2 Fake ー虚空、虚構、虚言ー
「いやさぁ。
変人、変人だとは常々、思っていたわよ、うん。
でもさぁ……
「
翌日。
授業を終え、風邪で休んでいた
お
「一番酷いのは、こんな
で?」
「病床に臥せている上に、汗だくで寝起きな所、悪いけど。
掻い摘んで、現状報告を願おうかしら」
※
「なるほど。大体分かったわ。
ママちょっと、緊クエ攻略して来るから、この子の面倒、お願いね」
物凄く黒い笑みを浮かべ
「平気よ。
ただ、男心を擽られがちな残念系ヒーロー脳とはいえ。
雨の中、傘も差させないまま女子を放置し、それだけに飽き足らず、本心を明かさない代わりに意味不明な難題叩き付けた末に置き去りプレイなんぞ噛まし、極めつけに何食わぬ顔でシレッと自分だけ登校している上に大事な事を何一つ語ろうとしないまま保健室で眠り続けてた、男の風上にも置けない不届き者に、人誅お見舞いするだけだから」
いつもの長ったらしい、それでいて
そんな、2つの意味で平気ではなさそうな発言をする
ややあって、どうにか本調子に戻った
「
上等じゃない。やってやるっての。
最初っから露骨に不機嫌だった
「でも、まぁ……今日の所は、あんたは療養に専念なさい。
その代わり、明日からはバリバリ
ママ味を押し出しつつ、
隣で
と同時に、悔しく、歯痒く思った。
この輪の中に自分も
こんな簡単な
でも、と
一刻も早く
急がば回れ。
万全の調子になってから、今日の分の遅れを取り戻そう。
そう決心した
※
「で、おめおめと、俺に聞きに来た
はーあ……俺としてぁ、もっと違う意味、形で、女の子達に来て
翌日。
部室にて、例によって適当っぽい言動をしつつ、落胆した演技をする
全快した
「まぁ、
こんなでも、この件に関しちゃ、負い目を感じててな。
確かに俺ぁ、あいつの
すまん。それについては、猛省してる」
「え!?
あ……は、はい……。
こちらこそ……」
まさか、こうも殊勝に来られるとは思ってもおらず、頭を下げられパニクった
そして、顔を上げた
「『先生には、事情を聞くな』。
「は、はい。間違い
「なるほど。
で、その中に、『スクール・カウンセラー』であって厳密には教師ではない俺は、含まれていない。
そう判断したから、あんた
「はい。
何だかんだで甘い
「ビンゴ。その通り。
まるでどっかのゲン◯みたいだが、その認識で正しい。
であれば、だ。
この段階で、俺があんた
そうして彼は、覚悟を決め直した3人に、真実を明かす。
「教えるとしよう。
あいつの、過去についてだ」
※
「ご両親、そして彼女である
それが、これまでで私達が導き出した、あなたの断筆理由です」
今日も今日とて保健室の主であり続け、それでいて授業終わりにこっそり帰宅していた
いつもの調子に戻っていた
「よく1日で、そこまで調べたね。
称賛に値するよ」
1日。
そう、
分かっているのだ。
ともすれば自分の
その上で、微塵も気持ちの入っていない拍手を送り、茶化しているのだと。
ここ数日で見せて来た、
それでも、彼女は気丈に振る舞う。
「私達の見解は、こうです。
あなたは、ご両親、そして幼馴染で恋人だった
『自分は
けれど、『
期待に応えられず誓いを守れなかったあなたは、すっかり意気消沈し、モチベを失い、創作意欲を出せずにいた。
以上が、2日で見出した結論 。
私達の、活路です」
対する
「
ただツキ
それを、『私達が見出した結論、活路』だなんて。
盗人猛々しいというか、厚顔無恥というか」
それまで
「
ストーリーを考えた
おまけに、
「そ、それは……。
今度こそ
「別にベストセラー作家でもない、
そもそも先生達は、その事実からして知らない。
浅いんだよ、君は、君達は。
もっと想像力を働かせ、探究心と疑問を持ち、キャラに感情移入し寄り添わないと。
そんなんじゃ、残り5日でゴールだなんて到底、不可能だよ」
少しして彼は、自分が有
「まぁでも。
その微量かつ脆弱な材料で決戦を挑んで来た蛮勇に敬意を表し、ちょっと種明かしするよ。
『
彼女は、やや臍を曲げ、顔を逸らしつつ、答える。
「知ってます。
あなたが投稿したのと同時期に、大賞を取ったファンタジー小説です。
今を生きる女子のバイブルです。
同世代なら、私でなくとも知ってる
血の代わりに魂の炎『ゼレイズ』を食らう種族、『バンファイア』の生き残りであり。
ゼレイズを実の両親に根こそぎ奪われたが
恋人を蘇らせるべくゼレイズを蓄えつつ、無味乾燥な毎日を何年も過ごしていた彼は、やがて高校卒業と同時にロック・バンドの道を歩み始めたヒロインと出会う。
いつしか、惹かれ合う二人
。だが、そんな二人の前には、強大かつ巨大な悲しい壁が、
という粗筋の、
「で?
それが
「それ、君の目の前に
この辺りでは、ツキ
「……」
とんでもない
「君達は本当に、考え無しだよ。
感情のままに踏み込む前に、相手の事を読み込むべきだよ。
そもそも、ファンタジーってジャンル、縛りだけで、ここまで似通った作品が同時期にブッキングするなんて本来、起こり得ないでしょ。
バンパイア大賞やってるんじゃないんだよ?
盗作か、ペンネームを変えた上で投稿したに決まってるよ。
で、今回は後者。
神作、神作と耳タコな
ちょっと似てるだけで既存の、
そんな手合いが、タイトルとかけて『バンデット』と呼称される
その実態は、流行りに全振りし、媚びに媚びた、あと数年も経てば
めでたし、めでたしーっと」
コミカルに重い話を語る
一通り話し終えた
「クリエイターってのは、その実、単なる虚言者だ。
忘れちゃいけない、忘れたくない大切な
月並みな設定と、手垢塗れのストーリー、食傷のキャラ付けを
ただそれだけの役割を担った、哀れなピエロだ。
分かる?
この世界で今、『本心』という概念から最も遠ざけられているのは、役者でもアイドルでもない。
大して好きでもない、思い入れも無い、ウケのみを無心で最優先しただけの空っぽな内容で、干からびた世界に飢えたミーハー共を酔いしれさせ、断トツの自信作が評価されない
それが、今を生かされているクリエイターの実態だよ」
話せば分かる。
一度、話せば、自分の言葉に、心に、耳を傾けてくれる。
そう、
しかし、はっきりさせられてしまった。
自分が疑わずにいた
それでも、
彼を救いたい気持ちに、偽りは無いから。
「だったら……また、挑戦すれば
あなたの
あなたのご両親も、
虚無に覆われた
「
ありがた迷惑に、偉そうに、突貫工事で、綺麗なだけの、
相手の
自分が発した、たった一度の何気ない一言が、どれだけ他者の心を狂わせるのかなんて、これっぽっち想定していない。
君は……まるで分かってなさ
狂気に満ちた気迫に襲われ、何も
立ってる力すら失せたのか、
体中の体液を吐き出すかの
「ーー
もう、隣に。
父さんも、母さんも……。
ヒロでさえ……」
真っ白になる
脳内なのか視界なのかさえ
『今日はご両親は不在でしたか?』
『
……
自分は
ひょっとしたら「過去」を指し示している可能性だって、きちんと留意すべきだったのに。
「ーー旅立ったんだ。
目の前で。
愛すべき人も、愛してくれる相手も。
もう、
もう……何もかも、手遅れ。
全部……無駄でしかないんだよ」
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