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ほどなく病室のドアが、外から軽くノックされた。
ふたりが、どうぞ、と応じる前に、
「お待たせ、慎ちゃん」
慎一の姉・
「とりあえず入院に要りそうなもの、アパートの箪笥から見つくろってきたよ」
夕刻、慎一が実家の姉に電話で頼んでおいたのである。
「わざわざ、ごめん」
「なんも。あんたの下着とかいじるのはごめんだけど、
「
松澤医師が、
仕立ては神社の巫女衣裳に似ているが、あれほど
「なんもなんも。春先はおかしくなる人が増えて商売大繁盛だけど、正直、セラピーみたいな仕事ばっかりだから、いつだって抜けられる」
「
「俺の仕事は済んだ。網元の
「いちばん大事な仕事が残ってるでしょうに」
「あたしに女の子が授からなかったら、この子の娘が、次の『
◎
ちなみに『
慎一と
といって現在、小さな
◎
松澤医師が広げてくれたパイプ椅子に、
三十六歳と三十二歳、ふたりともいまだに独身だが、なぜか子供の頃から、そんな
「なんでこの子ばかり……こんな辛い目に、何度も合わんといけんのかねえ」
慎一も松澤医師も、うなだれるしかない。
「松ちゃん、もっとあったかくしてやれんの?」
松澤医師は
「あの晩とまったく同じだ。体の芯から凍えちまうんだよ」
そのまま瞑目し、何か
そうして祈ること、しばし――。
「――いけん」
「この子、思い出しとる」
慎一はぴくりと体を奮わせた。
松澤医師も眉をひそめる。
「あの日のことを思い出しちまったら……この子、また鬼になるよ」
慎一と松澤医師が
松澤医師は、思わず一歩、後ずさった。
蝋燭の火ほどの青い炎は、静かに揺らめきながら数センチほど宙に浮き、やがて人魂ほどに膨らんで、ゆらゆらとそこにとどまった。
松澤医師は声を震わせ、
「えーと、これは、その……陰火?」
「うん。よく覚えとったね」
「この子が心に収めきれなくなった負の感情――
松澤医師は、怯えながらも理系の好奇心が勝ったらしく、その青い炎に恐る恐る手をかざした。
「氷みたいに冷たい。だから深部体温が……」
つぶやきながら、病室の壁に広がる補修跡を見渡し、
「でも、また陽火――本物の炎に変わるのか?」
その補修は、十年前、焼け焦げた白壁を隠すために施されたのである。
「慎一。腹、
「
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