第10話 創造神の力

「ここは……」


 いつの間にか、俺は床に横たわっていた。

 身体を起こして周囲を見回す。


 壁や天井は木造で、だいぶ古びていた。

 窓からわずかに光が差し込み、一段高い場所に安置されている石像を、ぼんやりと照らし出す。


「礼拝堂……。戻ってきたのか」


 創造神ティーエム……ちゃんによって引きずり込まれた真っ白い世界から、現実世界へと無事に帰ってきたようだ。

 身体を動かしてみたが、特に異常はない。服装も元のままだ。


 あれ……?


 だが、右肩になにやら違和感がある。


「いやぁ、下界に顕現したのは久しぶりだよ」


 聞き覚えのある幼い声が、礼拝堂に響き渡った。


「なっ!?」


 改めて右肩に視線をやると、ものすごく小型化した幼女――ティーエムちゃんがちょこんと乗っている。


「やあっ、デニス。約束どおり、君が故郷に帰るまで力を貸すよ。この身体を依り代にしたから、スキル《信頼》の対象に入れてほしいな」

「あ、あぁ……」


 まさか、肉体を伴ってついてくるとは思わなかった。しかも、手のひらサイズの小人になって、とは……。

 天界のような場所から見守ってくれるんだろうと予想していただけに、面食らった。


「どうだい? この姿もかわいいだろう?」


 ティーエムちゃんは薄い胸をつんと張って、ニッと笑っている。


 なんとも返答に困るな……。

 まぁ、単なるお戯れだろうし、適当に相づちを打っておこう。


 俺がこくりと頷くと、ティーエムちゃんは満足げに鼻歌を歌い出した。


「さぁ、自分の状態を確認してごらん? きっと驚くぞー?」


 ティーエムちゃんに促され、俺はスキルの対象者を設定する。脳内で『この人を!』と指示するだけで、すぐに効果が現れるようだった。


 準備ができたところで、今度は先ほど授かったばかりの《鑑定》を自らに使う。


 すると――。


・名前:デニス

・クラス:なし

・レベル:1

・筋力:25-42-25-47+500 =411 (☆☆☆☆☆)

・敏捷:25-42-37-40+500 =406 (☆☆☆☆☆)

・体力:25-45-37-45+500 =398 (☆☆☆☆☆)

・器用:25-37-40-40+500 =408 (☆☆☆☆☆)

・知性:25-35-47-30+500 =413 (☆☆☆☆☆)

・魔力:25-37-45-29+500 =414 (☆☆☆☆☆)

《信頼》対象者

1.マルツェル(親密度H 補正倍率マイナス0.5  影響↓)

2.イレナ(親密度H 補正倍率マイナス0.5  影響↓)

3.ロベルト(親密度H 補正倍率マイナス0.5  影響↓)

4.創造神ティーエム(親密度A 補正倍率0.5 )


「なんだこりゃ!?」

「どう? すごいでしょ」


 ティーエムちゃんはふんぞり返ると、自信満々にパチリと片目を閉じた。


「すごいっていうか、何というか……。これ、マルツェルたちの分がマイナスになっているけど、どうなってんの?」


 たしか、白の世界で聞いた説明では、わずかではあるがプラス補正をもらっていたはずだ。親密度も『E』だったはず。


「説明が漏れていたかな。嫌悪、憎悪も『親密度』に反映されて、ステータスにマイナス補正がかかるんだ」

「そうか、あの追放騒動でお互いに憎しみあったから……」

「そういうことだね。あと、『影響↓』ってなっているのは、マルツェル一行がスキル効果範囲から外れた結果、徐々に補正の影響がなくなっていってる状況を示している。逆に、効果範囲に入って徐々に影響が出始めている時は『影響↑』ってなるよ。いまはまだ、彼らがスキル対象から外れて二日も経っていないので、そのままの値でマイナス補正を受けちゃっている。だいたい十日で半減、二十日で影響が完全になくなる感じかなぁ」


 マイナスの補正もあるのなら、近しい人との関係は本当に大事にしないといけないな。

 でないと、お互いに不幸になる。


 ただ、このマイナス補正、使いようによっては……。


 脳裏にパッとひとつの考えが浮かんだ。

 あとでゆっくりと検討してみよう。


「それにしても、ティーエムちゃんからの補正がすさまじいんだけれど……」


 改めて自分のステータスをみるが、すべての値が400 前後にまとまっている。


 一つでもステータスが星ランク五――100 を超えれば、もう伝説級の英雄と同等だ。

 そう考えると、今の俺のステータスはまさに人外。神にも迫るほどだといえそうだった。


「そりゃ、僕は創造神だよ? 本来の姿で地上に顕現すれば、もちろん世界最強だからね。そんな僕からステータスの支援をもらえるんだ。当然の結果さ」


 ティーエムちゃんから助力を得られた幸運を、俺は改めてかみしめた。


「そういえば、ティーエムちゃん。本来の姿って言っていたけれど、もしかしてこの神像が?」


 礼拝堂に建つ神像へと目をやった。

 髪はモジャモジャ、髭もモジャモジャ、顔にはあちこちに深いしわが刻まれている。


「そうさ。……そんな爺さんの姿じゃ、イヤだろう? だから、この格好もサービス、サービスぅ」

「そ、そうなんだ……」


 別にそんな配慮は頼んじゃいないんだけれどなぁ。

 しかも、よりにもよって何で幼女なんかに……。性転換までしちゃってるぞ。


 ティーエムちゃんの考えがよくわからない。

 ただ、相手は神だ。どんな意図があったかなんて、悩んでも仕方がないだろう。


 ありのままを受け入れるしかないと、俺は諦めた。

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