第38話 俺なんていらない

ハテシナが、俺の表現を褒めてくれた……



やっとの思いで聞けた感想に、

俺は胸がいっぱいになる。



「ありがとう、ハテシナ……」



今、格好良いって言ってくれたよな?

俺の想いを込めた表現が、お前に届いたんだよな……



「なんでドージンがお礼を言うのよ、本当に変なやつ」



ハテシナが、可笑しそうに吹き出して笑った。


その笑顔が自分に向く事なんて想像もしていなかった俺は、

つい涙が溢れてしまう。



これじゃあ更に変なやつだと思われるじゃないか……!!



やっとハテシナが俺を見てくれたのに、

第一印象が最悪になってしまった。


しかし、この千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかない。



「俺さ!お前に聞いて欲しい事があって……」



ハテシナの視線が他のやつへと移る前に、

気持ちをしっかりと言葉にしたい……


俺が伝えたい気持ちは、

勇者の物語を書いた頃とは少し違っていた。



あの頃はただ、モブの俺にだって書けるんだぞ!

という押し付けがましい気持ちが強かったように思う。


それを読んで、”凄い”の一言が欲しいだけだった。

俺の事を、物語越しに褒めて欲しかったんだ。


けれど、今は違う。



「俺はずっと、お前の事を……」



好きだったんだ、ハテシナ。



でも、その気持ちは変わった。



俺はお前の事を、愛してるんだと思う……



「……また、感想を聞かせて欲しいんだ」



お前に喜んで欲しくて、俺は大切に表現をした。



それに返ってくるものは、称賛でなくていい……

俺の事を見てくれなくたって構わない。


モブのままでもいいんだ。

俺はただ、お前に笑顔でいて欲しい……!!



物語の作者を、誰が深く知り得るだろうか?

物語と作者は、切り離された世界だ。


その代わり物語は、

俺の手を離れて何処までもお前に寄り添うだろう……



俺の事を知らなくたって良いんだ。


この想いだけ、ハテシナに届けば良い。


その為に俺は、表現をし続けるから……



だから俺に、これからも感想を聞かせてくれハテシナ!!



「ユメ様!!

 もう、また液晶みたいに邪魔な壁が……!!!」



俺の情緒が感極まっていた時。


そんなムードとはお構いなしに、とてつもない衝撃音が辺りを支配した。


ガシャアアアアアアンッ!!!!!というやつだ。



我が部屋の照明、学校の窓ガラス……


不条理に数々の衝撃音を聞いてきた俺だが、

今までの比ではない大音量だった。


何せフィールド全体を覆っていた透明な壁が粉砕されたのだから、

これまでとはスケールが違う……



大量の破片は淡い光を発しながら、

まるで雪の様に会場中へ舞い降りていった。


とてもロマンチックな景色なのだが、

これが腕力によって成されたものだと思うと複雑な心持ちだ。



あの壁って、神が用意したものだよな……??



それを粉微塵にするとは、もはや腕力って次元じゃないぞ。

一体どんな鍛え方をしたんだ、オキタくん……



「ユメ様、会いたかった……!!」



俺がツッコミを入れるより先に、

黄色いオキタくんが物凄い速さでハテシナに飛びついた。


それを倒れもせずに抱きとめるハテシナは、

妙に男前である。


まるで二人を祝福するかの様に、

破片はキラキラと降り注ぎ続けていた……



けれどそんな光よりも、

二人の目に浮かぶ涙の方がよっぽど綺麗だ。


同じ涙でも、俺が流したものとは何故こうも違うのか……


まぁ良い。

俺がどんなに情けなかろうと、

俺の表現したオキタくんが美しければそれで良いのだ。



「オキタくん、ごめんね……」


「なんでユメ様が謝るんですか?!

 そんなの、僕の方が……」



ハテシナから謝られた瞬間に、

緑の瞳が慌てて顔を出した。


今まで表れなかったのは、

何か負い目でもあるのだろうか……?


妙にバツの悪そうな表情で、

オキタくんはハテシナから視線を逸らした。



「ユメ様、ごめんなさい。僕は……」


「もう良いの、何も言わないで」


「……僕の事、嫌いになりましたか?」



レイといい緑のオキタくんといい、

ハテシナの周りは馬鹿ばっかりだな……


ツカサも馬鹿には違いないが、ベクトルが違うから除外だ。


何をそんなに恐れているんだろう。

ハテシナの答えなんて、決まっているのに……



「オキタくん、大好きだよ」



やっぱり本物のハテシナが告げる大好きは、破壊力が最強だ。


羨ましい事この上ない……


緑のオキタくんは申し訳なさそうな表情をしながらも、

はにかんだ笑みを浮かべていた。


これにはツカサとレイも、優しい眼差しを向けている……


他の誰かなら容赦なく割って入るのだろうが、

やっと出会えた2人の再会を邪魔するつもりはないようだ。


ハテシナに喜んで貰えて、本当に良かった……



「めでたしめでたし、だな」



俺が溜息混じりにそんな言葉を口にした瞬間。


すさまじい光が、辺りを照らし出した……


それは会場のライトなんて目でもない程の光量で、

俺たちを飲み込んでいく。


その光はまるで、

俺達をどこかへ連れ去ろうとしているかの様だ。



「一体、何が起きてるんだ?!」





何が起きてるんだ、とは心外だな……


決着の言葉を口にしたのは、自分だろうに。



良くここまで辿り着いたね。



それじゃあ、表彰式を始めようか……!!

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いとをかし・ワールド K @Ka-mi

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