第5話 役立たずなんかじゃなかった
「デニスは勇者パーティーで役立たずのお荷物だったって思っているみたいだけれども、それは違うよ?」
「ほへっ?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「言っただろう、これは相互支援スキルだって」
「でも、俺のしょぼいステータスじゃ……」
「デニスからマルツェルたちに対しては、捨てられたくないっていう君の執着心が『親密度』に反映されていて、少しランクが高かったんだよ」
「とはいっても元が低いから、倍率が高くても増える量はせいぜい五くらいだろう?」
「その五ポイントが重要なんだ。勇者たちほどにレベルが高くなると、ほんの少しのレベルアップでさえ困難なものになるんだよ。実はね、君からのステータス補正のおかげで、彼らはちょうど《伝説級》のスキルの使用条件を満たしたんだ」
「ってことは……」
「彼らは今後、苦労するだろうねぇ……。当てにしていたはずの《伝説級》のスキルが、君を失ったことで使えなくなってしまうから。たぶん、彼らはまだ、自分たちのステータスが下がっている事実に気づいていないはずだよ。変化は徐々に起こるからね」
なるほど……。
ティーエムちゃんの説明を聞いて納得した。
俺は気付かぬうちにマルツェルたちへ多大な貢献をしていたようだ。
「彼らがレベルアップに伴い自力でそれらのスキルを覚えるまでには、あと何年かかることやら。そもそも、覚えられるほどにまでレベルを上げきれるかどうかも怪しい」
ニヤリと笑うティーエムちゃん。そこはかとなく腹黒さを感じたが、見て見ないふりをしておこう。
「特別な君をいじめた報いだ。自業自得さ」
「俺としても、もはやあいつらがどうなろうと知ったこっちゃないな。勝手に自滅でもしてくれって感じだ」
外面をやけに気にしていたマルツェルたちのことだ。
王女様との合流を機に、あえて難しめのクエストを請け負い、誰も使えないはずの《伝説級》スキルをひけらかそうとするだろう。
いざ出番といった場面で、うんともすんとも言わない《伝説級》のスキル……。
慌てふためくマルツェルたちの姿を想像すれば、留飲も下がるってもんだ。
また、ちくりと胸が痛んだ。
先ほどの少女の姿がさっと脳裏をかすめる。
……だが、あえて無視をした。
俺を散々好き勝手に利用したあいつらとは、もう二度と関わり合いになりたくない。
そう心に決めたんだから。
「じゃ、最後になるけれど、君に素敵な加護――ユニークスキルを授けようか」
「おぉ! 待ってました!」
「ふふ、現金だねぇ。それっ、いくよー!」
ティーエムちゃんは両手を天に掲げ、何やら叫んだ。
すると、俺の身体はぼんやりとした光に包まれはじめる。
やがて光は明滅しはじめ、最後にははじけ散った。
光が消えると同時に、脳内で不思議な声が響き渡る。
《ユニークスキル《鑑定》を獲得しました》
「かん、てい……?」
「そう、《鑑定》さ。ごくごく少数にしか与えていない、貴重なユニークスキルだよ」
「で、効果は?」
「《信頼》と相性がいいよ。これを使えば、さっき僕が示したみたいに、ステータスの詳細が数値でわかる。しかも、『親密度』ランクも見られるおまけつきだ」
「おぉーっ!」
「ちなみに『親密度』って、深層の心理状態をくみ取ってランク付けしているんだ。この《鑑定》を使ってこまめに相手の『親密度』を確認することで、悪意を持って近づく輩から身を守ることもできるはずだよ」
なかなか使い勝手のいいものをもらえたようだ。
しっかりと工夫して、存分に活用できるようになろう。
「あと、これはサービスなんだけれど、君が無事に故郷の村に着くまで、《信頼》スキルの対象に僕を入れておくよ」
「えっ!?」
「これはお詫びさ。デニスにつらい経験をさせちゃったのは、僕のこれまでの説明不足が原因だしね」
こいつは助かる。
神からのステータス補正を受けられるなら、故郷までの一人旅も不可能ではないかもしれない。
でも、一つ問題もあるな。
「ステータスの補正は徐々に成されるんだろう? 今ティーエムちゃんをスキル対象にしても、実際に反映されるまでにかなり時間がかかるんじゃないのか?」
「おっと、説明が漏れていたね。スキル対象者は四枠が制限なんだけれど、そのうち三枠は『親密度』の高い順に自動的に割り振られるんだ。で、この自動枠にかかるステータス補正は、反映までに時間がかかる。でもね、残り一枠はデニスが任意で対象者を選べ、しかも補正効果は即時に現れる」
「ってことは……」
「そう、僕を四枠目の対象にすれば、君へのステータス補正は即座に反映されるよ」
それなら安心だ。
この村で時間を浪費する必要もなくなる。
「あくまでご両親の元に帰るまでの時限措置だよ? それ以降は、自身の力で頑張ってほしいな」
「あぁ、もちろんだ」
とりあえず、当面の身の安全が図れそうだとわかっただけでも僥倖だ。
「じゃあ、これで成人の儀式は終了だ。元の礼拝堂に帰してあげよう」
ティーエムちゃんはにこりと微笑むと、俺に向かって両手をかざす。
すると、視界が一気にゆがみはじめた。
あっという間に白一色の世界は崩れ落ち、浮遊感も消えた。
気が付けば、俺は一人、礼拝堂の神像の前で倒れていた。
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