第7話
「こらっやめなさいっ、銀色に光るからって女の子から奪うなんて!」
しばらく女の人が怒って叫ぶのが聞こえていましたが、「ちょっと貸して!」「えいっ」と声がすると、バサバサバサッ……とけたたましい音がしました。
羽ばたきの音が遠かって、僕はゆっくり目を開けました。すると美冬ちゃんを女の子が助け起こしています。美冬ちゃん、帽子を被っていません。
「大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「だめよ、あんなキラキラするもの被ってちゃ、烏に狙われるんだから」
美冬ちゃん、そういえば帽子を被っていませんが……
「こんなところに、こんなに小さな子が一人でいるなんて……」
こんなところに、普通のお姉さんがいるのも不思議なのですけれど。ていうか僕は無視ですか。失礼しちゃう。
美冬ちゃんに手を差し伸べたお姉さんは、朝道を教えてくれたお兄さんと同じくらいの歳のようです。
あ……まさか山賊さんとかじゃないですよね。怖い男の人とか従えてませんよね。
「まさか……あなたも誰かを……」
え、まさか……
「お姉さんもお友達が雪の女王様の所にいるんですか?」
あっ! 珍しく美冬ちゃんが僕の聞きたいことを聞いてくれました!
すると驚いたことに、お姉さんは瞳を潤ませて話し出します。
「雪の女王の城にはね、私の恋人がいるのよ。私が海外に行く前に将来を誓ったのに……夏男のやつ、雪女なんかに惑わされて……! 春子なら久しぶりでもすぐ分かるって言ってたくせして、きっと私になりすました魔女に騙されたんだわ……」
こ、怖い。お姉さん、女王様が妖怪から魔女に変わってます……。それにヒロインから心変わりするのは、御伽噺の王子様のセオリーですよね。なんで昔の人は作者が男性なのに男性を駄目に書きがちなんでしょうね。
「春子お姉さん、お城がどこか分かるんですか」
美冬ちゃん、お姉さんの話、聞いてなかったみたいだね。リュックからいそいそとカイロを取り出しています。
「私、秋くんが『美冬ちゃんたすけて』って言ったので、行かなきゃなんです。連れて行ってくれるならこのカイロ、お姉さんにもあげますから」
ああ、僕たちは暖かいけどお姉さん、寒いものね……って美冬ちゃん、だめ、それは。買収って言葉知ってる?
僕の制止にも気が付かず、お姉さんは美冬ちゃんを諭します。
「雪の女王の城にいる秋くんはもとの秋くんじゃなくてもいいのね?」
お姉さん、どうもお話にありそうなそれっぽい正しい返事してますけど、カイロは貰うんですね……。あ、でももしかして、この流れはトナカイでひょいっと行けるとか?
美冬ちゃんがぶんぶんと首を縦に振ると、お姉さんは、分かった、と僕の方をきっ、と見ました。
「分かったわ。じゃあ行きましょう。そこの熊さん、大きくなってソリ引ける?」
いやいやいや無理です。首が曲げそうなくらい否定します。
「仕方ない。美冬ちゃん、城まで行きましょう!」
そういうとお姉さんは美冬ちゃんの手を取って走り出しました……雪山ダッシュですか。
仕方ない。で済む問題でしょうかこれ。
僕も二人を追うしかないです。ああおうち帰りたい。
***
出演 春子(特定の既存作からではありません)
筆致は物語を超えるか『明日の黒板』より。
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