3 ヒーロー志望
それはもう。合法的かつ堂々かつ自由に観たいが
確かに、惜しんでも
自分も正直、「よく、これを自分の通う高校の文化祭で流そうと思ったな」と、そんな感想を抱いている。
それでも……このチープ極まりない世界の中には、自分を確かに惹き付ける、何かが
単なる思い出補正かもしれない。
ずっとプリキュ◯ばかり観て来た
ただ、それだけなのかもしれない。
けど。
それでも、明言が
『間違いも忖度も
……と。
ここまで力説しておいて
いつもはうっとりとして無言なのだが、今日は何だか
理由は分かっていた。
これから自分は、どうすべき、どうありたいのか。
他でもない自分自身の
そして、残り1人、
その
そんな心境では、
その内容を入れるだけのスペースが、今の脳内には
「ん」
「うひゃぁ!?」
自分以外に部室に
二重の意味で驚いた
自分の左に
「い、いつから!?」
「最初から。
存在感薄いから、
言いつつ
自分が少し恥ずかしい態勢を取っている
そして二人は、紅茶を含みつつ、黙って『ハンパイア』を最後まで見届けた。
「……
一つだけ……聞いてもいいですか?」
観終わったタイミングで、そう
「どうして、
退部しようとしていた私を。
あなたは、止めなかったんですか?」
DVDを戻した頃合いで、単刀直入に、気になっていた疑問を投じる
「心配、
『そっか』としか言われず、了承したのか
そしたら間違い無く、
何度だろうと、
「だから、自分は特にアクションを起こす必要は無かった、と?
今日の早朝、私と鉢合わせ時も?」
「3人と、
っても、
そもそも、こっちが受け入れようと入れまいと。
義理堅くて
だったら、結果は同じだよ。
こっちが何かしたところで、確率や展開に変動は
「……」
不思議な人だ。
そう、
だというのに、彼に対して、一切の嫌悪感が湧かない。
目を開けながら絶えず夢の中を彷徨っている
適当な
そんな印象を、
そう……まるで、フィクションの
自分で自分を、キャラとして設定、調整している
そこまで思い至り、
が、彼が自分のカップを指差し合図して来たので、やや遅れてから、自分が持っていた、飲み終えたカップを返却した。
「多分、『他力本願』って言うより、『仲間本願』って感じなのかな?
それがモットーだから、こっちから行動を起こしたりはしない。
放任主義だし、個人の自由を尊重する。
でも、
そういう
テーブルの前に置かれた
「
お陰で、部活を
けど同時に、てんで部活に興味を持たない、持とうとしない人達に合わせて、本来の目的から外れた、それでいて意味も終わりも無い
だから、
そんな
聞きに徹する。
平時と変わらず、こっちから意見、提案したりもしない。
それでも
話してみても、
「……!?」
驚いた。よもや、そこまで読んでいたとは。
けど……だとすれば、話が早い。
やはり、彼は信じられる。
この件の裏側、細部まで知っていて
仲間本願と謳うだけあって、彼は仲間を大切にしてくれる。そして自分を、仲間だと思ってくれている。
なら……迷う必要など、微塵も
「『ヒロイン』。
私は、その言葉が嫌いです。
大嫌いです」
「子供の時から、ずっと、
『優しいし、可愛いし、
その度に、私は心の中で否定します。『私がなりたいのは、目指しているのは、ヒロインではなく、ヒーロー』だと」
スカートの上に置いた手を掴み、零れそうな涙を隠すべく
「私の名前も、嫌いです。
まるで、『君は偽者、ヒーローじゃないよ』、そう嘲笑ってるみたいじゃないですか。
それに、『音』は『いん』とも読むし、順番を変えると『ヒロイン』になります。
やっぱり……私は、ヒーローにはなれません。
別段、意識せずとも放出されるヒロイン感が、それに魅入られた人達が。
私のヒーロー道を阻み、違う方へと導こうとするんですから」
宣言通り、
それでいて、
やっぱり不思議な人だと、
「それに、『
性格と相まって、務めてもないのに、またしても皆が言うんです。『インチョ』『イインチョ』『委員長』って。
でも……
そんな
なのに、悪い気もしないんです。
ヒーローにも通じる物が
不覚にも、多幸感で満たされてしまうんです。
それが、私の確立した、
なので、これまで、その手の
子供の時から絶えず、その勇姿に、優しさに、情熱に、笑顔に恋し、心打たれ、憧れていた。
同時に、思っていた。どうして自分は、女の子なのだろうと。
特撮とて、例外ではない。
ニーズを研究し、流行を取り入れ、新たなアイデアを実践し日々、変化、進化して行く。
その過程で徐々に、女性が変身するヒーローも増えて来たし、最近では初期からレギュラーで加わるまでになった。
しかし、それだけ。
あくまでも、そこまで。
事実、三大特撮の中に、女性を主人公に置いて展開された作品は、依然として一つとして無い。
男女平等が当たり前となり、女性が自由、積極的に前線で働ける
嘆かわしい
『だったらプリキュ◯で我慢しろよ』
『あっちだって、長くやってんだろ』
『マジ◯ジョとかもやってんじゃねーか』
そういった主張も、分かるには分かる。
しかし、そうではない。
根本的に、別問題なのだ。
男性が変身するのと同様に、自分も
決して、プリ◯ュアなどを侮辱したいのではない。
女子らしく、ああいった方向にも興味は
ただ、目指している路線とは、方向性が異なっているのだ。
現に、それで妥協しようとする自分を想像するだけで、
こんな中途半端な気持ちでなりきるなんて失礼なのではと、
そんな板挟みに遭っている
中学生になるまでのリミットが近付くに連れ、大なり小なり恥ずかしさを覚える
『自然な流れなんだ。ちゃ◯やコロコ◯を卒業するのと一緒だ』。
そう、自分に言い聞かせ。
しかし、視聴は続けた。
これだけは、どうしても止められなかったし、抗えなかった。
映画だって、そうだ。
自分の心境や趣味を理解してくれている親に特別許可を得た上で、仮病を使って、休みを取ってくれた父か母の同伴の下、こっそり平日の昼間に、誰にもバレない
けれど、上述の経緯により、その
『これ、すっごく面白いよー』
『イケメンとかイケボとか、めっちゃ出てるよー』
『絶対面白いから、観るべきだって』
そんな
自分の中の本心と日々、死闘を繰り広げながら。
そうこうしている
そして、そのイメージは自ずと『奥ゆかしい』と曲解され。
『
『
『
『
などいった具合に、主観だけで音も葉もない属性をてんこ盛りにされた結果。
今日のマドンナ像、及び収拾のつかない事態が完成してしまったのだった。
その
結局の所、自分の周囲に
男子達は、自分と
女子達は、自分と
そういう
普段、フレンドリーなのも、社交性が高いのではなく、単にコミュニケーションの取り方やライン、加減が分からないが
「とまぁ……そんな
皆さんのマドンナたる
ご清聴……ありがとうございました」
意図的に冗談めいた口調で
彼女は、
自分の大好きな物と、自分を作ってくれた物で満ち溢れた、宝箱の
一度、この部室を離れれば、自分はまた、今まで通り、理想のヒロインを演じなくてはいけない。
そうでなくては、
自分のランクまで下げられるのかもしれないという恐れ。
先入観を台無しにされた逆恨み。
そのお淑やかなイメージとは合致しない趣味へのドン引き。
そんな理由、建前により、好んで
彼女が、単なる特オタだと知れ渡る
成す
自分はただ、これまでの
それでも、自分に親身になってくれる人間など、
そこまで考え、
思い出したのだ。
いや……やっと気付いたのだ。
自分の正体を知っていて、だからこそ近付いて来てくれた、声をかけてくれた、物好きで風変わり、それでいて暖かな存在が
仲間と呼べそうな相手が、きちんと
それも、自分を助けてくれた
ちょっと、分かり
たった今、目の前にだって。
「……
知らず知らずに、ベッコベコになりそうなまでに強く握っていたドアノブを放し、
気付けば手の届く距離に
「やっぱり、
こんなの、私じゃない!!
全然、好きになれない!!
ちっとも、楽しくない!!
てんで、
スマイル・スタイルでヒロイン演じるのは好きだけど!!
それだけで、そこまでで終わるなんて、認めない!!」
もしかしたら、部室の外に誰かが
その
知るか。
構うものか。
そう、
だって、どれだけ変身を重ねても、どれだけ合体しても、自分の中心。
迸る情熱は、消化も冷却も封印も、何人たりとも敵わないのだから。
そして、何より……自分はもう、ありのままになったとしても、一人ではないのだから。
この二人は
ひょっとしたら、同じく部員の
それに、
だから、もう、自分は大丈夫。
きちんと、前を向いて、地に足を着けて、胸を張って、叫びながら全力で、笑顔で走って行ける。
そうやって、戦って行ける。
「っ!!」
目を閉じイマジネーションを膨らませ、確かでビビッドな未来を確信する
そんな彼女の手を、
まるで、踏み出した彼女に、賛同する
応援する
激励する
褒める
「『何もしない』って、言ったのに……」
「ううん。
『何も言わない』って、言ったんだ」
「……詭弁じゃないですか。
ていうか、今、言ってる……」
「一通り聞いたし、意見も提案もしてない」
その通りだ、してやられたと、
そして、
「あはははは!!」
声を上げ、お腹に手を当てて心底、
「あなたって、
「……そこについては
で? これから、どうするの?」
「まーた有言実行、してませんね」
「『質問』は含めてなかった
それで? 答えは?」
「……はいっ」
存外、食えないなぁと感心しつつ、
「決まりました。
いえ……見付けました。
自分が、どうしたいか、どうありたいのか。
その答えを」
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