第42話 『We Are FACE!!』

〇里中健太郎


『We Are FACE!!』


その声は、若くして銃弾に散ったボーカリスト。

丹野 廉だった。

客席がざわつき始め、ステージに視線が集まる。

そしてそこには…


「え…っ…」


「あれって…」


丹野 廉が登場した。

その姿は、亡くなった30歳の時のもの。


「マジか――!!」


「丹野 廉だ――!!」


信じられない光景に絶叫する者、両手を振り上げて歓喜する者、ポカンと口を開けて見入る者…

客席は様々な反応を見せている。


ギターの音が鳴り響いて、浅井さんと臼井さんがステージに走り出た。


『俺らだけ歳食っててごめんなー!!』


『44年振りのFACE!!楽しんでってくれ!!』


そして、ドラムとキーボードに…MOON SOULでも登場した、タモツとマサシ。

あの二人、当初はTOYSだけの出演だったはずなのに。

MOON SOULで浅井さんと臼井さんから見染められたらしい(笑)

猛練習しただろうな。



カウントと共に、楽曲が始まった。

丹野さんがそこで歌っている。

これは映像班の那須なす氷魚ひおが手掛けた。

44年前のライヴ映像から丹野さんの姿と音声を切り取り、それを3D化してホログラムで再現している。


以前から高原さんが、どうにかFACEに光を当てたいと言われてたが…

浅井さんの生還で、事が一気に動き始めた。



「…いやー…まさか親父がこんなジジイになるとは…」


隣でハリーが恥ずかしそうに首をすくめた。


「こんなジジイ?」


「ドレッドヘアでヘドバンしながらギター弾くジジイ。」


「ははっ…若いよな。俺ならドレッドヘアは両親が泣いて反対しそうだし、ヘドバンは貧血起こして倒れそうだから出来ない(笑)」


「見てみたいけど(笑)」



…例え44年前のままの姿であっても。

丹野さんとステージに立つという奇跡に、浅井さんも臼井さんも、ときめきを抑えきれないのだろう。

目の輝きは、フロントに立つ若い丹野さんと変わらない。


浅井さんがビートランドと契約をし、初夏にはFACEのCDのリマスター版が発売された。

それは当然ヒットしたし、新規のファンも増えたと思う。


「…ほんと、刺激になる。俺もまだまだ頑張らないとな…」


俺の小さなつぶやきを、どうしたら聞こえたのか。


「うん。どんどん頑張ってね!!社長!!」


いつの間にか隣にいたさくらさんが、背中をバーンと叩いて言った。



い…痛いんですけど…




〇宇野誠司


『Bring it on!!』


…信じられない…

だけど目の前で起きている事に、俺は自分の歳も忘れて拳を振り上げた。


「れ――ん!!」


最後に廉の歌う姿を見たのはいつだろう。

渡米してからは見れてないから…

ダリアでの最後のライヴだったかもしれない。

だとしたら、この姿より10年は若かったのか。


嬉しくて楽しいのに、気付いたら泣いていた。

一生会えないはずの廉と、ここで会えた。

もっと若ければ、力の限り飛び跳ねられるのに。

振り上げた腕も、すぐに限界を迎えた。



『あー、ここでちょっと廉には休んでもらうとして』


二曲が終わった所で臼井が言うと、廉の姿がフッと消えた。

それで…ああ、これは生身じゃないんだ…と、改めて気付かされる。


『不思議やな。こんな事出来る時代になったんやな』


晋がチューニングをしながらつぶやく。


『ホンマは、こういうの…冒涜みたいになるんちゃうかなって想いもなくはなかったけど…』


冒涜…

廉に会えて嬉しい反面、どこか寂しさに似た物を覚えるのは…罪悪感なのか?

いや…


「俺は廉に会えて嬉しい――!!」


正直、のどがカラカラだったけど。

思い切り、叫んだ。

すると…


「俺も嬉しい!!」


「私も――!!」


周りから、同世代の声が次々とあがって。

それは、ステージ上にも届いたのか。


『……せやな!!俺も、も一回廉とやりたかったしな!!』


涙目の晋が、笑顔で言った。


『今日のこのギター、廉が俺のために作ってくれてたんやて。めっちゃカッコええやろ?』


ああ…もうダメだ…

涙が止まらない。


廉の娘である瑠歌ちゃんは。

今日は家で、るーと一緒に放送を見ると言ってた。

今頃…二人ともどんな気持ちでこれを見てるだろう。


『さあ…みんな!!最後まで楽しんでけ!!』


晋の言葉と共に、ハイハットでのカウントが入り。

フロントに廉が現れた。


会場中が、この世にいない廉をそこに見て。


「もう…このフェス、泣かされる…!!」


近くにいた男性の言葉に、みんなで頷きながら。


「でも…サイコー!!」


気が付いたら、年齢関係なく肩を組み。


「晋——!!」


「臼井——!!」


みんなで名前を叫んだ。



ああ…

勇二にも…見せたかったな…


「……」


俺は、胸のポケットから、勇二の写真を取り出す。

もうボロボロになったそれは、長年持ち歩いてる物。


…いつも一緒にライヴを見た。

Deep Redと、FACEと…

バスケのコーチでカナダに行ってからは…会う事もままならなくなったけど…

毎年、年賀状には音楽の事が書いてあったっけな…


もしかしたら、おまえは天国で廉に会ってるかもしれないけど。

見てくれよ。

今、こうして復活してるFACEをさ。


いつか…

俺も、いつか、そっちに行くから。


その時はまた…

ライヴの話題で、盛り上がろうぜ…。





〇朝霧瑠音


「お義母さん…大丈夫?」


瑠歌ちゃんにティッシュを渡されて。

私はそれを目元に当てたまま、テレビを見入った。


「ふっ…うっ…あ…りがと…」


「るー、泣き過ぎ……ううっ…」


「頼子おばさま、お水です。」


「うっ…ううっ…ありがとう…瑠歌ちゃん…」


今日は…ビートランドフェス…夏の陣。

FACEが復活すると聞いて…本当なら会場まで行けば良かったのかもしれないけど。

年齢的に無理をして欲しくない。って、渉に止められた。


瑠歌ちゃんだけでも行けば良かったのだけど…

何と言っても、朝霧家にはビートランド所属のミュージシャンが多いゆえに…


「あっぱっ。ぴゅーっ。ぴっぴっぱー。」


「ふふっ。響ったら、ノリノリ。」


八ヶ月の曾孫、響と。


「さとちゃんと、パパだけ?ママと、こーちゃまと、マノじーちゃまはまだ?」


五歳の廉斗の子守で、瑠歌ちゃんも残ってくれた。


「ママは次の次ぐらいかな?こーじーちゃまは一番最後で、マノじーちゃまは、明日なのよ。」


「あしたなのに、いってるの?」


「お仕事だからね。」


「う~ん…はやく、みんなにあいたいよぉ…」


可愛い廉斗。

私はゆっくりと、廉斗の頭を撫でる。

すると…


「るーばーちゃま♡」


廉斗は、私の膝に顔を乗せて甘えた。



瑠歌ちゃんに…SHE'S-HE'Sは生で観させてあげたい…

幸い、SHE'S-HE'Sは2Daysの両日出演。

だから、明日は何とか現地で…


「…父さんは、幸せですね…ここまでしてくれる仲間に恵まれて…」


瑠歌ちゃんが、目を細めてテレビを観る。


「あら、廉だけじゃないわ。みんな幸せよ。それもこれも、瑠歌ちゃんがここに来てくれたからなのよ。」


頼子が、私の思ってる事を言ってくれた。

それが嬉しくて、頼子の手を取る。

すると、頼子もその手を握り返して笑顔になった。


「本当に…来てくれてありがとう、瑠歌ちゃん。」


光史と結婚して、希世・沙都・好美の三人を産んで。

希世の子供達の世話だけじゃなく。

王寺財閥に嫁いだ好美が帰って来ると、その三人の子供達の世話も買って出てくれる。

本当に世話好きなお嫁さん。

光史にはもったいないぐらい。


「ど…どうしたんですか?二人とも…もう…照れ臭いなあ…」


「光史にはもったいないなあ…と思って…」


つい、しみじみと言ってしまうと。


「光史とケンカでもしたの?」


頼子が、眉間にしわを寄せて私に言った。



してないけど…!!

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