3
玄関の扉は施錠されていなかった。
扉の奥は、小さいながらもホールと呼べるほどの洋間である。
そこまでなら、慎一も一度だけ入ったことがあった。
小学六年の春だったか、公民館で催された映画鑑賞会の後、何かの事情で家族が迎えに来られなくなった幼い
親しい隣家の姉弟と両手をつなぎ、満開の桃花の坂をちょこちょこと上る小学一年の
あの笑顔を、自分はいつ取り戻せるのか――。
あと五年、いや十年か――。
そんなことを考えながら、慎一はホールから横手の廊下に折れた。
行く手の奥から、また銃声が響いた。
黒光りする廊下を、慎一は疾走した。
「急いでも同じだと言うに」
最奥に半開きの扉があり、そこから三度目の銃声が聞こえた。
中に誰がいようと、それは記憶の残像である。慎一たちを見たり撃ったりする恐れはない。
心得ている慎一と
「……なんだ、これは」
慎一は、
強盗などいない。
居間らしい部屋の中ほどで、硝煙が立ち昇る猟銃を構えているのは、慎一が知っている男らしい。
猟銃の先を目で追うと、窓際の長椅子に、
その長椅子の横には、ひと組の男女が立ったまま寄り添い、わなわなと震えている。
猟銃の男が、そちらのふたりに銃口を向けなおして言った。
「……まさか
あの人がこんな下卑た言葉を口にするだろうか――慎一はとまどいながら、男の顔がはっきり見える位置に身を移した。
やはり旧知――しかし明らかに狂った顔である。
慎一の記憶では、いつも生真面目に整っていた頭髪や洋服も、今は異様に乱れている。
「なぜ、あの人が……」
独りごちる慎一の肩に
「
「……
慎一は膝が震えて、立っているのがやっとである。
「なんと、この
「いや……そうなんだけど、そうじゃなくて……」
「おい、気をしっかり持て」
「つまり……家付きの長女と結婚した……」
「なるほど、磯野家ならばマスオさんかよ」
「それでは、あそこで死んでいるのは?」
「……
声を震わせる慎一に、
「ならば、あの美女と二枚目は?」
四十前後と思われるスーツ姿の男は、なにか書類のようなものを手にし、震えながらその文面を目で追っている。
少し若い
その女の顔も、慎一は明瞭に記憶していた。大人になったら
しかし、それよりやや年長の、背広姿の男の顔は――。
あの人か、と慎一は気づいた。
小学校からの帰り道、途中の駅前あたりで、何度か見かけたことがある男だ。見かけるときは、いつも幼い
「
「つまり母親と母親の兄か」
「ああ。伯父さんのほうは、昔、勘当されて家を出たって聞いてたけど……」
「なるほど、どちらも
そんな兄妹に、妹の夫――
「こんな畜生どもにだまされて、こんな汚い家を後生大事に守ってきたのか、俺という男は……」
それから長々と哄笑する声も、明らかに狂人の笑いだった。
「ろくに蓄えもない奴らをせっせと食わせて、でかいだけのボロ屋敷をせっせと
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