2
「どうなっておる、慎一」
「また屋敷ごと呑むか?」
「いや……中を確かめよう」
「そうだな。そもそも、まだ火の気がない」
門から庭の敷石を
ここが、
背負っている赤子の
「安心しろ。健やかに眠っておる」
慎一たちは、館の中に足を踏み入れた。
廊下の窓から差し始めた細い光芒の中に、わずかな
やや警戒しながら、あの惨劇の居間を、開いていたドアから覗きこむ。
中では老夫婦と中年の夫婦が、和やかに紅茶を飲んでいた。
「修羅の家にも、確かに、こんな
慎一も、それにうなずいた。
一度は捨てた不倫の孫でも、育てる内に、真の情がわくことはあるだろう。常に夫を裏切りながら、その夫を、けして嘘ではなくねぎらう妻もあるだろう。
しかし、できることなら――罪のない娘にだけは、最後まで隠しおおせて欲しかった。
「
「念のため、そちらも確かめたほうがよかろう」
慎一にも異議はない。
あの階段を探し、二階に向かう。
そして子供部屋の扉の前で、
「お、おい慎一」
「ああ」
当然、慎一も気づいていた。
背負っていた赤子の
「しかし、その夜着は妙ではないか。病院で見たのと違うぞ」
「いや、これでいいんだ」
笑顔を返す慎一に、
「まあ、おぬしがいいなら、俺もかまわぬが」
「おぬしの細腕で、うっかり
小さな体で、器用にノブを回して見せる。
「お入りくだされ、王子様。お姫様抱っこでなくお姫様おんぶなのは、少々不格好な王子様だがな」
慎一は苦笑しながら、足で扉を押し開いた。
先に入った
「……こういうことかよ」
扉の奥は、また、あの台所だった。しかし桃の木は生えておらず、安アパートの台所そのものである。
六畳間に進むと、そこも綺麗に片づいていた。
明るい朝の光が、誰も座っていない座卓と、その上の灰皿や茶道具を照らしている。窓にカーテンはかかっているが、スーパーの日用品売り場で買った特売品なので、春の陽光を遮りきれない。
さらに、隣の四畳半の
「……いよいよ神田川のレコードを流さねばならぬな」
同じ柄のカーテンを透かした朝の光を浴びて、慎一と
枕元には、
「――先に
慎一は頬笑みながら、蒲団の横にひざまずき、背負っていたパジャマ姿の
それから前に抱き直し、蒲団の
手元の
「――それからお茶を淹れて、俺を起こす。ふたりで朝飯の準備をする。いっしょに洗い物をして、いっしょに家を出る――昨日の朝も、そうだった」
蒲団の慎一は、やはり眠ったまま横を向き、
「……おぬし、いつもこんなふうに鼻の下を伸ばして寝ておるのか」
「いや、わからない」
「こんな、骨を抜かれて
「……俺もだ」
「寝ているうちに鼻を囓られたくなかったら、明日までに松坂牛の霜降りを一貫目、俺の
「……ボーナスが出るまで待ってくれ」
「よし、約束ぞ」
「仕事は終わり、それでいいな」
「ああ。ここまでで精一杯――いや、今のところ最善だと思う」
「いやはや、きつい仕事であったよ。思えば牛一頭でも足りぬ」
ぶつぶつ言いながら、
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