第47話 「やーらしく激しく…」

 〇朝霧沙也伽


「やーらしく激しく…」


「あたし達DANGERらしく…」


「Yeah!!」


 昔やってたコレを、急遽復活させた。

 メンバー変わったんだから、コレも変えて良かったんだけど。


 DANGERの根っこは、あたしと紅美。

 当時はオマケの沙都と、途中からはサラブレッドのノン君も居ついたりしたけど。

 何なら二人が目立ち過ぎて、あたしはちょっと面白くない事もあった。


 だって、元々は…紅美のバンドだもん。

 紅美のための、バンドだもん。

 あたしはそれを曲げないためにも、初心を忘れない事にした。



 今日、あたし達は…メインステージであるAとB…じゃない。

 メインと時間差で始まる、ステージCなのよ。


 最初は屈辱だった。

 でも…


「え?ライヴできるなら、ステージなんてどこでもいいよ。」


 ニッと笑いながらそう言った紅美。

 それ聞いて、ああ…確かにね…って思った。



『今日は新生DANGERのお披露目!!みんな!!一緒に気持ち良くなろう!!』


 ん~…!!

 紅美の声、やっぱいい!!


 紅美のコールで間髪入れず一曲目に。

 客席には、Back Pack時代からの多香子と麻衣子のファンなのか、二人を指差しながらモーレツに喜んでる男性客もチラホラ。



 …最初は…どーなることやら。って思ったけど。

 多香子も麻衣子もBack Packの時とは比べ物にならないぐらい真面目だし、上手くなった。

 ま、里中さんのスパルタに耐えて来れただけすごい。

 オシャレついでにバンドをしたいってだけなのかと思ってたから、その認識は改めた。


 ミッキーこと、本間三月もねー…

 て言うか、この人が一番ダークホース。

 いや、すごいわ。

 毎回違う弾き方するけど、そのどれもが良くて…正直、今のところ紅美を一番刺激してるのはミッキーじゃ?って思ったりする。



「クミー!!サイコー!!」


 客席から飛んだ甲高い声。

 そう。

 紅美のファンは、女の子が多かったりする。


 屋外フェスなんて初めてで、あたし達もだけど…ファンも大コーフン!!


『Come on!!』


 あ~!!

 カッコいい!!

 紅美、サイコー!!


 黒いタンクトップに黒のエナメルパンツ。

 白いシャツを羽織ってるけど、紅美の事だから…きっとその内脱いじゃうだろうな。


 伸ばしては切っちゃう髪の毛は、自由に遊んでる毛先が細いうなじにかかってて。

 あたしは紅美のそんな細かいセクシーな所も…この特等席から観れちゃうんだよ♡

 って…

 ま、自己満足だけどさ。


 そのうなじに、キラリと光るのは…アレ、だ。

 ノン君とお揃いの…ネックレス。

 …いいんだけどね。

 ほんと…今度こそ、幸せになってくれるならさ…



「……」


 ギターソロ終わりに、紅美があたしを振り返った。

 それも…極上の笑顔で。

 これは…アレだよ。


 楽しくてたまんないね!!


 だよね。


 紅美の両サイドには、これまたエナメルのショートパンツの多香子と麻衣子。

 Back Packの時は可愛い系だったと思うけど…

 今日はめちゃくちゃセクシーだ。

 出してる脚の美しいこと…


 エナメルパンツに関しては、あたしにも打診はあったけど。

 あたしはお尻に汗疹が出来ちゃいそうだから、やんわりと断った。

 それにあたし、根っこは可愛い系が好きだしね…


 そんなわけで。

 あたしとミッキーは、三人とちぐはぐにならないよう気を付けながらも、超シンプル。


 …あー…

 なんだろ。

 新生DANGER…すごく、イイ。

 麻衣子、意外に紅美のギターと合ってるよね。

 ま、それだけ猛練習したんだけどさ。


 ノン君がいた時は、紅美がノン君に引っ張られる形だった。

 だけど今は…紅美が自由に弾けてる。

 うん。

 だからなのか、歌だって…すごくのびのびしてるんだよ。


 ある意味、ノン君って強い味方でありながらも…紅美にとっては一番の脅威だったんだろうな。

 だから苦しんでたんだよね。

 あー、懐かしい。

 あの男、栄養管理とかも細かくて面倒だったなあ(笑)



「多香子ー!!麻衣子ー!!」


 客席からBack Packファンが叫ぶと、二人が嬉しそうに最前に出て…


「わー…ははっ。」


 つい、声に出して笑ってしまった。

 だってさ!!

 二人がヘドバンなんてしてんのよ!?


 これにはお客さんも大盛り上がり。

 今までのイメージ、ぶっ飛んだー!!なんて言われてる。


 ステージ袖には、ミツグさんとゼブラさんの姿も見えた。

 …あたしの義祖父は、マノン。

 高原さんだって…紅美の義理おじいちゃんって事になる。


 あたし達、Deep Redの孫集団じゃん!!


 …ナオトさんの孫、誰か入んないかなw

 入ったら完璧(笑)

(何が完璧なの)





 〇二階堂紅美


『Come on!!』


 DANGERのステージは、メインより少し小さいステージC。

 あたしはライヴ出来るならどこでもいいけど、沙也伽は少し拗ねてた。


 でもさ…

 あたしは、歌えるなら、ギター弾けるなら。

 本当に、どこでもいいんだよ。



 あー……すごい。

 鳥肌。

 沙也伽のドラム、やっぱすごいや。


 一時期、産休の沙也伽の代わりに希世が叩いてくれた事があったけど。

 いくら希世が上手くても…やっぱりあたしには、沙也伽のドラムなんだよ。


 繊細でダイナミックで。

 ほんと…ゾクゾクする。



 メインより小さい規模のステージCの強味は…照明。

 設営スタッフとの打ち合わせで、ここは照明がゴージャスだ、って聞いて…

 多香子と麻衣子には、脚を出さない?って打診した。

 あたしはー…ショートパンツってガラじゃないからやめた(笑)



 …さっきの『やる満』を思い出すと、あまりの出来の良さにジェラシーすら覚える。

 だけど、こんなクオリティの高い連中と仲間でいられるなんて…

 ほんと、ビートランド最高だわ。


 やられた!!とは思ったけど。

 負けた!!とは思わない。


 あたし達だって、ずっと進化し続ける。


 泣きながらギターを弾いた日や、悔しくて歌う事を嫌いになりそうな事もあった。

 だけどこれからはもう…そんな事はない。


 あたしは、ただ音楽が好きで。

 みんなに、あたし達にしか出来ない音楽を届けるだけ。


 時には勝ち負けにこだわるかもしれないけど。

 それも全部、自分の力に変えて…


「キャ――!!クミ――!!」


 最前まで出てソロを弾いてると、熱烈な歓声を受けた。

 あたしのファンは女の子が多い。

『クミさんに憧れてギターを始めました』なんてファンレターをもらうと、すごく嬉しいし、これからも頑張ろうって素直に思える。


「……」


 客席に朝子ちゃんと乃梨子姉の姿が見えた。

 意外な組み合わせだけど、桐生院家での宴からこっち、二人は仲良しみたいだ。


 …朝子ちゃん、すっかり立ち直ってる。

 良かった。



『新生DANGER、どう?』


 四曲が終わった所で、汗を拭きながら客席に問いかける。

 言葉を投げかけた先からは、思った以上の歓声と拍手。


『ビートランド、ほんっと色々やってくれちゃうよね。メインのトップ、沙都から始まって…限定復活のDEEBEEと、まさかの新ユニットで華月ちゃんと詩生ちゃん…プロポーズって!!』


「ほんとー!!驚いたー!!」


「ビートランド楽しー!!」


『あはは、本当。楽しいよね。FACEのステージもビックリだった。それに、さっきの『やる満』だって…何アレ。カッコ良過ぎ(笑)』


 それには、ステージ袖にいるスタッフも、うんうんって頷いてる。


『でも、あたし達もカッコいいでしょ?』


「カッコいい!!」


「一番好きー!!」


『ははっ。ありがとう。今夜、夢にお邪魔しちゃおうかな。』


「キャ――!!来て――!!」


『わー…紅美、たらしだ(笑)』


『沙也伽、妬かない妬かない(笑)えー…こんな流れだけど、次の曲。あたしの大事な曲です。聞いて下さい。』


 そう言って、あたしはギターを弾き始めた。


 空を見上げて、何となくだけど…

 今日は、この曲をあいつに捧げたいと思った。



 今のあたしは、みんなが支えてくれてここに居る。

 その中でも…


 あんたは、とびきり大きな存在だったよ。



 慎太郎。




 Lovely Days


 不思議な空間を手に入れた

 まるで作り物みたいな毎日は

 襲いかかる波のように強く

 あたしを飲み込んだ


 それでも悲しみも苦痛もなく

 笑顔でいられたのは そこに温もりがあったから

 小さな夢でも強く願えば

 きっとかなう勇気を見せてくれた


 忘れない...I will

 優しくて厳しくて 思い出は時に残酷だけど

 愛してやまないあの時間を

 抱きしめて生きて行くから



 立ち止まったままじゃない

 きっと歩いてゆける

 これからのあたしは

 あの頃のあたしより輝いてるはず


 永遠に...I will

 生まれた意味なんて あってもなくてもいい

 生きてく強さ 自分で育てて

 誰にもなれないあたしになるから

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