Ⅱ 院城 音飛炉
1 ヒロインの秘密
『ハンパイア』。
それは、『ハナコー』文化祭にて上映された映画である。
映画と言えば聞こえは
しかし実際はというと、控え目に言って不出来、中途半端、不完全燃焼な物だった
高校の部活で作られたという
その上、色こそ薄いが一応、特撮。
数多くの名作、名優を輩出して
早い話、表面的な部分のみならず、その深奥、話や設定の面白さ、魅力を少なからず理解し。
他者にあらぬ誤解を持たれるかもしれぬ恐怖と恥を覚悟していなければ、
そう……あくまでも部を存続させる
では、と
彼女は今、
それも、自分達の部室で、まだ人の
……と。
「あ……」
「……あ」
目が合い、見詰め合う数秒。
やがて
「……」
放任主義者である
そして、まるで何事も無かったかの
先程まで彼女が触れていた、部室のテレビで鑑賞していたと
けれど、
程
そんな中、
それは恐怖か、はたまた喜びか、
得体は知れないが、少なくとも
何かが今、ここから始まる……いや。
始まった気がする。……と。
「あーっ……ふぁ〜……」
「っ!?」
いや……何者か、ではなく。
「ツキ
「お?」
目を擦りながら、ぼんやりと
「よぉ、
相変わらず
「……また勝手に寝てたんだ。
学校、それも人の部室で。
帰ってる形跡無かったから、そうだろうとは思ったけど」
「自分の
「そっちこそ、今日も歯に衣、着せないね」
何やら少しズレた会話の中、
専用の
「てか、別に
こちとら、OBなんだぜぇ?
これ
「今は単なるスクール・カウンセラーじゃないか」
「固ぇ
それより、お前。
ボサボサ髪のまま、
乱暴なやり方に
寝惚け感をモロに出していた
「おいおい……。
冗談だろ?
起き抜け以外でも
「お前……
茶番劇。
そう酷評され、
しかし、反論材料となり得る、足り得る根拠に乏しく。
『ハンパイア』。
それは、バンパイアの男と人間の女性から産まれたハーフが主人公の、特撮作品である。
特撮らしく、アクションや変身は
が、しかし。
「変身後は顔半分を仮面で隠すだけ」
「全体的にチープ」
「テーマがバンパイアであるが故に大人向けのドロドロ描写が多い」
「バンパイアを最強、不死身にする奇跡の血『
「変身アイテムや武器、CGや爆破は無い」
「気付けばいつの間にかシーンが切り替わり仮面を被っていた、といった具合に変身シーンすらも無い」
「アクションも演技も薄味で、迫力とやる気に欠けており、
「カメラがブレブレで継ぎ接ぎが目立ち、画質も音質も彩度も低い」
「実際に撮影されたのはクライマックスの決戦シーンのみで、そこに至るまでの経緯や設定などは、その年の文化祭限定で配られたパンフレットでしか明かされていない」
と、この
お世辞にも褒められた作品ではない低級の、タイトル通り徹頭徹尾、中途半端な作品である。
これでは
そもそも。
現代において、人間とバンパイアのハーフを現す言葉として、『ダンピール』が
それすらも知らず、『ハンパイア』などという固有名詞を設けているなど。
この時点で勉強、知識、時間、関心、やる気不足が伺える。
しかし、そういったマイナス要因を熟知した上で。
「……あんま
どれだけアレだとしても、
そもそも、これは、ツキ
「はいはい、分ぁった分ぁった。
叔父さんが悪かった。
許して
いきなり普段のキャラに戻り強引に話を切った
その気色の悪さに、
そして、タイムリーに聞こえた、近くで何かを落とした音に、更に血の気が引いた。
「あ……」
気付けば、
つまり……『トッケン』の初期、及び正式メンバーが訪れる頃合いだった。
恐る恐る
二人は今、この、ともすればBがLをしてしまう、禁断さを隠し切れない現場の目撃者となった。
「あー……
大丈夫。大丈夫よ。
いや、正直、未開拓な上に予想外だったから、今はまだ整ってないけど。
同じ部員として最大限、受け入れる覚悟は
あんたと先生がガチってるってんなら」
「心配せずとも、ガチッてないよ。
おはよう、二人とも」
この手のキャラにしては珍しく、意外にも感情豊かで気遣い屋の
「え? ……あ、そう。
なら
「ツキ
「先生に言っても、てんで改善の兆しが見えないから、あんたに言ってるんじゃない。
それ
ほら、見なさいよ。あんたの
あぁ、
安心なさい。
ママだけは、あんたを見捨てるなんて罰当たりな
背後に隠れ震えていた
彼女とは
巻き込まれた被害者でしかないという点を踏まえずとも。
そんな事情はさておき。
そして、袖の裏に隠されたグローブの指先のボタン、及びコマンドにより、彼女のお団子で輝くキブンガーが、それぞれ『!?』『渦巻き』『✕』などに目まぐるしく変化する。
今日も今日とて、オドオド、オロオロしている割には、そんな心境でも的確にキブンガーの目を変えられる辺り、何気に器用な少女である。
「はいはい、そこまでー」
収拾がつかなくなりつつあった状況で、唯一の成人、
「あんま時間無いんしょ?
だったら、そろそろ部活やんなさいよ」
口調はともかく、
そんな彼に向け、3人は同時にジト
「……誰の
「
キブンガーの両目に『
くどい
部員達全員を一時的に敵に回した
「さて、と。問題も解決した
数秒後、この部のリーダー的な立ち位置となっている
「先生に従うみたいで
こうして、三人の部活が始まった。
※
『ヒーロー5つの誓い
1つ。決して
1つ。誰に対しても、等しく優しく慎ましくある
1つ。決して涙を見せず、常に強く明るく誠実である
1つ。怒らず、驕らず、怠らず。日々、心技体を弛まず鍛える
1つ。絶対に、誰にも秘密を明かさない
「とまぁ、個人的ベスト5は、こんな感じかしらね」
本日の活動テーマに対する考えを、
一方、唯一の男性部員、
その、どこか他人事の
「
あんたの意見も聞かせて
「
「そうじゃなくって。
あんたが考えたのも、
「じゃあ次、
「だからぁ……っ」
煮え切らない態度を受け、
そんな二人の険悪なムードにアワアワする
その状況を打破したのは、
不意に外から聞こたノックだった。
「「「……」」」
ややあって、普段のクールさを取り戻した
「失礼します」
部屋の主から了承を得た
本来なら『トッケン』とは無縁な世界で生きている
たった今、この部室の扉を開け、部室に足を踏み入れた者こそ。
誰を隠そう、その救世主、
「っ……」
彼女の登場により、舌打ちなり歎息なりしそうな、
それもその
「……白けた。
帰る。
どうせ
じゃあね、
「あ……う、うん」
露骨に退屈そうな雰囲気を醸しつつ、右手に持ったバッグを背中に当て、
続けて、彼女を追って
こうして『トッケン』の部室には
そして
「あ、あはは……。
すっかり嫌われちゃったなぁ、私。
名前、呼んで
「要件は?」
気落ちしたのを苦笑いで
彼女に
予想はしていたので、
この数日で、彼が自分の意見を言ったり、他者を
いや……でも、これはこれで好都合なのかもしれない。
傷口に塩を塗られなくて、済んだのだから。
お得意のポジティブ・シンキングにより気持ちを切り替えた
いつもはフレンドリーな笑い方に、一抹の寂しさ、切なさな垣間見えたのを、
「大事な話をしに来ました」
勿体振った調子で切り出した
続いて
「本日付けで私、
短い間でしたが、お世話になりました。
そして、何より……多大なるご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
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