第13話 俺は勇者になれない
「うん、結構いいかもこれ」
ハテシナレイは最初こそ戸惑っていたものの、
すぐにバリスタの扱いに慣れ、気付けば3台を撃沈させていた。
一体何者なんだよ、ハテシナレイ……
「すごいです!めっちゃ映えますねバリスタ!写真写真♪」
クラムちゃんは呑気にバリスタを激写しまくっている。
なんならバリスタと共に自撮りまでしていた。
命の危機が、バッチリ映えてしまっている……
「逃したやつを狙うのは流石に無理そうかな」
全てを撃退するには時間が足りず、
1台は既に体育館のドアへと近付いていた。
真下に位置すると、完全にバリスタの射程外だ。
「こうなったらもう、白兵戦しかないよな」
とはいえ、どうする??
こういう時に肝心の脳筋がいない……
「タクオさんも、表現で戦えたりしないんですか?」
クラムちゃんの言葉が、グサリと刺さった。
だって俺は、ただの根暗オタクだぞ?
ハテシナレイとは悪い方向に格が違うぞ??
「お、俺が戦うのはちょっと無理かな……」
「そうですか…… こういう時に、
勇者さまがいてくれたらな〜って思いますよね」
勇者……!!!
その響きで、俺はあの時の事を思い出していた。
俺だって、勇者になったじゃないか!!
同じ様に思い浮かべれば、
もう一度なれるんじゃないか?
本に書いたような、格好良い勇者さまに……!!
「あ、なんか光り始めた」
「わぁぁ! これって、勇者さまの姿ですよね!
写真しゃし……ん??」
クラムちゃんのシャッターが止まった。
ついでに俺の動きも止まっている。
そう。
勇者の姿になったものの、俺は……
前回同様、身動きがとれなかったのである。
「あの、動けないんだけど…… なんでだと思う?」
ハテシナレイが、しらけた視線を飛ばしてくる。
流石にこれは返す言葉もない。
「う〜ん……
向いてないんじゃないですかね? 勇者」
クラムちゃんが、無慈悲にも俺の自尊心をブッ刺した。
この子は太陽の様な明るさで人の心を抉るな……
「無理して勇者になろうとするから、
体が拒絶反応を起こしているのでは??」
やはり、身体は正直っていうやつか……
まぁそうだよな……
俺は悟りを開いて、勇者になるのを諦めた。
その瞬間、勇者の装備が虚空へと消えていく。
元の姿に戻ってみると、驚く程に身体が軽い。
人間、無理をするのは良くないんだな……
「ちょっとは身体、鍛えたら?」
凹んでいる俺に、ハテシナレイが追い討ちをかけてきた。
しかしお世話になりっぱなしの身の上なので、
文句のつけようもない。
どうせ俺は、ただの根暗オタクなのだ……
ドォオオオオオオン!!!!!
俺が自信喪失している間に、
凄まじい衝撃音が体育館にこだまして建物を揺らした。
残りの1台が、扉に向かって砲撃を開始したのだろう。
このままでは突破されるのも時間の問題だ。
しかし、俺が勇者になるのは無理だしな……
むしろ俺の方が勇者に助けて欲しい。
「くそっ!どうすりゃいいんだ……!!!」
「おーーーーい!!!
皆この中にいるのか?!」
体育館の外から、ツカサの大声が聞こえてくる。
俺がいつまで経っても帰って来ないから、
心配して様子を見に来たんだろうか?
「……そうだ!
ツカサなら……!!」
俺はツカサと出会った時の事を思い出していた。
こいつを見た時に俺は、
まるで勇者みたいな顔をしていると思ったんだ……
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