第44話 「……」

 〇本川真志


「……」


 同窓会みたいなつもりで、TOYSでフェスに出るはずが。

 まさか…だよ。


 MOON SOULに、FACEのお二人と出演する事もビクビクだったのに。

 まさかのFACEにまで出演してしまった、タモツと俺。

 浅井さんと臼井さんに『頼む!!』なんて頭を下げられたら…もう、引き受けないわけにはいかなくて。


 決まってからは、TOYSで現役の頃でもした事ないぐらい、猛練習をした。(それはそれでダメだな…神、アズ、ごめん)


 時間がない!!足りなすぎる!!って、バタバタした気もするけど。

 こういう感覚…すげー久しぶりで懐かしい気持ちにもなった。



 FACEが終わって、ステージ袖にハケたものの。

 浅井さんと臼井さんが無言。


 俺とタモツは…若干ビビってる。

 ああ…勝手にアレンジしたの、気に入らなかったかな~…



 俺とタモツがビクビクしながら汗を拭いてると。


「…サイッコーだった…っ!!」


「ホンマにな…っ!!」


 ガシッ


 目の前で、浅井さんと臼井さんが抱き合った。

 その光景に目を丸くしてると。


「マサシ!!タモツ!!」


「ありがとな!!」


 今度は、俺達にも。


 ガシッ


 力強い抱擁が…!!


「あっ…えっ…いえっ!!俺達こそ、ほんと…すごい経験をさせてもらえて…」


 タモツがしどろもどろに言うと、臼井さんは汗なのか涙なのか分からない物を目元から拭って。


「晋が戻って来てくれて、それだけでも夢みたいだったのに…こうしてFACEとしてステージに立てるなんて、奇跡としか言いようがない。」


「臼井さん…」


 じーん…


 タモツと二人して、感動に震える。


 早くに引退して…今回、TOYSで出演する話がなかったら、一生家族にも打ち明ける事はなかったかもしれない俺達。

 なのに、まさか…こんなすごい人達と…



 客席には、妻の凛々子と長女の千夏に次女の千春。

 女三人に男一人の我が家では、どうも俺の存在は影が薄い。

 て言うか、鬱陶しがられてる事が多かった。

 どこか音楽への夢を捨てきれず、スタジオを作ってからは特に。


 …そんな俺に…

 めちゃくちゃ笑顔で応援をしてくれた三人。


 それもこれも、俺に音楽があったからだ。

 昔抱いてた夢と今のコレは違うとしても。


 もう…なんて言うか…


「音楽って、すごいですよね…俺、本当に幸せです。」


 つい、本心を口にしてしまうと。


「確かにいいステージだったけど、おまえの本来の本番はTOYSだって忘れてねーだろーな。」


 背後から、低い声が聞こえて。

 顔だけ振り返ると、目を細めた神がいた。


「ははっ。千里、悪かったな。おまえの大事な仲間を借りまくって。」


 臼井さんが、俺とタモツの肩を抱き寄せて神に言うと。


「MOON SOULに関しては、詩生が図々しく二人をくれって言いに来たからアレですけど…FACEに関しては聞いてませんでしたからね。」


 神は臼井さんにクレーム。

 すると…


「じゃあ、今言っとくけど…冬の陣…クリスマスイベントには、俺達にもこの二人をくれ。」


 臼井さんはニッと笑って。


「…ったく…もー…」


 神は、額に手を当ててうなだれて。

 それでも顔を上げた瞬間。


「おまえら、店にバイト雇えよ。」


 ビシッと。

 厳しい声で言われた。



 つまり…




 もっと練習しろ…と…!! (汗)





 〇臼井和人


「晋~!!臼井~!!れ――ん!!」


 そう叫びながらバックステージに戻って来た誠司は、涙と汗でぐしゃぐしゃな笑顔。

 その姿に、晋と二人で笑う。


「廉が見えてるのか?やばいな誠司。お迎えが来てるんじゃないか?」


 俺がそう言うと、誠司は首にかけてたタオルでゴシゴシと顔を拭いて。


「さっきまであそこで歌ってたんだぜ!?きっと本物も懐かしくなって降りて来てるさ!!」


 俺の腕をバシバシと叩きながら言った。


 あはは。

 ほんと…俺もそんな気がするよ。



「八木も来れたら良かったのにな…」


「仕事やろ?しゃーないやん。」


 …ん?


「あのジジイ、まだ仕事してるのか?」


「三日ぐらい前、そう言うてたけど。」


 ……


 当初、来る予定にしてた八木。

 それが、急遽予定が入った、と断って来た。


 仕事…とは言ってなかったけど…



「ま、もう八木は叩けないだろうからな。」


「今更叩ける言われたら、タモツ断らなあかん(笑)」


「それは心苦しい(笑)」



 俺達、すっかりジジイなのに。

 一気に気持ちが十代のあの頃に戻った。




「汚いジジイやなあ。昔は爽やかやったのに。」


 そう言いながら、誠司に物販用のFACE Tシャツを手渡す晋。


「えっ、何これ。」


「フェス用に作ったTシャツ。物販のブースにも売ってるで。」


「うわー…まさかFACEがオリジナルグッズを出すとは…」


「確かに。CD以外は作った事ないからな。貴重だ。」


 誠司はTシャツを広げて、左胸に入ったシンプルなロゴに笑顔になった後。


「…これ…」


 後の右下にあるプリントに目を留めた。


「ええやろ。これ、初期Tやねん。」


 早速着替えた晋が、ちょうど腰元にあるバックプリントをポンポンと叩く。



 今回、高原さんから提案があって、フェス用にいくつかグッズを作った。

 俺達みたいな過去のバンドのグッズ…欲しい奴なんて居るのか?って疑問もあったけど。

 晋とデザインしていく内に、だんだん楽しくなって。


「三種類か(笑)」


 デザインを高原さんに見てもらった時、しばらく笑われた。


 一枚は、FACEのCDジャケットを集めたプリント。

 これは結構派手で、LIVE以外では着れないな~…って思ったが。

 晋は普通に着て歩くつもりらしい(笑)


 二枚目は、廉が書いた歌詞の中から、好きなフレーズを抜粋して全体にちりばめたデザイン。

 これは、廉のファンにはたまらない一枚だと思う。


 そして、初期Tシャツ。


 まだデビュー前。

 ダリアの楽屋で撮った写真のシルエットを、小さく貼り付けたもの。

 そのシルエットは、廉、晋、八木、俺の四人。

 そして、その横に…


『いつか世界のFACEになる』


 あえて控えめな大きさにしたのは、まあ…今は二人しかいないから。



「マジでサイコーだな…」


 誠司は長年ダリアのマスターとして接客をし、とてもじゃないが…こんな口調じゃなかったはずなのに。

 隠居してビートランドに関わり過ぎた(娘のデビュー含む)せいか、すっかり言葉遣いが若者だ(笑)


 Tシャツを広げて目を潤ませて。


「晋の復活に、廉の歌う姿…またFACEが生で観れるなんて思ってなかった…」


 そうつぶやいたかと思うと。


「ありがとう!!ビートランド!!」


 両手を上げて、大声で叫んだ。


 その様子に晋と顔を見合わせて笑うと。


「ありがとう!!ビートランド!!」


 周りにいたスタッフや、詩生までが真似て言って。


「…ホンマ、サイコーやな。ビートランド。」


 晋が空を見上げてつぶやいた。


 …うん。

 俺も思う。



 高原さん。

 こんなに最強のチームを作ってくれて。

 ありがとうございます。



 年齢をダシにF'sを勇退したはずなのに…

 晋と、まだまだ現役でやっていきたい。




 だからー…

 俺は、死ぬまで音楽人で。



 ビートランここドに居たい。

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