第4話 《信頼》の真の力

「ふふん、どうやら驚いてくれたようだね。嬉しいよ」


 創造神と名乗る声の主は、くすくすと笑っている。


 創造神って、マジか?

 姿が見えないけれど、どこから声がしているんだ……。


 俺はきょろきょろと周囲を窺ったが、創造神は一向に姿を現さない。


「本当に創造神なのか? どこにいるんだ!」


 だだっ広い白一色な空間に向かって、大声を張り上げた。


「あぁ、ゴメンゴメン」


 瞬間、ぱあっと眩いまでの光が辺りを覆う。

 光はやがて一か所に収束し、人の姿を形成し始めた。


「っと、こんな感じかな?」


 まとまった光は、あっという間に一人の幼い女の子に変化した。


「やぁ、デニス。ようこそ、僕の箱庭へ」


 幼女はぺこりと一礼する。俺もつられるように首を垂れた。


「あ、あんたが創造神?」

「そうだよ。……あー、僕のことは『創造神』じゃなくって、『ティーエム』って呼んでほしいかな。そうだ、いっそのこと、『ティーエムちゃん』がいいかも!」

「お、おうっ……」


 幼女はパンッと両手を叩きながら、キャッキャと笑い声を上げている。

 およそ神らしからぬ語り口に、俺はすっかり面食らっていた。


「で、その創造神――ええっと、ティーエムちゃ……んは、どうして俺を呼んだんだ?」


 うぅ……、どうにも神との対話って感じがしない。厳かな雰囲気なんて皆無だ。

 しかも、姿は幼女なのに口調は男の子っぽいから、妙に調子が狂うな。


君に、素敵な加護を与えに来たのさ」


 ティーエムちゃんが指をパチッと鳴らすと、突然目の前に緑色の板が現れた。


 特別?

 いったいどういう意味だろう。


「なぜ特別なのかは、今は説明できない。ごめんね」


 詳しく聞きたかったが、この調子だと話してはくれなさそうだ。

 俺は疑問を差し挟んだりせずに、ティーエムちゃんの話の続きを待つ。


「まずは君の持つユニークスキル《信頼》の、真の効果について説明しようかな」


 ティーエムちゃんは何やら白い塊を手に持ち、緑色の板にカッカッと音を立てながら文字を書き始める。


「このスキルはね、『親密度』に応じて最大四人から、それぞれのステータスの一定割合を自分のステータスに加算できるって代物さ。その効果は、相手から自分に及ぶばかりではなく、自分から相手にも影響を与えることができるんだ。つまり、相手との信頼関係が高まれば高まるほど、相互支援でお互いに強くなれる」

「じゃあ、俺がマルツェルのパーティーに入って以降、ステータスの低下に悩まされたってのは……」

「君はもともとご両親から、血縁による強固な親密度に基づいて、かなりのステータス補正を受けていたんだ。けれど、そのご両親の元から遠く離れたバラトの街に拠点を移した結果、その補正を失ったってわけ。このスキルには効果範囲の制約があるから」


 なるほど、これまでの原因不明のステータス低下の謎がわかった。

 病気でも呪いでもなく、この《信頼》スキルの作用だったのか……。


「でもそれだったら、マルツェルたちからも《信頼》の効果でステータス補正を得られていたんじゃないのか?」

「うん、もらっていたよ」


 ティーエムちゃんは文字を書く手を止めて、こくりとうなずいた。


「じゃあ、どうして俺はあんなに無能扱いされるほどにステータスが下がっていたんだ?」

「簡単な話さ。『親密度』が全然足りていなかったから、スキルによる補正値も微々たるものだったんだよ。君と勇者たちは、単に同じパーティーメンバーだという繋がりだけだし、本当に最低限の補正値を受け取っていたにすぎないね」

「マジかよー……」


 がっくりとうなだれていると、ティーエムちゃんは小さくてぷにっとした手のひらで、俺の頭を優しく撫でた。


 見た目幼女に頭をよしよしってされるのは、さすがに小っ恥ずかしいぞ……。


「冒険者カードでわかるステータスって、星の数による大まかなランクだけだから、気付かなかったのも無理はないよ。……そうだねぇ、まぁこんな感じかな?」


 ティーエムちゃんは再び、緑の板に何やら書き始めた。


「デニスが受け取っていた補正値の推移をわかりやすく説明すると、概ねこんなところさ」

「なるほど……。こうして数字になるとわかりやすいな」


 板には『筋力』のステータスに限って示されていた。


 ちなみに『☆』は、誰もが冒険者カードで実際に見られるステータスのランクだ。

 普通は数値ではなく、この星の数のランクで能力を判断している。


・本来の俺の素のステータス 25(☆☆)

・父のステータス 96(☆☆☆☆)

・母のステータス 62(☆☆☆)

・『親密度』レベル B 補正倍率0.4

・補正後の俺のステータス 25+38+25=88(☆☆☆☆)


・マルツェルのステータス 85(☆☆☆☆)

・イレナのステータス 50(☆☆)

・ロベルトのステータス 95(☆☆☆☆)

・『親密度』レベル E 補正倍率0.05

・補正後の俺のステータス 25+ 4+ 3+ 5=37(☆☆)


「確かに素のステータスよりは上がっているけれど、ピーク時と比較したら、さすがになぁ……」

「肉体労働系ではない一般的な大人が30から35くらいかな。で、前衛志望の駆け出し冒険者が40から45くらい。37だと、冒険者としてはちょっときつい値だね。これだと、ステータススキルもろくなものが使えない」

「筋力以外のステータスも、だいたい似たような結果に?」

「残念ながら、そうだねー」

「ただ、こうして見ると、もしもマルツェルたちと強い信頼関係を結べていたら、俺のステータスってとんでもない値になっていたんじゃ……」

「100 超えは間違いないね。伝説上の人物レベルだよ」


 どうにかしてマルツェルの関心を惹き続け、親密度を上げられてさえいれば……。

 もしかしたら、まるで違った未来が見られたのかもしれない。


 まぁ、あいつらのクズさを知った今、信頼を得たいとは思えないけれど。


「うまく活用してほしいな。ほかにもいくつか特徴があるけれど、それは使っていくうちに追々わかると思う。重要な点は以上だね」

「外れスキルかと思っていたけれど、うまく使えば俺、最強になれるのか……」

「ふふーん。言ったじゃないか、デニスはなんだ。特別な君に、下手なスキルなんて授けられないさ」


 そんなに俺が大切なら、もっと早く教えてくれればいいのに。

 思わず愚痴りたくなったが、口にしたらティーエムちゃん怒るだろうな……。


「それとねぇ。デニスは一つ、誤解をしている」


 ティーエムちゃんは人差し指を立てながら、ニヤリと笑った。

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