第9話 「青春メロディー」
タイトル「青春メロディー」
そして国体が始まった…
2017~10月
埼玉国体「駆け抜けろ青春」
秋田県代表(帝国高校は1回戦、千葉との対決。序盤から秋田のオフェンス、デプレスディフェンスが爆発。特に流稀亜、折茂、南禅寺の3ポイントシュートが冴えわたり着実に点差をつける。千葉は流れを変えようとするが、秋田のゾーンプレスを攻略できない。結局、秋田代表は第3クオーター終わりには40点差以上の点差をつけて主力をベンチに下げた。その後も秋田のベンチメンバーが主力と変わらない活躍を見せ結局試合は
秋田県代表 113 対 71 千葉県代表
42点差で勝利した。更衣室を後にして体育館の通路口を歩きながら話すチームメイト。一心が口を開く。
「ルッキーやったね」
流稀亜が口を開く。
「イケメン飛ばし過ぎかな」
折茂が口を開く。
「ちっちっち、俺も30点台だけどな」
折茂が会話に入って来ると一心が口を開く。
「折茂さんは得点よりも勝負どころのシュートがよかったです」
「おーっち神木、俺様のリバウンドはどうよ?」
「関口さんはリバンドの方が目立ってましたね。ナイスでした」
まんざらでもない表情の関口。
「おーっちたまにはいいこと言うな。から揚げな!」
一心がすかさず口を開く。
「何でですか!」
「はははははは」
「神木博士の分析だな」
南禅寺が柔らかい表情でつぶやいた。そんな明るい雰囲気の中ホテルに戻ろうとしたときだった。体育館の出入り口付近で他の選手と一緒にマイクロバスを待っていると、関口が声をかけてきた。
「おーっちか、神木お前の知り合いか?こいつ?」
「シン!」
見知らぬ男がそう呼びかけるも、首をかしげる一心。髪がショートヘアーでボーイッシュな雰囲気。服装もジーンズに黒いスカじゃんを羽織っている。しかし、スポーツをやっているようで体つきはしっかりしていた。身長は160cmほどあるが、男子高校生としては小さい方だった。一心は地元が横浜なので埼玉まで誰かが応援に来たのだろうと思って昔の記憶を必死に呼び起こそうとしていた。
「…どちら様?」
首をかしげながら一心がそういうと永野 理央が口を開く。
「おい、お前…まさか俺のこと忘れたのかよ!」
少し怒った表情で永野がそういうと相変わらず一心は首をかしげている。
「えっと…誰?」
そのやり取りを見ていた関口が口を開く。
「おーっち、神木~男のマブダチを忘れるのは重罪だな!から揚げ買って来い!」
すると永野が口を開く。
「…確かに…でもな!おい、デブお前ふざけんな!」
「おーっち神木…お前の知り合い…やっぱり非常識な奴だな…ちょっと教育が必要なんじゃねえか?」
腕を組み永野を睨み付ける関口。
「あんだと、非常識はお前じゃねえか!俺は女だ!」
関口が驚くと、その場にいた全員もリアクションに困っていた。
「…女?えー!」
永野が口を開く。
「証拠ならあるぞ、シンちょっと来いよ」
「え?」
一心の手を引っ張り、自分のスカジャンの中に手を入れて胸に手を当てる永野。
「ホラ」
「えーー!」(柔らかい…)
関口が口を開く。
「おーっち神木、どっちのえーだよ!」
「結構あるだろ?Cカップだ」
「…えええ!あああ!」
また全員が驚く。そして一心が何かを思い出したような顔をする。
「あ…お前!もしかしてジェロニモ?」
「久しぶりだな!シン!」
「おーっち神木、インディアン嘘つかないじゃねえじゃねえかよ!から揚げな!」
「はははははは」
すると、永野が女性らしい仕草で下をむいてもじもじしている。
「…シン、ジェロニモは昔の呼び名でしょ…やめ…てよ」
折茂と関口が口笛を鳴らしからかう。
「フィーフィー!」
一心が口を開く。
「いや、髪が短くなったから分からなかった、こいつ昔から男っぽくて、よく一緒にサッカーやったりバスケやったりしていて…」
永野が口を開く。
「お前…手の傷まだ…」
一心の右手の掌についた傷を見る永野。一心は昔、男勝りな永野と学校の休み時間でサッカーをしているときにできた傷が残っていた。原因はキーパーをしていた永野が、強風のために倒れてきそうになったゴールポストにぶつかりそうになり、その時に近くにいた一心が永野をかばって出来た傷だった。永野は無傷、一心は手首を骨折したが、その時にできた傷がアザとなって残っていた。そしてその怪我の前に一心は不可抗力もあって永野と初めてのキスをしてしまっていた。(まさか言わないよな…覚えてないよな…気にしているのは俺だけだろ…)一心が口を開く。
「昔のことだ、気にするな。それに、このケガのおかげで左手も右手と同じように使えるようになったからな、はははっは」
そんな話をしていると流稀亜が口を開く。
「あれ、イケメンこの子を知ってるかも…彼女…確か今、女子サッカー界で有名な女子高生ストライカー永野 理央じゃないの?」
「やっと気が付いたかよ。そう有名なんだぜ女子サッカー界の世界では」
「ん?…なんで、お前ここにいるの?」
「お前が俺にキスした、最初の男だからだろ」
「…」(言いやがった…覚えてやがった…)
南禅寺が口を開く。
「神木…隠すことなかっただろ…いい彼女じゃないか…はははは」
関口が口を開く。
「おーっち神木、責任とれよ」
折茂が続く。
「ちっちっち、ファーストキスとデミタスコーヒー…どっちが美味しいんだ?」
一心が必死の抵抗を見せる。
「あの…違うんですよ!」
「!…今日のお前カッコよかったぞ!」
「え?」
南禅寺が口を開く。
「神木、外のバス少しだけ待ってもらうから、早めにしろよ!」
「え?」(南禅寺さん…余計な気使いありがとうございます)
チームメイトは一心をその場に残してバスに向かう。すると永野が話しかける。
「神木…お前…その彼女とかいるのか?」
そう、永野が言った瞬間マイクロバスが到着してブレーキ音で何を言った勝聞こえない。体育館の前に秋田代表を迎えに来たマイクロバスが到着した。
「何か言ったか?」
「…何にも…」
「おまえ、首に巻いているの…怪我でもしたのか?」
永野の首に巻いたスカーフを指差す一心。少し怒った顔をする永野。
「…スカーフだよ!お洒落だ!」
「…そうか、怪我じゃないならよかった」
車に乗り込むチームメイトを見る一心。
「…ジェロニモ!言うな…」
「なあ、悪い。先輩たち待たせると悪いから行くわ。ありがとな!」
「…そ、そうだな」
一心の後姿を見つめる永野。バスに乗って席に着くと関口が口を開く。
「おーっち神木、彼女って…あれか」
南禅寺も口を開く口を開く。
「かわいい子じゃないか?」
「ち、違いますよ!」
今度は折茂が笑いながら口を開く。
「ちっちっち、照れるな、あの子なら許可する!デミタスコーヒー」
関口も続く。
「おーっち、俺は愛梨一筋~」
「…あの違うって!言ってますよね!」
一心が否定すると今度は枡谷が口を開く。
「ジェロニモ嘘つかない~、インディアン嘘つかない~」
「はははは」
あきれる一心。
「…流稀亜!どう思う?」
「バレたのは仕方ないんじゃない?」
「…ルッキー」
「何?」
「違うから!」
「うんうん」
バスが出そうになると、流稀亜のファンが奇声をあげる。
「流稀亜!」
「結婚して!」
「私のファーストキスを上げるから!」
窓越しに笑いながら手を振る流稀亜。それを見てぽつりとつぶやく一心。
「違うって言ってるのに…ガオ!」
「え?」
「だから違うって!」
南禅寺が口を開く。
「神木、何でジェロニモなんだ?」
南禅寺だけがそう一心に優しく声をかけた。
「…あいつ昔は髪が長かったんですけどね。ポニーテールだったんですよ。それで、サッカーしているときは良く黄色いヘアーバンドをしてて…それで」
一心は過去の記憶がよみがえった。そういえば故意にではないが事故的な衝突で、ヘディングに向かった一心がゴール前で永野とぶつかって倒れこみ、キスをしたことがあったのをまた思い出した。その後、急に突風府が吹いて永野をかばい一心は手に大ケガしていた…
「…」
南禅寺がボーとしている一心に声をかける。
「神木、神木!どうした?初恋の思いでか?」
一心が口を開く。
「いや…絶対違いますから不可抗力です!」
「…不可抗力?アホのくせして今日は随分難しい言葉使うな?」
その場の全員が笑う。
「はははっはは」
「…」
そんな秋田代表が乗るマイクロバスを永野は視界から消えるまでずっと見ながらぽつりといた…
「俺のファーストキス…返せ!馬鹿!」
埼玉国体「駆け抜けろ青春」2日目
翌日迎えた2回戦、第1クオーター、序盤は福岡代表の固さが見られなかなかシュートを決める事が出来ない。しかし、秋田代表は、自信にあふれたプレーをし、次々にスタメンが競い合うようにゴールを決める。そしてディフェンスでもゾーンプレスが上手く機能して、相手チームに思うようなバスケをさせない。前半を
秋田代表 59 対 32 福岡代表
と福岡県代表との大差で話すと、第3クオーター、第4クオーターも主導権を渡すことなく、最終的には
秋田代表 103 対 77 福岡代表
25点差をつけ勝利しインターハイ同様、優勝後方の一角に上がった…
そして、その日の帰り道、様子が変わっていたことが起こっていた。マスコミは一心、流稀亜、マートンが得点ランキングや、アシストランキング、リバウンドランキングで上位に入ってることを騒ぎ立て、日本の未来の3皇帝と記事を書き3人を褒めるたたえた。
得点ランキング 1位 暁 流稀亜
リバウンドランキング 2位 ディリックマートン
アシストランキング 1位 神木 一心
一方、その裏ではSNSによってバスケット界のスーパールーキーとサッカー界のスパールーキーが付き合っているという噂や写真が出回っていた。
いつものように、ホテルに帰る前にマイクロバスを待っているとそんな声が聞こえてきたので驚いてSNSを見る一心。辛辣な書き込みに驚く一心。
「神木って不細工だけど理央さんと付き合ってるらしいよ!」
「嘘!」
「なんか、みんなが見ているまで胸まで揉んで、理央さんに怒られたらしいよ!」
「変態じゃない?」
「永野さんってかっこいいよね、神木は…バスケ上手いけど…」
「足短い!」
「ははは大正解!」
「やっぱ、誰かの噂か?」
「ていうか、神木って彼女いるの?」
「本人はアマゾンの奥地にいるって言い張ってるらしいよ」
「嘘!」
「学校関係者からのリークだからマジだよ!」
「え、サバンナとか走ってないよね?」
「アマゾンとサバンナ違うから!」
「はははは、馬鹿じゃねえ?」
書き込みを見終えるとため息をつく一心。
「はあ~…ルッキーどういうこと?」
「シン、イケメン思うに気にすることはないよ!事実なんていつかはバレル!」
「ははははは…事実じゃねえし!一ミリもあってませんから!」
そんなうわさ話に耳をに嫌気がさしていると、丁度いいタイミングでバスが来た。そして、バスに乗り込むといつものように流稀亜のファンが黄色い声援を送っていた。
「流稀亜~明日も来て~」
「愛してる~」
そんなばか騒ぎをする女子に交じって、じっとこちらを見ている女子に気が付く一心。
「あ、ジェロニモ?」
永井は昨日と変わってAラインのワンピースを着て大人びたコートを羽織り、少し短めのブーツを履きかわいらしい格好をしていた。そして一心に向かって手を振っていた。
「…?」
それが何を意味するか、一心には永野の気持ちが分からなかった…
同じころ、超新星の如く売れっ子になった愛梨はドラマにも進出を果たし、そのため都内のスタジオで撮影をしていた。休憩時間、席に座り一心から送られてきたユニフォームの写真を見て微笑む愛梨。そして、自然にスマホの画面を進めていき、国体の情報を見ようとすると、一心と永野の書き込みを目にして眉間にしわを寄せる愛梨。愛梨の目に入る永野と一心の噂のやり取りがされた書き込み。
「…バカ…」
すると、後ろに立つ気配に気が付く。振り向きもせず口を開く愛梨。
「マナーの悪い人ね。近寄らないでくれる?」
愛梨の後ろに立っていたのは神楽坂 省吾 180cm 男性アイドルグループ「トップシークレット」のリーダーで女子高生を中心に絶大な人気を誇っていた。その神楽坂は撮影で一緒になった愛梨を口説こうと毎日のようにしつこくアタックしていた。
「…随分な言い方だね。僕たち宣伝といえども付き合ってるっていう設定じゃなかった?」
「それは、大人の都合で世間に見せているフェイクでしょ。撮影とはいえ、今度キスシーンで舌を入れたら、あんたの舌、噛み切るから」
愛梨は神楽坂の顔も見ずにそう答えた。
「…知識も教養もあって、スターな僕に惚れない女がいるとはね~世の中は広いよね」
「本当は狭い人しか知らないんじゃないの?」
「どういう意味?」
「知識と教養があるなら自分で考えなさいよ」
「以外に冷たいんだね~」
「私、今ただでさえイライラしてるんだけど…できれば視界に入らないでくれる?」
そう言うと、一心の書き込みを見た愛梨はスマートフォンを閉じる。
「主役の僕にそんなに冷たくして…監督に言って他の子にしてもらおうかな?」
そういうと愛梨の手を握る神楽坂。
「離してよ!」
「心配しないで…うちの事務所は握りつぶすのが得意だから」
神楽坂の言葉には様々な意味が込められていた。それは愛梨の事務所が全体で10人ほどしかいない小規模なものに対して、大規模な事務所からの圧力的なものだった。
「…」
ちょうどいいタイミングで一心から電話が鳴る。
「愛梨どうした?なんか、ラインのメッセージが激オコプンプン丸~だぞって書いてあったけど?俺…何かした?」
小さい声で口を開く愛梨。
「…その話はまた今度する」
元気のない愛梨に気が付く一心。
「愛梨、大丈夫か?」
一心に心配を掛けまいと明るく降り舞う愛梨。
「え、私?私は平気だよ。いっちゃんの方こそ、余計なことはしないでバスケだけに集中してよ!」
「余計な事?」
「…まあ、いいわ。私、信じているから!」
「分かった。じゃあ決勝戦で」
「うん、必ず行くから!」
電話を切る愛梨。神楽坂が口を開く。
「彼氏は同世代のバスケ少年か…俺の方が君に合っている気がするけど?」
愛梨が一心を思うように目を閉じてして口を開く。
「あなたは、誰かを思ったり、好きになったり、その人のことを思うと眠れない夜を
過ごしたりはしたことがないの?」
「愛ってこと?愛?アイね~。君はその年で愛の何が分かるの?確かに愛を重要視する人もいるけどアイなんて所詮ホルモンのバランスの疾患でしかない!そう思わないかい?」
愛梨が目を開き即答する。
「思わないけど?」
神楽坂が減らず口を叩く。
「中国語 ウオ アイニ、韓国語 サラヘヨ イタリア語 アモーレ、どの言葉で僕に愛を伝えてほしい?全世界196か国、7国語を操る僕でも君に伝えるべき言葉が見つからない…」
「…」
立ち去ろうとする愛梨に声をかける真剣な表情の神楽坂。
「…もしかして、俺って今フラれたの?」
愛梨が口を開く。
「かわいそうな人…地位、お金、女、全てを手に入れようする。でも愛は貴方から遠ざかる…」
愛梨を呼び止める神楽坂。
「待てよ!」
そう言って背を向ける愛梨に対して神楽坂は拳を握りしめながら愛梨を見ていた。
「国民的スーパーアイドルは、ファンには愛を売りにしているのに、愛を知らない悲しい人なのね」
「…」
更に愛梨が神楽坂を見もしないで小さな声でつぶやく。
「所詮、言葉なんてうわごとよ…」
愛梨のその言葉は残念なことに神楽坂には聞こえてなかった。
「何か言ったか?まだ言い足りないのか!」
「別に、こっちの話だから…気にしないで」(いっちゃん、決勝戦…絶対に行くからね!)
そして愛梨は何事もなかったようにスタジオを後にした…
埼玉国体「駆け抜けろ青春」3日目
3回戦。地元開催の埼玉県代表との試合、序盤埼玉は地元開催の意地を見せる。連続の3ポイントシュートが成功すると、その後も勢いのあるオフェンスを続けるが徐々に秋田のディフェンスの締め付けに苦しくなる。第1クオーターを
秋田代表 21 対 17 埼玉代表
で終えるが、第2クオーターに入ると、秋田の厳しいディフェンスに苦しみシュートがなかなか決まらない。そこでリバンドまで支配され、ゲームの主導権を完全に奪われてしまう。第4クオーターに入っても手を緩めない秋田はゾーンプレスを仕掛け更に点差を広げる。残り5分を切ったところでスタメンを全員変えるが圧倒的攻撃力は収まる事がなく最終的には
秋田代表 119 対 87 埼玉代表
32得点差で勝利した。試合が終ったのにもかかわらず流稀亜は厳しい表情を浮かべてベンチに座っていた。一心がそんな流稀亜に声をかける。
「ルッキーナイス!ファイト!」
流稀亜が口を開く。
「…シン、まだ駄目だよ」
「今日は41得点でしょ。凄いよ!」
「シン…分かってるとは思うけど奪った得点の問題じゃないよ。半分は戦意を失ってからの得点だし…第1クオーターの初めからもっと量産できないと駄目だよ」
「でも最初は、2人がかりでマークがきつかったしさ」
「あの程度のディフェンスならクリアしないと駄目だね」
「…確かにそうだね」
「あれ、褒めてくれてるのかと思ったけど?」
「ルッキーに嘘は通用しないよね。だから」
「だから?」
「たしかに、最初の流稀亜の動きは振り切ることだけを考えて単調だった。でも途中から相手のディフェンスをよく見ながら動くように変化していた。それに気が付くのに少し時間がかかっていたね」
「シンの目は千里眼だね」
「いや、それほどでも」
関口が声をかける。
「おーっち神木、千里眼があっても彼女の顔忘れちゃ駄目だろ!から揚げだな!」
一心が口を開く。
「あの、関口さんその話なんですけどね…」
丁度いいタイミングで南禅寺が声をかけてきた。
「神木、暁、関口、試合が始まるぞ!行くぞ!」
「はい!」(ナイスタイミング!南禅寺さん!)
その後、準決勝の相手になると予想される東京 対 北海道の試合を秋田代表は全員で見学していた…
「どっちが勝つと思う?」
南禅寺がつぶやく。隣に座る一心が答える。
「まあ、普通に考えると北海道何ですけどね」
「ていうと?」
「星野さんのトレードマーク…リーゼントを止めてまで臨んだ国体に対する意気込みとノーデーターの韓国人のスホン…気になりますよね。最終的には本別、いや北海道が勝つような気もしますが…分かりませんね」
「イケメンも気になるよ、スホン」
東京代表はまるで、とっておきのマジックのネタを隠すかのようにスホンをそれまで試合にも出していなかった。そのため、実力がなくて試合に出れないのか?隠しているのかが分からず、その力は未知数なものだった。その試合も、スターティングメンバーの中にはスホンの姿はなかった…
南禅寺が口を開く。
「いずれにせよ、データーはしっかり頭の中に叩き込もう」
一心が口を開く。
「そうですね」
準々決勝、
東京都代表 対 北海道代表
第1クオーター、北海道はマンツーマンとゾーンの併用、東京はマンツーマンでスタート。東京は星野の3Pで先制する。
「よっしゃ!」
しかし対する北海道は赤井、飯田兄弟のツインタワーコンビが安定したオフェンスで攻め込むと連続でシュートを決める。
「なまら、面倒だな!」
それに対して時間が経つにつれて東京は、北海道の高い壁に対抗する手段がなく、中々攻める事が出来ない。
赤井が東京を挑発する。
「HEY,こんなもんかい?YO」
北海道はその後、更に赤井の3Pシュートや飯田兄弟のゴール下のプレーで徐々に点差を広げ得点に繋げていく。粘る東京は星野が意地の3ポイントシュートを決めるなどするが、実力者がそろっている北海道相手では対抗する手駒が足りない。第1クオーターは結局、北海道の7点リードで終える。
北海道 26 対 19 東京
すると、すでにスホンがウオーミングアップを初めて上着を脱ぎ始めていた。いよいよ謎の男のベールが今剥がされようとしていた。
観客席でそれを見ていた一心が口を開く。
「アイツ、出てくるみたいだね」
流稀亜も興味津々に見ている。
「ああ、パワーはあったよね」
「経験者なのかな?」
今度は南禅寺が口を開く。
「小耳にはさんだ情報だと、進学した高校にバスケ部がなくて仕方なく野球やってるとかで中学まではやっていたらしいぞ」
帝国の選手がそんな噂話をしているとユニフォームを脱ぎコートに向かうスンホ。そのスンホを赤井が挑発する。
「HEY,俺がマンツーマンでついてバスケ教えてやるぜ!」
スホンが口を開く。
「…俺…無駄口嫌いだ…」
赤井を無視するようにそうスホンが言った。それに対して驚いた顔している赤井。
「WHAT?」
しかし、第2クオーターに入ってもの北海道のいい形でのリズムが続き飯田兄弟のリバウンドシュートなどで点差を広げていく。交代して出てきたスホンはまだゲームになれている様子じゃなく、当たりを見渡していた。しかし、長身の割にはいい動きをしていた。得点にこそ結びつかないがリバンドや、要所の攻めに参加していた。そんなエンジンのかかりきらないスホンを横目に飯田兄弟が暴れていた。
「なまら面倒だ!オリャー!」
兄がダンクシュートを決めると今度は弟がダンクシュートを決める。
「なまら、兄貴には負けられん!どさん子DUNK!」
会場も盛り上がり、更に北海道のリズムが続く。そして東京は11点差になった所でタイムアウトを取った。ベンチに戻ると肩で息をする汗でびっしょりのスホンに話しかける星野。スホンを心配そうに見ている星野。
「スンホどうだ?」
スホンは得点差など気にせず微笑んでいた。
「バスケ…久しぶりキモチイイ…」
星野が口を開く。
「いけそうか?」
「ケンチャナ!」(大丈夫)
「じゃあ、全開で行けよ」
「分かった」
タイムアウトが終わるとスホンの雰囲気が変化したのに気が付く一心。
「あいつ、来るぞ!」
そして、その一心の予測通りスホンがついに暴れだした…
スホンはボールを貰うと赤井の粘りず強いディフェンスを軽くかわす。
「WHY!マジかよYO!」
そして、大きくステップを踏むとジャンプシュートの体制に入る。
「早い!しかも左利きだ!」
そのシュートを止めに飯田兄弟の兄が反応するが左利きのスホンのシュートにタイミングが合わない。
「バサ」
スホンのファーストシュートが決まると今度は東京が反撃が始まる。
「オールコートだ!」
星野がそう叫ぶと東京代表が全員で2-2-1のゾーンプレスをかけてきた。
「え、東京がゾーンプレス」
一心は驚き、思わずチームメイトと顔を合わせた。星野は帝国高校のバスケを研究するうちに攻撃的ディフェンスを今大会に合わせて練習してきたようだった。しかし、一心は心の中でそんなに簡単に習得できるものではないと少し高をくくって考えていた。
しかし、それが間違いだったことに直ぐに気が付くことになった。
北海道代表は赤井にボールだすがそれをスホンが簡単にカットした。
「WHAT!」
すると、スホンは3ポイントから1メートルほど離れた場所からシュート体制に入る。赤井が大声で叫ぶ。
「WHY!入らねえよ!飯田!リバウンド!行け~YO」
しかし、3ポイントシュートは赤井の期待を裏切るかのように綺麗な弧を描きあっさりと決まる。
「バサ」
そして、そこからスホンのワンマンショーはその後も続いた。長身からは考えられないようなスピードとクイックネス。そして正確なシュート。ディフェンスでは飯田兄弟のシュートをことごとくブロックしたかと思えば、赤井のドライブインにも対応してブロックしていた。結局、第2クオーターが終わるころには北海道は東京に同点に追いつかれていた。
北海道代表 41 対 41 東京代表
続く第3クオーターが始まると焦りからか、北海道はシュートミスが何本か続く。赤井がぼやく。「WHY!ガッテム!」
東京の爆発したオフェンス力が止まらない。星野も成長していたが何といっても韓国のスホンの動きが素晴らしくそれを誰も止める事が出来ない。3Pシュート、速攻からのダンクシュート、リバウンドからの相手を吹き飛ばしての力強いシュート。打って良し、走って良し、そして力強い。気が付いた時には、第3クオーターだけで15点とスホンはチームが上げた得点のほとんどをたたき出していた。
北海道 58 対 61 東京
東京が逆に5点差としてリードをしていた。それを見て観客席に座る一心が口を開く。
「ルッキーあいつやるね…」
「そうだね…でも飛島さんのおかげかな…あれだね」
「あれ?」
「そう?」
一心はその流稀亜の発言の意味がいまいちわからなかった。しかし、スホンのプレーを見ても余裕があるのは感じる事が出来た。
第4クオーターに入ると、サイズに勝る北海道がリバウンドを支配し始め点差を縮めようとする。しかし、東京はスホンにダブルチームがつくと星野を起点にして得点を重ねる。それでも粘る北海道は5分過ぎには一度、同点に追いつく。そして東京がタイムアウトを取った。すると赤井がスホンを挑発する。
「HEY,見たかYO!俺たちの実力!これから先は、スホン!お前には点はやらねえぜ!HEY!」
その後、スホンがまたスーパープレーを連発する。1人交わし2人交わし、最後の3人目をパワーで弾き飛ばす。その姿はまるで戦車の様だった。
「うおお!」
そして、ディフェンスではオールコートでプレッシャーをかけ続け、北海道のミスを誘い、6点差をつける。赤井が口を開く。
「HEY,まだ試合は終わってないぜ!」
赤井がそう叫ぶと双子のツインタワー飯田兄弟も続く。
「分かってる!」
そう言ってリバウンドから豪快なダンクシュートを決める飯田兄弟の兄。
「なまら、面倒くさい!」
その後も北海道は東京に粘り強くらえつくも、要所でやはりスホンのオフェンスを止める事が出来ない。
「おりゃー!」
そしてそのまま試合終了
東京都代表 89 対 82 北海道代表
東京の激しいディフェンスからのブレイクとスホンのオフェンス力が光った試合だった。結局スホンはその試合で途中出場にも関わらず38得点を挙げていた。赤井や、双子のツインタワーが悔しがる中、最後まであきらめない北海道の健闘に会場から温かい拍手が送られた。しかし、赤井や飯田兄弟の表情から笑顔は消えていた。
「クソ!」
いすれにせよ、最後まで笑ってられるのは1チームしかないのだ…その表情を見て一心は更に気が引き締まる思いがした。(赤井たちが明日の対戦相手でない…作戦を練り直さなければ)一心の頭の中では明日のシュミレーションが始まっていた…
一心がそんなことを考えていると、観客席では流稀亜の様子が少し落ち着きがなかった。流稀亜は貧乏ゆすりしながら爪を噛み不敵に笑っている。何度か見たことのある光景だった。
「…シン」
「何?ルッキー」
「イケメン、明日の試合が楽しみで笑いが止まらないよ…久しぶりだ!」
普段オチャらけている流稀亜とは違うダークな流稀亜。まさしくダーク流稀亜がそこまでNO,1に固執する理由は一心には本当の所は分からなかったが、自分自身を抑えきれなくなっているのは見てわかった。流稀亜は突然、立ち上がり自分の持っていたボールをコート下にいるスホンに投げつけた。それを見て驚く一心。
「ルッキー?」
ボールが音をたて、床に落ちると振り返るスホン。そのスホンに向かって眉間にシワを寄せて流稀亜が叫ぶ。
「おい、スホン!明日はこのイケメン様がお前を倒す!超高校級は僕だ!三浦さんの前にお前に勝つ!」(飛島さんとの練習試合…絶対無駄にはしない!)
その後、一心は制御の利かなくなった流稀亜を抑えるのがやっとだった。ダークホースで勝ち上がってきたと思われていた東京代表が、一気に優勝候補の一角に名乗りを上げた。試合前の関係者の予想では秋田代表と東京代表…明日はどっちが勝つか分からないと噂になっていた。
宿舎に戻ると緊急ミーティングが行われた。本別高校がどんなミスが原因で負けたのか?東京代表の強みは何か?そして一人一人のプレイの癖、シュートの確立。全てが入念にチェックされた。そしてそれらを終えると南禅寺が口を開いた。
「ほかに意見は?」
「…ないなら終わりにする」
「神木、お前本当は何かお前なりの作戦や、戦術があったんじゃないのか?」
「いいえ」
南禅寺が珍しくもう一度、一心に聞いてきた。
「あるなら遠慮するなよ」
「はい…」
作戦や、戦術は一心の目から見ても十分なものだった。でも一心には何故か不安があった。インターハイで経験した負けられない戦い。勝ち上がっていく楽しみと、勝ち上がるたびに起きる次の苦しみ。あと2試合で解放されるがそれに対する不安があった。何故なのか、一心は考えたが答えは出なかった。敢えて言うなら全国優勝の経験がないからこその不安だった…(あと2つ…でも遠くの場所にある気がする…)
その後、母親の樹里との待ち合わせの店に着くと一心はスマートホンで動画ばかり見ていた。そんな一心に対して不満そうにして母親の樹里が口を開く。
「高校に行ってから変わったことは?」
動画を見ながら素早くこたえる。その姿はまるでゲームオタクがゲームしている姿と変わらない。
「僕はいつでも僕だよ」
「…あんた、目の前に私がいるのに…動画、いつまで見てるの!」
樹里が机をバチンと叩くが動じない一心。
「え、うん…みんな大騒ぎしているでしょ…」
「え?」
思っていた答えと違うので戸惑う樹里。
「帝国高校復活とか…未来の3皇帝とか…でもわかってない。スピード、パワー、技術…どれをとっても伊集院さんがフレッシュマンカップで勝ったときとは違う。それなのに大騒ぎしている…」
(フレッシュマンカップとは毎年12月31日に行われる大手通信会社、ベストバンクが運営する大会。高校選抜ウインターカップの優勝チームと全日本大学選手権の優勝チームが対戦する。大学生NO1対高校生NO1の一騎打ちの大会)伊集院は高校3年生の時にフレッシュマンカップで見事大学生1位のチームを破っている。
「何の話?」
「バスケに決まってるじゃん!」
「僕が見ているのは、伊集院さんが一年生の時の動画だよ……凄いよ。今の僕たちが対戦しても勝てる気がしない…」
「…無理もないわ。あなたは一年生でしょ」(てっきりゲームか何かをしているのかと疑ったけど…この子ったら…)
「そうだ、流稀亜にもこの動画送っておこう!」
一心は自分の携帯電話の中にあるファイルを選びその動画を送信しようとした。ファイルは上から重要、最重要、バスケットボールに関する事などあった。すると樹里が声をかけた。
「先ばかり見ていると足元を救われるわよ」
一心はその言葉に反応すると指先がぶれて、最重要と書かれたファイルを間違えて流稀亜に送ってしまう。一心はそのことに気が付かずに母親に食って掛かろうとしている。
「バスケットは、ルールが複雑なんだよ!よっぽど好きじゃないと本当の意味で試合を楽しめない。なのに、変な流行になって騒ぎ立てて…おかしいよ」
「少しは気晴らしに、自分の時間を作りなさい」
「…客観的に自分を見つめる時間も必要だって言いたいの?」
「ふー誰に似たんだか…シンにとってバスケが大事なのもわかるけどあなたはまだ16歳なんだから、高校生活も楽しまなくちゃ」
「バカな事と言ってんじゃねえよ!」
一心がテーブルを力強く叩き付ける。
「落ち着きなさい!」
「落ち着いてられるかよ!…みんなと同じことをして楽しんでこれから先の試合が全部勝てるならそうするよ。でもそうは思えない!」
「そうね、自分が追いかけていたものが近くに来そうになると不安になるのよね…わかるわ」
「え?」
「試合に勝つのは嬉しいけど、優勝できるかどうか次の相手に勝てるかどうかわからないから、追い込まれてるんでしょ、あなた」
「…違うよ!」
「私はバスケの経験はないけど、息子にアドバアイスなら出来るわ」
「いらないよ!」
「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし!勝つのには奇跡はあるけど負けるのには必ず原因があるっていう意味よ」
「…」
「あなた一人で抱え込んでも仕方ないでしょ。助けてもらいなさい。あなたのチームメイト、あなたの周りにいる人。あなたの大事な人たちに…私には…」
時計を見る一心。
「…もう行くよ」
「ねえ、それと…あたなた父親のことまだ…」
「ああ、5番のユニホームのこと…気にしてるの?」
「そうじゃなくて…」
「僕にとって母さんが父親でもあり、母親でもあった。それはこれからも変わらないよ。こうやって俺のこと思って来てくれてるのもわかってる。でも、俺は聞いてみたいんだ。何でおれたち家族を捨てたのかを…」
「それでも、あなたの父親でしょ」
「遺伝子的にはね。俺がこの背番号をつけている理由は、そんな父さんに俺の活躍を見せつけてやるためだよ!」
そういって店を出る一心。店を出た一心をガラス越しに見ながら樹里がつぶやく。
「本当は良くやってるって認めてもらいたいんでしょ…結局はまだ子供ね」
そして店を出た一心は独り言のようにつぶやいた。
「母さん…ありがとう」
同じころ、部屋でリラックスしていた流稀亜が一心から動画が送信されたことに気が付きその動画を見る流稀亜。
「はて、最重要ファイル…何かの作戦かな?」
流稀亜が画像を開くとそこに出てきたのは「Nia」だった…
「可愛らしい…こんなに可愛らしい少女の心を持て遊ぶ外道な人間…神木 一心…そんなお前には上級魔法士官のこの「Nia」さまが鉄槌をくだす!「我が守護神、天空の神ホルスよこの者に神の懺悔を与えることを許したまえ!プルルン、プルルン、ピカ!ピカ!ピリリ!」
動画が雷の画像に代わる。
「ドゴーン!」
それを見て一瞬驚いた顔をすると笑い出した。
「ははははは…例の彼女か…でもこれ誰?…確かに可愛いね」
テレビをほとんど見ない流稀亜は愛梨のことを全く知らなかった…
そして、そうとも知らずに流稀亜が動画を見終わる頃、鼻息の荒い一心から電話がかかってきた。
「あ、ルッキー!今いい?」
流稀亜は一心が動画に気が付いたのかと思い冗談を言う。
「プルルン、プルルン、ピカ!ピカ!ピリリ!」
少し、怒った口調で言い返す一心。
「あのさ、真面目な話なんだけどルッキー!」
「…真面目ね…真面目か…はい」
「さっき送った画像を見た?…やっぱり凄いよね、まるで稲妻だよ」
すると流稀亜が口を開く。
「イナズマ…誰が?」
「はあ?何言ってるの?…ルッキー俺真面目な話をしてるんだけど…茶化すのやめてくれない?伊集院さんのドリブルだよ!」
「…シン」(そっちね)
「何?」(今日のルッキーは変だな…)
「…やっぱり何でもない…」(やっぱり黙ってよう!)
「変なの、それでさ…」
その後、しばらく一心とバスケの話をしたが、いつもながら一心の天然には驚かされる流稀亜だった…
埼玉国体「駆け抜けろ青春」4日目
少年男子 準々決勝~
第1クオーター
東京代表との試合に臨む一心達、秋田代表
秋田代表 スターティングメンバー
南禅寺 清隆 186cm (シューティングフォワード)
神木 一心 176cm (ポイントガード)
暁 流稀亜 194cm (シューティングフォワード)
関口 悟 205cm (センター)
折茂 和也 194cm (シューティングフォワード)
東京代表 スターティングメンバー
星野 流星 192cm (シューティングフォワード)
チェ スホン 201cm (センターフォワード)
野中 明 200cm (センター)
木村 博之 183cm (ポイントガード)
高木 道夫 193cm (シューティングガード)
第1クオーター,序盤お互いの実力を確かめるように両チームともマンツーマンディフェンスでスタートする。序盤、秋田県は一心のライブインや多彩なパス、流稀亜の個人技が光り、得点を量産する。対する東京も得点が離されそうになると何とか食らいつこうとして、ゴール下のシュートでスホンが圧倒的なパワーを見せつけて何とか踏ん張りを見せる。
第1クオーターは3点差で終了
秋田 16 対 13 東京
第2クオーターも同じ立ち上がりだが,東京は積極的なオフェンスがを仕掛けて、偶発的なシュートが何本か決まる。すると開始2分を過ぎた時には一時的に東京の優勢が続き、逆転を許してしまう。
しかし、その後リズムを取り戻したい秋田は速攻を仕掛けた一心が右斜め45度にいた南禅寺に対して鋭いパスを出す。
「南禅寺さん!」
「おう!」
南禅寺の最も得意な場所のシュートのはずだが、シュートの際にボールが汗で統べるトラブルにあい、まったく違った方向にボールが流れる。
「しまった…」
そこでたまらずタイムアウトを取る秋田。
ベンチに戻ると気落ちしている南禅寺。
「すまん」
「ダイジョブですよ!そんなことより次頑張りましょう」
しかし責任感のある南禅寺の顔色は悪い。そんな顔を見て試合を見に来ていた、番犬こと咲ばあさんが声をからしながら叫ぶ。
「こら~神木に暁、なにやっとるんじゃい!うちのキヨ…」
突然顔色が悪くなって倒れこむ咲。
南禅寺が声を上げる。
「咲ちゃん!」
咲は突然、息苦しくなり倒れこんだ。そして直ぐに会場にいたスタッフに抱えられて医務室に向かった。
流稀亜が口を開く。
「そういえば、ワシの目が黒いうちにと言っていたようないなかったような…」
試合よりも咲の心配をする南禅寺。
「まさか、サキちゃん病気だったのかな?」
一心が平然と答える。
「さあ…そこまでは詳しくは…」(絶対に病気じゃないと思います!…言えないけど)
まるでと貰い合戦の様な表情の南禅寺。
「この戦い、絶対勝つぞ!」
南禅寺の表情はいつもの顔に戻っていた。
「…」(南禅寺さんはこのままの方がいいな…ごめんね南禅寺さん)
コートに戻ろうとする前に、一心と流稀亜だけ石井に呼び出される。
「んがだじ…分かってるよな!」
「何がですか?」
「そろそろまじめにやらったいば!」
「…ばれてました?」(いや、最初は様子見だと思ってたんですけど…)
「おおよそ、明日の決勝戦に備えてたべしゃ!インターハイの二の舞になると思ってらったが!まんつ急いでかだつけて来いでや!」
(おおよそ、明日の決勝戦に向けて備えてたんだろ!インターハイの二の舞いになると思ってたのか!早くかたづけて来い!)
軽く敬礼をする二人。
「ラジャーです!監督!」
「ばがげ!はやぐいげ!」(馬鹿野郎!早く行け!)
コートに向か一心と流稀亜は自分達の頬を叩き気合を入れる。
「はあ!はあ!」
「おりゃ!うお!」
その様子をよく観察していた星野がつぶやく。
「あいつら…まさか…」
スホンが口を開く。
「どうした星野?」
そして少し離れた場所で一心が口を開く。
「全部、見せていいのかな?」
「シンの奴はダメなんじゃないの?」
「…そうだね、飛島さんに言われてるもんね」
そんな二人の緊張感のない、やりとりを見ていた南禅寺が首をかしげる。
「お前ら二人!咲さんのと貰い合戦だぞ!」
「…多分違いますよ」(そう言えたらいいんだけど…言えないよな。この人ストレートな人だからな…)
南禅寺が少し声を荒げている。
「何だ!神木!」(こいつは、こんな大事な時に…真剣身がないというか…)
「いえ、別に」
「行くぞ!」
「はい!」
タイムアウトが終わり、試合が始まるとボールを持っている流稀亜がスホンを目の前にして口を開く。
「スホンさん悪いね…もう100%で行くから」
「…嘘つき、嫌い。日本人、表面で笑って裏で蹴落とす…信じない。俺信じるの星野だけ…」
「口は禍の元だよ…」
次の瞬間、スホンの横を風が横切る。スホンの目に残っているのは流稀亜の後姿。あまりのスピードにスホンも反応できずにいた。
「…何だ!」
「100%、イケメンだよ!」
あっという間にスホンを抜き去ると鮮やかなダンクシュートを叩き込む。声を上げる一心。
「ゾーンプレス2-2-1!」
掛け声と同時に今度は一心が相手ディフェンスからスティールすると、南禅寺にパスを出す。南禅寺が右45度のシュートを決める。
(サキちゃん!見てるかい!)
試合が再開してから1分ほどで主導権は完全に秋田代表が握っていた。
一心が口を開く。
「初めての対戦相手ならもう少し、苦戦したかもしれないけどね」
流稀亜が続く。
「スホン、君の動きは昨日じっくり見てるよ!試合前に!」
一心が口を開く。
「全てを見せてはいけないんだよ!そう、大先輩が教えてくれた!」
第2クオーター残り3分足らずだったが、秋田の怒涛の攻撃は止まらない。流稀亜のドライブイン。折茂や南禅寺の3ポイントシュート、そして関口のゴール下でのパワーシュート。一心の鮮やかなパス。終了するころには得点差が一気に開き12点差になっていた。
「嘘だ…こんなはずない…俺たちは…全てのことをこの大会のために」
星野がそうつぶやく。
「ピー」
前半終了のホイスチルガなる。
スホンが星野の肩を軽く触れる。
「まだ終わってない」
「…スホン」
秋田代表 46 対 34 東京代表
ベンチに戻ると、南禅寺が口を開く。
「サキちゃんの様子は誰か聞いてないか?」
枡谷が口を開く。
「あ、さきっき救急車で運ばれたみたいです」
一心が口を開く。
「あの、南禅寺さん…多分大丈夫ですよ。あのスーパーお婆ちゃんなら」
全く一心の話を聞いていない南禅寺。
「この試合、サキちゃんのと貰い合戦だ!」
何故か一心と流稀亜以外は咲が本当に病気か何かで運ばれたに違いないと洗脳されていた。
「…オウ!」
その掛け声に驚く一心。
「…」(絶対違うと思おうんだよな…まあいいや、今は試合に集中しよう!)
するとタイミングよく監督の石井が檄を飛ばす。
「神木!流稀亜、このクオターで終わらせて来い!」
「はい!」
第3クオーターが開始されると秋田はゾーンプレスからリズムを掴む。一度、掴んだ流れは中々戻りそうになかった。一心のドライブイン、流稀亜のダンクシュート、折茂、関口の中距離ショットに南禅寺の3ポイントシュート。東京代表は何をやっても上手くいかなくなっていた。それほど秋田のディフェンスにおけるプレッシャーが凄まじいさがあった。第3クオーター残り5分を切ると試合の様子を見ていた石井が枡谷と、佐藤を呼びつける。
「枡谷!佐藤!準備はいいか!」
すでに試合に出る気、満々で待機していた二人は力強く返事をする。
「もちろんです!」
枡谷と佐藤は試合をやっていた一心や流稀亜と同じくらい汗をかいていた。
そして交代しようと一心は枡谷に声をかけた。
「お願いします」
枡谷が一心の言葉に過剰な反応する。
「おい、神木…お願いしますって何だ?」
驚く一心。
「え?」
「俺はお前の代わりに出るつもりはない…この準決勝でお前よりもいい動きをして明日は俺がスタメンポイントガードで試合に出る!ベンチでよく見てろよ!」
「…枡谷さん」(そうですよね…俺、しっかり見てますよ!枡谷さん!)
佐藤も口を開く。
「流稀亜!ワシもや!いつまでも控えだと思うなよ!このエセイケメン!」
「…ノブ…」
インターハイに負けて本当に悔しい思いをしていたのは、ある意味で枡谷と佐藤だったのかもしれない。何故なら自分たちが一心と流稀亜の代わりにスタメンで試合に出て負けてっしまったからだ。本人たちからしたら屈辱だろう。
そして、代わりに出た枡谷、佐藤がうっぷんを晴らすかのようにコートに出ると直ぐにスーパープレーを連発した。
「枡谷!」
南禅寺がノーマークで叫ぶもドライブインで切り込んだ枡谷は無視して素早い動きで相手を切り裂き、一心に負けず劣らずのドライブインを決める。
「よっしゃ!」
南禅寺が驚いた顔をしている。
「…枡谷…」
佐藤は、折茂が近くにいるのにパスを出さずに、角度のない位置からスリーポイントシュートを決める。
「どうだ!」
枡谷はその後、相手陣内にドリブルで切り込むと華麗なノールックパスで関口にアシストする。
「おーっち!ナイスパスだ!マッコリ!」
そして、ディフェンスでも枡谷と佐藤は息の合った動きを見せる。
「ボールボールボール!」
気合の入ったディフェンス。ベンチで相手の動きを観察していた枡谷と佐藤は、一心や流稀亜以上に相手の癖や最初の動きを読み取り抜群のプレスディフェンスを見せた。
「ここだ!」
鮮やかにボールを奪いシュートを量産する枡谷と佐藤。二人が出てからも秋田の猛攻は続き、控え選手が出ているという感覚すらなかった。
その二人の応援をに声を枯らす一心と流稀亜。
「枡谷さん!ナイスファイト!」
「ノブ!ナイスシュート!」
その動きは第3クオーターが終わり、第4クオーターでも収まることなく、結局試合が終るときには34点差という大差をつけて勝利していた。
秋田県代表 97 対 63 東京都代表
試合が終った瞬間、咲の大きな声が聞こえてきた。枡谷と佐藤の大活躍で誰もが咲が救急車で運ばれていたことを忘れていた。
「キヨ~流石ワシのフィアンセじゃ!」
驚く南禅寺。
「そういえば…サキちゃん…大丈夫だったの!」
一心が口を開く。
「南禅寺さん…お言葉ですが…サキばあが死ぬわけないですよ!」
南禅寺が心配そうな表情で口を開く。
「でも病気を隠して元気にしてるんじゃ…」
一心が口を開く。
「…違いますよ!ぴんぴんしてますよ!見てください!」
サキを見る一心と南禅寺。
「こら!短足!聞こえてるぞ!ワシが餅をのどに詰まらせて救急車に運ばれて死にそうになったのに、なんじゃお前は!」
「…ほらね、南禅寺さん」
一心と南禅寺が顔を合わせると笑い出す。
「はははっは」
秋田県代表はこの試合で一心と流稀亜がチームから抜けてもそれと同等の試合運びをして更なる強さを見せつけた。そして秋田代表は個の強さだけではなくチームとしての力がインターハイの時よりも数段上がっていたことを関係者達に見せつけていた。
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