第15話 「こんばんは。」
〇桐生院華音
「こんばんは。」
ダッシュで門前まで迎えに行ったばーちゃんに連れられて現れたのは、映と朝子ちゃんだけじゃなかった。
「えっ、海?」
俺が目を丸くすると。
「カモがネギ背負って来た。」
詩生がそう言って笑った。
「俺はカモか。てか、意味分かって言ってんのかよ。」
映が詩生と拳を合わせる。
DEEBEEが始まる前から、仲の良かった二人。
なんか久しぶりだなー…
こいつらの、こんな顔見るの。
「
ばーちゃんがそう言うと、海は手土産を置いて二階に上がって行った。
「はじめまして。
誓兄と乃梨子姉のそばに座って、そう挨拶してるのは…朝子ちゃん。
海とだけじゃない。
紅美とも色々あったし…それに、兄である志麻が行方不明になった。
今日は来ないと思ってたけど…
来てくれて嬉しいぜ。
「はじめまして。来てくれてありがとう。」
誓兄と乃梨子姉が笑顔で言うと。
朝子ちゃんは真っ赤になって、おずおずと自分の席に向かった。
…ん?
なんで真っ赤?
〇二階堂咲華
「咲華。」
「…んー…」
海さんに頭を撫でられた。
…しーくん…志麻さんが戦闘機に乗って遠くに行ってしまう姿を傍観してしまったあたしは…
朝子ちゃんに、とことん責められた。
どうして止めてくれなかったの、と。
だって…止められないよ…
それが彼の志しで、ましてや…あたしは彼の何者でもない。
「咲華。」
「パッ!!あーっ!!パッパッ!!」
ぱちっ。
リズの大きな声に目を開けると。
そこに、愛しい人がいた。
「海さん…!!」
ギュッ。
起き上がって抱き着くと、リズを片手に抱きしめてた海さんは。
「何か嫌な夢でも?」
苦笑いをしながら、片方の手であたしの背中をポンポンとしてくれた。
「…ちょっとだけ…」
「そうか。」
前髪をかきあげられて、額に唇が来た。
その温もりを感じて…
ああ、生きてる…って思った。
先月、二階堂本家が消失した。
あたしはリズと一緒に小々森商店さんに遊びに行った帰り道で、仕事中の海さんとバッタリ会えて浮かれたけど…
その翌日、何の連絡もせず本家を訪れると…大変な事になってた。
そこでお義母さんに事情を説明されたけど…全然頭が追い付かなくて。
…だけど、一つ分かったのは。
あたしが今まで思ってた以上に…二階堂は危険と背中合わせだ。って事。
SSっていう、特別な組織に行った志麻さん。
二階堂のみんなは知ってるけど…周囲には、行方不明って事になってる。
そして、そこには…
もうじき、泉ちゃんも行く。
あたしは酔っ払って海さんと結婚して。
だけどちゃんと想い合って…
これから、どんな事も。
どんな海さんも。
受け止めるし、受け入れる覚悟をした。
…つもりだった。
それでも、全然足りなかったと思う。
…あたしの覚悟。
だから…志麻さんが行方不明になったという話が広まって数日は。
部屋に閉じこもった。
そして、考えた。
あたしは…二階堂咲華。
もう、二階堂の一員。
だって、海さんはトップに立つ人だもの…
あたしが現場に出るような事はなくても、これからは色んな決断をしなくてはならない局面があるはず。
「……」
お腹に手を当てると、海さんが『辛い?』と顔を覗き込んだ。
「ううん。元気過ぎて困っちゃう。」
あたしは、愛しい人に笑顔を返す。
…この子はきっと、海さんのように…
ううん。
海さん以上に、厳しい世界を歩かなくてはならないのかもしれない。
あたし、覚悟しなきゃ。
桐生院で、ずっと大切に…幸せに育って来たあたしに、二階堂で出来る事なんてないかもしれないけど。
あたしは、この子を。
何からも、守り抜く。
「下に行けるか?」
「あっ、もうそんな時間?」
時計を見て目を丸くする。
「勢揃いだぞ。」
「えぇ…寝ジワついてない…?」
顔を触りながら問いかけると。
「可愛い。」
海さんは、嬉しそうな顔で唇にキスをした。
〇二階堂 海
「遅れてすみません。」
咲華がそう言って和室に入ると。
「ふふっ…」
「あはは。」
すでに着席してるみんなが、俺と咲華を見上げて笑った。
「?」
二人で顔を見合わせて首を傾げると。
「ちゅっちゅ♡」
俺達の足元にいるリズが、唇を尖らせてキスをするフリをしていた。
「リッリズー!!」
咲華が真っ赤になってリズを抱える。
それが楽しかったのか、リズは相変わらず『ちゅっちゅ』と言い続けながら、みんなに笑顔を向けた。
何とかリズと咲華を落ち着かせて席に着く。
目の前には、咲華もよく自慢していた桐生院家の御馳走。
華音とシェアハウスをしていた時に食った、ちらし寿司もある。
「懐かしいだろ。」
俺の視線に気付いたのか、華音がそう言って皿に取り分けてくれた。
「華音が作ったのか?」
「これはばーちゃんが作った。ほら、食え。」
「ねえ、全員揃ったし、もう一度乾杯しようよ!!」
さくらさんの提案で、みんながグラスを持ち上げる。
すでに酔っ払ってる顔もチラホラ見えるが…それはいつもの事。
いつもの事、に…とてつもなく安心した。
「かんぱーい。」
「あーい!!」
リズの大声にみんなが笑って。
大宴会と、リズの運動会が始まった(笑)
〇桐生院乃梨子
「あー、暑い。」
料理は美味しいし、皆さんの話は面白いし…
ほんと、箸も進んだけど、お酒も飲み過ぎちゃったかな。
「乃梨子、平気?」
誓君がお水を手に、隣に座った。
「あ、ありがと…」
「それにしても、乃梨子よく食べたなあ。」
「だっだって…どれもこれも美味しくて…」
「ははっ。うん。美味しかったね。」
「本当…あれだけの量が見る見るなくなってくサマは、どう見てもおかしい気がした…あの料理には何か仕込まれてて、みんなの食欲を操作…」
「乃梨子、ダダ漏れしてるよ(笑)」
「えっ。」
誓君がクスクス笑いながら、あたしの頭をポンポンと…
カッ
「あれ。乃梨子、真っ赤(笑)」
「う…うん…自分でも分かった…今、音がした…」
「しないよ。そんなの(笑)」
今日は…どの夫婦も幸せそうで。
特に、サクちゃん…
いい顔してる。
「…平気?」
誓君の遠慮がちな声に、頬を押さえたまま首を傾げる。
「リズちゃん、可愛いし…サクちゃんもお腹大きいし…乃梨子、気にしてない?」
「……」
もしかして…誓君。
あたしが今も妊娠の事で思い悩んでる…って、思ってる…?
いや、まあ…妊娠への憧れは、ゼロじゃない。
だけどあたしも誓君も45歳。
そりゃあ、世界にはこの歳から子供を持つ人もいるけど…
あたしには、もう…別世界の話。
はっ…
「もしかして、誓君…リズちゃんの可愛さに、子供欲しくなったとか…」
沓水石に視線を落とすと、誓君は『ダダ漏れしてるそれ、違うから…』と苦笑いした。
あたしは全然平気。
そう言おうとした瞬間。
「あっ…あのっ…」
意を決したような声が。
振り返ると、そこに…東 朝子ちゃんがいた。
「じ…実は大ファンなんです…サインいただいていいですか?」
「…え?」
彼女が手にしてるのは、あたしのフラワーアートの写真集と…誓君の生け花写真集。
「あたし、花にはあまり興味がなかったんですけど…入院中に、この写真集をいただいて…とりこになりました。今、色々乗り越えられてるのは、お二人の作品のおかげです。」
「……」
驚いた顔のまま、誓君と顔を見合わせる。
「あたし…こんな事言うのは、とても…厚かましいとも思うんですけど…」
朝子ちゃんはモジモジしながらも姿勢を正すと。
「もし…もしよろしかったら…あたし、お花を習いたくて…」
小さな声で、そう言っ…
「えー!!それいい!!」
三人でビクッと肩を揺らす。
当然と言えば当然なんだけど…
お義母さんが、離れた場所から飛び跳ねるようにやって来て。
「朝子ちゃん!!素敵!!」
朝子ちゃんに、ギューッと抱き着いた。
「あはは。もう…母さん、遠慮がないなあ。ごめんね?朝子ちゃん。」
誓君が笑う。
「いっいえ…嬉しいし、恐縮です…」
朝子ちゃんも、笑った。
「何?何がそれいい?」
瞳さんと圭司さんがやって来て。
「俺の嫁が何か?」
映君も来た。
「……ふふっ。もう、サイコーだなあ…」
小さく笑ってそう言うと。
「乃梨子のダダ漏れ癖、まだ直ってねーのか。」
お義兄さんがニヤニヤしながら言った。
今のは、ちゃんと言ったやつだし…!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます