3 Fail ー失敗、欠乏、不合格ー
『待ってる。
ずっと、待ってるから』
二人で幸せになる未来を誓い合ったヒロの、最後で最期の
『待ってる』が指し示すのは場所? 時間?
『自分が大人になるまで、空の向こうで待ってる』という意味?
それとも、『小説家として大成するまで』的な?
この二択なら両方、叶えられそうに無い。
自分は、向こうになんて
そんな業の深い自分が、ヒロと同じ場所になど、行ける道理は無い。
「ごめん……ヒロ……」
一人、部屋の中、ベッドの上で
「また……
やっぱり……君が思ってくれている
強くも
※
「言った
『この段階でで、俺があんた
別に、『他にも
あん時のあんたは、まだそれを知れる、受け止められるだけの成長を遂げていなかった。
だから、意図的に伏せた。
よって、俺に八つ当たりするんは、お門違いだぜ?」
テスト開始から、早3日目。
残り4日の折返し地点で、
その姿を見て、静かに
この二人は、本当に似ているなぁと。
「別に、それについて問い質す
あなたや
飲み終えた紙パックを潰し、袋の中に入れ、何となしに空を見上げながら、
「推察の通り、今の俺は、あいつの保護者、同居人でもある。
年甲斐も無く、そんな暑苦しい
他の
で、一杯な罪悪感で張り裂けそうな以上、
向こうも、
筋違いなのは百も承知で、
たった1人の愛娘を奪われたんだ。
逆恨みしようと、無理も
誰も咎められねぇよ」
床を見下ろしつつ、
「死因は、交通事故。
本命ではなかったものの、最終選考に残ったのを祝うべく。
酒と薬を多量に服用してた、イカれた老いぼれトラック野郎が、信号無視して、正面から突っ込んで来やがった。
両親は、押しつぶされて即死。
不幸中の
それが多少、クッションになってくれたお
しかし、三人が死んで
結果、今のペシミスト、無気力、人間不信、捻くれ者、絶えず眠ってる
どうしようもないとはいえ、不甲斐ない自分に嫌気が差したのか、
「あいつも昔は、あんたみたいに、ガンガン行くタイプだった。
っても人前では、これまたあんた
テンションやキャラが激変する
年の割には、口調も立派に淑女しててよ。
名サポーターだった。
あいつ
中学生の時点で熟年夫婦感を惜しみなく醸し、噛ましていたからな」
ここで
「
誰に対しても物怖じしない、自分の好きを、スタイルを貫く。
そんなあんたが、
あんたと話し、笑い、同じ物や時間を共有する
それでいて、あんたと遊び呆ける
最愛の人を失って
気休めでしかないのは重々、理解してな。
あいつが教師陣に何も言われないのは全員、承知の上だからだ。
言っとくが、『取り扱い注意注意』じゃなく、『厳禁』な。
言い間違えじゃあ、断じてねぇ。
今の
だから、主体性まで喪失したのを逆手に取って、周囲を拒み続けてる。
名前に性格、髪型……細部に至るまで瓜二つな、フィクション染みたあんたが正式に入部したのを川切りに、本性を隠せなくなって来たんだ。
自分から両親、許嫁を奪った、この世界への、途方も当て所も
誰かと一緒に
そんな、沸々とした
フェンスに預けていた体を戻し、ポケットに手を突っ込みながら。
「俺から教えられるんは、ここまで。
今度こそ正真正銘、これで全部だ。
こんなだが、これでもあんた
背中を向け、立ち去ろうとする
それまで意図的に閉口していた
「だったら……協力、してください」
涙している。そう振り返らずとも取れる、震えた声で、
「あなたにしか、頼めないんです。
あなたじゃなきゃ、
※
たがか2日間。
されど2日間。
その短い期間に
そして、テスト開始から6日目にして晴れて、対
「正直に明かすよ。
ここまでとは、
度を越して、どうかしてるよ、あんたは」
「あ、あはは……。
褒め言葉として、受け取っておきます……」
心身共に疲れ果てた
「もう……
今度こそ確実、堅実、誠実に、決めなくては……」
「ええ。
そうね。
頼んだわよ、ヒロ」
背中を叩いた
やっぱり自分達には、少女漫画より少年漫画が似合うらしい。
「あー……その
和気藹々かつ
「
『一週間の内に、解き明かしてみろ』と。
つまり……『最終日まで
そんな
ーーまただ。
世界や時間、音や色が一斉に壊れた
自分だけが取り残された
物凄く胸騒ぎがする、
「っ!!」
疲弊した体に鞭を打ち、
階段で転びそうになり、生徒や先生に衝突しかけ、靴すら履き替えず、無我夢中で、目的地へと足を動かす。
「
鍵すらかけられていなかった
その中には、人の気配など
オープンにしている代わりに空洞で、実体が
そんな室内は
絶対に外れて
この町にすら、
お気に入り登録をしていた小説……
「
そんな
更新はされていた。
話は進んでいた。
これは、間違い
それは、お世辞にも『小説』の体は成していなかった。
単なる言語の羅列によって無機質に紡がれた、物語……粗筋ですらなかったのだ。
「な、に……これ……」
20万字にも及ぶ文字数で展開された、第1話。
それに反し残りの4話は、
熱量が、気持ちが一切、届いて来ず、どこまでも業務連絡めいた、最低最悪のネタバレ。
明らかに自暴自棄、愚行でしかなかったのだ。
消息を絶った
自分が続きを切望していた作品の、
テーブルの上に置かれた、彼のスマホ。
自分が不合格者の烙印を押されたと悟るのに。
これ以上、他にどんな証拠、条件が必要だというのか。
「……」
しかし、綺麗に片付けられた状況下で、単なるお菓子が意味深に置かれるというのは、考え
謎の引力に誘われるまま、好奇心に従い、
ホチキスで止められた、何枚かの用紙だった。
ただ、1枚目には何も書いておらず。
不思議に思い、
数秒後。
ポツポツと涙が
『主演、ヒーロー/
「なに……これ……」
まるで
そのまま彼女は、衝動的にページを
そう……
自分が夢にまで見た、『ハンパイア』の理想型、あるべき姿を。
完璧だった。
正に会心の
『
無視され、嘲笑され、忘れられ。
それでも
打ちのめされ、便利に使われ、騙し騙しで書き進め。
依然として変わる
過去、現在、未来が全部、言葉になって、そこには詰まっていた。
「ヒロッ!!」
「
自分の
「まだ……まだ、終わってない!!
終わらせやしない!!
だって、まだ生きてる!!
ちゃんと、生きてる!!
彼を、生かし続けている!!
こんな形で、こんな所で……終わらせたり、しないっ!!」
本を広げ、キャスト欄に記された一同の名前を見せ、続いて
彼の心を、包み込む。
「全員、ダッシュで俺の車に乗れ!!
こんな
今なら、まだ間に合う!!
急げ!! 早くっ!!」
女性陣が頷き合い、命令通り、
そして
銘々にシートベルトを装着するや
「
渋滞状況をサーチして、最短コースをナビしろ!!
それが終わったら、全員の家庭に連絡と、俺の身の潔白を
最後に、
お前が、この決戦の要だ!!
この2日間に叩き込んだ
残りの二人も各自、役割も
「せ、先生?」
「
「気にすんな!!
実名と顔は出しちゃいねぇが、これでも多少、名の知れた心理学者でな!
じゃなきゃ、あいつを養える
で、あいつの保護者でもある俺に、向こうの編集から接触して来たんだよっ!
あいつは今、九分九厘、東京のどっかのホテルに
小説家として働き
で、その答えを出すまでの猶予が、明日までの一週間だったって
あっちは、良くも悪くも、
あいつを連れ戻すには、あいつの口から直接、『戻りたい』って言わせるしか
だから俺は、この日に備え、お前
今日は一睡もしねぇ
保護者の、顧問の威信にかけ、
普段とはかけ離れた熱い
それに報いるべく、
と、その時、
この場には不在の、もう最後の部員、
「『滞在中のホテルで、
要約した結果、そんな感じの
「はぁ!?
話、
「別に、普通の人間です!
ちょっと、都合
摩訶不思議な理由で、家系の因縁を断ち切れる程度の!」
「益々、分からん!
だが、
そのまま、見張らせとけ!」
「無理です!
既読が付かない所から察するに、もう落ちてます!
あの子、かなりのロング・スリーパーで、半日は寝てないと
しかも、一度寝たら最後、きっかり時間になるまでは、
「有能なのか残念なのか、分かんねぇ!!
まぁ、構わん、礼だけ言っとけ!
あと念の
それが終わったら、家族への報告だ!」
「はいっ!!
代わりに、
ここには
ひょっとしたら、本当に強運なのは、ある意味、
真実は、さておき。
これで、行く先は分かった。
「
あなたは、本当に
意地悪で、捻くれてて、気紛れで、計算高くて、不器用。
けれど、それを補って
そんな、いつまで経っても、どれだけ断とうとしても、消息を絶っても決して嫌いにさせてはくれない、卑怯者です。
だから……今から、迎えに行きます。
私達が
それぞれの願いと決意を胸に秘め。
一行を乗せた車は、寝ずの夜を
その果てに待つゴール……
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