第41話 「な…なんて素敵な…」

 〇前園優里


「な…なんて素敵な…」


 あたしはテレビでその光景を見ながら、感動に震えた。


 キラキラ彼氏が…ステージ上で華月さんにプロポーズ。

 あの、眩しかった二人が…より一層輝いて見えた。


「すごいねえ…みんなの前で抱き着いてキスするなんて…娘がこんな事したら、私は外歩けないよ。」


 隣で見てたお母さんが、早口にそう言って麦茶を飲む。


「えー?キミちゃん、案外堅苦しいね。」


「そうよ。今はこういうのは普通よ?」


 今日は…常連の北野さんと、たまに来る西村さんも一緒。

 お母さんの名前は、中川なかがわ公美子くみこなんだけど。

 北野さんが呼ぶと、キミちゃんになってしまい、今ではみんながキミちゃんって呼んでるという…

 まあ…あたしの名前も、ちゃんだしね…



「すごい美男美女だねえ。」


「本当、別世界だわ。」



 三人の会話を聞き流しながら(ごめんなさい)、あたしはテレビ画面を見入った。


 …華月さん、幸せそう…

『ゼロ』って曲も、実はキラキラ彼氏が作詞してたってサプライズまで飛び出して…

 もう、無関係なあたしまでドキドキしてしまった。


 この彼氏が…彼氏だよね…?

 自分を見つめ直して来るって、どこか行っちゃった。って…彼氏…

 メンバー紹介でも『シオ』って言われてたし…

 この彼氏だよね…


「……」


 カナールであたしに会った後、華月さんは自分も旅立つって言った。

 いつ帰るか分からない人を、黙って待ってられない。って。


 キラキラ彼氏は、きっと自分を見つめ直せたんだ。

 だから、こんな大勢の前で…自信に満ちた…


 …ううん。

 自信に満ちたっていうのとは違う…気がする…


 華月さんへの想いの強さと…


「…怖いものなんて…何もないんだな…」


 小さなつぶやきは、お母さん達には聞こえてない。



 華月さんとキラキラ彼氏から、とてつもないパワーをもらえた気がする。


 あたしは勢いよく立ち上がると。


「お母さん、あたし、ちょっと練習して来る。北野さん、西村さん、ごゆっくり。」


 そう言って。


「えっ?練習ってあんた…」


 お母さんは少し何か言いたそうにしたけど。


「気を付けて行っておいで。晩御飯までには帰るんだよっ。」


 あたしの背中を、バンッと叩いた。



 …ありがとう!!





 〇宇野誠司


「えっ、誠司の娘がマノンの孫の嫁?」


 控室のトレーラー。

 俺は、晋の計らいで、朝から行動を共にさせてもらった。


 トップの沙都君をみんなで観ながら。


「ああ。沙都君のお兄さんで、希世君っていう…春に解散した、DEEBEEってバンドのドラマーだ。」


「ビートランドの相関図、PDFで送ってくれへんかな(笑)」


「晋がPDF知ってる(笑)」


 臼井と二人で晋をいじった。

 沙都君、歌はちゃんと聴いてたよ。

 でも、ごめん(笑)



 沙都君が終わった後、オイシーモンの代打出演でDEEBEEが登場した。

 ビートランド所属のアーティストでさえ、こういうサプライズは知らされてなかったらしく。


「おー…まさかの代打……初めてDEEBEEがイケて聞こえる。」


 臼井がそう言ってモニターを見入った。


「へー。て事は、娘婿?」


 晋が希世君を指差す。


「そう。」


「てか、これ、詩生か。俺の孫やん。」


「え、あ、そうか。」


「ははっ。本当に俺も相関図欲しくなった。」


 DEEBEEは…二世バンドで、ビジュアルも良くて…期待されてた。

 良くなったり悪くなったり、何とも情緒不安定なバンドだったけど、そこに魅力を感じるファンもいて。

 耳の肥えた音楽人には受け入れられなかったけど、今こうして聴くと…


「…なかなかオモロイな。」


 晋が、ニヤリと笑って言った。


 解散は、高原さんから言い渡されたと聞いた。

 そして、その後の身の振り方も。


 俺はもうこんなに歳を取ってしまったが、娘やその家族になった人達…

 そして…


「おーし、次は俺らの出番や。」


「おう。」


 青春を共にした、晋と臼井が。

 まだ現役で…

 しかも、晋は行方不明からの復活って事で…もう死ぬまで現役を貫きそうだ。

 それに触発された臼井も、きっとそう。


「…って、次は違うバンドじゃ?」


 立ち上がった二人を見上げて言うと。


「助っ人参戦やねん。」


「ここで一人で泣け(笑)」


 晋と臼井は、笑いながらトレーラーを出て行った。


 そして始まったのが…MOON SOULだった。


 ステージ上でのサプライズには、娘の沙也伽の結婚当時を思い出して…泣けた。

 沙也伽は高校三年生の時に妊娠して結婚した。

 今は朝霧家で幸せに暮らしているが…


 こんなに劇的ではなくても、せめて…父親に土下座させるようなプロポーズじゃなければ……


 いやいやいやいや…

 沙也伽は幸せなんだ。

 もういいじゃないか。


 と思いつつも。

 晋の孫である早乙女詩生君の心意気に、胸を打たれた。

 どうか、彼女と幸せに…!!



「あー、やっぱ一人で泣いてる(笑)」


 汗だくな臼井がトレーラーに戻って来て笑った。


「おっおまえだって泣いてただろっ。」


 モニターで見たままを言うと。


「ああ、もう歳だな。二人が可愛くて眩しくて幸せ過ぎた。」


 臼井はタオルで汗を拭いて、ついでに鼻もかんだ。


「晋は?」


「ステージ袖で次の準備。」


「次?」


「FACEだよ。」


「えっ、もう出番?」


「誠司、音響ブースで観るか?ここより近い所で観ろよ。」


「あー…でも…」


 廉じゃないんだろ?


 つい、口から出掛けた。


 当然だ。

 廉はいない。

 だからきっと、ボーカルは誰か代わりの人がする。


 晋が戻って来たのは最高に嬉しい。

 だから、この晴れ舞台も信じられないぐらい嬉しい。


 だけど…

 誰かが廉の代わりをするのは…どうしてもしっくりこない。

 …頑ななジジイだな…俺は…


「見とかなきゃ後悔するぜ?」


 臼井がTシャツを着替えて言った。


「それとも、ジジイは耳が心配か?」


「うるさいっ。耳は大丈夫だよっ。」


「近くで観ろって。絶対あの頃みたいに踊りたくなるから。」


「……」


 臼井に押し切られた形で、俺は客席に向かう。

 音響ブースでもいいのにとは言われたけど、こんなジジイがそんな贔屓をしてもらうのは…と断った。



「えっ、次FACEだって。」


 近くにいた人が、スクリーンに映し出された『NEXT STAGE』の文字を見て言った。


「マジか!!」


「んん?でもボーカルの丹野 廉って死んだよな…」


 ああ…死んだんだよ…廉は…


 小さく溜息を吐きそうになった時。


『We Are FACE!!』


「……まさか……」


 廉の声が、聞こえて来た。



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 私もビートランド相関図欲しい。

 PDFで送って(笑)

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