第19話 オトシマエ
「邪魔するな、人間」
「あの魂は、私たちと契約済みだ」
レイを連れ去った幕が消えると、
ユメコは恨み千万という目付きでロミとジュリを睨みつけた。
「あんた達がレイの言ってた魔物ね……
間に合って本当に良かった」
ユメコはこの世界に辿り着いた後、
ハテシナレイについて調べるうちに義極の存在を知った。
そして、レイの魂が消滅していない事に気付いたのである。
もしもユメコが神の本を破いていなかったら、
今頃レイの魂は魔物に喰われていたのだろう……
ユメコの怒りは、既に限界を超えていた。
「あの人間の魂は、左眼と交換済みです。
それを覆す事は出来ませんよ」
脅す様にして凄んでくるマクベに、ユメコは笑顔で応える。
しかし、その目は笑っていない。
笑顔を保つだけで精一杯という状態だ。
「そうなのよ。
その契約の事で、私も腹ぁ割って話したいんだけどね」
「ユメコ、少し落ち着いた方がいいのではないか……?」
後ろで様子を伺っていたエビルが、
今にも暴れ出しそうなユメコをなだめる。
エビルは長かった黒髪をバッサリと切り、
ダークグレーのYシャツと黒のパンツに着替えていた。
折角のクールな装いだというのに、
その表情はユメコが何をしでかすかという不安に満ち溢れている。
「エビルはちょっと黙ってて」
「う、うむ……」
義極について詳しく調べてくれたのは、実はエビルだった。
さすが元は国王というだけあって、異世界事情については詳しい。
エビルはユメコと共に別の世界へ飛ばされてからというものの、
彼女の心配をして尻拭いばかりする毎日であった……
本当にお疲れ様と言ってあげたい。
「契約ってさ、そもそも左眼が機能してたらの話よね?
あんた達がレイに渡した左眼、
私の事をちゃんと見つけられなかったのよ。
目の前にずーっと私がいたのに、
その左眼に私は映ってなかったわけ……」
「馬鹿な、確かに左眼は渡したぞ」
「そうだ、イチャモンを付けるな」
双子の魔物は、全身にある目玉でギロリとユメコを睨みつけた。
しかし数多の殺意が襲っても、ユメコの笑顔は揺るがない。
ユメコに宿る怒りの方が、殺意よりも格段に上であった。
「子どもには分からないかな?
対価に見合う結果が出なきゃ、意味がないのよ商品は。
結局レイはあんたたちの左眼じゃなくて、
洞窟のセルフサービスで解決した訳だし……
だったらその左眼、不良品で返品可能よね?」
「今更そんな事を言っても手遅れです!
あの男の魂はもう、悲劇で幕を閉じた……!!」
「うるさい!!!
ちゃっちゃと出すもん出せや、コラ!!!!!」
あまりにもドスが利いた声に、
極道風の男でさえ震え上がっている……
これではどちらが取り立て屋か、分かったものではない。
「マクベ、この女を殺せ」
「そうだ、こんな女は殺せ」
「仕方ありませんね。
穏便に済ませたかったのですが……」
双子の言葉と同時に、マクベは両手に銃を構えた。
光の発し方から察するに、おそらく表現なのだろう……
二丁拳銃が、ユメコに向かって弾丸を放つ。
「……八咫鏡」
しかしその銃弾が、ユメコの元に届く事はない。
エビルの言葉と共に現れた神の加護が、盾となりユメコを守っていた。
みんとすでは戦意喪失していたエビルだが、
彼も滅びない国の王として、神の力を賜っていたのである。
「草薙剣……」
エビルが唱えると、
その手には神の光を纏った荘厳な剣が現れた。
これらの武器、
本来はヒミコと戦って本領発揮する筈だったのだが……
実際にはユメコの尻拭いにしか使われていない。
神のお膳立てが台無しである。
「その男は、エビルに任せても良い?
私はこの2人に、
礼儀ってやつを教えないといけないからね」
ユメコの手にも、神が創りし双刀が現れた。
こちらも本来であれば、
エビルと戦って真価を発揮する予定だった武器だ。
神の力が、極道まがいの取り立てに使われていく……
「子どもたち。
オトシマエのつけ方、教えてあげるね?」
その笑顔は、無表情な双子を震え上がらせる程に恐ろしい……
エビルはマクベと戦いながらも、魔物たちに同情していた。
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