第49話 「わー…28年のブランクなんて感じさせないね…」
〇東 瞳
「わー…28年のブランクなんて感じさせないね…」
まこちゃんがそう言って、背もたれに身体を預ける。
…本当にね。
TOYS、解散から28年なんて、
嘘みたい。
だって、圭司も千里も…こうして見てると、あの頃と全然変わってないように思える。
ま、その辺は衣装のせいもあるのかもだけど。
当時でも、こんなに派手な衣装着てた覚えはないけどね(笑)
「臼井さんはTOYSのリハしてた頃があるからともかく、浅井さん…すげーな。」
「いや…お恥ずかしい…」
浅井さんはセン君の実父。
MOON SOULから出っ放しの浅井さんに『楽しくて仕方ないみたいだから、大目に見てやって…』と苦笑いしてる。
それにしても…
こんなすごい人が、圭司のバックで弾いてくれるとか。
恐れ多いんだけど。
「おー…アズさん、今さらっとすげー事したな。」
「うん。俺も思ってたとこ…」
うちのギタリスト二人が、モニターに見入る。
「マノンアワード優勝者だもん。そりゃ、それぐらいの事朝飯前にやっちゃうわよね。」
聖子がそう言いながら、あたしに同意を求めたけど…
「うーん…圭司は足りないって言われてばかりだったから、どうして優勝できたのかなって…実は今も不思議なのよねぇ。」
景気付けに用意したワインを飲みながら答える。
まあ、圭司が優勝って発表があった時は、嬉しさに震えたけど…
よく考えたら、本当にいいの?なんで圭司なの?って思っちゃったのよね。
「…ん?」
視線を感じて周りを見ると。
「いやいやいや…アズさん、マジですごく上手いよ。」
「そうそう。F'sで朝霧さんに引っ張られた事も良かったのかもしれないけど、今は敵なしのレベルって言っていいと思う。」
「何より、楽しそうにさらっとすごいの弾いてる所がね。」
「ギタリストはみんな嫉妬しちゃうんじゃないかな。」
「……」
男性陣四人からは、身に余る称賛。
知花ちゃんは、ちょいワル王子みたいな千里に見惚れててそれどころじゃなかったけど、聖子は『あたしもそう思うー』って、適当な感じで言った。
…本当は、家でもあたしと向き合って喋ってる時以外は、ずーっとギターを手にしてる圭司が。
みんなに認められる日が来ればいいなあ…って、誰よりも思ってた。
だけど、圭司はあんなキャラだから…
自分でも頑張ってる事に気付いてないって言うか…
「…ふふっ。」
つい笑ってしまうと、聖子が眉間にしわを寄せた。
「いやー…うちの旦那サマ、もしかしてすごくイケてるのね。」
TOYSが大音量で流れてて。
きっとあたしのつぶやきなんて誰にも聞こえてない。
はずなのに。
「知ってるクセに♡」
知花ちゃんが。
トン、と身体をぶつけて言った。
あー。
地獄耳…!!(笑)
〇神 千里
『跳べ!!』
客席に向かって叫んだのに、なぜか一番高く跳んでるのは左隣にいるアズだった。
ったく、こいつはー…
いつだって、誰より楽しそうに、そこにいる。
TOYSの時も、F'sの時も。
誰かのステージの時だってそうだ。
ウズウズワクワクした目で、『すごいね!!』を連発する。
…おまえが一番すごいっつーの。
衣装部のトレーラーに行って、並んでる物の中から物色。
当時切望されたにも関わらず、俺が拒否って着なかった貴族チックな衣装を選んだ。
音楽ってのは年齢関係なく楽しめるんだぜ。って事で、臼井さんと浅井さんにも強制的に着替えてもらった。
そして、存分に笑ってやるつもりでいたのに…。
いざ着替えてみると、ジジイ二人もアズもタモツもマサシも。
みんな、しっくりきた。
「なんだ。笑えねーな。」
俺がボヤくと。
「神!!めちゃくちゃカッコいい!!」
アズがスマホで何枚も写真を撮った。
「お父さーん!!カッコいいー!!」
マサシの娘が大音量で叫んで。
その周りが、『誰がお父さん!?』ってリアクション。
歌いながらマサシの反応を見ると、随分ニヤけた顔で娘に手を振ってる。
ふっ。
TOYSが解散した時。
若干…どころか、相当抜け殻になった。
何のために歌って来たんだ…って、空しくなった。
知花とも別れた後だったし。
あの後、色々あってF'sを結成した。
それからは前に進む事ばかり考えてて、周年でもTOYSの再結成を考えた事はなかった。
ただ、タモツとマサシにイベントやライヴの招待状は送っていたが…
二人が来た事は一度もなかった。
数年前、マサシがスタジオ経営をしてるのを知った。
何も言ってこねーって事は…俺に会うのは嫌なのかもしれない。
そう思ってるところに…
「ねー、神、知ってる?マサシがスタジオやってるんだよ。俺、偶然見つけちゃった。」
たぶん偶然なんかじゃなく、俺同様二人を気に掛けてたアズが、スタジオの前まで行ったと告白した。
そして、その数日後には。
「スタジオ入って来ちゃったー。いいアンプだったよ。」
ウズウズした顔でそう言った。
そのウズウズの意味が何か、俺には分かってた。
たぶんアズは、周年でTOYSをやりたいんだ。
それは俺にもゼロじゃない気持ちだ。
だが、二人が引退して長い歳月が流れた。
一度であろうと、こっちに引き戻していいもんか?
若干悩んで…
俺はマサシのスタジオに顔を出した。
そこそこにいいスタジオなのに、繁盛してるとは言えない状況。
ピアノ教室も思うほど生徒はいない。
久しぶりに会ったマサシの元気のなさに、俺のお節介心に火が着いた。
めったにない事だけどな。
マサシには…世話になったから。
八百屋に婿入りしたタモツの方は、商売も家庭も上手くいってるようだった。
ただ、何か…やり残した事があるような気持ちを持ってる気がした。
勝手に、だが。
…一度合わせてイケそうなら。
周年でやるのもありかもしれない。
そう思って。
去年、マサシのスタジオに集まった。
課題は多いものの、そういうのを無視してもいいほど…
俺は、TOYSを楽しいと感じた。
そんな事があっての、今日。
詩生から、タモツとマサシをくれと言われて、MOON SOULに貸し出した。
そこで浅井さんに気に入られて…まさかのFACEにまで出るとは思わなかったが。
振り返ればタモツが。
斜に構えればマサシがそこにいて。
あの頃は必死過ぎて楽しむ事が出来なかったTOYSを。
二人が存分に楽しんでくれてるなら…
これはもう、大成功でしかないと思った。
…俺もなー…
まさかここまでやるとは。
華月がプロポーズされた事に、予感はしてたはずだが動揺した。
いよいよか…と。
『…すげーな、TOYS。ここまでやるとはな』
『神、自分で言っちゃってる(笑)』
あの、詩生のプロポーズで、俺も何でも出来る気がしたのかもしれない。
28年前には出来なかった、着飾ってのパフォーマンス。
『いや、マジで。俺らまだこの後メインステージあんだぜ?』
『わー!!楽しいね!!』
『ったく…おまえは頼もしいな』
MCでアズとそんな掛け合いをしてると。
「神さーん!!」
マサシの嫁さんと娘が同時に叫んだ。
俺とアズとタモツがマサシを見ると。
『…実は俺、家族にTOYSのメンバーだった事をずっと内緒にしてました。だけど今じゃすっかり…家族もTOYS…特に神のファンみたいで(笑)』
当時した事もないMCに参加した。
マサシの言葉に、家族が周りと手を取り合ってはしゃいでるのが見える。
『なんて言うか…もう解散してるわけだし…それでもずっと言えなかったけど、今日は世界中の人に言いたい。俺はTOYSのマサシだー!!』
…ふっ。
『ははっ。それ言ったら俺も。ずっと内緒にしててごめんな!!俺はTOYSのタモツだー!!』
タモツまでがつられてそう言って。
会場からは『おかえりー!!』なんて声が上がって。
『…っ…ほんと…今日、このステージに誘ってくれた神、アズ、本当にありがとう。TOYSサイコー!!ビートランド、サイコー!!』
涙もろいマサシ。
その涙につられて、臼井さんまでが涙ぐむ。
『年寄はすぐ泣く(笑)』
浅井さんがチューニングしながら言うけど、その目にも涙が。
『ふっ。せっかくこんなに着飾ってんのに、そりゃねーだろ』
俺はそう言って、マイクスタンドを手にする。
『最後の曲だ!!おまえら全員イクまで帰さねーぜ!!』
『わ~!!神!!シビれる!!』
『アズうるさい(笑)マサシ!!』
指差すと、マサシがノリながらピアノのイントロに入った。
『One!!Two!!』
タモツのこんな大声、聞いた事ねーな(笑)
キメの音で全員の身体が前方に揺れると、客席からは大歓声が。
確かに浅井さんと臼井さんという大御所がいるからこそ…ではあっても。
今日のこれは…本当に俺史上でもサイコーかもしれない。
手を伸ばせば、客と触れ合える。
振り上げる腕に応える熱。
サイコーだ。
TOYSも、ビートランドも。
あー。
F'sも頑張らなきゃなー(笑)
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千里とアズがマサシのスタジオにお邪魔するお話は、40thの10話ですよん。
気になる方はチラリと♡
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