第7話 「我慢」
タイトル「我慢」
インターハイ終了後、怪我をしていた一心と流稀亜はリハビリに食事。二人は兎に角、治療に真剣に取り組んだ。一心の肉離れは思ったほどではなかったが万全の状態に戻すにはそれなりに時間がかかった。そのため運動は水泳のみ行い体力の維持を図った。
治療面では電気治療、針、マッサージなど…その他、食事ではビタミンを良く取る事で直りが早くなると医者に言われてから果物や野菜を普段よりも多く取り入れたりする努力をしていた。流稀亜は脛骨の疲労骨折だった。やはり激しい運動は行わず、水泳などで体力を落とさないようにした。食事はカルシムを良くとり早く治そうと努力していた。
そして時は経ち外では蝉が最後のあがきを見せるように大合唱していた。空を見上げると入道雲が列をなし、夕暮れ時のせいか風が微妙に冷たかった。一心と流稀亜はその場で体をほぐし間接の感触を確かめた。歩きながらお互いに自分の体を確認するようにすると一心が口を開いた。
「いけそうだね」
「うん」
その後、体育館に行き期待に胸を膨らませて扉を開けると石井の罵声が聞こえた。
「ばがげ!まだ、2週間しかたってねえベしゃ!んがだじ、あと1週間はこっちさくるなでや!」(馬鹿野郎!まだ2週間したたってねえだろう!あと1週間はこっちに来るな!)
監督の石井の檄が飛んできた。
「…でも」
何か言いたそうにする一心。
「んがだじ!(お前達!)完全にだべしゃ!完全に全力で動けるようになるまで鮫よりも早く泳ぐ練習でもしでれでや!」
「…はい」
負けて帰ってきた分際で監督に逆らうことはできない。体育館の扉を肩を落としながら閉める一心と流稀亜。少しの間、二人は何も話さずに静かに温水の市民プールに向かって行った。しかし、国体の日程はインターハイが終わった後の10月上旬。調整などを考えると大会1ヵ月前と考えてもいいくらいだった。一心と流稀亜は焦る思いを募らせていた。
二人は仕方なく自転車で市民体育館の温水プールに向かった。途中、一心が口を開く。
「バスケをしないで、泳ぐのもつらいよね」
「…イケメンも…何がつらいって、ダンクの感触が懐かしい…」
「俺は…ドリブルしたいな…」
「今はこれが俺たちの練習だ…そう思って頑張るしかないね」
「…そうだね」
きしむ床がシューズでこすれると出る(キュキュ)という摩擦音、ダンクするときにリングに当たる手首の感触、開いたコースを縫っていく様にすり抜けて相手を置き去りにするドリブル、シュートが決まった瞬間にネットにスピンしたボールが「シュ」と鳴る瞬間、それらすべてが恋しい二人だった…
それから一週間後…
練習前、体育館の中央に腕を組んで立っている監督の石井に呼び出された一心と流稀亜。突然呼び出されたためにまだ制服には着替えてなく学生服のままで体育館に入る一心と流稀亜。ボールの感覚は忘れまいと二人ともボールを抱えている。
石井が口を開く。
「まんつ、んがだじ…病院の先生からも全力でやっていいと太鼓判を押されたいば」
驚く一心と流稀亜。
「…え?」
待ち望んでいた瞬間だった。喜ぶと手に持っていたボールを宙に浮かせ喜ぶ一心。
「やったー!」
「じゃあ!イケメンダンク行きまーす!」
流稀亜が一心にボールを渡すと制服のままゴール前に走りこむ。
「シン!パス」
「言われなくてもわかってるよ!」
鋭いパスに反応する流稀亜はダイレクトでそのままダンクシュートに持ち込む。
「ドゴーン!」
呆れた顔をする石井。
「おい、んがだじ…」
「なんですか?監督!ナイスパスでした?」
一心が悪気もなくさらったそういう。そして石井はまた口を開く。
「着替えてけでや!」(着替えて来い!)
「はい!」
流稀亜のダンクを見ていた南禅寺や、折茂、関口、佐藤、枡谷が近くに集まって来る。
南禅寺が最初に口を開いた。
「ようやくだな」
「はい!」
元気よく同時に返事をする一心と流稀亜。折茂が口を開く。
「ちっちっち、毎日シンクロの練習やてたらしいやん。お前らデミタスコーヒー買ってこいや!」
すると関口も口を開く。
「おーっち、神木、流稀亜、から揚げも追加だいば!」
そんな折茂と関口を見る一心。
「ちっちっち、何見てるんだよ。デミタスコーヒーはねえぞ!」
「おーっち神木、から揚げもうれきれだいば!」
「いやそうじゃなくて…折茂さんに関口さん…相変わらず不細工で安心しました」
「…」
苦笑いする関口と折茂。小声で囁く流稀亜。
「…シン…イケメン思うに…今のはまずいんじゃない?」
「そう?俺、間違えたこと言ったの?」
何の悪気もなくそう言う一心に無言の流稀亜。
南禅寺が大笑いする。
「はははははは。神木も相変わらずだな!はっはは。よし、練習するぞ!」
「はい!」
折茂と関口が不満そうにしている。一心がそれを見て舌を出すが流石に南禅寺に頭を軽くこずかれる。
「イタ」
「こら、神木やり過ぎだ」
「はい」
「はっははははっは」
南禅寺が号令をかける。
「集合!」
「オス!」
全部員約、100名ほどが一気に体育館に集合して輪になる。
「円陣を組め!」
南禅寺が声をかける。
「オス!」
全員が円陣を組む。
「国体まであと1ヵ月とちょいだ!気合入れていくぞ!」
「オウ!」
「あと少しで取り逃がしたもの!絶対に取り返すぞ!そして名門復活だ!」
「オウ!」
復帰初日から厳しい練習だった。アップが終わると直ぐに速攻練習にプレス練習、そしてまた速攻、その後は練習試合、そして動きは止まることなくシャトルラン。それが終わって、動きながらのシュート練習。やっと終わったと一息ついていると一心、流稀亜だけ石井監督に呼ばれた。
「神木、流稀亜、んがだじまだはしりこみだいば!」
突然、石井がボールをコートの端の方にぶん投げる。
「すたさおとすなや!」(下に落とすなよ!)床にボールを落とすなという意味。
「走れ!」
「はい!」
石井は一心と流稀亜に対して交互にボールを投げた。バスケットボールが2面とれる広い体育館を練習後に走りこむ一心と流稀亜。ボールが床に落ちると石井の罵声が体育館に響き渡る。ルーズボールを追うその個別練習は全速力のシャトルランを何本もこなすよりもキツイ。何本もこなしていると太腿に力が入らなくなってきて息をするのもつらい。
「おどすなや!」(おとすんじゃない!)
「もっと早くはしれるべしゃ!!」
「はい」
「遅いったいば!」
「はい!」
「拾え!」
「はい」
「床につぐな!」(床に落とすな!)
「はい」
何十本連続でコートの端から端まで走ったか分からないが二人とも相当足にきていた。
「はあ、はあ、はあ」
しかし、石井はそれを見ても辞めようとはしない。一心と流稀亜の目も「まだやれる!」そんな目をしていた。しかし徐々に体は限界を迎えていた。
「行けます!」
「ホレ!」
遠くへ飛ぶボール。床につくと石井がまた叫ぶ。
「なした?終わりか?…んがだじ、またベンチに座っさまた負けらったが?」(どうした?お前達、またベンチに座って負けるのか?」
「いいえ!」
「すたら、ボール床におとすすなでや!」(そしたらボールを床に落とすんじゃない!)
「はい!」
繰り返されるルーズボールを追うシゴキ…ついに足が動かなくなりその場で呼吸をするために二人とも立ち止まる。
「情けねえべしゃ!まだ負げるで!」
「いいえ!」
口だけでも抵抗する一心と流稀亜。しかし、走り過ぎて背中の筋肉がつりそうになるほど大きな呼吸を全身を使って繰り返す。
「足が止まってらったいば!、くるしい顔すれば、相手さバレるべしゃ!」
そういうと石井はまたボールをコートの一番遠くに投げる。追いかける一心と流稀亜。絶対に取れないようなルーズボールの練習はその後も続いた。シュート練習している他のチームメイトはそれを見がら緊張感があるシュート練習を行っていた。体育館にはその後も何度も何度も石井の罵声が響き渡った。その苦しさから解放されたのはそれから約30分後だった。しかし、その地獄の様なきつい練習は一心と流稀亜の体力を更に向上させた。そんな練習が1週間ほど続いた頃、練習後に石井が全員を集めた。
「集合!」
「オス」
「あすたがらおめだじは、秋田城北大学に行がったいば!」(明日からお前たちは明日から秋田城北大学に合宿に行け!)
「行け?」
「秋田城北大学?」
「あすたがら数日間、同じく秋田市にいぐがいずいげっかわからねえべしゃ。予定は約1週間。おめらの面倒は飛島 日出人、過去3冠のメンバーの一人でその時代のキャプテンだべしゃ。んでもって、俺の時期後継者だ。すっかりすごいてもらえべしゃ!以上!」
(俺は明日から数日間、同じく秋田市に行くがいついけるかわからない。予定しているのは1週間。お前らの面倒は飛島 武、過去の3冠メンバーの一人でキャプテン。そして時期俺の後継者だ。しっかりシゴキいてもらえ!以上)
飛島 武はもしも石井に何かあったり、今後の帝国の成績が低迷すれば次期監督候補と大学在学中にも関わらず、初代監督、満島 日出人に任命されるほど人望が厚かった。
(満島 日出人 帝国高校初代監督。現在は帝国高校の校長をしているが全国大会50回目をめどに引退し、後任を石井に託した。現在の帝国高校を築いた人物)
「はい!」
「南禅寺!」
「はい!」
「しっかりやってけでや!」
「はい!…監督」
「なした」
「大会前なのに何で一週間もいないんですか?」
「…後で話すべしゃ」
石井のその表情はいつもより自信なさげな顔に見えた。そして石井はそう言い残すと体育館を後にした…
一心と流稀亜はそのことを少し気に止めてながら帰り道を歩いていた。いつものように南禅寺、枡谷、関口、折茂、一心、流稀亜、佐藤が列をなして歩いている。南禅寺の方を見て枡谷が口を開く。
「監督が秋田に行くのは多分、国体の出場枠の話ですよね…国体、単体で行けませんかね?」
「そうだな…俺たちではどうしようもないからな」
南禅寺がそういうと一心が口を開く。一心と流稀亜は少し驚いた顔をしている。枡谷が口を開く。
「他の県は、県内の高校生のベストメンバーで来るのに対して、帝国は毎年単独で出場してますよね」
国体は通常県選抜で行われるが、全国優勝常連だった帝国高校は毎年単独で出場していた。
南禅寺は考えるようにして口を開く。
「今までな。もう、全国優勝から5年も遠ざかっていて監督も色々言われるだろうな」
少しうつむきかげんの南禅寺。折茂が口を開く。
「ちっちっち、別に南禅寺さんの責任じゃないですよ」
関口も続く。
「おーっち、南禅寺さんそうっすよ、俺たちにも責任はありますよ」
「…」
少し暗い顔の南禅寺。それに気が付いた一心は話題を変えようとする。
「南禅寺さん、飛島さんって優しいですよね。俺と流稀亜、ノブは前に伊集院さんに教えてもらっている時に飲み物の差し入れ貰いましたよ」
味気ない返事をする南禅寺。
「そうだな、練習以外ではな」
一心が口を開く。
「え?どういう意味ですか?」
「まあ、行けばわかるよ。「帝国のユニホームを着る者、負けること許さるざるべからず」これを達成したごくわずかな時代のキャプテンで、なおかつ伊集院さんが一年生の時の3年。伊集院さんを上手く使いこなして優勝したんだ。それなりの人だよ」
「はあ…」
南禅寺のその言葉が分かったような分からないような表情の一心は、溜まったうっ憤を晴らすかのように、そのことは気にせずにまた口を開く。
「しかし、あの監督は鬼ですよね!」
手振り身ぶりしながら一心がそういうと流稀亜も続く。
「間違いない!イケメンも思う…そうきっと種族は鬼族だよ!」
大爆笑する一心。しかし、南禅寺や折茂や関口、枡谷、上級生はその話に絡んでこない。
「ははは、鬼族!」
南禅寺が口を開く。
「神木…」
「はい」
南禅寺が空を見上げながらどこか寂し気に口を開く。
「お前らが羨ましいよ」
「はい?」
「お前ら、自分たちがイジメられてると思うのか?」
南禅寺がつぶやく。それに即答する一心。
「はい」
「イケメン、右に同じく」
「監督がチームを怒ることはある。でも個人的に指導したり、個人的に怒られたりするのをお前ら以外に見たことがあるのか?」
「…ないです。何でですか?」
「期待してないからだ」
即答する南禅寺を驚いた表情で見る一心と流稀亜。
「そんなバカな」
一心が信じられないような表情で口を開く。
「あのな神木、あの人は元3冠王、帝国のユニホームを着る者、負けること許されざるべからず…それを達成した黄金の8世代の一人だ。原石のかけらでもないダイアを磨いたりしないんだよ」
一心がキョトンとした顔をしている。
「…原石のダイア?ルビーとか」
流稀亜も口を開く。
「イケメンはサファイアぐらいしか知りません」
少し呆れた顔の南禅寺。
「…まあいいや…」
すると丁度、咲の家の近くを通る。いつものようにタイミングよく玄関を掃除していた咲。そして大きな声を出す。
「こら!半端物!お前らキヨを困らせよって!何してるんだボケ!」
驚く一心と流稀亜。
「…」
「でた…」
一心の声が聞こえたのか先が詰め寄って近づいて来る。
「何が出た?美人か?女優か?それともあやかしか?」
咲が饒舌に口を滑らす。小声で対応する一心。
「いや、全部違います…」
一心が小声でそういうと咲が怒鳴り散らす。
「…お前ら!キャプテン困らせてどうする!」
「そんなんじゃないですよ…」
「キヨの顔見たらわかるんじゃない!」
南禅寺が知らないふりをしている。
「神木、流稀亜、丁度いいお前らたっぷりしごいてもらえ」
南禅寺がそういうと先を急ぐ、南禅寺、折茂、関口、枡谷、佐藤。
「咲ちゃん、頼むね」
「任せてあおきな!キヨ!」
「…え?」
思わず顔を合わせる一心と流稀亜だった。
「助けてください!」
大声を上げるが南禅寺達は背を向けたまま合宿所に向かった。同じく帰り道を急ぐ、南禅寺、折茂、関口、枡谷、佐藤。
「任せておくれ!キヨ!」
「…え?」
思わず顔を合わせる一心と流稀亜だった。
「助けてください!」
大声を上げるが南禅寺達は背を向けたまま合宿所に向かった。
振り替える間もなく咲が一心と流稀亜にヘッドロックしてくる。
「まずは私の豊満な胸に沈みな!」
「助けて!」
「イケメンも嫌だ~」
一心と流稀亜を放す咲。すると今度は手を口の中に入れて入れ歯を取り出す咲。
「…何してるんですか?」
「メリケンサックならぬ入れ歯ナックルじゃ!」
「ひー」
南禅寺に助けを求めようとするが、丁度角を曲がり姿が見えなくなる。
後ずさりする一心と流稀亜。南禅寺が曲がり角を曲がったのを見計らって咲が入れ歯を口に入れ普通になる。
「…え?」
そして突然、床に土下座をして頭を地面につける咲。
「頼む、お前ら二人の力でなんとかキヨの笑顔を取り戻してくれ!」
「…さ…き…さん?」
驚く一心と流稀亜。
「あの子、前はあんな顔しなかった。いっつもニコニコして楽しそうに練習にいっとったわ。それが2年生になり、3年生になるにつれて、バスケをすることが楽しくなさそうな顔になってのう…キャンプテンになってお前らが来るまではのっぺっとした顔ばっかり、しとったわ。でもお前らが来てから良く帰り道に笑う姿を見て安心してたんじゃよ…でもインターハイで負けてから、また前に戻った気がしてのう…そんなあの子の姿見てると私もつらいんじゃ…今度の国体で勝てなかったら…真っ直ぐな性格のあの子だ…どうにかなるんじゃないかって…心配なんじゃ」
「咲さん…」
「私の目が黒いうちに絶対にキヨの笑顔を取り戻してくれよ」
「目が黒い?…え、咲さん病気なの?」
その言葉に反応して急に起き上がる咲。
「なんじゃて?」
「目が黒いって、精神病か何か?」
微笑む一心に対して怒り心頭の咲。
「…あのな…誰が精神病じゃい!私はぴんぴんしとるわ!」
驚いた一心が口を開く。
「ゲ…元に戻ってるし…」
「シン、とにかく逃げよう!」
「うん!」
咲に背を向けて走り出す一心と流稀亜。
「分かってるな!お前らこの私との約束破ったら、殺人ナックルの刑だぜよ!」
「…あの唾液がつまったナックルだけは…」
「イケメンもやばいと思う」
そう冗談を言いながらも一心も流稀亜も南禅寺のことを思うと胸が苦しかった。全国大会優勝の常連校の定めといえ、一人で抱えきれるものではないと思っていた。国体は何とかしなければ…一心と流稀亜はより一層、そう思うようになっていた。
タイトル「敗者の言い訳」
翌日、秋田駅近くにある秋田城北大学まではバスで向かった。バスの中で一心は流稀亜と隣だった。ふと流稀亜を見るとツイッターでつぶやいていた。
「何してるの?」
「いやファンの子が何も呟かないと病気してるんじゃないかって心配するから」
「…そ、そうなんだ実はおれも俺も始めたんだ…まだフォローしてるの50人とかだけど一人だけ女子もいるよ!」
「誰?」
「秋田美人って書いてある」
一心の後ろに座る折茂と関口が絡んでくる。
「ちっちっち、自分で美人っていう奴なんてろくな女じゃねえな!はあっはは」
「おーっち神木、短足の分際でツイッター初めても彼女出来るわけないだろ」
「だから、俺彼女いますよ!」
「ちっちっち、妄想だろ~」
「おーっち、仮想現実、はははっは」
からかう折茂と関口を無視する一心。
「…ルッキーってフォロワー何人ぐらいいるの?」
「約10万人ぐらいかな?」
さらっとそう言う流稀亜に驚く一心。
「え?芸能人並みじゃん」
「そう?」
「うん」
「で、今日はなんて呟いたの?」
「秋田名物の金満は美味しいって」
「合宿のことは?」
「駄目だよ、そんなこと言ったら人が集まってきちゃうよ」
一心が馬鹿にしたように笑う。
「まさか~」
流稀亜の言うことも聞かずにつぶやく一心。
「…もう知らないよ」
「ダイジョブ、まさかそんなに来るわけないよ」
「僕のフォロワーは自分達で自分のことモンスターって呼んでるからね…」
「うん、うん」
「だいたい、シン嘘か本当か分からないけど彼女いるんでしょ?」
「ああ…うん」
「上手く行ってないの?」
「いや、そんなことないけど…別にツイッターは彼女が欲しくて始めたわけではないよ。小さい子供とか、バスケやり始めた人が声援くれるのってうれしいよね。たいしたこと俺は出来ないけどさ、そういう人の力に少しでもなるならと思ってさ」
「なるほどね」
「ルッキーもいるんじゃなかった?彼女」
「うん、僕は中学の時からだね。あんまり会えてないけど」
「そうなの?」
「忙しくて、試合も見に来れないからね…」
「そうなんだ、なんかあんなにファンがいるのに一途だなんて意外だよね」
「そう?だって僕はバスケがしたいだけでそれを望んでいるわけではないからね。まあじゃけにもできないから愛想はつくけど…大変だよ」
「…そうでございますか…」
その頃、愛梨は東京某所ではファッション雑誌、「MILK」の表紙の撮影をしていた。カメラマンに向かってポーズを決める愛梨。168cmの均整の取れた体つきと堀の深い妖精の様な顔。若干16歳にしてハーフのせいかその大人びた表情にその場にいる大人が釘付けになるようにして撮影を見ていた。そして、撮影の周りにいる取り巻きが機嫌取りのため声をあげていた。
「いいよ!」
「最高!」
「可愛い!」
「輝いてる!」
「綺麗!」
そんな声にも少しうんざりした顔を見せる愛梨。軽くそんな言葉を言う大人は信用できない。そんな大人の目から避けるようにして休憩時間になると用意された部屋に閉じこもる愛梨。
「ふー」
そして、バッグから携帯電話を取り出して確認する愛梨。画面に写っている一心のつぶやき。
「わが帝国高校は今日から一週間、秋田城北大学にて合宿を行います!」
「…誘ってるの?」胸に手を当てる愛梨。
「マネージャー!ちょっといい?今度の生放送なんだけど…」
愛梨は丁度、翌日「トップランキング」という歌の番組で地元、秋田から生放送
することになっていた。
マネージャーが口を開く。
「自転車?」
「ぜっ~たいに!用意しておいてよね!」
「何で?」
「いや別に」
「自転車ぐらい用意するのにいちいち理由を言う必要ないよね」
「…まあ、そのぐらいなら確かに…そうだな」
それを聞いた愛梨は満面の笑みを浮かべて再開された撮影に向かった。
帝国高校の選手が秋田城北大学の校門に着く頃には一心の予想してない事態が起きていた…
「何だこれ…」
大勢の流稀亜のファンが城北大学の正門を囲んでいた。そんなファンに慣れた手つきで向かって手を振る流稀亜。女性たちの目線が一斉に流稀亜の方に向かっていた。
「流稀亜!」
「怪我はダイジョブなの!」
「抱きしめて!」
「キスして!」
「本物だわ!」
あまりの熱狂的なファンに改めて驚く一心。
「前より増えてない?ルッキー」
「そうだね…インターハイ負けたんだけどね」
「俺、軽率でした…」
真摯に反省する一心。
「はっはは、気にしなくていいよ」
通路側の席に座っていたはずの流稀亜は体を前に出すようにして手を振る。するとバスの外では流稀亜に夢中な女子が辛辣な言葉を言い始めた。
「短足!邪魔よ!」
「不細工!近寄らないで!」
一心に対してビュンビュンと飛んでくる心ないヤジ。
「…あれって…」
それを面白がって関口が口を開く。
「おーっち神木、邪魔だってよ」
折茂も続く。
「ちっちっち、短足だってよ」
「はははっはは」
そんな笑いが漏れるバスの中だったが、南禅寺の表情は崩れることなく真剣な表情をしていた。南禅寺が突然会話に入って来る。
「ツイートは、たまにグサっと刺さるようなコメントも来るけどな…」
一心が口を開く。
「まさか、あの帝国のバスケは時代遅れだっていう奴気にしてるんですか?」
「…まあ、もうこの話はやめよう」
そういうといつもは最後にバスを降りる南禅寺が逃げるようにして一番最初にバスを降りた。明らかに南禅寺はインターハイでの負けを気にしていた。
秋田城北大学に着くと挨拶をするために飛島の元に向かった。秋田城北大学は飛島がチームに入るまでは3部のチームだったが徐々に力を付け、3部リーグ優勝。2部リーグ優勝を果たして、今年から1部リーグに昇格していた。飛島に挨拶に行こうとする南禅寺の表情が硬い。緊張しているようだった。しかし以前、体育館で差し入れを貰った時の印象が優しかったので南禅寺が、飛島に挨拶する時にガチガチに緊張している理由が一心にはいまいちわからなかった。
「と…飛島さん…」
南禅寺がぎこちなく挨拶すると反応する飛島。しかし、以前感じたような優しさは感じられない。
「…おう」
「よろしくお願いします!」
「ああ」
一心と流稀亜が驚いた表情をしている。
「え?…」
物凄い鬼のような形相で一心達を睨み付ける飛島。
「…」
それにびびる一心と流稀亜。振り返ると練習に戻る飛島。そしてほっとしたような顔で一心が口を開く。
「あれ?」
「あんな感じだったっけ?」
「いいや」
流稀亜がそういったと、少し離れた場所から飛島の大きな声が聞こえてくる。
「30分後に試合開始だ!」
「はい!」
「…」
体育館にただならぬ緊張感が走った。これから始まろうとしている練習試合が簡単なものではないのはその雰囲気で伝わって来た。
「そーい!」
「おーい!」
開け声を出しながらウオーミングアップする中、一心が流稀亜に声をかける。
「ルッキー、あとでハーフコートの5体5になたっらさ…」
流稀亜に耳打ちする一心。
「分かった。45度の位置からゴール正面に行けばいいんだね」
「ケースバイケースだけど、動きに合わせるから90度でもいいし、兎に角、その場にいる場所から動いて、僕より後ろ以外ならどこでもいいから」
「うん、いまいちわからないけど分かった」
そしてその後、少しするとプレーの確認のためハーフコートの5対5が始まった。何度かオフェンス、ディフェンスのセットプレーや、ディフェンスの形態を確認をすると南禅寺が声をかける。
「試合形式で真剣に3本ぐらいやろうか?」
「はい」
そして、2本目が終わったときに一心が動く。左、45度付近、枡谷のしつこいディフェンスを何とか交わすと一心はゴール下に切り込む。流稀亜には常に二人のキツイマークが常についている。そのマークは外れそうにない。一心はフリースローレーンの約70cm前後に近寄ると、行き先を完全にふさがれていることに気が付く。
「ルッキー今だ!」
一心がそう叫び高速回転をかけたパスを出すと、まったく動くそぶりをしていなかった流稀亜が瞬発力を生かして瞬間的に動きゴール正面に移動する。一心が出した高速回転しているボールは床に弾むとゴルフボールのバックスピンのような動きをして90度の方向に変化しパスコースが変わる。
「…シン!」
ノーマークの流稀亜が叫ぶ。
「大丈夫!そのまま!」
高速回転したボールが流稀亜の方に飛んでいく。
「何!」
それを見ていた全員が驚く。高速回転したボールがバウンドしてパスの行く先が変わる。そんなパスを誰も見たことがなかった。そしてそのボールは流稀亜の胸に寸分の狂いもなく正確に渡る。
「ナイスパス!シン!」
「任せた、流稀亜。新しいパス。スナップパス!」
絵にかいたような綺麗な3ポイントシュートがネットを揺らす。それを見ていた南禅寺や飛島も驚く。
「何だ、今の?」
南禅寺がそういうと口を開き説明を始める一心。
「スナップパスです。水泳やっているときターンするじゃないですか?」
「ああ」
「なんかあの時、俺は何故よく鼻に水が入るんですよ。でもその後、オリジナルでターンするようになってから鼻に水が入らなくなって、バスケでも何かできないかなって思って…」
「それで?」
「はい、思いつきでやってたんですけど結構うまくいったんでへへへ」
「…」
南禅寺は改めて一心のバスケの才能に驚き開いていた。
「神木」
「はい」
「試合、勝つぞ!」
「勿論です」
練習試合の準備が整い、伝言掲示板の標識のタイマーが開始まで5秒を切っていた。そしてその後、ブザーが鳴り響いた。公式試合じゃないが、ユニフォームを着て試合には臨んでいた。簡単な練習試合では通常ではないことだが、飛島からの指示があってそうするようにしていた。
「ブー」
元、3冠達成のキャプテン飛島率いる秋田城北大学との試合が始まろうとしていた…
秋田城北大学スターティングメンバー
飛島 武 200cm(パワーフォワード)
牧田 順平 183cm(ポイントガード)
里崎 雄二 201cm(センター)
新井 伸也 190cm(シューティングフォワード)
井原 尽 192cm(センターフォワード)
帝国高校スターティングメンバー
南禅寺 清隆 186cm (シューティングフォワード)
神木 一心 176cm (ポイントガード)
暁 流稀亜 194cm (シューティングフォワード)
関口 悟 205cm (センター)
折茂 和也 194cm (シューティングフォワード)
試合は飛島の提案で10分ゲームで勝敗が付くようにして何本か行われることになった。秋田城北大学は飛島を中心にチームワークがいいチームだった。プレイスタイルも走るバスケを中心に行っていた。強いリーダーシップでチームを引っ張る飛島が流稀亜のディフェンスを強引に突破してくる。
「うおおお!」
強烈なダンクシュートを叩き込む飛島。
「…三浦さんよりパワーあるな…」
流稀亜が小声でそうつぶやくと飛島が叫ぶ。
「三浦?そいつがやったのはインターハイ優勝だけだろ!俺たちはそれを何度もやってるんだ!3冠をナメんなよ!」
「…」
そういうと、反撃に出た流稀亜のシュートを簡単にブロックする飛島。思った以上に強い秋田城北大学に対して5分を過ぎるころには8点差で負けていた。とても大学1部リーグに上がりたてのチームには思えなかった。
秋田城北大学 19 対 9 帝国高校
タイムアウトを取りベンチに戻ろうとする帝国高校の選手に飛島の激が飛んで来る。
「おい!お前ら!負けてのこのこ帰るつもりか!」
「…いいえ」
弱気な返事をする帝国のメンバー。それを見て飛島が畳みかけるように口を開く。
「そうだよな!ちっとも歯ごたえがないぞ!やっぱり全国準優勝のチームは弱いな!」
「…」
いい返してやりたい気持ちを抑え、一心はプレーに集中した。
試合再開後は、秋田城北大学の動きにも慣れ始めて、折茂や、関口、南禅寺のシュートも次々と決まる。そんな中で流稀亜は完全に飛島に抑え込まれていた。バスケでは負けん気の強い流稀亜はそれでも一心に何度もボールコールする。
「シン!」
「ルッキー!」
一心が流稀亜にパスを出すと強引に飛島を抜き去ろうとするがしっかりコースを読み行く先を塞ぐ。無理な体制からシュートに持ち込み結果シュートが外れてしまう。飛島はオフェンスでは大阪常翔学園の三浦よりも強く、ディフェンスでは本別国際高校の赤井よりも粘りがある選手だった。その壁を乗り越えることは容易ではなかった。
その後、一心はボールを持つと速攻に持ち込むため急いでボールを運ぶ。目の前に走る流稀亜にボールを出そうとするが流稀亜にはしっかり飛島のマークがついている。
「ルッキー!あれで行くよ!」
一心はそういいうと前線にワンバンドする鋭いパスを出す。ゴール前に走りこんでいた流稀亜は方向転換をして3ポイントラインに戻る。一瞬ノーマークになる流稀亜。
一心の放ったスナップパスは流稀亜の胸元に正確にリバースしようとしていたその時、飛島の指先がボールに触れる。
「え?」
こぼれたボールをそのまま奪い去るとそのまま速攻に持ち込んでダンクを決める飛島。残り2分で4点差に追いついて、プレスディフェンスをかけて何とかしようと考えていた一心の考えが爆風の様に吹き飛んだ。そして更に飛島は手を緩めない。
「2-2-1ゾーンプレス!」
「オウ!」
残り2分45秒
秋田26 対 18
8点差…時間的には問題ないが何故か逆転できるようなきがしなかった。焦る一心。
「クソ!」
その後、一心にパスが来るのを読んでいたかのように秋田城北大学のガードの牧田が鮮やかにカットするとまたも飛島が流稀亜のディフェンスを吹き飛ばしシュートを決める。
「ルッキー!」
「…ごめん」
南禅寺が口を開く。
「気にするな!まだいける!」
そしてその南禅寺が気迫のジャンプシュートを決める。一心は飛島が罠を張っていると考えつつも、傾いた流れを戻す事が出来ずにいたため、一か八かでゾーンプレスを仕掛けた。
「オールコート2-2-1」
「オウ!」
しかし、飛島はそれを待っていたように次々と簡単に交わし、逆にゾーンプレスを仕掛けてゴールを量産する。
「帝国高校出身の俺に、ゾーンプレスは通用しない!」
「…」
何度も抜かれる帝国高校のゾーンプレス。一番の武器が全く通用しない。それがオフェンス、ディフェンス、全てにおいてダメージを与えていた。
「…駄目だ」
秋田城北大学 35 対 21 帝国高校
結局14点差で一ゲームを終えた。縮めようとしていた得点差が逆に開いてしまった。まるで一心達、帝国高校スターティングメンバーの動きは研究でもされたかのような感覚がある試合運びだった。その証拠に弱点を上手くつかれていた。お互いがベンチに戻る前に南禅寺が飛島に声を掛けられる。
「一本一本が勝負の10分ゲームといえども、また負けたんだな」
飛島にすこし笑いながら答える南禅寺。
「いや~飛島さん強いです。一部でも上位に食い込めそうですよね…それに比べたら…」
南禅寺がその次の言葉を口にしようとした瞬間体育館に響き渡る飛島の大きな声。
「ふ・ざ・け・る・な!」
まるで恐竜が雄たけびを上げたようなその声に驚く帝国高校のスタメン。
「…」
「…はい」
力なく答える南禅寺。一心と流稀亜は優しい飛島しか知らず一緒に驚いた顔をしている。
「ハイじゃねえよ!お前なんかキャプテンやめちまえ!…全くお前らはやっぱり負け組はダメなんだな。根性が腐ってやがる!」
飛島が帝国の選手全員を睨み付ける。
「…」
「…帝国のユニホームを着る者、負けること許さるざるべからず…お前らその意味が分かってるのか!」
南禅寺のユニフォームを引っ張る飛島。
「…」
一心が見てられず割って入って来る。
「…ちょと…ちょっと待ってください!飛島さん!」
すると南禅寺が声を上げる。
「やめろ神木!」
しかし一心は止まらない。
「3冠王が何だっていうんですか!」
飛島がその言葉に反応して激怒する。
「神木、貴様!3冠王が偉そうにってそう言いたいのか!」
「いや、そんな…」
「じゃあなんだ!貴様!帝国のバスケをナメんじゃねえぞ!白か黒か?そういう世界なんだよ!」
「…」
飛島がさらに勢いを増して怒鳴り散らす。
「大体、お前!試合やる前に自分のあみ出したパスを敵に見せる馬鹿がどこにいる!この大馬鹿野郎!次の大会はどこが一番マークされる!」
「え!」
「お前らバカ二人の怪我が治ったら、次は帝国が優勝候補だと誰もが思ってるんだろ!馬鹿野郎!お前ら自分の立場分かってるのか!準優勝したぐらいでのんきにヘラヘラしてんじゃねえぞ!優勝以外は全部一回戦負けと同じだ!」
「…」
何も言い返す事が出来ない帝国の選手一同。
「…まだできます!もう一度、もう一度お願いします!」
一心がそういうと飛島が口を開く。
「何がもう一度お願いしますだ!インターハイが戻ってくると思ってるのか!馬鹿野郎!」
「…」
一心が大見えを切って開き直る。
「お願いします。次こそ勝ちますんで…」
「ふ、負け犬が勝ってから言え!」
何も言い返すことのできない一心だが飛島をじっと見ていた。その気迫を感じ取った。
「よし、ようやく本気を出すんだな。また、気の抜けたプレーをしてみろ!お前らの合宿はその時点で終了だ!いいか!」
「はい!」
飛島の激によって目を覚ました帝国高校はその後、何度も秋田城北大学に挑んだ。しかし、2点差、3点差、1点差と僅差の所までは行くが勝利を収めることはできなかった。そして翌日、翌々日とやっぱりあと少しの所で勝つ事が出来なかった。合宿もすでに5日が経過して残すところあと2日になっていた。そして練習試合の後で飛島が帝国高校を集められていた。
「南禅寺、お前らに一番、足りないのは何だと思う?」
「…」
「なんでもいい、お前の思ったことを言ってみろ!」
「はい、先を読む力ですか?」
南禅寺がそういうと飛島が口を開く。
「違う」
折茂が答える。
「技術」
「違う」
関口が口を開く。
「…精神力」
首を横に振る飛島。流稀亜が口を開く。
「…気合」
首を横に振る飛島。
「他は!」
一心が口を開く。
「粘りですか?」
「全部違う。…お前らに足りないのはな意地だよ。帝国高校の掟は何だ?」
スタメンが一同、声を上げる。
「帝国のユニホームを着る者、負けること許さるざるべからず…お前らには相手を殺してでも勝とうとする気迫や意地がたりねえし、感じねえ所詮高校生の試合なんか技術よりも精神面が大きく左右すると俺は思っている。だから諦めたら終わりだ。南禅寺、お前、神木と暁が怪我した後の決勝戦の前、どこか気持ちが諦めていただろ、それじゃあ駄目だ。俺の代はな、最後のウインターっカップ、決勝戦で俺が2クオーターで退場したんだ。それでもぶっちぎりで優勝した。一度は流れが変わったけどその大きな波をいとも簡単にあの男、伊集院 誠が跳ね返したんだよ。神木、暁、お前ら9冠取る予定だっただよな。今のお前らじゃまず無理だ」
「…」
「最終日、俺たちも手を抜かない!お前らも俺たちを殺すつもりでかかって来い!」
「…はい」
「以上だ」
飛島が背を向けて体育館を後にした。なぜか大きく見えるその大きな背中。明日こそはあの背中を追い越そう…一心はそう思いながら立ち去る飛島を見ていた。
同じころ秋田県の庁舎の中にある会議室では白熱した話し合いがされていた。室内には、秋田県内の高校生の指導者が連日、30人ほど集まっていた。そしてそこにいるそれぞれが帝国高校の国体における単独出場を良く思っていなかった。(通常、国体は団体競技の場合は県の選抜チームで参加する。しかし、全国優勝常連の秋田の帝国高校はそれまで、27年以上ずっとチーム単独で出場していた)帝国高校監督の石井を中心にして輪になるようにして話し合いが行われていた。そして、石井に対する攻撃が言葉によって行われていた。
「何日間も話し合っても答えは同じででしょ」
「…」
「…もう待てませんよ」
「そうですよ。何日間話しても同じですよ。今迄は圧倒的な強さで全国優勝を果たしてきましたが…」
「…」
「今年はあと一歩だった…もう何回目ですか?」
石井がぽつりとつぶやく。
「…そったらのいちいちおぼえてねえべしゃ」
「強い者が勝つ…でしょ」
「次は何回戦まで進めるのか?」
「国体は県の選抜チームで行きましょう」
「そうですよ、あくまでも県内の強化と優勝が目的ですから!」
良でを組んで黙っていた石井がその腕を外し立ち上がる。
「だったら、尚更うちの単独でいがせでくれべが?」
「何日間も言ってるでしょ!今年の準優勝すら、タマタマだったんでしょ。次の国体で一回戦負けだってあり得るんじゃないですか!」
その声に反応する石井。机を叩く。
「ごちゃごちゃと…だったら、国体の優勝が取れなかったらおらがよ!監督ば引退するべしゃ!」
「…?」
石井の剣幕にその場の誰もが口を開こうとしなかった。
「優勝できなかったら俺は指導者引退するべしゃ!」
石井のその大きな声は廊下にも響き渡った…外は夕日が水平線に沈み満月が顔を出していた。
一心は宿舎に戻ると食事もとらずに部屋に戻り布団に横になった。流石に5日目となると疲労もピークになっていて腹すらすいてなかった。しかし一心は横になりながらも負けた原因を繰り返し考え、明日の試合をどうやって勝とうか考えていた。
「あそこでプレス…いや駄目だ…」
「ここでは速攻から外に外して…」
「ゾーンプレスが通じない…新しいバスケをすべきなのかな…新しバスケのスタイル…」
そうやってぶつぶつと呟いて、少しすると眠気には勝てず、いつのまにか寝てしまっていた。そして少ししてから自分自身の脚がつって目が覚めた。
「またか…」
寝ながら足がつる現象は激しい練習の後でよくあることで慣れてしまっていた。足を少しほぐした後で起き上がって、食堂に向かおうとすると携帯電話のバイブ音が何度もなりラインが入っていることを知らせていた。
「何だろう?」
立ち止まり、携帯電話を見る一心。愛梨からだった。
「あ…」
立て続けに未読になっていたラインのメッセージに目を通す一心。愛梨が嫌いになったわけではなかったが、インターハイで負けて以来一心なりに思うところがあって連絡を折り返していなかった。以下、愛梨からのライン。
「いっちゃん…元気なの?」
「どうして返事をくれないの?」
「おはよう…何回目だろう?」
「何故、私のメールに反応しない!」
「いっちゃんは人の心を弄ぶのか!」
「こんばんわ…何度目?」
「今日はロケで五島列島っていう島に来てるの!綺麗な海でしょ!」
透き通った綺麗な海の写真が添付されている。
「おやすみなさい…」
「…ねえ!」
「アンテナ壊れてない?」
「今日は雨だね…」
「ごめん、久しぶりだよね。撮影で海外に行ってた…今何してるの?」
「って!いつまで無視するのよ!」
「ちょっと!今どこにいるの!」
「おおーーい!」
「今ねマクドナルドにいるの…何食べようかな…やっぱりラーメンが食べたいからカフェオレだけにしておく…」
「ねえ、今日は月がきれいだよ…月って不思議だよね…毎日大きさが変わるんだよね。何故、毎日大きさが変わるか知ってる?…あったときに教えるね。ちなみに今夜は満月みたい。満月の夜って昔から満月の日には人を狂わせる力があるって言われてるんだって…知ってた?いっちゃん、秋田城北大学で合宿してるんでしょ」
9月18日 19時13分
「いっちゃん、私ね、来ちゃった…ツーアウト満塁にいる」
そして「ツーアウト満塁」店の写真が添付されていた。
「それとね、呪いの動画を送ったから見なさいよ!」
「…呪いの動画?」
送られてきた画像を確認するい一心。映し出された動画には愛梨が出演しているクイズ番組で着ている魔法少女「Nia ニア」の衣装を着て立っていた。
「…ん?」
黒いマントに独特のゴスロリっぽい服に膝上のひらひらしたスカート、そして長い脚にまとった網タイツに海老ぞりしたような黒い靴。後ろを向いていた愛梨が突然、振り返る。クイズ番組で「Nia」をするように役にやりきっていた。スマートホンの画面で自分を映し出し、それを見ながら口を開く愛梨。
「可愛らしい…こんなに可愛らしい少女の心を持て遊ぶ外道な人間…神木 一心…そんなお前には上級魔法士官のこの「Nia」さまが鉄槌をくだす!「我が守護神、天空の神ホルスよこの者に神の懺悔を与えることを許したまえ!プルルン、プルルン、ピカ!ピカ!ピリリ!」
動画が雷の画像に代わる。
「ドゴーン!」
雷が落ちる。驚く一心。
「こら、神木!バスケにばっかり体張ってないで…好きな子のためにたまには体をはりなさい!」
「…」
「今から10分以内に来なかったら私…死んでやるから!」
その動画を見て驚く一心だが愛梨の姿がかわいらしく思えて、記念にと思い早速ダウンロードして携帯電話に保存した。
「え?」
時計を確認すると19時20分になっていた。一心は携帯電話をしまうと急いで宿舎を出て走った。宿舎の玄関先で関口に声を掛けられる一心。
「おーっち神木、飯は食わねえのか?食わねえなら俺が食うぞ!」
「関口さん!食べていいですよ!」
一心は冗談も言えるような顔ではなく、何かに追い詰められたような表情をしていた。
「おーっち、んがだば、どこさいがった?これから、愛梨の生放送があるっていうのに…馬鹿な奴だなあいつは…」
関口は口にから揚げ棒をほおばると手にはメガホンを持ちながら食堂のテレビの電源をつけた。
「歌のトップランキング!」
歌番組の画面がテレビには映し出されていた。
関口が狂ったように叫ぶ。
「愛梨~りりり~」
宿舎から「ツーアウト満塁」までの距離はスマホで確認すると1,4キロほどだった。一心は靴紐をきつく結ぶと一度地図を確認して全速力で走った。店が見えると満月の月明かりが愛梨を照らす。すらっと伸びた手足と長い髪を見て一目で愛梨だと気が付いた。
「はあはあ、ごめん、突然だったから…遅くなった?」
息をつく一心を見れば急いできたのはわかる。しかしそれを見ても満月に照らされたビーナスは微笑まなかった。
「本当なら死んでるわよ!11分遅刻ね!」
スマーとホンをかざして時間を見せる愛梨。
「全速力で走ったんだけど…」
そっぽを向く愛梨。
「愛梨…俺、愛梨の歌いいと思う」
「え?」
「いい歌だなって思うよ…」
一瞬嬉しそうな表情の愛梨。しかし、言葉はトゲがあった。
「…時間、あんまりないんだから!」
「…うん」
店内は元々定休日だったのを、愛梨が店主に頼み込んで貸し切りにしたため他には誰もいなかった。
「おじちゃん、私は醤油チャーシューメンのメンマ足して!あと卵もお願いします!…この犯罪者にも同じの!」
「はいよ!」
「…犯罪者って」
愛梨が水を取りに行った後で一心の席に勢いよくコップを置く。
「バン!」
コップの水が少しこぼれ一心の手に着く。
「あ…」
一心の濡れた手の上に自分の手を重ねる愛梨。
「ねえ、もしかして好きな人でもできたの?」
見つめあう二人。
「…え、そんなのいないよ」
「いない…じゃあさ…いっちゃんの心の中に私はいるの?」
「え、心の中って…ごめん、でも考えてたよ…」
「なんて?」
愛梨の目線をそらす一心。
「私のことが好きだから、私のことを考えていたの?」
「…え、そのつまり…その…かな」
「じゃあ、何で私のラインに折り返さないの?」
「それは…その」
「それは?」
「全国大会で負けてからさ…」
気まずそうな一心。
「負けてから何?」
「あらゆる犠牲を払っても目標を達成したいんだ。俺にとっての今、一番の犠牲は愛梨とのやり取りや、愛梨と会うことで…それをするのを我慢して沢山練習して、それでもって…そして…その…そして」
「そして?」
「そ、そして、優勝できたら…」
「優勝で来たら?私に会いに来るの?」
「…」
「ははは、要するに、私はいっちゃんの願望の生贄なの?いつの時代の話?」
「…」
「いっちゃん馬鹿なの?私のことは好きなんでしょ?」
「それなりには…」
「…それなりには?」
「す…い」
心臓の鼓動が早くなって一心は愛情表現の言葉が上手く口に出せない。
「す?…すいか?」
ラーメンを作る店主を気にする一心。
「店の中だよ…」
愛梨は口を開き両手を広げる。
「別に気にしないけど、貸し切りにしたんだから、どうせ誰もいないじゃない!アイドルの力なめないでよね!」
「お店の人が…」
「なんなら私が大きい声を出そうか?」
「…好きだよ!」
一心に重ねていた手を放す愛梨。
「ふぉーん…ラインを無視するのはバスケで優勝するためか…やっぱり犯罪者みたいだね」
「ごめん」
「謝ったって、許さないんだから!恋愛隠しは犯罪だからね!」
「犯罪?…えっと」
出来上がったラーメンが美味しそうな匂いを漂わせている。
「へい、おまち!」
二人の間においしそうな湯気を立て醤油ラーメンが置かれた。
「わーおいしそう!食べようか!」
「え、うん」
店主がいいタイミングでラーメンを出してくれたと感謝する、一心だった。愛梨はさっきまでの不機嫌な顔をしていたが、ラーメンを食べ始めると機嫌が直っていた。
「やっぱりおいしいね」
「そうだね」
「…私と食べると美味しい?」
「…うん」
「なんか、無理やり言わされてるみたい」
「…そんな、そんなことないよ…愛梨」
「何?」
「また…綺麗になったね」
人に見られる仕事のせいだろうか、数か月前に会った愛梨より、数段美しくなっていた。
「本当に?イッちゃんにそういう言われるのが一番うれしい」
「…そう?」
「…でも私は願いがかなうなら、いっちゃんを私の心の中に連れていきたい…」
「え?」
満面の笑みの愛梨。その後二人はラーメンを食べ終えると店を出た。店を出ると愛梨が自転車の前で立ちながらニコニコしている。
「自転車乗って来たんだ~ふふう~送って行って!」
「え?売れっ子なのに、車とかタクシーじゃないの?」
「…そういうの嫌い。だっていっちゃんの背中の方がいい!」
「今日、これから千秋公園なんとかでライブするだ」
「そうなの?」
「あと、20分後に生放送だよ!いっちゃんも見ていけば?」
「え、うん」
「よし!元気全開!」
自転車にまたがった愛梨は一心の背中に頬をうずめた。しばらくそうやって走ると目を閉じて気持ちよさそうに風を感じる愛梨。
「ねえ、満月って大きくなったり小さくなったりなんで見る日によって変わると思う?」
「そうだな、重力?」
「ブー」
「なんだろう、太陽の位置とのバランス?」
「ブー」
「正解は何?」
「何だろうね…話そうと思っていたけど、どうでもいいや…」
愛梨はそういうと、さらに強く一心を抱きしめて目を閉じる。いつの間にか、二人は暗く路地を自転車で走っていた。裏道に入り込んだようで歩いている人影もない。
「ギュッとすると気持ちい…」
愛梨の胸のふくらみが一心の背中を押しつぶす。心臓の鼓動が早くなる一心。
「ドキドキしてる…」
「え?…」
「いっちゃんの心臓の音が聞こえる…溶けていくみたい…」
「…愛梨」
満月の月明かりに照らされる二人、二人は少しの間、そうやって細い路地を自転車で走った。数分後、目の前に照明の灯りが広がり公園に近づいていた事を知らせていた。
「ねえ、いっちゃん秋田城北大学の合宿はどう?」
「まだ、一度も勝ててない…」
「そうか、国体は勝てそうなの?」
「そのつもりだけど、今のままじゃあ…」
「もうすぐだよね。今度こそ勝ってさ行方不明のお父さんに見てもらえるといいね」
「…うん」
「背番号5番を次の大会からつけちゃえば?」
「それは無理だよ。年功序列だから…」
「そっか、でもわからないよ。何が起きるか!」
「何がって?」
「試合も、いっちゃんのお父さんのことも…私は強運の持ち主ってうちの社長には言われてるんだ~」
「強運か、確かにすごいよね」
二人の前に忙しそうに行き交う大人たちの姿が見えてきた。目の前には千秋公園が近くなってきていた。20メートルほど手前の歩道で愛梨が自転車を降りた。
「ここでいい!」
「え、いいの?」
「流石に見られたら何を言われるか…私が行った後で、見て帰ってね?」
「分かった」
「…いっちゃん、私のこと捨てたわけじゃないってわかって…良かった。私また大切な人に捨てられたかと思っただからね…稚拙な行動は慎んでね。何かを失わないと取れない物…理解できなくないけど…」
「…愛梨」
「私がいっちゃんを好きな事…それは私が決めることだからね!…自分の願望を実現させるのために私を生贄にするなんて酷いよ…」
「悪かった…ごめん」
「次、私のこと無視したら、殺すからね!」
そういうと一心の頬にキスする愛梨。
「え…」
「私の幸運…分けてあげる」
手を振って走っていく愛梨。それを見つめる一心の体温は急激に上昇して行った。
「私、本気だからね!」
「え?」
(何が?好きってことが殺すってことが?やっぱ女は謎だ…)
愛梨はその後、5分ほどして着替えを済ませると出てきて歌を歌った。テレビの司会者が大きな声で叫ぶ水星の如く現れた愛梨のファーストシングル!「満月」
ねぇ~
今夜(こんや~わた~し)私~
満月の~せいかしーら
「めげナイ!」「負けナイ!」「諦めナイ!」
消したい「記憶」「感情」「妄想」「幻想」「恋愛感情」
~貴方の~優しさは鋭い刃
私の奥の奥の深い場所で…警告音が鳴り響く~
乱反射する孤独の中で、自分の嫌気がループする!
届かない~届かない~星屑のチェスト
che che che Checkmaet~(チェチェチェックメイト~)
ねえ~守護神(ヤーヌス)教えてよ!
可愛いくないと駄目なんですか?
料理が出来ないと駄目なんですか?
勉強が出来ないと駄目なんですか?
女の子らしくないと駄目なんですか?
スタイルがよくないと駄目なんですか?
それとも私の課金が足りないんですか!
チックータックー…チックータックー…
えー?この世界がバグってるんですか?
それとも私が狂ってるんですか?
Don touch me?
バズった バブった バブバブ~バブ~ン
バグった ババった バブバブ~バブ~ン
狂って、踊って、ラリって~現実逃避、回り始めるルーレット
切ない愛が呼吸する 過去も、未来も現実も…
「めげナイ!」「負けナイ!」「諦めナイ!」
消したい「記憶」「感情」「妄想」「幻想」「恋愛感情」
~貴方の~優しさは鋭い刃
私の奥の奥の深い場所で…警告音が鳴り響く~
乱反射する孤独の中で、自分の嫌気がループする!
届かない~届かない~星屑のチェスト
che che che Checkmaet~(チェチェチェックメイト~)
そんな愛梨を見て一心もさらにやる気が出てきた。歌が終わりアイコンタクトを交わすと手を振る愛梨を背に帰っていた。
「いっちゃん、照れて言えなかったけど好きな人に褒めてもらえるのって嬉しいね。それだけでなんかこう…あったかい気持ちになってね、強くなれる気がする。応援行くからね!」
愛梨は立ち去る一心の背中が見えなくなるまでテレビカメラに向かって手を振っていた…
宿舎に戻ると関口だけ食堂のテレビを見ていた。廊下でばったり南禅寺と会う一心。「神木、何度か携帯鳴らしたけどどうした?」
一心は南禅寺の方を見ないようにして口を開く。
「すみません、母が来ていて」
何かを悟ったような様子の南禅寺。
「…お母さんが?まあ、いいそういうことにしておこう」
「え?」
南禅寺がそういった後で立ち去ると、今度は関口は愛梨の似顔絵が描いてあるタオルを首に巻き付けメガホンを片手に一心に近寄って来た。
「おーっち神木…ん?お前ラーメン食ったな?」
「何でわかるんですか?」(流石、食いしん坊…マジかよ)
「ちょっと待てよ…この香は醤油ラーメン。しかも煮干しを利かせてるな…ん?なんだこの天使の様な香は…神木、お前ラーメン屋に誰と行ったんだ!」
「え?母ですけど」(ていうか警察犬かよ!)
「お前の母ちゃん?」
「はい」(なんか怖いんですけど…嫌な予感)
少し疑いの目を向ける関口。
「相当な美人なんだな…」
「何でですか?」
「俺の鼻は犬よりも嗅覚があるんだ。シェパードと呼んでくれ!」
「ゲブルドッグじゃないの…」
関口が思いっきり一心を睨む。
「何か言ったか?」
「いいえ」
「おーっち…なんか怪しいな…お前まさか彼女とかじゃないよな?」
「え?」
オタクの様な格好をした関口を上から下にと見る一心。首には愛梨の顔がプリントされたタオルを巻き付け、Tシャツには「愛梨命」と書いてある。そしてメガホンには「好き好き愛梨」と書いてある。まさに全身愛梨だった。それを見て眉を顰める一心。
「おーっち、何だよ神木…俺の愛梨に文句あるのかよ!」
「…いや」(気持ち悪いんだよ!言えねえけど!)
「おーっち、何だよ!俺の恋人は愛梨だけ!」
「…関口さん…」(まさか俺が恋人だとは…)
飽きれる一心に対して関口は大きな声で語りだす。
「俺に彼女がない…この世の最大のビッグバンだな…いや、この世の最大のバグだ!そう思うだろ神木!」
「関口さん…課金が足りないんじゃないですか?」
「…おーっち、お前…!」
それを見ていた南禅寺が戻ってきて笑いながらフォローに入る。
「ははっはは、課金が足りないって、はははは、くだらない話してないで関口も寝る準備をしろよ。明日は最終日だぞ」
関口が口を開く。
「…神木…その内にから揚げ地獄…見せてやらったいば!」
「…から揚げ地獄…食べ放題ですか?時間は無制限ですか?」
「貴様!」
「ははははは、関口やめておけ、神木は天然なんだ。まあ毒があるからフグと同じだけどな。今日は終わりにしとけ」
「…南禅寺さんが言うなら…」
一心が口を開く。
「じゃ、南禅寺さん俺、風呂に入ります」
関口から逃げだす一心は舌を出しながら風呂場に向かった。
タイトル「ヒーロー」
最終日、体育館に異様な雰囲気が漂っていた。体育館に着きスポーツバッグから荷物を降ろそうとすると石井の激がいきなり飛んできた!
「んがだじ!はえぐアップの準備せえでや!」(おまえら!早くアップの準備しろ!)
「はい」
石井のただなる気配にややでもアップにも気合が入る。一心がランニングしながら流稀亜に声をかけた。
「なんか、揉めた感じだね」
「…イケメンもそう思うよ」
目の前にいる南禅寺が口を開く。
「俺たちは試合に集中すればいい」
「…はい」
石井の目は気のせいか以前よりも厳しさを増しているように一心には見えた。石井のそんな強い視線から逃げるためではなかったが、最終日の今日の試合は何が何でも勝たなければと一心は考えていた。
試合が始まると一心の絶妙なパス回しや、南禅寺の要所での3ポイントシュートも決まり始めてリードを奪った。しかし、秋田城北大学は、徐々に点差を縮めて逆転。それでも粘る帝国高校は折茂や関口も逆転されまいと踏ん張りを利かせる。
「おーっち神木!パスをよこせ!」
「ちっちっち、神木、ナイスパス!」
そんな様子を見て流稀亜は自分にもどかしさを感じていた。その流稀亜がボールコールをする。
「シン!」
流稀亜がボールを持つと床にへばりつくような姿勢でディフェンスをする飛島。
「来いよ、暁」
「…」
流稀亜はその目の前に立ちはだかる南極大陸の厚い氷の様なディフェンスにヒビを入れようと左右にフェントをかけ、瞬発力で抜き去ろうとするが飛島がコースをしっかり塞ぐ。
「甘いな」
「…」
今日何度目だろうか、流稀亜がボールを取られそうになるがそれを何とか阻止すると強引にシュートに持ち込もうとする。カバーに入ってきたディフェンスに挟まれ2対1になるがシュートに持ち込もうとする。
「ウオおーー!僕は最強になるんだ!」
その時、ゴール下の関口がフリーで空いていた。しかし流稀亜はパスを出そうとはしない。シュートはリングに当たると大きく弾ける。それを逆に速攻で持ち込まれて
秋田城北大学 29 対 23 帝国高校
最初の1クオーターを終えベンチに戻ると石井が叫ぶ。
「ばがげ!なしてパスばださねったいば!」
「…」
「へんじすろでや!」
「全員でつないでいるプレーばおめえの個人的な理由でめちゃくちゃだべしゃ!んがだば、まだ一人ですべてできるわげねべしゃ!関口があいてろうが!」
「俺は最強目指してるんです!」
「ばがげ!いい加減にせよ!おめえ、一人の力でなれるわけねべしゃ!まんつ、んがよ。今後はわからねえども、今は全部しょい込めるほどのつからばねったいば!チームのプレーば!ゆうせんせでや!目標はゆうしょうだべしゃ!」
それでも黙って石井を見てる流稀亜のその表情は「自分は悪くない」そういう顔をしていた。普段は自分をイケメンと言ってチャラチャラしている雰囲気を出す流稀亜だがこうなると手をつけられない。まるで別人のようだった。
「…何だ!その目は!」んが、わがらねったが?そすたらけえれでや!」
「いいえ!最強を目指してるので帰りません!」
「ふざけんなよ!」
「…」
「ふざけてません」
口論を止めようと一心が流稀亜の肩を叩く。
「ルッキー…」
すると石井の怒りの矛先が一心に向けられた。
「神木!ばがげ!おめえも普通のリードガードしての仕事で飛島に勝てるわけねベしゃ!このままだと、点差が広がるぞ!もっとよく、考えるベしゃ!」
「…はい」
石井の言いたいことは十分に理解していた。しかし、伝家の宝刀でもあるゾーンプレスに持ち込んで早い展開のバスケをしようにも飛島にはそれが通用しない。飛島はゾーンプレスを熟知していて、逆にそれを待ち望んでいるようにも見える。今から新しいバスケスタルに持ち込んでも秋田城北大学を相手に勝てるバスケが出来そうにもなく一心はどうすべきか悩んでいた。
その後、第2クオーター、第3クオーターと進むうちに石井の言った通り徐々に点差が広がり3クオーターを終えるときは
82 対 71
と11点差をつけられていた。
何が正解なんだ…プレスディフェンスを仕掛けても飛島さんはディフェンスの抜け道を知っているし…かと言って下がったままのディフェンスだと流稀亜が抑えられるとどうしても…まずい。まずい…駄目だ、答えが分からない。そんな一年生リードガードを珍しく監督の石井が気にかけ呼びつけた。
「神木!南禅寺!ちょっと来い!」
「うちの強みはなんだ!」
「早さです!」
南禅寺がそういうも納得しない表情の石井。
「あとは!」
一心が答える。
「伝統です!」
石井がさらに質問を繰り返す。
「伝統とはなんだ!」
「…」
「変わらないことだ!」
「変わらないこと?」
南禅寺がそういうと一心が口を開く。
「平面立体を制する!」
石井の表情が柔らかくなる。
「分かってるじゃねえか?それだよ」
一心が小声で口を開く。
「でも…」
「お前は誠に何を教わったんだ?」
一心が口を開く。
「世の中で一番罪なことは自分自身の力を支持る事が出来ない奴…」
「お前は自分の一番の武器を信じることができないのか?」
「いいえ!」
一心と南禅寺は目を合わせると関口と折茂を呼んだ。
同じ頃、流稀亜はベンチに座りタオルで顔を隠すと目を閉じた。
「僕は最強を目指すんだ…最強を目指すんだ…最強を…」
そうやってぶつぶつつぶやいていると流稀亜は小学生の時に一心と初めて会った時のことを思い出していた…
海軍と学生との親善試合の前座試合で海軍の子供たちに負けた流稀亜は兄である暁 智也に呼び出されていた。
「何で試合に負けたかわかるか?お前は一人で最強にならうとしているだろ。一人では最強になれない」
「智也兄さん…」
「俺を超えたいんだろ?」
「うん」
「そしたらまず戦う仲間を信じろ…」
智也が流稀亜の方をがっちりつかむ。
「…俺の周りは下手くそばっかだよ。それに合わせろって言うの?」
「…その答えは今は教えない。お前が自分で見つけるといい」
「…え?」
「お前は確かに小学生にしては上手い。でもそれだけだ。凄いわけではない」
「凄いと上手いは何か違うの?」
「違うな」
一心を指差す流稀亜。
「…あいつはどっちなの?」
「聞きたいか?」
「うん」
「凄いな」
「…何で、何でだよ!」
「彼は自分のバスケの考えを持って、さっきの試合、勝つことに集中していた。お前は上手いがチームが勝つことにはこだわってない。上手いけど相手から見たら全然、怖くはない」
「…確かに」
「お前も、回りの低いレベルに合わせてるのは可愛そうだと思う。でも強い仲間が、信頼できる仲間が出来たらそいつらと勝利を目指せ。最強のプレイヤーは優勝するチームに必ず存在する。最強のプレイヤーは周りが導いてくれるからこそスーパープレーが飛び出すんだ」
「…」
「将来は彼と組めるといいな。お前らきっと息がぴったり合うと思うぞ…」
智也が微笑みながら流稀亜に語り掛ける。
「絶対ないね、あんな奴!」
「そうか?人生はどうなるかわからないぞ。ははははは。案外お前から追いかけたりしてな」
智也兄さん…
しそして、全員の思いが重ね合わさるように帝国高校のスターティングメンバーは迷いが消えたせいか、11点差で負けているのにもかかわらず勝者のような表情でコートに向かった。
「お前らがやる気を出しても簡単には勝たせてもらえないぞ…」
石井はそう思いながら少し昔のことを思い出していた。
現在の大学バスケ界は1部リーグに所属するほとんどの大学が東京に集中している。そんなある日、東京のとある名門校に進学が決っていた飛島がその大学に行った後で帰って来ると血相を変えて石井に言った。
「監督…」
「何だ?」
「俺は…秋田に残ってもいいですか?」
飛島の表情には迷いがなかった。
「ん?なしたど?」
「…」
「一部リーグは全て東京にあるし、寮の環境も良かったべしゃ?」
「…俺の求めている場所じゃない」
「なした?」
「監督…酷いじゃないですか?」
「俺が?」
「そうですよ、何ですかアイツら!俺が行ったら歓迎会だって言って酒飲んだり、合コンだ言って女と遊んだり、タバコを吸ってクラブに行って踊ったり…全然バスケのやる環境じゃないですよ!俺はまだ熱くなりたいんです!自分の限界を追求したい!」
「…飛島」
日本の大学はバスケットに限らず東京に強豪校が集まっている。そのため、大学生になるとよからぬ遊びに毒されて、それまで優秀といわれた選手が次々と並みのプレイヤーになる。しかし、それは良くあることだった。そしてたいていの選手は大学に入ると伸び悩む。悲しいがそれが実情だった。感のいい飛島は数日間、自分が訪れる予定の大学を訪れただけでそれを感じ取ったのだろう。
「飛島…なら秋田城北大学に行くか?」
「城北大学…ですか?」
「ああ、あそこは教育学部もるべしゃ、まんつ今は3部のチームだけど…んがが1部に昇格させる。そんなのはどうだべしゃ?」
「3部リーグのチームを一部リーグに?」
「ああ、したらお前は俺の時期後継者だ」
「後継者?」
「ああ、んがは3代目帝国高校監督だべしゃ」
「俺が帝国の?」
「ああ、いずれそういう時期も来るだろう…」
口で言うのは簡単だが3部リーグのチームが1部リーグに上がるのは容易なことではない。資金力も実力も違う。部活に入る学生は素人同然で入部してくる連中もいる。そいつらをまとめて一部リーグを目指すのは並大抵のことではなかった。
「面白そうですね」
飛島の顔はいつもの優しい笑顔に戻っていた。
試合が始まると同時に、流稀亜が勢いよくドリブルで切り込む。何とか飛島のディフェンスを交わすとディフェンスがカバーに入って来たのを見計らって、3ポイントライン右斜め45度でノーマークの南禅寺にノールックパスを出す流稀亜。
「南禅寺さん!」
「よし、任せろ!」
南禅寺が当然のようにシュートを決める。
すると一心が指示を出す。
「オールコート!1-2-1-1」
「オウ!」
一心が南禅寺に目で合図を送る。すると南禅寺は飛島にパスが来ることを予測。それを二人で追いかける。飛島が叫ぶ。
「読みは良かったけど、俺の方が身長が高い!」
「平面、立体を制する!」
一心が南禅寺の肩をつかみ、飛び上がりジャンプカットすると、そのままダイレクトで流稀亜に投げつけるようなパスを出す。
「ルッキー!」
「来い!」
3ポイントシュートが決まる。開始1分を切らないうちに得点差が5点差になった。焦りを見せた秋田城北大学はロングパスを出してしまう。すると関口がインターセプトする。
「行け!ズル!」
「おーっち!」
「タッチダウンパスだ!」
「任せろ!」
角度のない場所から折茂のジャンプシュートを鮮やかに決める。得点差はわずか3点。
「いける!」
その後、一進一退の攻防が続いた。そして残り28秒。
秋田城北大学 97 対 95 帝国高校
秋田城北大学が2点リードしている。しかも、ボールを持っているのは飛島率いる秋田城北大学。ゆっくり、ボールを回そうとする相手に対して大きな声を出してプレッシャーをかける南禅寺。
「守りに入るな!ディフェンスでも攻めろ!」
はい!
全員が一丸となってボールコールすると、小さき気迫がどんどん大きくなり
相手に焦りを起こさせる。珍しいことに飛島が緩いパスをガードに投げ戻した。
汗ですっぽ抜けたようなそのパスを一心も流稀亜も見逃さなかった。
「まずい!」
ボールカットすると速攻から同点のダンクシュートを決める流稀亜。
「オリャ!」(智也兄さん…見ていてくれ!)
残り15秒
97対 97
オールコートゾーンプレスをかける。
「オールコート!3-1-1」
前線にパスを出させないようにする帝国。秋田城北大学はタウンオーバーになりそうになりるが飛島に頼りパスを出す。そのボールを折茂がカットする。
「ちっちっち、一年ばっか目立たせねえよ!」
「そのボールを流稀亜が貰うと攻撃的なオフェンスを仕掛けた。飛び上がり空中で一人交わすと体制を変えて持ち込もうとする。しかし、ブロックに来た飛島にコースを塞がれる。
「させるか!」
「シン!」
一心にパスを出すとボールを貰った瞬間シュート体制に入る。しかしシュートブロックされそうになり、高回転のスナップパスをフリースローレーンに出す。
「ルッキー!決めろ!最強目指すんだろ!」
「シン!」
流稀亜はボール追いかけるため走った。後ろには飛島の影が見える。
「させるか!」
ボールをキェッチすると直ぐに早いモーションでタイミングをずらし、シュートモーションに入る。しかし、その早いシュートモーションでさえ飛島には通用しない。
「甘い!」
流稀亜は通常のシュートモーションから変化した形で後ろに下がりながらフェーイドアウトシュートに臨む。そしてめいいっぱいに腕を伸ばし、最高値まで上げる。しかし、モーションを崩しながらで打ったとしても入るかわからない。完全に肘が伸びきった状態で更に飛島の指先がボールに触れそうになる。
「こっちにも意地があるんでな!」
飛島がそういうが流稀亜も負けてはいない。
「うおおーー上がれ!」(俺は負けない!)
更に一段階、腕を上げると自然に片手の薬指だけでボールに回転をかけてシュートを狙う。それはまさに全員の思いがつないだ神業の様なシュートだった。
「いけー!」
「フュ!」
指先がしなり、高回転のスピンのかかったボールは綺麗な弧を描いてリングに沈む。
「シュ!」
そして試合終了の笛がなった。
帝国高校 99 対 97 秋田城北大学
流稀亜の放ったワンハンドのスーパーシュート見事決まり、試合に勝利した。そして流稀亜が真のエースとして覚醒し、何かをつかみ始めた瞬間でもあった…
「帝国のユニホームを着る者、負けること許さるざるべからず!」
タイトル「伝統」
「楓」と書かれた店名の前に並ぶ行列を後にして店内に入ると何とも言えない脳を刺激するような匂いがカウンター席しかない狭い店内に香り立つ。店内はテーブルに席しかなくカウンターに座ると目の前には木目の美しさにこだわった檜のテーブルがドンとかまえている。
高級感ある店構えだが料理は主人のこだわりで、「黄金かつ丼」2680円のみしかないらしく、メニューは見当たらない。そこに、飛島、南禅寺、一心、流稀亜、関口、折茂、枡谷、佐藤が席に座っている。
「飛島さん…なんか高そうな店ですけどダイジョブですか?」
南禅寺が心配塑応な顔をして飛島を見ている。
「心配するな、金は監督から貰ってる。それよりも今いいところだから静かにしてろ!いいか?」
「はい」
南禅寺がそういうと、飛島が料理工程を見ながら説明し始める。
「まずは中火で蓋をしてごとごと煮込む。煮詰めたら蓋を開けて卵を流しいれる。地元秋田の比内鶏の卵だ。もう一度蓋をして更に20秒。この時におい玉ねぎを入れることによってさらに甘みが増す。更に火を止めて蒸らす。そして最後に卵黄そして三つ葉を乗せれば黄金カツ丼の完成~麦飯の上には有明産の刻みのり…来るぞ…美味すぎて死ぬなよ」
店主が目の前にかつ丼を出す。
「はい、お待ちどう」
目の前に置かれた各々のかつ丼をほおばると一心が口を開く。
「…うまい!」
すると折茂と関口が続く。
「ちっちっち神木、コメントはそれだけかい!デミタスコーヒーな」
「おーっち神木、まろやかな味わいで歯ごたえもいい、食レポっていうのはな!こうするんだよ!から揚げな」
「俺はリポータじゃないっすよ!」
「ははは」
そのカツどんを5分ほどで全員が平らげると店の外に出た南禅寺が飛島に挨拶する。飛島の表情は練習の時と違って優しい顔をしていた。
「飛島さん、ありがとうございました」
飛島は手を出し、南禅寺と固い握手を交わす。
「勝てよ」
「はい」
「いいか?この店は昭和41年から続く名店だ。そんな名店の味を求めて今でも県外からも人が押し寄せている。古き良き物ってさ、なんだかんだいって残るんだよな。芯がしっかりしてればさ。
今の時代、様々な料理が流行っている。外食に出ればハンバーガーにピザ、パスタ、そしてタコス…何でも…帝国のバスケが古いとか言ってる奴がいるかもしれないけど、お前らのバスケは古くない。ましてや王道であり、基本だと思っている。だから、それを証明するためにも…負けるな」
「はい」
元気良く返事をすると飛島の表情は更に柔らかくなり立ち去ろうとしていた。そして飛島に背を向けて南禅寺達、一同も帰ろうとしていた。
「神木!暁!ちょっとこい!」
一心と流稀亜はお互い顔を合わせると少し前にいる飛島の元に急いだ。
「はい」
「次の大会は間違いなくお前らがカギになる。南禅寺を男にしてやれよ!」
「はい」
一心が真剣な表情で飛島を見て口を開く。
「飛島さん…聞きたいことがあります!」
「何だ?」
「飛島さんは、こんなに上手なのにどうして最初から東京の一部リーグに行かなかったんですか?」
「…そうだな…本物に会ったんだよ」
「本物?」
「ああ、あいつのせいかもしれないな」
「本物って伊集院さんですか?」
「ダサくて、みじめで、かっこ悪い…それでもよ、目標に向かって進んでいた方が生きている感じするだろ?」
「…はい」(やばい、何かよくわからないけど返事しちゃった)
「お前らは進学はまだ先の話だし、お前ら自身で進む道は決めるといい。その時、お前らが関東の大学バスケの体質を変える事が出来れば尚更いいけどな」
「体質…ですか?」
「そんな先のことより、出来るんだろうな優勝」
飛島が改めて一心を見る。そして一心と流稀亜が同時に口を開く。
「約束します。俺たちはこの先、卒業するまでどこにも負けません!」
「次の大会だけじゃありません。この先、卒業するまでどこにも負けずに無敗で卒業するつもりです」
「本気か?」
「勿論です!」
飛島は一心と流稀亜の真剣な表情を見て安心したのか微笑みながらまた話し始める。
「お前ら2人なら…3年になる頃には出来るかもな?」
「何がですか?」
「史上2回目のフレッシュマンカップの優勝だよ」
「…フレッシュマンカップ?」
そういうと飛島は笑いながら立ち去って行った。
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