第35話 オキタくん・改
「あーーーー!!!
盗作だ!!!!!!」
そんな大声が聞こえてきたので、
俺はギョッとしてそちらを振り返った。
内容は不穏ながらも、
その声はなんとも懐かしい響きがする……
俺は恐る恐る、声の正体を探した。
「……ハ、ハテシナ……?!」
視線の先にはなんと、
会いたいと願い続けてきたハテシナの姿がある!!!
しかし、出会い頭に盗作と言われてしまった。
感動の再会とは言い難い。
「なんで私のオキタくんを……!!
誰なのよあんた!!!」
え?マジで……??
一応幼馴染みではあるのだが。
名前すら覚えてくれてなかったのかよ、さすがモブだな……
いくらモブの自覚があるとはいえ、
現実を突きつけられるのはあまりにも辛い。
しかし覚えてないのかと非難する事も出来ず、
俺は改めて自己紹介するしかなかった。
「あの、お前と同じクラスの同人 卓男です……」
「ドージン?? そんな名前、聞いた事もあるような……
うーん、もう18年も前だから思い出せない……」
「18年前?!」
時空が歪んでいるとクラムちゃんから聞かされていたが、
まさかお前がそんな年上になっていたとは……
さすがに18年も経ってたら、覚えてなくて当然だな。
同窓会レベルの話だしな!!!
俺はモブとしてのプライドを、なんとか保った。
「このヤドヌシは斬ってもいいやつなんだよなぁ……?
やっと斬ってみれるぜ、ヤドヌシを!!」
俺がプライドと格闘している間にも、
赤い目をしたオキタくんが
ハテシナユメコに嬉々として斬り掛かっていた。
みんとすで読んではいたものの、
改めて表現してみるとめちゃくちゃ怖いな……
これは動く銃刀法違反だ。
俺はハテシナの知見でしか、
沖田総司については詳しく知らないが……
お前の新撰組像は、
一体どうなっていたんだハテシナ。
「オキタくん……」
突然の再会に動揺を隠せないのか、
ハテシナは泣きそうな目でオキタくんを見つめていた。
その瞳に喜びの色を見つけて、俺はホッとする。
自分の書いた表現で誰かが喜んでくれるって、
こんなにも嬉しいものなんだな……
「私は…… 認めない……」
このまま大団円で終わってくれれば良かったのだが、
相手はブチ切れているハテシナユメコ。
そう簡単に行く訳がない……
その通りと言わんばかりに、
羽織で隠れたオキタくんの右腕を、
ハテシナユメコの刃が容赦無く狙った。
「私のオキタくんに……右腕はもう……ない……!!!」
ハテシナユメコには、
目の前にいるオキタくんを受け止め切れないのだろうか……
そりゃそうだよな。
自分の中で死んだ相手が目の前で動いていたら、
誰だって信じられる訳がないだろう……
それを確信出来るのならば、自分で表現出来てしまう筈だ。
「オキタくんはもう、死んだ……!!」
「オキタくん、気を付けて!!」
2人のヤドヌシからの呼び声に、
赤いオキタくんは満足そうな顔をして笑った。
その表情は、
自分を見てくれている喜びを噛み締めている様に思える。
そしてオキタくんには、
ヤドヌシに見せたいものがまだあるのだ……
「いいぜ、本気で来いよ。
受け止めてやらぁ」
オキタくんは日本刀を構えず、
ハテシナユメコの攻撃を不動で迎え撃つ。
その居直った姿を見て、
右腕を落とせるとハテシナユメコは確信した様だった。
右腕さえなくなれば、
私のオキタくんになる……
ハテシナユメコは、そう考えているのだろうか。
どこか安心した様な笑みを浮かべながら、
彼女はオキタくんに、粛正の刃を振り下ろした。
ガキンッという景気の良い金属音が、コロシアムに反響する。
「悪りぃな、ヤドヌシ……」
次の瞬間。
オキタくんの赤い瞳に、
ハテシナユメコの驚愕した表情が浮かび上がっていた。
ハテシナからは小さな悲鳴が上がったものの、
それに続く悲惨な叫び声は聞こえて来ない。
目の前にオキタくんの右腕が、
転がっていなかったからだ。
どうやら上手くいったようで、ひと安心である……
「俺にはもう、最強に格好良い腕があんだよ!!!」
オキタくんは神へと見せびらかす様な不遜さで、
右腕を天高く掲げた。
コロシアムの照明が当たって、
羽織の切れ端から覗く右腕がキラリと光る。
その輝きを見て、
俺は鼓動の高鳴りを抑えきれなかった。
オキタくんの右腕には、
男の子の憧れとロマンが詰まっている……
「作戦大成功だな……!!!」
「こいつぁいい、
これなら絶対に斬れねぇ……
最高の気分だぜ!!!」
俺とオキタくんは、
二人揃って不敵なドヤ顔をした。
「これが俺の考えた、オキタくん・改だ……!!!」
相変わらず語彙力がないのは、ご容赦願いたい。
出来に関しては完璧なのである。
単純な話だ。
また斬れちゃったら、大変なので……
右腕を、サイボーグ化しておきました!
これで安心だぞ、オキタくん!!!
「オキタ……くん???」
大満足な俺とオキタくんを見て、
ハテシナの開いた口が塞がっていなかった。
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