第30話 告白
「今日はありがと、楽しかった」
「こちらこそ。でも、体は大丈夫だった?」
「フローラちゃんのお陰で傷は塞がってるし、大丈夫だよ!」
レイとユメコは、2人で河川沿いを歩いていた。
外はもうすっかり薄暗い。
土手に生える草花を、風が優しく撫でていた……
「ごめんね、無理させちゃって」
「そんな事ないよ!
私も久しぶりに、レイとゆっくり話したかったし」
身体が動く様になった後、
ユメコは一度エビルたちの元へ戻ると、
着替えてから再びレイと合流したのだ。
そしてレイに連れられるまま、一日中遊び回ってしまった……
まさかレイと現実世界の街を2人で歩く事になるなんて、
異世界に飛ばされた時は想像もしていなかった。
そもそも街に出る事すら出来なかったもんな……
「フローラも元気そうで何よりだよ。
手当てが終わったら、お邪魔しました☆って速攻で消えたけど」
フローラちゃん、空気を読んで消えたのだろうか……?
しかしフローラちゃんが手当てしてくれたと聞いて、
ユメコは安心した。
「じゃ、じゃあさ! 怪我してた服とかも、
全部フローラちゃんが着替えさせてくれたんだよね……??」
そう。
ユメコは内心で、それが相当気になっていた……
血がついた服を着せたままで寝かせる訳にはいかないし、
着替えさせるのは当然だろう。
しかし!!!
それをレイがしていたら大問題だ……
「なに、そんな色気のない身体で襲われると思った訳?」
初めて会った時に聞いたような言葉である。
この後に及んで、そんな事を言うなんて。
思いっきり睨みつけてやろうかと思ったのだが……
「嘘。そんな事してたら、抑えられる訳ないでしょ。
全部フローラがやってくれたよ」
「……っ!!」
以前のレイよりも、よっぽどタチが悪い気がする……
ユメコは着ているワンピースを、ぎゅっと握った。
「それにしても、その服。
まだ残ってたんだね」
「あ…… 覚えてた?
これね、リンさんが取っておいてくれたんだ」
それはレイが前世で選んでくれた、白いワンピースだった。
リンさんが再会した時に渡してくれたので、
ユメコはこの服をずっと大切に保管していた。
久々に着る事が出来て、大満足だ。
「リンさんにもレイの事を報告したら、凄く喜んでたよ!
コンテストが終わったら遊びにおいで、だってさ」
「そうだね。
僕も久々にリンと会いたいな」
私たちの会話は、尽きる事がない。
前世の分も、今世の分も。
異世界の事も、現実世界の事も……
私達は全てについて語り明かせる。
この穏やかな時間がずっと続けばいいのにと、
ユメコは思わず願ってしまうけれど……
世界に平和が訪れたとは、まだ言い難かった。
「コンテストか……
レイは最後まで残ったら、どうするつもりなの?」
「もう書く事は決めてあるんだよね」
「へ〜!どうするつもり?」
「今はまだ内緒」
レイは悪戯っぽい目で、ユメコを見つめた。
その瞳が何を企んでいるかは、相変わらず読めない。
けれど昔と違って、
信用出来ない光なんて一切宿していなかった。
「……ユメちゃん、大好きだよ」
レイの真っ直ぐな言葉に当てられて、
ユメコの頬が火照った。
柔らかな夜風が、
ゆっくりとユメコの熱を冷ましていく。
そよぐ風の通り道を、
レイの優しい指先がそっと撫でた。
その愛おしげな仕草に、
ユメコの心が溶けていく……
レイの手に、ユメコの涙が伝った。
「もう、どうしてすぐに泣くかなぁ。
笑ってよ、ユメちゃん」
「さんざん、笑うなって言ったくせに……っ」
「ごめんごめん」
泣きじゃくるユメコを、レイが優しく抱きしめる。
傷付いていた心が、癒されるのを感じた……
ツカサに関しては、
運命を定めた自分が悪いと分かっている。
何の文句もない。
けれど理解と感情は、別物で……
再会して突きつけられた現実に、
やはり運命がなければ私は愛されないのだと思った。
でも……
運命なんかなくても、
レイは私の事を愛してくれた。
運命を破り捨てて、私はレイを救う事が出来た……
それだけでユメコは、
自分の選んだ道を信じて歩いていける。
「ありがとう、レイ……」
「僕はずっと、君の傍にいるから……
死んでも君を、逃さなかったろう?
僕は必ず君をさらう。
その事を忘れないでね、ユメちゃん……」
レイの想いが、ユメコの心に届いた瞬間。
激しい光が、辺りを照らした……
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