしたね』


『そうですね。自分でもツアーしながら曲作りしながらレコーディングする事になるなんて、思ってもみませんでした』


『今日はステージCで新生DANGERのライヴもありましたが、御覧になられましたか?』


『もちろんです。客席で観てました(笑)』


『えー!!ステージCにいたあなた…もしかしたら、隣にサティがいたかもしれませんよ(笑)』


『誰も僕に気付いてませんでした(笑)新生DANGER、すごく良かったです。みんなステージに釘付けでした』


『DANGER以外のステージは観られましたか?』


『DEEBEEはステージ袖で観てました。解散して間がないとは言え、何だかグレードアップしてない?ってスタッフと言いながら(笑)その後のMOON SOULでは、華月ちゃんの歌声で感動したし、プロポーズにはもらい泣きしちゃいました…』


『あー…あれはもう…みんな泣いたと思います(笑)素敵でしたね~。モデルとして活躍されてる華月さんのシンガーデビュー、それだけでも驚いたのに(笑)今日はサプライズだらけで…』


『本当ですよね。FACEもサプライズだし、その後の…やる満?見た目で『ちょっと何者!?』って思った後、サウンドでガツン!!とやられましたね…』


『あ~、やる満(笑)バンド名長過ぎでしたね(笑)』


『謎の集団(笑)SNSも盛り上がってましたよ。あれは誰だ!!って』


『サティさんは誰か分かりました?』


『もちろん(笑)でも教えません(笑)』


『あーっ、ずるい(笑)ではここで、サティさんのステージをダイジェストで』


『あっ、KEELとTOYSへのコメントもしたかったけど…僕のダイジェスト、どうぞ(笑)』


 ~朝霧沙都ダイジェスト~



 〇杉乃井幸子


「お疲れさまでした。」


 ヘッドフォンを外して、朝霧沙都君に言うと。


「お疲れさまでした…やる満、楽しかったですよ。」


「……」


 意味深な笑顔を向けられてしまった。

 あたしはそれに対して、首を傾げて笑顔を向ける。



 今日はビートランドフェス、夏の陣…一日目。

 四つのステージで、日本・アメリカ・イギリスの事務所から参加してるアーティスト達が、パフォーマンスを繰り広げてる。


 今、あたしがラジオテイストでお届けしてる、ビートコミュニケーションは。

 朝から、イギリス事務所所属のダンスグループやヒップホップ・ラップグループが会場を沸せたステージD。


 メインのステージAとBと、それより少し小規模だけど、客席との掛け合いが楽しめるステージCでは、日本とアメリカ事務所のアーティスト達が熱いライヴを展開してる。



 …他局のラジオパーソナリティーをしてたあたしは、自分で望んで、鍵盤奏者になった。

 だけど最初は…DANGERへの加入を夢見てた。

 それが、蓋を開けてみると…クワフォレ。

 そして、やる満。


 若干不本意ではあったもののー…

 今は、すごく楽しかったりもする。


 ただ、最近のあたしは…自分を持て余さないよう、気を付けてる。

 クワフォレに参加した当初は、自分の意に反して華音さんと色恋の面で揉めそうになったり。

 華音さんの彼女の紅美さんにも…嫌な思いをさせた。はず。


 だから今は。

 できるだけ、感情に波が立たないよう…

 静かに静かに、にいる。ようにしてる。



『次のゲスト、入ります』


「はい。」


 進行表を見直しながら、次のゲストを待つ。


 ビートランドに入って、ここでもラジオ番組を持たせてもらった。

 だけど今日は…テレビ!!

 顔出しには抵抗があったけど、バンド加入の時点で覚悟は決めた。

 ただ…やる満の後だから、十分な準備ができなかったのが悔やまれる…


 髪の毛、乱れてないかな…




 ~朝霧沙都ダイジェスト終了~



『はい、サティのステージダイジェストでした。あのDANGERのサト君がこんな形で日本のステージに立つなんて、ちょっと感慨深いですね。今後も応援していきたいと思います。さて、次のゲストは…』


『お疲れ様です』


『色々おめでとうございます(笑)MOON SOULのお二人です!!』


『ありがとうございます(笑)華月と詩生です』


『いや~…もう、眩しいです(笑)』


『よく言われます(笑)』


『詩生さん、面白い方だったんですね(笑)今回のフェスが初ステージとなったMOON SOULのお二人ですが、結成の経緯をお聞きしていいですか?』


『話すと長くなるんですが、ザックリ言うと…片時も離れずにいる方法を思いついた。って感じです(笑)』


『わ~ごちそうそまです♡(笑)ザックリでもキュンキュンして死にそうです(笑)』


『すみません(笑)』


『ところで、あの楽曲についてお伺いしても?』


『あの楽曲(笑)あの楽曲ですね。いいですよ』


『歌詞を公募されて…選考映像も出てましたね。会長と社長とお二人。その時はどうでした?』


『あ、あたしですね…はい。素敵な歌詞だなと思って、最終選考まで残しました。でも真相はさっき映像で知ったぐらいで…』


『すごいサプライズですよね~』


『本当、驚きました。作者名がショーンだったので、外国の方だろうと…』


『う~ん。それは誰も気付かない(笑)選考会中の詩生さんの心中やいかに(笑)』


『俺は、あえて他の作品を選びました。本気で俺のよりいいと思える歌詞もあったし。俺の歌詞が他の三人の誰かの目に留まるか、賭けでしたね』


『それで誰の目に留まりましたか?』


『あ、あたしの目に留まりました…』


『わ~!!もうこれは…っ…どうして最初から書かなかったんですか?(笑)』


『いや、公募しようって話が出たぐらいだから(笑)曲に合う物が全然書けてなかったんですよ。でもその後で悶々として…あ、やっぱ俺が書きたい。って。もう、ほんとお騒がせしました』


『最終選考に残った歌詞は、今後アルバム収録する形にされるそうですね』


『はい。どれも素敵な歌詞でした。それには詩生だけじゃなく、ビートランドの誰かが曲をつけて下さる予定です』


『誰かが(笑)』


『誰かがと言っても、それはとても楽しみですね。最終選考に残った方々、お楽しみに!!』


『お楽しみに(笑)』


『それではここでMOON SOULのステージダイジェストをご覧いただきます。プロポーズのシーン、また泣いちゃう(笑)』


『ははっ。思い切り私事ですみません。MOON SOULダイジェスト、スタート』


 ~MOON SOULダイジェスト~




 〇杉乃井幸子


 ふう…。


 MOON SOULの二人が『お疲れさまでした』ってブースから出て行った。

 幸せオーラすごかったなあ。


 華月さんって、遠くから見ても近くで見ても、ビックリするぐらい綺麗。

 あたしが崇拝して止まない、あの神 千里さんと桐生院知花さんの娘さんだもの。


 …羨ましいなあ…

 家に帰ったら、あんなお父さんとお母さんがいる上に…イケてる兄もいる。


「……」


 ぶんっと頭を一振り。


 彼女は彼女。

 あたしはあたし。

 羨んだって…


『次のゲスト、行きます』


「あっ、はい。」


 ビートランドは…優しい。

 こんなあたしを、受け入れてくれる仲間がいる。




 ~MOON SOULダイジェスト終了~



『ご覧いただいたのは、MOON SOULステージダイジェストでした。う~ん…あたしも跪いて指輪を差し出されたいっ!!あっ、失礼しました(笑)次のゲストは…この方々です』


『ど…どうもっ。初めまして…』


『はっ…はじめましてっ…』


『お二人とも、あがってらっしゃいますね!!リラックスリラックス…って言うか、今日ステージ出っ放しだったじゃないですか(笑)どうして緊張?』


『いやっ…それは…こういうの慣れてないし…』


『そうそう…現役の頃も、こういう役目は神とアズで…』


『ふふっ。今日は大活躍のお二人に来ていただきました。先程はステージCでTOYSに出演。メインステージではMOON SOULとFACEにも出演された、タモツさんとマサシさんですっ!!いえいっ!!』


『わっ…あっありがとうございます。タモツです』


『盛り上げ上手…あっ、マサシです。よろしくお願いします…』


『TOYSの解散から28年だそうですが…めっ……ちゃくちゃ熱いステージでしたね。泣きそうになりました』


『えぇ…そっそんな、勿体ない…(汗)でも、確かに…熱かったです。』


『うん。タモツのドラム…あの頃より断然良かった(笑)』


『マサシだって、完璧だったぜ(笑)』


『あたしから見たら、お二人とも完璧でした(笑)ところで…衣装についてお聞きしていいですか?』


『あーっ!!これね!!(笑)』


『素に戻ると恥ずかしい…これでテレビに出たんだ俺達…(笑)』


『今も出てます(笑)着替える時間ありませんでしたもんね(笑)すみません』


『いや、ちょっとステージ裏で記念写真撮ったり…わちゃわちゃしてて(笑)』


『えーっ!!記念写真!!TOYSとFACEの集合写真ですよね』


『おまけに身内まで来て(笑)』


『そう(笑)結局何人いたかな』


『ああああ…羨ましい…でもそのおかげで、この衣装のまま来ていただけたのでいいです(笑)』


『ぶはっ』


『神が衣装部から運んで来た時は、何かの冗談かと思ったんですよ』


『えっ、神さんが選ばれたんですか?』


『そう。祭りだからって』


『確かに祭り(笑)でも皆さん全然違和感なかったですね。臼井さんの胸のフリルにもキュンとしました』


『あー!!俺も(笑)』


『(笑)ところで、今日は三バンドで出演されたお二人ですが、何か感じられた事等あれば。えーと…じゃあ、マサシさんから』


『うーん…感じた事は山ほどあったかな…でも今はただただ、ビートランドサイコー!!って(笑)これに尽きる(笑)』


『うわっ、俺が言おうとしたやつ(笑)』


『(笑)じゃあ、タモツさんも同意見で、ビートランドサイコー!!なんですね(笑)』


『そうですね。あと、TOYSもサイコー(笑)』


『あっ、それ、俺も(笑)』


『とにかく…正直、最初は気後れしてたのに、それが嘘みたいに楽しかった』


『え?』


『…俺も、タモツと同じ』


『……………あのー。』


『ん?』


『お二人とも、気後れって。それはないですよ。マノンアワードの一位と二位のギタリストが、めちゃくちゃ楽しそうに全力で弾いてましたよ?』


『あ…っ』


『神さんの目もキラキラしてましたね。F'sとは違う神 千里を観れたのは、一ファンとして感涙です。TOYSでしか出来ない顔だったとも思います』


『……』


『はっ…すっすすすいません…偉そうに…』


『いや…ちょっと、じーんと来た。ありがとう、サリーちゃん。マサシが泣いてる(笑)』


『なっ泣いてねーし…いや、ちょっと泣きそう(笑)うん。俺達、あの時の後悔を今日払拭出来た!!』


『あの時の後悔(笑)何でしょう。気になる(笑)』


『それは打ち上げの時にでも…!!』


『カンペ出てる!!はいっ!!えっ!?俺達のダイジェスト!?』


『はい(笑)では、タモツさんとマサシさんが出演された、MOON SOUL、FACE、TOYSのステージダイジェストをお楽しみ下さい』



 ~MOON SOUL、FACE、TOYSのステージダイジェスト~





 〇杉乃井幸子


「すみませんでした!!」


 あたしはTOYSのお二人に、深々と頭を下げる。


 生放送中に…偉そうな口を利いてしまった…!!

 引退されてるとは言え、お二人ともビートランドで活躍されていた先輩なのに…!!


「サリーちゃん、ありがとう。」


 頭を下げてるあたしに、お二人が手を差し出して来た。

 

「え…っ?」


 その手を見て顔を上げる。

 すると…


「サリーちゃんの言葉で、俺達に残ってた気後れが飛んでっちゃったよ。」


「そうそう。いい思い出が出来たー。って満足したつもりだったけど…欲を持てそう(笑)」


「な。」


「ああ。」


「……」


 何ならちょっと時代錯誤の煌びやかな衣装。

 そんな恰好のオジサン二人は、満面の笑みであたしの手を握る。


「さっきの『やる満』、すごくカッコ良かった。明日のクワフォレも楽しみにしてるよ。」


「鍵盤奏者としては、君の弾き方に興味津々。勉強させてね。」


「ど…どうして…やる満…」


 そんなにバレバレだったの!?


 あたしが少しとぼけたような顔で言うと。


「モニター見てて、神がすぐ言ったよな。」


「ああ。これ、クワフォレだ、って。」


「…あ…やっぱりいくら違うように聞こえても、息子さんの声は分かりますよね…」


 華音さんの声、クワフォレとは違うからバレないと思ったけど…

 やっぱり神さんすごいな…


「いや、鍵盤聴いて言ってたよ。」


「そう。『マサシ、こいつ上手いからしっかり聴いとけ』って。」


「え…っ?」


「『杉乃井は島沢親子を抜くぞ』ってさ。」


「!!!!」


「じゃ、この後も頑張って!!」


 笑顔で手を振る二人に。


「あ…っ、ありがとうございました!!」


 大声で言いながら、再び深くお辞儀をする。

 …素敵な人達だな…。



 …杉乃井は島沢親子を抜くぞ。


 マサシさんに聞いた、神さんの言葉を思い出して…身体が熱を持った。


 そんな…そんな大それたこと……



「…あたし、頑張ろう…うん…頑張れるよ…」



 仲間を信じて…



 まずは…





 自分を信じよう…。

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