第2話 「迫る期限」
IT導入補助金を申請するにあたって、まず始めに必要なものは「見積書」です。 費用の援助を受けるのですから、かかる費用の概算を用意するのは当然なのですが、IT導入となった場合、急には用意しづらいものです。 なぜならば、その時点では現在の業務をIT化する為にどのようなソフトの開発が必要かの検討がつかない為です。
IT化に必要な費用の概算を算出する為にも、 IT化に必要な販売管理システムの調達方法として、3つの方法から選択する事になりました。
1.システム開発業者に依頼し、独自の販売管理システム開発を依頼する
2.販売管理ソフトのパッケージ品を購入する
3.データベース作成ソフト(Microsoft Access 等)で 自身で作成、 サーバーも自社調達する
補助金や業務のIT化について調べている時点で、データベース や サーバーという単語は口にするようになったのですが、なんとなく必要であるだろうという認識だけで詳しく説明できるレベルではありませんでした。 まあ、費用的には、その二つに対する見積が必要だろうな・・ぐらいに考えていたと思います。
1.のシステム開発業者 については、ネット検索や紹介から、2社の業者と打合せを行う事になりました。 おそらく一番費用がかかる方法だとは想像できましたが、自社に必要な部分に限定したシステム開発を依頼する事で費用を抑えられるのではないかと思いました。 自身で現在の業務内容を説明したうえで、自社のやり方に合ったシステムの開発を依頼する事が、本当に使いやすい販売管理システムの導入につながるのではないかと期待しました。
2.の販売管理ソフトのパッケージ品を購入 は、費用はかなり抑えられるはず・・という期待がありました。 ただ、導入済の 弥生販売は自社の業務内容に合っていなかった為、全く使っていな以状態だったので、パッケージソフトで新たな販売管理システムを導入しても、自社の業務に対応が可能な物が導入できるかが不安でした。
3.の自身で販売管理のデータベースを構築する案は、この時点ではMicrosoftAccess というソフトがあるというぐらいの認識しかなく、1.2案がダメだった場合の最小限のIT化案としていました。
一番手軽なのは、 2.の販売管理ソフトのパッケージ品を購入 なので、ネットで検索を始めました。
10社程の販売管理ソフトのパッケージ品について調査し、価格や機能を表にまとめていきながら、その中で、パッケージ品ながら 各社の導入に応じてカスタムしたものを納入するという形式の物もありました。。
かなりの有名どころで、 AladdinOffice アラジンオフィス という製品でした。 様々な業種への販売実績があり、業種別にカスタマイズされたオプションパッケージも用意されており、通常の販売管理業務に必要な機能は全て網羅されているようです。 この時点での最有力候補でした。
他のソフトを検索したところ、様々な販売管理システムを扱っている会社がありましたが、自社の業務をIT化するのに必ず必要な機能を求めた結果、選定からは外れていきました。
自社の業務で通常の販売管理ソフトでは満たされないと感じた点は、仕入業務です。 受注した製品を金属加工業者へ発注するのですが、例えばアルミの切削加工部品を発注し、入荷します。 それから、次に防錆処理(アルマイト)業者へ発注し、その後入荷されます。 ほとんどの製品に2次工程(多い物で4次工程)あり、工程別の価格管理・在庫管理が必要になります。 また、発注・販売時の単価も一つではありません。 同じ製品でも、受注数や発注数が増えると単価が下がります。 このスケールメリットを考慮して、担当者が発注量を調整したりするのですが、一つの製品で複数の発注や単価があるというのが、市販のソフトではまず対応ができないという結論でした。 工程数の分だけ商品マスタ―を作るような事をして無理にソフトを使用しても、かなり使いづらいだろうという事が容易に想像できました。
パッケージソフトの価格は、ソフトによってバラバラでした。 10万円台から、100万越えまであるようです。 ただし、導入時にカスタムされるソフトは別途見積が必要であった為、アラジンオフィスとの打合せを進めていきました。
カスタマイズ可能な点に期待を込めて、アラジンオフィスの検討を勧め、サンプルソフトとPCを借り受けました。 販売管理ソフトをノートPCと共に借り受ける事ができるのです。 こういった対応はさすがだなと感心しました。 しかし、使った事がないデータベースソフトで、さらに自社の商品マスタ―が全く入っていないので、ソフトの実証には時間がかかると思われました。 導入予定のソフトを実際の業務に使用してみない限り、本当の使い勝手は評価できません。 その為、発注・仕入業務に関わる一部の機能しか検証できないままレンタル期間の終了日が迫ってしまいました。 ただ、添付されていたマニュアルや、全体の機能がわかりやすく表記されたパンフレットが用意されていたおかげで、購入検討にはかなり役立ちました。
そして、アラジンオフィスからの見積書と共に 営業担当者と、自社の業務(特に仕入れ業務)に重点を置いて質問し説明を受けた結果、やはり多少のカスタマイズでは、自社の業務に対して使いやすいと思えるものにはならないであろうという結論に至りました。
アラジンオフィスのソフトが悪いわけではなく、当社の販売規模に対してソフトのスケールが大きい事(使わない機能も多い)や、自社の業務内容が独特である事が大きな要因だと思いました。 市販のソフトを使うなら、自社の業務をある程度ソフトに合わせていくか、対応できない部分は別途エクセルで両立させる必要があり、販売管理ソフトを導入している他社に聞いても、そのようにして対応しているとの事でした。
パッケージソフトの検討と同時に、システム開発業者との打合せも平行して行いました。 なぜならば、補助金を申請する為には”見積書”が必要であり、補助金の審査申請にも期限があります。 どの様な販売管理システムの導入が必要かを検討して、打合せを行い、自社の業務内容を説明しながらシステムの仕様を決定し、見積を受け取る。 それだけでも結構な時間を要するからです。
ここでの一番の難関は、「システム開発を知らない依頼者と、依頼者の業務内容を知らないシステム開発業者」間での打合せ・仕様決定の難しさです。 これはどちらかが悪いわけではなく、業務内容が違うのですから当然の事です。 ただ、自社の業務内容を知らないシステム開発業者に、自社の業務の流れ全般をうまく伝える事ができないのです。 自分がどんな髪型にしたいのか説明できないのに美容院で満足いく髪型にならないのと同じで(美容院の場合はヘアカタログを見て、「こんな感じで」で済みますが)十分な準備もなく、システム開発業者と打合せをしてもとても満足のいく結果になるとは思えませんでした。 新しく社員が入社しても、自社の業務を覚えるまでには時間がかかります。 経理のベテラン社員が転職しても、新しい会社の業務に慣れるにも時間がかかるはずです。 人員の入れ替わりや異動などに対応できる業務マニュアルが徹底して用意されているような企業なら問題は少ないのですが、中小企業やましては零細企業にそのようなマニュアルが用意されている事は稀だと思います。 ここでも補助金申請までの時間の無さが気になり、いっそのこと次の補助金募集の機会まで伸ばして、十分な仕様検討をしようかとも思いました。 そのような状態の中で、システム開発業者が制作した過去の事例やサンプルソフトをテストしてみても、最終的な結果に不安しかない状態でした。
そのような状態でも、つたない説明と打合せを数回繰り返した結果、 大まかな仕様が決まり”見積書”が届きましたが、やはり 1社は高級車 もう1社は高級外車が買える価格が提示されました。
さらに、設備面では追加のパソコンや、サーバー費用・保守費用も発生します。 ここでも開発業者さんが悪いわけではないのですが、完成形が見えないものにこの費用を払う事への不安が大きいと感じました。 そうです、無茶な期間で補助金を利用して安易にIT化とかいう当社が悪いのです! それは重々承知です・・。
そんなこんなで、親身に打合せを続けてくれて価格も高級車? ぐらいであった、P社からの”見積書”で補助金の申請を行い、無事審査通過しました。
無事に補助金の審査も通り、これで一息と思っていた所に新たな問題が発生しました。 「時間がない!」
補助金の支給を受ける時点で、商品の購入が終わり”領収書”が発行されている必要があるというのです。 機器を購入するだけならすぐに購入すればいいだけなのですが、販売管理システムの開発を依頼するとなると細かな仕様の打合せから、開発業者での制作業務となると、それなりに期間を要します。 システム開発業者に納期の相談をすると「可能です」との事でした。 仕様の打合せと制作を同時進行するのだろうか? ある程度の基礎になる販売管理ソフトがあって、カスタマイズしていくのだろうか? とにかく ”無問題(もーまんたい)” との事なので、仕様変更の打合せを定期的に行っていく事になりました。
ところがシステム開発業者さんとの仕様打ち合わせですでに音を上げそうになってきました。 やはり最初に感じた問題である、システム開発を知らない私たちが、自社の業務の流れをわかりやすく説明しながら、こんなものを作ってほしい! というのには無理があるのです。 ましてや、限られた期間で。 さらに通常の業務を行いながら、経営者と私の2名が打合せに時間を割いていく事もつらく感じました。
このような状態では、システムが導入された後も、システムの使い方の全員へ定着させる事や、商品の情報をシステムに入力する膨大な業務をこなせるだろうかといった不安が大きくなっていくばかりでした。
取引業者からきいた限りでは、Windowsの更新や業務内容の変化によって、販売管理ソフトの寿命は10年程度だという情報もあり、その都度また高級車程度の費用が発生する?
このまま販売管理システムの開発を依頼して、本当に良い結果になるだろうかという疑心暗鬼から、第3案 の可能性を検討し始める事になっていくのです。
P社さんの名誉の為にも念を押しますが、ここでの疑心暗鬼は システム開発業者 P社さんに対してではなく、自社・自身に対してであります。
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