4
「……これでもかえ?」
抱いた赤子をくるんでいる
一見、健やかに眠る
「……それでもどうか、お返し下さい」
慎一は
ほほほほほほほほほほほほほほほほ―――
それまでの声よりも、なお艶を増した笑いだった。
左右の侍女が、声を重ねるように笑う。
ほほほほほほほほほほほほ――
ほほほほほほほほほほほほ――
ほほほほほほ――
ほほほほほほほほ――
ほほほほほほほほほほほ――
ほほほほほほほほほほほほほほほほ―――
やがて
「……
慎一には答えられない。わかるのは自分の心だけだ。
「まあよい。わざわざ
「感謝いたします」
慎一が
「おお、オコジョじゃ」
「これは愛らしい」
「なんと美味そうな」
「……あとは任せた」
そう言って慎一の頭に駆け上がり、髪の奥に潜りこんでしまった。
それきり、どこからも顔を出さない。
「おや、オコジョではなく
「術者殿の式神であろうよ」
「ずいぶん臆病な式神じゃの」
「そこがまた可愛い」
「ますます美味そうじゃ」
笑いさざめく
「そなたらは、そんなに安穏としておると痛い目を見るぞ。この術者殿は、もっととてつもない物を、背中に負うてきておられる」
慎一は、これのことか、と思いながら、
「なんと!」
「おお!」
「
叫びながら、文字どおり宙に飛び上がる。
「桃ぞ!」
「桃の実ぞ!」
「よくもそんな汚い物を!」
「恐ろしや恐ろしや」
てんでに白装束の裾を
見れば、
慎一の頭の中で、
「あれが真の
同じく呆然としている慎一に、
「なにゆえあれらが桃の実を嫌うか、そなたにわかるか?」
「……いえ、お嫌いなのは伺っておりましたが、その理由までは」
「桃の実は『
「『
慎一は、自問するように言った。
「人の『
「少し違うな。『
得体の知れない虫のような飴菓子を指でつまみ、
「そしてこれも『
「すると、その子は……」
困惑している慎一に、
「情けない顔をするでない。ほんにそなたは術者のくせに、泣き虫の
からかうように言いながら、慎一が手にしている桃の実を、こちらに、と手振りで
少し迷いながら慎一が手渡すと、
「これは、桃の実に見えて、やはり桃の実ではないな」
「桃の実では……ない?」
「この子と同じ匂いがする。これは、この子の『
「ならば……」
「知れたこと。この子の内に戻せばいいだけの話」
「そなたから食べさせてやるがよかろう。
慎一は、まだ使われていない木地の器を受け皿に、桃の実の皮を指で剥きはじめた。
瑞々しい果肉が
「その汁を、おすそ分けにあずかってもよいか?」
「……なんと懐かしき味であることよ」
恍惚とつぶやき、それから、見守っているふたりの侍女に、
「その
侍女たちは黒い顔を輝かせ、器の雫に指を伸ばした。
「失礼ながら……」
慎一は、
「あなたは『
「
「それでは、そちらのお付きの方々も、神……」
「神ではないが、
言われて見れば、確かに
慎一の髪から、いきなり
「なんと、お仲間であったか。これは無礼をいたした。それでは改めて――お美しいお嬢様方、今後とも、なにとぞよしなにお願い申す」
侍女たちは、崩れた顔で楽しそうにけらけらと笑った。
慎一も苦笑しながら、桃の皮を剥き終える。
「ほらほら、家から迎えが来たぞ」
目を覚ました赤子の
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