3 イケジョ、森ガール、ニセ彼氏

 新生『トッケン』の結成に向けて、動き出さんとする出夢いずむ

 そのスタートは、控え目に言って絶不調だった。

 


 残り4名の部員(なるべくガチ勢)の確保。

 それも、あと6日以内にという無理難題さ。

 おまけに、同士候補の仲、相性の悪さ。



 ず問題なのは、やはり院城いんじょう 音飛炉ねひろ

 入学初日から「学園のマドンナ」の地位を確立しつつある彼女。

 そんな高嶺の花が、まだ認可されていない、同好会未満のアングラに、善意だけでるらしいのは、罪悪感と違和感を禁じ得ない。

 加えてことある毎に、否が応でも、ふとした拍子に、知識と認識のズレを実感させられ、気を削がれる。

 そうじゃなくても、他に引っ掛かる店がる。

 


 その真偽はさておき。

 おかげで、今朝の時点で、音飛炉ねひろと鉢合うだけで、治葉ちよすでにサボり魔となってしまった。

 それに付随する形で、真由羽まゆはもセットという現状。 



 協力を惜しまないというスタンスの彼女に、戦力外通告をするのは忍びない。

 かといって、音飛炉ねひろを優先、優遇し、本命の治葉ちよ真由羽まゆはを手放すのは、大いなる損失。

 更に現状、宙ぶらりんな風凛かりんの件も無視、看過出来できない。



 自体の深刻さ。

 考えることの多さ。

 心労の重さ。

 それらにより、出夢いずむすでに憔悴し、音を上げかけていた。



 だが、しかし。

 ここで諦めるわけには行かない。



 なんとしてでも、『トッケン』を再建させなくては。

 偉大なる諸先輩方や、自分に最後のチャンスを恵んでくれた火斬かざんに応えるためにも。



「ん?」



 そんな風に、決意を新たにしていた下校中。

 見覚えの有るシルエットを、出夢いずむは捉えた。

 彼の頭を悩ませてた一因、刃舞はもう 治葉ちよである。



 と、付近には仕事上がりと思しき、スーツ、ドレスを着た男女の姿も。

 どうやら、これから治葉ちよは、ご両親とディナーらしい。



 折角せっかくの水入らずの場に、知り合って間もい上に、ちょっと気不味い自分が土足で踏み込むのは、躊躇われる。

 かと言って「このまま明るく声を掛け、簡単に挨拶、自己紹を済ませ、早々に退散する」といった気さくさを、自分は持ち合わせていない。

 よって、この場はスルー一択である。



 そう決断し、気取られぬまま、迂回せんとする出夢いずむ

 そんな彼の前に、立ちはだかる影。

 なにやら妙にスリットの多いドレスを着こなす、妖艶な美女である。



「思った通り……メッカワくんだわぁぁぁぁぁ!!」



 良く分からない叫びをしつつつ、出夢いずむに抱き着く女性。

 唐突さ、距離の近さ、押し付けられる柔らかい感触。

 様々なパンチにより、出夢いずむは思考停止に陥る。



「ちょっと。

 何やってるのよ、母さん。

 いい加減、可愛いものに見境なく飛び込むくせ、直して頂戴ちょうだい


 

 不意に、美女の首根っこを掴み、出夢いずむを開放するイケジョ。

 誰を隠そう、治葉ちよである。



 彼女は、母の奇行の詫びをしようと目線を運び、ギョッとした。

 ここに来てようやく、タゲられていたのが知人であるのに気付いたらしい。



灯路ひろ……あんただったのね。

 いきなり、ごめんなさい」

「へ、平気……。

 こっちこそ、ごめん。

 なんか、お邪魔しちゃって」

灯路ひろに非はいでしょ。

 だったら、謝るんじゃないわよ。

 あんた、男でしょ。

 もっと、ドーンッと構えてなさいよ」

「いつもは、こっちの所為せいなんだ……」

「だって、あんた、てんで院城いんじょうに言い返さない、任せて、負かされてばっかなんですもの。

 みっともないったらありゃしないわ。

 そうじゃなくでも自分の意見、全然、言わないし」

「……ひどくない?」

「悔しかったら、もっと己を曝け出してご覧なさいな」

「そんな、簡単に」

「簡単よ。

 あんたが不必要に難易度上げてるだけよ」

いやな決め付けだ」

「真理よ」



 いきなり応酬を始める二人。

 皮肉にも不覚にも、部活絡み以外でここまで話せたのは、これが最初だった。



「なになに〜?

 チ〜ちゃんの、良い人〜?」

「母さん。

 人前で、その呼び方、めてってば。

 二言目には頼んでるでしょ」

「チ〜ちゃんだって、ママのお願い聞いてくれないじゃない。

 いつもみたいに、『ママ〜』って呼んでくれてないし〜」

「ちょっ……!?

 それも、めてってばぁ!!」

「初めまして〜。

 チ〜ちゃんが、いつもお世話になってます〜」

「い、いえ……。

 こちらこそ……」

「話、聞けぇ!!

 てか、灯路ひろ! あんたも、安易に答えんな!

 やるならやるで、もっとしっかり、徹底なさいっ!」

「どっち?」



 中々に無茶な要求をする治葉ちよ

 そのまま彼女は、出夢いずむを連れて両親から離れ、ヒソヒソ話を始める。

 


「時に、灯路ひろ

 あんた今、空いてる?」

「隣が?」

「そういうんじゃなくて、時間が。

 あんたのプライベートなんて、尊重はすれども、まだ興味なんて湧かないわよ」

「暇だよ。

 あと、やっぱりひどくない?」

「なら、話は早いわ。

 たった今から、あんたを、あたしのニセ彼氏に任命するわ」

「拒否権は?」

勿論もちろんるわよ。

 あんたとあたし、双方にね」



 つまり、「出夢いずむが拒否しても、それ自体を治葉ちよが拒否する」ということ

 要するに、退路を断たれたのである。



「……報酬は?」

「今晩は2人に、あんたの大好物を振る舞ってもらうわ。

 幸い、プランも予約もまだだったし」

「だけ?」

なんで、こういう時だけがっつくのよ、あんた」

「いつだって、そうだよ。

 ちょっと分かりづらいだけで。

 じゃなきゃ、ここまで未練がましく『トッケン』に拘ってない」

「それもそうね。

 で? あんたの、あたしに対するオーダーは?」



 意味深に、小悪魔に、挑発的に微笑む治葉ちよ

 明らかに、『分かってる』顔だった。



 不承不承感を全面に押し出しつつ。

 出夢いずむは、治葉ちよに答える。



「『イタリアン』。

 それと、『もうちょっと院城いんじょうさんと仲良くしてくれること』」

「決まりね。

 善処するわ。

 その代わり今晩は、恋人として存分に働き倒してもらうわよ。

 お覚悟なさい」

「……こっち、普段は口下手だよ?」

「熟知してるわ。

 それに、そこまでは求めてない。

 適当に相槌さえ打ってくれれば、それで結構よ。

 平時と変わらないでしょ?」

「……当て擦ってる?」

「当然。

 それと、今この場においてのみ、あんたを『出村いずむら 灯路ひろ』とするわ。

 カップルなのに名字呼びじゃあ、怪しまれるものね」

刃舞はもうさんは?」

「いつも通りでいわよ。

 不慣れ、ヘタレ感出してた方が、母さんの機嫌を取れる。

 そこまで馴れ馴れしく接せられても、あたしも不可解、不愉快だし」

本当ホントにズケズケ言うね」

「ええ。

 それが、あたしだもの」

格好かっこい」

「知ってる。

 でも、ありがと。

 それより、そろそろ行くわよ。

 じゃないと、流石さすがに不審がられる」

「擦り合わせは?」

「出たとこ勝負よ」

「オッケー」



 話が纏まり、拳を突き合わせる二人。

 かくして、二人は作戦開始した。



「おや?

 もう話は済んだのかい?」

「はい。

 お待たせしてしまい、すみません、月出里すだちさん」

「え〜?

 ママは〜? チーちゃん〜」

「そろそろ猛省して。

 それより、紹介するわ。

 あたしの部活仲間で、彼氏の出村いずむら 灯路ひろよ」

「……初めまして」

「名前まで、可愛い〜!

 よろしく、メッカワくん〜!」

出村いずむらです」

「分かってるって、メッカワくん〜!」

「もう、それでいです。

 よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくおねがいします。

 私は、月出里すだちです」

「……?」



 如何いかにもジェントルマン然とした男性の名前に、出夢いずむは違和感を覚えた。



 別に、名字が違っていたことにではない。

 彼はまだ、正式には治葉ちよの父ではないのは予測していた。

 それは先程、彼女が敬語で対応していた所からも見て取れる。



 大方おおかた、再婚なのだろう。

 熟年離婚なんてワードも出ているし、それは何ら不思議ではない。

 気になる点を強いて挙げるとすれば、「事前に説明がしかった」くらいである。



 論点は、そこではない。

 男性が名乗った『月出里すだち』という名字に、聞き覚えがったのである。



「あ……あのっ……」



 答え合わせは、程無くして行われた。

 彼の、娘の登場により。



「ま……真由羽まゆはぁ!?」

「!?」



 ここに来て、まさかの知り合い追加。

 それも、常時と違って、キブンガーを始めとした機械を持たない、私服の状態で。



 クールな印象の強い治葉ちよのオーバー・リアクション。

 会食相手として治葉ちよ出夢いずむも同席するとは知らず、困惑する真由羽まゆは。 



 それらを受け、月出里すだち父は多少、驚いた。



「おや?

 もう、僕の娘と懇意にしてくれていたのかい?

 そういえば治葉ちよちゃんは、『はなふさ高校』の生徒だったね。

 うち真由羽まゆはと同じく」

月出里すだちさんの、娘!?

 あたし真由羽まゆはが!?」

「僕の娘だよ、治葉ちよちゃん」

刃舞はもうさん、知らなかったの?」

「だってあたし真由羽まゆはの名前しか知らなかったもの!

 むしろ、なん灯路ひろは知ってるのよ!?」

「黒板」

ずるじゃない!!」

「どこが?」



 結構な言い掛かりだった。



「改めて紹介させてもらうよ。

 娘の、真由羽まゆはだ。

 この子は、人と話すのが苦手でねぇ。

 中学までは、『ことばの教室』に通っていたほどなんだ。

 歯並びと、アニメ声により、吃音でね。

 それ以外でも、内気でシャイ。

 そして、ハーフ、オッド・アイ。

 とまぁ、複数のハンデを抱えていて。

 今まで顔見せ出来できなかったのも、それが理由さ。

 今まで、ゲームでしか友達を築けなかった都合上、気にしいでねぇ。

 誘っても、好物で釣ろうとしても、『迷惑掛けたくない』の一点張りでね。

 それなのに今日、勇気を出して、踏み出してくれた。

 見ての通り、自慢の愛娘だ。

 父親として、娘のガッツ、優しさを讃えさせてしい」



 真由羽まゆはの頭をで、拍手をする父。

 そういう流れだったので、3人も乗った。

 主賓である真由羽まゆはは、肩を縮こませつつ、満更でもなさそうだった。



「あ……あの……。

 マユは……お邪魔、ですか……?」



 うつむきがちに、一同に尋ねる真由羽まゆは

 かさず治葉ちよが否定しようとするも、それを出夢いずむが止め。

 そのまましゃがみ、真由羽まゆはと目線を合わせる。



月出里すだちさん。

 月出里すだちさんは、イタリアン、好き?」

「……え?

 あ……は、はい……」

「こっちと好みが同じだ。

 じゃあ、決まりだね。

 一緒に食べても、い?」

「……」



 意思表示の手段であるキブンガーがいのを忘れ、指を動かす真由羽まゆは

 ややって思い出し、真っ赤になりつつも、首肯した。

 出夢いずむは、かすかに微笑ほほえみつつ、続ける。



月出里すだちさんは、ちゃんと話せる。

 予想外でこそあったけど……月出里すだちさんと話せて、うれしいし、楽しい。

 だからさ、月出里すだちさん。

 月出里すだちさんは、断じて『邪魔』でなんかないよ」

「〜っ!!」



 感謝を伝えようとするも、言葉に出来できず。

 真由羽まゆはは、涙を流しながら、何度かうなずいた。



「てな感じなんですけど。

 ご相伴しょうばんに預かっても、大丈夫ですか?」

勿論もちろんです。

 娘を慕ってくれて、ありがとうございます」

「メッカワくんとお食事なんて、キラやば〜っ!」

「母さん、ハウス」

いやぁぁぁぁぁぁ!!」



 まさかの退場を食らい、全力で抗う刃舞はもう母。


 

 色々とったものの。

 こうして話は纏まるのだった。



「すみません。

 もう1人、ゲストを招いても、構いませんか?」



 そう言いつつ、何故なぜか鞄に手を入れ、なにかを取り出す月出里すだち父。

 それは、刃舞はもう母以外には見慣れた、真由羽まゆはの相棒。



 キブンガーの、最新版だった。



「娘が悲しんでいる所を、昔から見ていたからね。

 思い切って脱サラして、こういうのを開発する事業を始めたんだ。

 もっとも、今でこそ軌道に乗ったものの、当初は途方もない大博打で。

 了承を得られず、妻には三行半みくだりはんを書かされてしまった。

 そんな駄目ダメな父親を、この子は選び、認め、付いて来てくれた。

 しからば僕には、父親としての責務を全うする義務が生じる。

 少しでも真由羽まゆはを、自由にさせる義務がね」



 言いながら、真由羽まゆはの頭にセットし。

 月出里すだち父は、襟を直し、スマホを少し操作し、向き合う。



「個室のる隠れ家を予約した。

 そこならば、昔みたいに中傷、嘲笑される心配もい。

 これから、そこに行こう。

 沢山たくさん、話そう。

 5ではなく、6で」



 公衆の面前で、唐突に娘の秘密を明かしたり。

 同じく、脈絡く拍手をしたり。

 他にも、妻と別れたエピソードを語ったり。

 先程から、空気の読めない所が垣間見えた月出里すだち父。

 


 それでも、出夢いずむは確信した。

 この人は、善人だと。




「賛成〜!

 この子も、めっかわ〜!!

 ちょっと触らせて〜!」



 空気を打破し、キブンガーで遊ぶ刃舞はもう母。

 可愛い物に目が無い彼女の性分に、三人は初めてホッとした。

 真由羽まゆはも、キブンガーを七変化を披露している辺り、新しい母に馴染んで来たらしい。



「……ちょっと待って」



 和やかなムードに包まれる中、不意に治葉ちよが開口する。



「て、ことは……!

 これから、あたし真由羽まゆはと、一つ屋根の下、大っぴらに暮らせるってことぉ!?」

「だから、僕の娘だよ、治葉ちよちゃん。

 あと、誕生日的に、君にとって、真由羽まゆはは姉だよ」

「イヤッホォォォォォ!!

 ママ、超絶グッジョブ!!」

「ママって呼んでもらえて、うれし〜!!」



 盛大に歓喜し、抱き合う親子。

 そのさまを眺め、月出里すだち父は、少し引きながらこぼした。



「……再婚相手、ミスったかな?」



 出夢いずむ真由羽まゆはは、なにも言えなかった。



 なにはさておき。

 そこからは、平穏無事に済み。

 6人でのディナーを、各々に楽しみ。



 そして数時間後。

 保護者と別れた3人は、モクテルを取り扱うバー、『liKIDリキッド』に来ていた。

 ここも、月出里すだち父の伝手で、現在は貸し切りとなっている。



ずは、お疲れ。

 ボロが出なくて、安心したわ」

「ど、どうも……」



 互いのグラスを合わせ、早くも中身を空にする治葉ちよ

 ここがドリンクバーで本当にかったと、出夢いずむつくづく思った。



真由羽まゆはも。

 精一杯、話そうとしてくれて、ありがとう」

「は、はい……」



 両手でグラスを持ち、ちびちびと呑んでいた真由羽まゆはが、恥ずかしがりながら返答する。

 キブンガーがニッコニコな辺り、悪い気はしないらしい。



「ところで、灯路ひろ

 おかわりが注がれる中、治葉ちよが尋ねる。

なんで、あたしの事情、聞かなかったの?」



 事情。

 それすなわち、「何故なぜ出夢いずむに彼氏役を務めさせたのか?」という疑問。



 少し考え。

 出夢いずむは、素直に明かした。



「聞かれたくなさそうだったから」

「それだけ?」

「うん」

「それだけの理由で、不鮮明なまま、合わせてくれてたっての?」

「変、かな?」

「そうね。

 でも、嫌いじゃないわ」



 再び、直ぐに呑み干す治葉ちよ

 そのまま、カランカランと氷を鳴らし、続ける。



「……もう、なんとなく、察してるでしょうけど。

 うちの親、滅茶苦茶、子供っぽいのよ」

「……うん」



 可愛い物に目が無い所とか、特に子供それっぽかった。



「そういう調子だから、父さんにも愛想、尽かされちゃってさ。

 そんな母さんの姿を見て、思ったの。

 あたしが、しっかりしなきゃ。

 あたしが、母さんを守らなきゃ。

 自立した、一流のレディーにならなくちゃ、って。

 そうして、今のあたしが形成されたってわけ



 氷を飲み、噛み砕き、治葉ちよは続ける。



「母さんには、なるべく心配かけたくないのよ。

 だから今日、恋人役として、あんたを求めたの。

 二人には、最初から見透かされてそうだけど。

 それでも、構わなかった。

 そんなふうに頼れる相手が見付けられたんだって。

 その趣旨が伝わったのなら、あたしは本望だった」



 グラスを返し再び、おかわりをする治葉ちよ

 そのまま、スッキリした顔で、出夢いずむと向き合った。



あたしの出した緊クエに、あんたは答えてくれた。

 あんたのこと、気に入ったわ。

 今度は、あたしの番。

 誓約通り、あんたに協力するわ。

 あたしも、『トッケン』復活のため、一枚噛むわよ」


 

 改めて、出夢いずむの味方になる治葉ちよ



 その横で、真由羽まゆはがいそいそと飲み干し、ピシッと手を上げた。

 別にグラスを空ける必要まではかったのだが、決意表明というか、気持ちの問題らしい。



真由羽まゆはも、ですって。

 となれば、次の攻略対象は、士雨しぐれね」

院城いんじょうさんじゃなくって?」

「ええ。

 あの子、どう見ても最難関ですもの。

 色んな意味で」

「……確かに。

 色々と、大変そうだ」

「あんたも気付きづいた?」

「……うん。

 だって、いくらなんでも、話が上手うまぎるし」



 院城いんじょう 音飛炉ねひろは、自分達に、嘘をいている。

 それが共通認識だと確信し、出夢いずむかすかに安心。

 と同時に、先が思いやられた。



 あくまでも、自分達の見立てだが。

 院城いんじょう 音飛炉ねひろは、同じ穴のむじな

 だが、なんらかの理由により、それを隠蔽し。

 それでいて、「根っからの善人」的なポジションを利用。

 あくまでも「サブ」として、サポート役に徹し。

 時が来ればいつでも離れられるような。

 そんなポジションを、確立せんとしている。



 これは、単なる仮設に過ぎない。

 けれど、そこまで見当違いではないだろう。

 何故なぜなら、「根っからの善人」というだけなら、おかしいのだ。

 あそこまでタイムリーに、最初から『トッケン』が本命だった治葉ちよ真由羽まゆはと同時、はたまた一足早く、あの場に現れるのは。

 そもそも、『トッケン』の部室は3階、1年生の教室は1階に位置している。

 帰り道に偶然、なんとなく、軽い気持ちで立ち寄れるような条件は揃わないし成り立たない。



 つまり。

 院城いんじょう 音飛炉ねひろは意図的に、望んで、『トッケン』に入ったのだ。

 そんな背景を、部員である出夢いずむたちには明かさぬまま。



「ここまで秘密だらけの人間を、あたしは信用出来できない。

 けど、近い内に、化けの皮を剥がしてみせるわ」

「ルパパト式に?」

「ぶっとばっすぞぉ?

 かく

 院城いんじょうは、最後よ。

 それに、4人も揃えれば。

 外堀さえ埋めてしまえば、完落ちまでは、時間の問題でしょ?」

「……かなぁ」



 その真偽はさておき。

 これで、方針は定まった。



 次のターゲットは、士雨しぐれ 風凛かりん

 彼女に、自分の意志で、『トッケン』に加入してもらう。



 それもそれで、大変そうではあるが。

 他に道がい以上、仕方しかたい。



 かくして、3人は互いを労い、前途を祝し。

 4人目の仲間の獲得に向け、動き出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る