第35話 「神様…」
〇曽根仁志
「神様…」
つい、らしくねー事をしてしまってるよ…俺。
「神様…どうか、沙都君が…」
ど緊張しませんように。
歌詞間違えませんように。
躓きませんように。
ギター間違えませんように。
無表情になりませんように。
…とにかく…
「…失敗しませんように…!!」
控室になってるトレーラーの陰で、膝をついて神様にお願いをする。
神様なんて信じてねー俺が、こんな事したって…
『なんか用?』
って言われるがオチだぜ…って分かってる!!
けど、とにかく…このステージは失敗が許されない…!!
なぜかと言うと。
このステージで、沙都君が今よりもっと知名度を上げると…
日本の事務所への移籍が、認められるんだよ~お!!
元々バンドのベーシストだった沙都君を、ソロシンガーとしてイケると見抜いたグレイスが引き抜いて…の現状。
でも、昨秋ぐらいからの粗野な扱いには、グレイスもアメリカ事務所に不満を抱いてる。
俺達がツアーに出てる間に、高原さんが来て何かコトを起こしてくれて。
なんとな~く悪条件のツアーは無くなったものの、なぜかレコーディングさせてもらえないまま。
これにはさすがのグレイスも黙っちゃいなかった。
このフェスのステージ次第で、日本事務所への移籍を、って。
まあ…俺は沙都君のマネージャーだから。
彼が活動しやすい環境であれば、どっちでもいいんだけどさ。
なーんか、代表のポールは…沙都君を目の敵にしてる感があるんだよね。
「沙都君、準備出来てる?」
控室になってるトレーラーのドアをノックする。
今日のステージに今後の活動がかかってるだけに、沙都君…変に緊張してねーかな~…
『うん。いつでも行ける』
俺の心配をよそに、意外と元気な声が聞こえて。
ドアが開くと、ギターを手に…何だかいい顔してる沙都君がいた。
「あ、なんだ。すっげー緊張してるかと思ったのに。」
ほんと…少し拍子抜けしたけど、安心だぜ…!!
「リズちゃんと電話してたんだー。」
「えっ、マジか。赤子…もとい、お嬢、なんて?」
「サティ頑張れーって。」
「そんなハッキリ言わないだろ。」
「…しゃてぃ~がんばえ~。って。」
「ぷっ…マジでマネするとか…くくっ…」
「曽根さんっ!!」
「あははー!!ごめんごめんー!!」
二人でステージに向かう。
すれ違うスタッフや、見慣れた顔とハイタッチを交わしながら進む沙都君の背中を見つめる。
初めて沙都君のステージを観たのは、三年前の今日だった。
Beat Land LIVE-Alive…あの時も、トップバッターだったっけ。
DANGERのベーシストだった沙都君。
俺の親友のキリと、沙都君の想い人であった紅美ちゃんと、人妻沙也伽ちゃんの四人組。
あの時の俺は、親友のキリを裏切った奴して…みんなからはクズの烙印を押されてたと思う。
実際、LIVEに誘ってくれたキリとも、完全に元通り。なんてわけにもいかなくて。
DANGERが忙しくなったのと共に、俺も少しキリと距離を取るつもりだったけど…
翌年の秋。
キリのばーちゃんから連絡があって。
なぜか俺は、ニューヨークに旅立つ事になった。
行った先は、キリとニカと沙都君のシェアハウス。
そこで…初めて言葉を交わしたんだ。
沙都君と。
まさか、楽しいシェアハウスの三ヶ月後には、沙都君がソロデビューして…
俺が、彼のマネージャーになるなんて。
夢にも思わなかった。
まあ…それも、親友キリからのお願いとあっちゃ、断れるわけもなかったけど。
…それだけじゃなかったしなー…
沙都君は、本当にいい子だよ。
可愛い癒し系のボクだな~。って思ったけど。
意外と熱くて、だけど不器用で、俺のゼロに等しかった父性本能をくすぐりまくるテクを持ってる。
世話を焼いてもらうのは好きだけど、焼くのは面倒だった俺が、今じゃ沙都君の世話を焼きまくりだよ!!
沙都君すげーぜ!!
ソロデビューして一年半。
スケジュールが鬼過ぎて、もっと…倍以上過ぎてると思ったけど。
たった、一年半。
仕事をこなす事に必死になり過ぎて、一度は実った恋が壊れた。
だけど沙都君は今も…
キリの彼女になった紅美ちゃんを、ずっと好きでいる。
…あー…
ほんと…沙都君って、不器用過ぎだよなー…
「曽根さん。」
ステージ袖に立った沙都君が、前を向いたままで言った。
「ん?」
「いつも、ありがと。」
「…なんだ、それ。」
「ずっと、僕のそばに居てくれる?」
「……」
つい、その言葉に瞬きを繰り返した。
まるで愛の告白じゃねーかよ!!
「あーあー、いますとも。」
バンッと背中を叩いて言うと。
「良かった。じゃ、もう日本に帰る覚悟しといてね。」
沙都君は笑顔で振り返った。
それがー…何とも自身に溢れた笑顔で…
何だか面食らっちまったぜ…!!
「わぁーった。」
「じゃ、行って来ます。」
「おうっ。」
沙都君がステージに向かうと、客席から大きな歓声が上がって。
彼はギターを高く掲げて、空を見上げた。
その姿に、ちょっと鳥肌。
沙都君、カッコ良過ぎだろ…!!
さあ。
夏の陣、スタートだ…!!
〇朝霧沙都
『みんなー!!一緒に楽しもうねー!!』
マイクの前でそう言うと、すごく遠くの方まで…両手を上げて応えてくれる姿が見えた。
ライヴハウスやホールとは違う。
野外って、すごいなあ…気分がアガるよ。
『One,Two』
カウントを取って、一曲目を始まった。
昨日、最後のリハで上手くいかなかった出だしも、今日はバッチリ。
…ソロデビューが決まった時、僕にはバンドメンバーが用意されてた。
すごくソツなく弾ける人達で、それはとても心強かった。
ファーストアルバムを出す時、そのツアーに出た時…
彼らには色々助けてもらったし、アドバイスも多くもらった。
だけど…何があったのか分からないけど。
去年の秋から、突然バンドメンバーが変わった。
コミュニケーションが取れない、難しい人達だった。
グレイスに見いだされて。
世界に出た。
世界中のアーティストの中では、僕は米粒にも満たないちっぽけなシンガーだったはずなのに。
あっという間に、ヨーロッパツアーにまで行けるほどになった。
だけどさ、僕の力だけで…そうなれるはずなんてない。
僕を支えてくれてる人達に、感謝を忘れちゃいけないんだ。
コミュニケーションが取れない難しい人達?
違うよ。
それは、僕が勝手に思い込んでただけ。
振り返ると、ドラムのロイと目が合った。
僕が笑顔になると、照れくさそうに笑ってくれた。
それが…すごく嬉しかった。
『日本でのLIVEは初めてで…嬉しいし楽しいし…とにかく、すごく興奮してる!!あっ、僕の事、初めましての人もいるよね。前はDANGERでベースを弾いてた朝霧沙都です!!』
あまり得意じゃないMC。
だけど客席はすごく盛り上がって、『知ってるよー!!』とか『歌もいい!!』とか…嬉しい声が聞こえた。
『ありがとう…じゃあ、ここで…新曲の『HONEY』、聞いて下さい』
昨日のリハで、急遽セトリに組み込んだ…紅美ちゃんに作った曲。
ノン君が聞いたら怒られちゃうかなと思ったけど、ま…いいよね。
これは僕の、紅美ちゃんへの気持ちだから。
HONEY
馴染んだ肌に滑る指先
今も忘られない
君の吐息
僕の愛しい人
愛の深さは何にも負けないけど
僕の不器用さは距離に負けた
会えない夜も想ってるって
素直な気持ちも文字に出来ないまま
ねえハニー じゃれ合えたあの頃に戻れるのなら
僕は君を好きにならないでいたいよ
思い出の中では手が届いてるのに
今はこんなにも遠い
絆の強さは誰にも負けないけど
僕の弱さは君を傷付けたね
離れていても大丈夫って
君に言えるほど強くなかった僕を許して
ねえハニー 永遠を信じてた僕を笑って欲しい
悲しませたクセにね 苦しめたクセにね
どうか幸せになって。なんて心から言えない
ちっぽけな僕だけど
ねえハニー じゃれ合えたあの頃に戻れないとしても
僕はやっぱり君を好きになる運命だった
どんなに辛くても忘れないよ
今でもこんなに強く
君を想ってるんだ
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フェス!!やっと始まった!!
海君・ノン君・沙都ちゃん・曽根君の楽しい?シェアハウスのお話は、32nd15話ぐらいから。(読み始めると長くなる)
18話のセンと海君のやり取りがサイコーに好き♡
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