3 イケジョ、森ガール、ニセ彼氏
新生『トッケン』の結成に向けて、動き出さんとする
そのスタートは、控え目に言って絶不調だった。
残り4名の部員(なるべくガチ勢)の確保。
それも、あと6日以内にという無理難題さ。
おまけに、同士候補の仲、相性の悪さ。
入学初日から「学園のマドンナ」の地位を確立しつつある彼女。
そんな高嶺の花が、まだ認可されていない、同好会未満のアングラに、善意だけで
加えて
そうじゃなくても、他に引っ掛かる店が
その真偽はさておき。
お
それに付随する形で、
協力を惜しまないというスタンスの彼女に、戦力外通告をするのは忍びない。
かといって、
更に現状、宙ぶらりんな
自体の深刻さ。
考える
心労の重さ。
それらにより、
だが、しかし。
ここで諦める
偉大なる諸先輩方や、自分に最後のチャンスを恵んでくれた
「ん?」
そんな風に、決意を新たにしていた下校中。
見覚えの有るシルエットを、
彼の頭を悩ませてた一因、
と、付近には仕事上がりと思しき、スーツ、ドレスを着た男女の姿も。
どうやら、これから
かと言って「このまま明るく声を掛け、簡単に挨拶、自己紹を済ませ、早々に退散する」といった気さくさを、自分は持ち合わせていない。
よって、この場はスルー一択である。
そう決断し、気取られぬまま、迂回せんとする
そんな彼の前に、立ちはだかる影。
「思った通り……メッカワくんだわぁぁぁぁぁ!!」
良く分からない叫びをしつつつ、
唐突さ、距離の近さ、押し付けられる柔らかい感触。
様々なパンチにより、
「ちょっと。
何やってるのよ、母さん。
いい加減、可愛い
不意に、美女の首根っこを掴み、
誰を隠そう、
彼女は、母の奇行の詫びをしようと目線を運び、ギョッとした。
ここに来て
「
いきなり、ごめんなさい」
「へ、平気……。
こっちこそ、ごめん。
「今回は、
だったら、謝るんじゃないわよ。
あんた、男でしょ。
もっと、ドーンッと構えてなさいよ」
「いつもは、こっちの
「だって、あんた、てんで
みっともないったらありゃしないわ。
そうじゃなくでも自分の意見、全然、言わないし」
「……
「悔しかったら、もっと己を曝け出してご覧なさいな」
「そんな、簡単に」
「簡単よ。
あんたが不必要に難易度上げてるだけよ」
「
「真理よ」
いきなり応酬を始める二人。
皮肉にも不覚にも、部活絡み以外でここまで話せたのは、これが最初だった。
「なになに〜?
チ〜ちゃんの、良い人〜?」
「母さん。
人前で、その呼び方、
二言目には頼んでるでしょ」
「チ〜ちゃんだって、ママのお願い聞いてくれないじゃない。
いつもみたいに、『ママ〜』って呼んでくれてないし〜」
「ちょっ……!?
それも、
「初めまして〜。
チ〜ちゃんが、いつもお世話になってます〜」
「い、いえ……。
こちらこそ……」
「話、聞けぇ!!
てか、
やるならやるで、もっとしっかり、徹底なさいっ!」
「どっち?」
中々に無茶な要求をする
そのまま彼女は、
「時に、
あんた今、空いてる?」
「隣が?」
「そういうんじゃなくて、時間が。
あんたのプライベートなんて、尊重はすれども、まだ興味なんて湧かないわよ」
「暇だよ。
あと、やっぱり
「なら、話は早いわ。
たった今から、あんたを、
「拒否権は?」
「
あんたと
つまり、「
要するに、退路を断たれたのである。
「……報酬は?」
「今晩は2人に、あんたの大好物を振る舞って
幸い、プランも予約もまだだったし」
「だけ?」
「
「いつだって、そうだよ。
ちょっと分かり
じゃなきゃ、ここまで未練がましく『トッケン』に拘ってない」
「それもそうね。
で? あんたの、
意味深に、小悪魔に、挑発的に微笑む
明らかに、『分かってる』顔だった。
不承不承感を全面に押し出しつつ。
「『イタリアン』。
それと、『もうちょっと
「決まりね。
善処するわ。
その代わり今晩は、恋人として存分に働き倒して
お覚悟なさい」
「……こっち、普段は口下手だよ?」
「熟知してるわ。
それに、そこまでは求めてない。
適当に相槌さえ打ってくれれば、それで結構よ。
平時と変わらないでしょ?」
「……当て擦ってる?」
「当然。
それと、今この場においてのみ、あんたを『
カップルなのに名字呼びじゃあ、怪しまれるものね」
「
「いつも通りで
不慣れ、ヘタレ感出してた方が、母さんの機嫌を取れる。
そこまで馴れ馴れしく接せられても、
「
「ええ。
それが、
「
「知ってる。
でも、ありがと。
それより、そろそろ行くわよ。
じゃないと、
「擦り合わせは?」
「出たとこ勝負よ」
「オッケー」
話が纏まり、拳を突き合わせる二人。
かくして、二人は作戦開始した。
「おや?
もう話は済んだのかい?」
「はい。
お待たせしてしまい、すみません、
「え〜?
ママは〜? チーちゃん〜」
「そろそろ猛省して。
それより、紹介するわ。
「……初めまして」
「名前まで、可愛い〜!
「
「分かってるって、メッカワくん〜!」
「もう、それで
「こちらこそ、
私は、
「……?」
別に、名字が違っていた
彼はまだ、正式には
それは先程、彼女が敬語で対応していた所からも見て取れる。
熟年離婚なんてワードも出ているし、それは何ら不思議ではない。
気になる点を強いて挙げるとすれば、「事前に説明が
論点は、そこではない。
男性が名乗った『
「あ……あのっ……」
答え合わせは、程無くして行われた。
彼の、娘の登場により。
「ま……
「!?」
ここに来て、まさかの知り合い追加。
それも、常時と違って、キブンガーを始めとした機械を持たない、私服の状態で。
クールな印象の強い
会食相手として
それらを受け、
「おや?
もう、僕の娘と懇意にしてくれていたのかい?
そういえば
「
「僕の娘だよ、
「
「だって
「黒板」
「
「どこが?」
結構な言い掛かりだった。
「改めて紹介させて
娘の、
この子は、人と話すのが苦手でねぇ。
中学までは、『ことばの教室』に通っていた
歯並びと、アニメ声により、吃音でね。
それ以外でも、内気でシャイ。
そして、ハーフ、オッド・アイ。
とまぁ、複数のハンデを抱えていて。
今まで顔見せ
今まで、ゲームでしか友達を築けなかった都合上、気にしいでねぇ。
誘っても、好物で釣ろうとしても、『迷惑掛けたくない』の一点張りでね。
それなのに今日、勇気を出して、踏み出してくれた。
見ての通り、自慢の愛娘だ。
父親として、娘のガッツ、優しさを讃えさせて
そういう流れだったので、3人も乗った。
主賓である
「あ……あの……。
マユは……お邪魔、ですか……?」
そのまま
「
「……え?
あ……は、はい……」
「こっちと好みが同じだ。
じゃあ、決まりだね。
一緒に食べても、
「……」
意思表示の手段であるキブンガーが
やや
「
予想外でこそあったけど……
だからさ、
「〜っ!!」
感謝を伝えようとするも、言葉に
「てな感じなんですけど。
ご
「
娘を慕ってくれて、ありがとうございます」
「メッカワくんとお食事なんて、キラやば〜っ!」
「母さん、ハウス」
「
まさかの退場を食らい、全力で抗う
色々と
こうして話は纏まるのだった。
「すみません。
もう1人、ゲストを招いても、構いませんか?」
そう言いつつ、
それは、
キブンガーの、最新版だった。
「娘が悲しんでいる所を、昔から見ていたからね。
思い切って脱サラして、こういうのを開発する事業を始めたんだ。
了承を得られず、妻には
そんな
しからば僕には、父親としての責務を全うする義務が生じる。
少しでも
言いながら、
「個室の
そこならば、昔みたいに中傷、嘲笑される心配も
これから、そこに行こう。
5人ではなく、6人で」
公衆の面前で、唐突に娘の秘密を明かしたり。
同じく、脈絡
他にも、妻と別れたエピソードを語ったり。
先程から、空気の読めない所が垣間見えた
それでも、
この人は、善人だと。
「賛成〜!
この子も、めっかわ〜!!
ちょっと触らせて〜!」
空気を打破し、キブンガーで遊ぶ
可愛い物に目が無い彼女の性分に、三人は初めてホッとした。
「……ちょっと待って」
和やかなムードに包まれる中、不意に
「て、
これから、
「だから、僕の娘だよ、
あと、誕生日的に、君にとって、
「イヤッホォォォォォ!!
ママ、超絶グッジョブ!!」
「ママって呼んで
盛大に歓喜し、抱き合う親子。
その
「……再婚相手、ミスったかな?」
そこからは、平穏無事に済み。
6人でのディナーを、各々に楽しみ。
そして数時間後。
保護者と別れた3人は、モクテルを取り扱うバー、『
ここも、
「
ボロが出なくて、安心したわ」
「ど、どうも……」
互いのグラスを合わせ、早くも中身を空にする
ここがドリンクバーで本当に
「
精一杯、話そうとしてくれて、ありがとう」
「は、はい……」
両手でグラスを持ち、ちびちびと呑んでいた
キブンガーがニッコニコな辺り、悪い気はしないらしい。
「ところで、
おかわりが注がれる中、
「
事情。
それ
少し考え。
「聞かれたくなさそうだったから」
「それだけ?」
「うん」
「それだけの理由で、不鮮明なまま、合わせてくれてたっての?」
「変、かな?」
「そうね。
でも、嫌いじゃないわ」
再び、直ぐに呑み干す
そのまま、カランカランと氷を鳴らし、続ける。
「……もう、
「……うん」
可愛い物に目が無い所とか、特に
「そういう調子だから、父さんにも愛想、尽かされちゃってさ。
そんな母さんの姿を見て、思ったの。
自立した、一流のレディーにならなくちゃ、って。
そうして、今の
氷を飲み、噛み砕き、
「母さんには、なるべく心配かけたくないのよ。
だから今日、恋人役として、あんたを求めたの。
二人には、最初から見透かされてそうだけど。
それでも、構わなかった。
そんな
その趣旨が伝わったのなら、
グラスを返し再び、おかわりをする
そのまま、スッキリした顔で、
「
あんたの
今度は、
誓約通り、あんたに協力するわ。
改めて、
その横で、
別にグラスを空ける必要までは
「
となれば、次の攻略対象は、
「
「ええ。
あの子、どう見ても最難関ですもの。
色んな意味で」
「……確かに。
色々と、大変そうだ」
「あんたも
「……うん。
だって、
それが共通認識だと確信し、
と同時に、先が思いやられた。
あくまでも、自分達の見立てだが。
だが、
それでいて、「根っからの善人」的なポジションを利用。
あくまでも「サブ」として、サポート役に徹し。
時が来ればいつでも離れられる
そんなポジションを、確立せんとしている。
これは、単なる仮設に過ぎない。
けれど、そこまで見当違いではないだろう。
あそこまでタイムリーに、最初から『トッケン』が本命だった
そもそも、『トッケン』の部室は3階、1年生の教室は1階に位置している。
帰り道に偶然、
つまり。
そんな背景を、部員である
「ここまで秘密だらけの人間を、
けど、近い内に、化けの皮を剥がしてみせるわ」
「ルパパト式に?」
「ぶっとばっすぞぉ?
それに、4人も揃えれば。
外堀さえ埋めてしまえば、完落ちまでは、時間の問題でしょ?」
「……かなぁ」
その真偽はさておき。
これで、方針は定まった。
次のターゲットは、
彼女に、自分の意志で、『トッケン』に加入して
それもそれで、大変そうではあるが。
他に道が
かくして、3人は互いを労い、前途を祝し。
4人目の仲間の獲得に向け、動き出すのだった。
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