第二章 管生《くだしょう》
1
「
「……封じるのは、あの日と同じ記憶でいいんだよね」
「たぶん。
「なら、よかった」
慎一は安堵していた。
あのときの記憶を葬っても、今の
十年前の夜、まだ若かった松澤医師は、
慎一は
「じゃあ、
「はいよ」
懐剣の
紫の
「起きな。仕事だよ」
すると竹筒の口から、白い小動物が顔を出した。
冬毛のオコジョに似た愛嬌のある顔で、力いっぱいあくびしたのち、
「……春先は人使いが荒くてかなわぬな」
明瞭な、しかしやや古風な日本語で、そう愚痴ってみせる。
小動物愛好家なら歓声を上げそうな見かけによらず、声は松澤医師よりも太い。
古来、民間伝承において『
ともあれ御本尊の
「そこの藪医者、久しぶりだな。百年ぶりか? ずいぶん老けて、丸々と肥えたものだ」
松澤医師は、うんざりした声で応じた。
「……十年だ。それに五キロしか増えちゃいない」
陰火といい
それから
「また、その
「うん、お願いね」
「ということは、また、そこの
「正直、男臭くてかなわぬのだが」
白いオコジョそっくりの顔で『苦々しい顔』ができるところに、生身の小動物とは桁違いの
そんな違和感が先に立ち、
慎一は、あえて深々と頭を下げた。
「
「おうよ。確かにその娘には、昔から、なにかこう、放っておかれぬ匂いがするからな」
「しかし、どうせなら竹筒ぬきで、
竹筒だけに、日本庭園の
「我ながら
微動だにせず、しみじみと目をつむり、
「これぞ千年生きた俺の魂の響き、諸行無常の響きぞ」
「……お前は
「とっとと行っといで。ちゃんと仕事済ませて戻ったら、
「
地方公務員らしい七三分けの短髪に、頭頂部から、もぞもぞと潜りこむ。
そのまま頭蓋骨を無視して真下に潜ってゆく
やがて慎一の額から、肉色のオコジョの首が生えた。
「昔ほど臭くはないな、慎一」
「さては毎日、風呂で若妻と洗い合っておるな」
慎一は、つい、うなずいてしまった。
「そこは笑ってごまかすところだよ
言いつのる
スリッパを脱ぎ、ベッドの
それから、宙に漂う陰火ごと、
初めて結ばれた夜のように優しく体を重ねると、ふ、と
慎一は目を閉じて、なかば体を重ねたたまま、
「なんだ。子供でもあるまいに、もう
ぼやいている
これだから朴念仁は芸がない――そんな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます