第12話 体育館戦争

「なんだよあれ?!

 流石に反則だろ!!!」


グラウンドぎりぎりサイズの巨大なタンカーを見て、

俺達は近くにあった体育館へと逃げ込んだ。


夕暮れの校舎には何故か、一切の人影がない。


昨夜も人っ子一人いなくて不気味だったが、

これが神のお膳立てというやつなのだろうか……


「えぇっと……

 あれはおそらく、啖呵タンカーの皆さんですね」


クラムちゃんは参加者名簿を見ながら、俺たちに説明をした。

その名前を反芻して、俺はつい先ほど切られた啖呵を思い出す。



”お前たち、包囲されてる、気を付けろ……

 ここから先は、地獄行きだぞ……”



……うん、確かに5・7・5・7・7だった。

間違いなく短歌だ……



「いやふざけてんのか!!!」



全力でツッコミを入れても事態は解決しない為、

俺達は分担して体育館の鍵を閉めて回った。


相手が船ならば、乗組員が降りて来ない限りは安全だろう。

しかし、タンカーがどうやって陸地に辿り着いたっていうんだ?



「隠れても、無駄だぞ覚悟、決めてこい……

 俺のタンクが、お前を狙う……」



なんだか嫌な予感がする短歌が聞こえてきたので、

俺達は2階に登って窓から外の様子を伺ってみた。


するとタンカーの扉が開き、

キュルキュルと数台の戦車が降りてくるのが見える。


タンカーって、確か油槽船だよな……??



「おい!なんでタンカーの癖にタンクを積んでんだよ!!」


「ねぇ、突っ込んでる暇があったら

 さっさと弓を出してくれない?」


隣のハテシナレイは、相変わらず冷ややかな目をしていた。

なんでこいつはそんなに冷静でいられるんだ……


タンカーが短歌で啖呵を切ってタンクを出してるんだぞ?

状況を分かってるのか??



そう思いつつも、頼みの綱はこいつしかいない。

俺はすぐにハテシナレイの手元へと、

以前と同じ様に弓矢を描いた。


「どうも」


ハテシナレイは直ぐに弓を構えると、

窓から狙いを定め、迷いのない一矢を放った。

狙いは的確だが、やはり戦車の装甲相手では歯が立たない……


「くそっ、流石に無理か」


腕は確かなだけに、効かないのが悔やまれる……


上空から飛んできた矢から標的の位置を悟ったのか、

一台の戦車が体育館のドアに向かうのをやめ、

こちらへと頭を旋回させた。


どう見ても、その砲がこちらを狙っている……!!



「やばい! ハテシナレイ!! やばい!!!」


「うるさいな……

 むしろ好都合だよ」


そう言ってハテシナレイは、再び弓を構えた。


装甲を貫けねば無意味だと思うのだが、

その目はあくまで冷静さを欠いていない。

鋭い眼差しが、敵を捉えていた。


「よし、これなら狙える……」


ハテシナレイが静かに矢を手放すと、

それは吸い込まれるかの様に戦車の砲へと導かれた。


戦車の装甲内から、激しい破裂音がする……

まるで針の穴を通すかのような所業だ。


いくら腕が立つといっても、あのわずかな穴を狙えるか?

神業なんてレベルじゃないぞ……?!



「お前凄過ぎるだろ! 何時代の人だよ!!」


「そんな事より、もうちょっと威力を出せないの?

 口径120mmクラスがいいんだけど」


無茶言うな!!と思うが、今はハテシナレイだけが頼りだ。

俺はどうにかして、もっと強い弓矢が出せないかと考えた。


その間にも、戦車はゆっくりと体育館へ向かってくる……



今いる戦車は、あと4台。

全てが先程の戦車と同じ轍を踏むことはないだろう。

現に、真っ直ぐ体育館の扉だけを目指している戦車もいる……

まるで攻城でも受けている気分だ。



「ん?? 攻城……」


そうだ。


攻城を受けているのなら。

攻城兵器を使えばいいんじゃないか?!



「ハテシナレイ! 装備を変えるぞ!!」


「了解。強いやつで頼むよ」



俺は注文通り、

強いやつを必死に脳内で思い描いた。


俺が思考を積み重ねる度に、光が形を成していく。

まるで3Dプリンターが稼働しているかの様だ。



幾重にも描かれたそれは、

やがて窓辺ギリギリのサイズと化して実体を得る……



「出来たぞ、凄くバリバリのやつ!!」



語彙力に関するクレームはご容赦願いたい。

言葉選びは間抜けだが、出来に関しては完璧なのである。



「これこそ、俺の考えた最強の攻城兵器……


 バリスタだ!!!」



トゥイッタランドの奴等みたいに、

俺はつい調子に乗ってポーズを決めてしまった。


表現すると、確かに格好付けたくなってしまうな……



めちゃくちゃドヤ顔したものの、

あとはハテシナレイに任せよう。



頑張れ、ハテシナレイ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る