第36話 愛のカタチ

ユメコはついに、オキタくん???との再会を果たした。



まさか、再び疑問符をつける日が来ようとは……

さすがにユメコの表情も、喜び一色という訳にはいかない。


ユメコは複雑な心持ちで、戦いの終局を見守っていた。



「お披露目も済んだしよ、斬ってもいいよなぁ?」



そんな事を誰にともなく尋ねたものの、

オキタくんは返事を待つ気なんて更更なかった。


命ごと、選択肢すら奪ってしまいたいのだ。


彼女の全てを自分のものにしなければ、

赤いオキタくんは気が済まないらしい。



「もう我慢できねぇよ……!!」



未だに驚愕の表情を浮かべたままだったハテシナユメコを、

オキタくんは容赦無く斬った。


その赤い瞳には恍惚の光が宿っており、

唇は狂った弧を描いている……


獲物を仕留めた獣の様に満足そうな顔で、

オキタくんは舌舐めずりをした。



「愛してるぜ、ヤドヌシ」



相変わらず迷いも慈悲もない、彼岸への太刀筋。


けれどオキタくんの言葉を聞いたハテシナユメコは、

どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。


美しい傷跡が、

もがき苦しむ事もなく安らかに眠りへと誘う……



彼女を手招く死神の如き右腕は、

先程受け止めた一太刀で羽織だけが切り裂かれていた。


その合間から、

ロボットの様に無骨な腕が覗いている。


鋼鉄色をしたそれは、

ハテシナユメコが消えゆく光を浴びてキラキラと輝いていた……


オキタくんは支配欲が満たされたのか、

余韻を楽しむ様にその光と戯れている。



その浮世離れした光景にユメコはつい見惚れていたが、

やがて我に返ると、一つの結論に辿り着いてしまった。



「私のオキタくんが、魔改造されている……」



ようやく事態を把握したユメコは、

犯人であろう男を睨みつけた。


もしフィールドに見えない壁がなければ、

掴みかかっているところだ。



「ドージン!!

 なんなのよあれは!!!」


「いや、だって!

 また取れたら大変だと思って!!」



人形の腕を接着剤でつけるノリで言わないで欲しい。



最推しが、盗作された上に魔改造されてしまった……

一体何者なんだ、この男は!!



ユメコが何度、もう一度呼ぼうとしても。

再びオキタくんに会う事は出来なかったのに……



「オキタくん……」



生きているオキタくんを表現しようとするのは、

物語を否定する事になってしまう。


すでに存在する物語を心から否定するというのは、

本当に難しい事だ。



無理やりでも、こじつけてでも……

それを押し通す為のパワーが、どうしても足りなくなる。


それなのにドージンは、

ハッピーエンドの為に全ての設定をねじ伏せてしまった。



「流石にこれは、私の負けですね……」



ユメコがオキタくんの事で手一杯なうちに、

クラムは静かに負けを認めてこの場を去ろうとしていた。



騙していた事でバツが悪いのか、

もう彼らと会話をする気もないらしい。


騒ぎに紛れて、姿を消すつもりの様だ……



そこに関してユメコは他人事である筈なのだが、

黄色い瞳は、何故か腹に据えかねている様である。



「私のユメ様を勝手に表現しておいて、

 痛い目も見ないで帰れると思わないで……


 肖像権の侵害よ!!!」



黄色いオキタくんは、

相変わらずキレるポイントがズレている。


どちらかと言えばオキタくんこそ、

ご本人様の人格権を侵害されているのだが……



ツッコミを入れる間もなく、

オキタくんは標的を見据える鋭い眼差しをクラムに向けた。



「絶対に逃さないんだから!」



その瞳の真意を、タクオだけは知っている。

それは事実、完全なるロックオンだ。



その証拠に、

オキタくんの右腕が……



豪速球の様に、飛んでいく。



そしてクラムの後頭部を、容赦なくぶん殴った。



「は……??」



ようやく現実を受け止めつつあったユメコの頭に、

再度疑問符が溢れ返る。


感動の再会とは、まだ言えそうになかった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る