第11話 短歌・啖呵・タンカー

「おいハテシナレイ、お前も協力してくれよ!」


「なんで僕がそんな事をしないといけないんだ……」


「参加者名簿に名前が載ってるんですよ?

 これって運命だと思いません??」


「僕は運命なんて言葉は嫌いだ」


俺とクラムちゃんは放課後に待ち伏せをして、

部活が終わって帰路に着くハテシナレイの説得を試みていた。


表現力コンテストに参加しようと決意したものの、

今の俺に出来る事と言えば

ハテシナレイの弓矢をバッキバキにする事くらいで、

こいつがいないと始まらないのである。


「貴方の運命はきっと、

 この戦いの中にあると思いますよ?」


「だから、運命なんて僕は……」


「ユメちゃんに、会いたいと思いません?」


「……!!!」


いつも冷静なハテシナレイが、

見た事もないような驚愕の表情を浮かべた。

その名前に、何か心当たりがあるようだ。


「ハテシナユメコを知ってるか聞いた時も、

 ユメちゃんって言ったよな……?

 あれについても詳しく聞きたかったんだ」


「え、口から出てた……?」


「そりゃもう、思いっきり切なそうな声で」


「……悪いけど、それ忘れてくれる?」


「無理だ。良いから正直に白状しろ」


ハテシナレイが珍しく焦っているので、少し面白い。

意外と人間らしいところもあるんじゃないか……


「ハテシナユメコなんて名前は知らない。

 ……ユメちゃんは、僕の夢にいつも出てくる女の子だよ」


「夢に??」


「物心ついた時から…… いや、多分それよりも前から。

 ずっと夢に出てくるんだ。

 その女の子は、いつも僕に笑いかけてくれて…… 


 名前は分からない。

 夢に出てくるから、ユメちゃんって勝手に付けた。

 ユメコって名前を聞いて、その子を思い出しただけだよ」



信じられない……

あのハテシナレイが、赤面をしている……!!!



いつも女子からキャーキャー言われてる癖に。

あんなに躊躇なく女子に向かって矢を放つ癖に。

何にも興味ありませんって顔してる癖に……



夢に出てくる女の子に、

こいつは惚れてるっていうのか?!



俺はこいつを敵だと決め付けていたのを、悔い改めた。



なんてロマンチストなんだ、ハテシナレイ……

やはり本好きに悪い奴はいない。



「今度はこっちが質問する番だ。

 なんで君が、ユメちゃんの名前で僕に囁きかける……」


「だから、神の子文庫で読んだんですってば!

 読んで貰えたら話は早いんですけどねぇ……

 あの本、日本語では出版されてないんですよ」


「みんとす、だっけ?

 そこにハテシナの話が書いてあるんだよな」



ハテシナの本、めちゃくちゃ読んでみたい。


しかし、日本語じゃなきゃ読めないよな……

異世界の言語なんて、流石に英語の比ではないだろうし。



「ツカサさんの国の言語では、出版されてますよ」


「本当か?!

 それならあいつに読んで貰えるな!」


「じゃあ異世界に戻ったら買ってきますね♪」



良かった、これでハテシナの手がかりが掴めそうだ。

あんな別れ方をしたけど、無事でいるだろうか……


いや、無事ではあるんだろうな。

ブチ切れて神の本を破ったっていう位だし。



「で、その本に僕の事も書いてあるって?」


「多分、そうだと思います!

 これは乙女の勘なんですけどね……

 この運命を辿れば、きっとユメちゃんに会えますよ!

 それなら参加するしかないですよね??」


「くそっ…… 嘘だったら承知しないからな?」


ハテシナレイは、クラムちゃんを氷の眼差しで睨みつけた。


こんなにも可憐なクラムちゃんに脅しをかけるなんて……

おそろしい男だな、ハテシナレイ。

冷酷のレイと言っても過言ではない。



「こうなったら、絶対に勝つから足を引っ張らないでよね。

 優勝して、神様に文句言ってやる……」



こうしてクラムちゃんの口添えにより、

俺たちは晴れてチームを結成する事となった。


優勝を目指すだなんて、青春っぽくて良いな!

と、俺は呑気に思っていたのだが……



「お前たち、包囲されてる、気を付けろ……

 ここから先は、地獄行きだぞ……」



不穏なアナウンスが、どこからともなく流れてくる。

明らかに肉声でなく、スピーカーの様な音質だ。



不思議に思い、俺はその声の主を探そうとしたのだが……


「うおぉおああうおぉおお?!?!」


またしても、キモい叫び声をあげる事となってしまった。

探すまでもなく、それは俺の視界一面に広がっている。



そこにあるのは、一艘の巨大なタンカーだった……

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