第三章 霊道行《たまのみちゆき》
1
「
慎一はつぶやきながら、幼い
炎の中で、あの日の
しかし十年前の記憶の中で、前庭に倒れていた
その両眼は黒い瞳を失い、血走った白目だけが真円に開いている。
それは十年前、搬送された松澤病院の病室を燃やしかけた鬼の目だった。
「
慎一は後先を忘れて駆け寄った。
「無駄だよ慎一」
「おぬしは
それでも慎一は、
過去の影を傍観できるだけの男が、影を抱けるはずもない。
慎一自身、そう悟った上での行動だったが、なぜか微かな感触がある――いや、あるような気がする。
「…………」
慎一に気づかず、居間の残骸を
「…………」
その瞳が、やがて慎一の悲痛な瞳に交わり、
「……慎一さ……ん?」
子供の顔だが、子供の声ではなかった。
二十歳を過ぎた
慎一と
しかし、次の瞬間――。
飛び去った、と形容するのが正しいほど、瞬時に炎に紛れて消える。
「
反射的に慎一は追った。
すでに廊下のどこにも
それでも炎の中を、ただ走り続ける。
幸い、今の周囲の炎は、派手に見えるだけで熱さを感じない。
「度胸は買うが、やはりおぬしは
小さく戻った
「おぬしは、どこに向かって走っておるのだ?」
「…………」
「あの二階の部屋を探せ。そもそもあそこが火元ぞ。おそらく
推測にすぎないが、一理も二理もある。
慎一は走りながら階段を探した。
肩の
「しかし、俺もおぬしに負けぬほど
炎の奥の横手に階段らしい影を見つけ、慎一はさらに脚を速めた。
「そして十年前に俺が呑んだ館は、おそらく
慎一は階段を駆け上がりながら、
「つまり、
「おう、
「
慎一は、なかば焼け落ちそうな階段の踊り場を跳ぶように曲がりながら、
「だとしたら……ここを封じれば、なんとかなる」
「おうよ。俺が丸々呑んでしまえば同じこと。病院の
「ああ、頼む」
やがて二階の廊下に躍り出る。
「右だ、慎一。あの奥の部屋ぞ」
炎の中で、
「今このまま、すべてを呑んでもよいのだが、それではおぬしに未練が残ろう」
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