第14話 金属バットVS勇者の剣

「なんだよ、これ……?!」



学校へ来たら何故か目の前には巨大タンカーがあり

体育館は謎のタンクに襲われているという状況下で、

事情も説明せずいきなり勇者にしてしまった……


ツカサには申し訳ないと思っている。

だがしかし、命の危機なんだ。許せ。



「ツカサ! お前は勇者になるんだ!!」


「はぁ? そんな事いきなり言われても……

 まぁいいか」


マジかよお前。

勇者だぞ?そんな簡単になってもいいのか??

さすが勇者になれる奴はスケールが違うな……



「なんだコラ、やんのかボケが、なんだコラ……

 ここまで来たら、容赦しねぇぜ……」


「おい、なんだコラって今2回言ったぞ!!」



語彙力のない俺ですら、

短歌の啖呵クオリティを疑ってしまう。


しかし声の主が遂にタンカーから降りてくると、

俺は妙に納得してしまった。


あれは多分、どう見ても俺より語彙力がない……



「うわぁぁぁ! すっごいですね!!

 あれって確か、ヤンキーっていうんですよね?

 写真写真♪」


怖い人と目を合わせるどころか、激写しちゃいけません。


そう言いたいが、

確かに撮りたい気持ちも分からなくはない。


そこには文化遺産と称しても過言ではない、

絵に描いたようなヤンキーがいた。



刺繍の入った長ランに、艶めいた黒のリーゼントヘア。

こちらにガンを垂れながら、

金属バットを片手にふんぞり返っている……



こいつが啖呵タンカーの表現者か!!



「ツカサ、気を付けろよ!!!」


俺がそう叫んだ瞬間にはもう、

ヤンキーがツカサに金属バットを振りかざしていた。



「なんだてめぇ、金属バットで殴りかかるとか危ねぇだろ!」


「気を付けろ、金属バット、痛いから……

 やられた後に、泣いても無駄だ……」



おっしゃる通りである。


なのでやめていただきたいのだが、

二人の喧嘩は止まりそうにない。



ヤンキーの金属バットVS勇者の剣……

異種格闘技戦なんてレベルじゃないぞ?


俺はコントの為に勇者を生み出した訳ではないのだが……



「ねぇ、白熱してるところ悪いんだけどさ。

 あれは大丈夫なの?」



こちらはツッコミが追い付かなくて必死だというのに、

ハテシナレイは涼しげな顔で窓の外を指差していた。


視線の先では、体育館の扉を狙っていた戦車が旋回し、

ツカサを背後から狙っている。


リーゼントが気を引いている隙に、

後ろから騙し討ちするつもりだ……!!



「おい、後ろに気を付けろ!!!」


その声でツカサが振り向いた時にはもう、手遅れだった。



砲弾がツカサめがけて一直線に宙を駆けていき、

したり顔をしたリーゼントは後方に退避している。


これは避けられない……!!!



「かかったな、お前のツラも、見飽きたぜ……

 そろそろ逝きな、あの世への道……」



こんな時にまで5・7・5・7・7をしないでくれ!

ツカサには辞世の句を詠める様な頭なんてないんだぞ?!



こちらのパニックなんてお構いなしで、

砲弾は無慈悲にもツカサに向かって邁進する。


ツカサはそれを、

逃げも隠れもせず真っ直ぐに見据えていた。



「さっきから訳分かんない事ばっか言いやがって……

 危ねぇって言ってんだろ!!


 いきなり撃ってくるんじゃねぇ!!!」



ツカサは相変わらずの声量で叫ぶと、

自分の声で気合いが入ったかの様に、

両手でグッと剣を握りしめた。


そして、それを肩の横で構えると……



「コースが甘いんだよ!!!」



砲弾を、思いっきり打った。

ホームランだ……!!!



金属バットが目の前にいるというのに、

勇者の剣が好成績を出さないで欲しい。



打ち返された砲弾は、

豪速球と化してタンカーへと向かっていき……


次の瞬間、凄まじい爆発音が聞こえてきた。



おそらく燃料に着火したのだろう、

盛大な火柱をあげてタンカーが飛散していく。

映画も真っ青の、大スペクタクルだ……!!!



「わぁぁ!火柱すっごい迫力ですね!!

 めちゃくちゃ映えますよ、写真写真♪」


事故現場を不謹慎に激写してはいけません。



俺のそんな言葉を待たず、

タンカーは光を放ちながら空中へと旅立っていった。


あの巨大なタンカーも、表現だったというのか……



「どうやら勝ったみたいだね、お疲れ」



相変わらず冷静なハテシナレイの視線の先に居たのは、

先程のリーゼント男だけではなかった。


マグロ一本釣りの漁師でもしてそうな風貌の男と、

戦車長のような軍服を着た男も泡を拭いて倒れている。


あの巨大なタンカーとタンクは、この3人の合作だったらしい。


表現者が3人も集うと、

あんなに壮大なものまで表現出来るっていうのか……!!



その表現力に、

敵ながら敬意を表したいと思っていたのだが。



「完敗だ、俺たちの負け、認めよう……

 すまないけれど、担架を呼んで……」



「最後まで短歌かよ!!!」



どうあがいても、突っ込む事しか出来そうになかった。

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