第6話

 「ちょっと、確認したいのだけれど……」

 「何でございましょう?」

 「あそこにいるのが、もう一人の候補者、岸渡司きしわたりつかささん?」

 「左様でございます」

 「あの……銀行強盗が?」

 「左様でございます。あの猟銃を手に、人質をとっている銀行強盗が、もう一人の候補者でございます」


 どこから用意したのか、紅茶を片手に優雅に振る舞う久慈さん。対称的に、緊迫した状況下の岸渡さん。

 この銀行強盗が対象者なら、命のオーディションを生き残るのは、すでに決まってしまったと言っても過言ではない。


 善行や悪行も、審査の基準となるのなら、岸渡さんには分が悪い。


 「久慈さん。これはすでに、結果が見えているのではないですか?」

 「左様でございますか。私ども死神からすれば、どちらに審判を下すのかは、まだ五分五分――と言ったところですが……」

 「……え!?」


 五分五分――。

 僕からすれば、すでに結果が出てもおかしくない状況なのに、久慈さんは五分五分と言った。

 人間と死神とでは、見解に違いがあるのだろうか?

 その理由を、久慈さんは語り始めた。


 「有坂様は、銀行強盗だから悪行であると決めつけてはおりませんか?」


 「ええ。他人に迷惑をかけるのは、良くない事でしょう?」

 「ええ。それはそうなのですが、有坂様は岸渡様がなぜ銀行強盗をしているのか――? そちらには、目を向けないのですか?」

 「銀行強盗をする理由? それは……お金に困っているから?」


 久慈さんは、紅茶を置いて真剣な顔をして僕を見ました。


 「岸渡様には、お子様がいらっしゃいます。ですが、心臓に重い病気をお持ちのようで、心臓移植が必要なのです。その為には、大変高額な手術費用が必要なので、岸渡様は銀行強盗をせざる負えなかった……」

 「しかし、お金を盗む事は犯罪でしょう? 事情があるにせよ――」

 「有坂様。それは人間のルールにございます。そもそも、お金を生み出したのは人間。より快適に暮らす為、人間達が作ったシステムに過ぎません。命の価値を尊重するのなら、そこに商売を挟んでしまっうのは、間違いなのではないでしょうか?」

 「……」


 何も言い返せませんでした。

 物事の本質よりも、外側を見ている――いや、外側ばかりを気にしてしまう僕達人間よりも、本質のみを見ている久慈さんは、やはり死神なのだと改めて思いました。


 「さて、有坂様。そろそろ命のオーディションの最終審査と参りましょう」

 「最終審査?」


 「はい。時間も時間ですので、最終審査に移らせていただきます」

 「……」


 何がなんだか解らず混乱していると、久慈さんがそれを察した様で、説明してくれました。


 「最終審査は……アピールタイムと言えば、理解していただけるかと」

 「アピールタイム? 誰のですか?」

 「勿論、対象者の岸渡様と鎌谷様でございます」

 「ございます――って、岸渡さんは警察に包囲されてますよ。こんな中に、入って行けるとは――」

 「ご安心ください。私は死神でございます。これより、岸渡様と鎌谷様の意識を呼び寄せます」


 久慈さんが、パチンっと指を鳴らすと、一瞬で景色が変わりそこには、岸渡さんと鎌谷さんもいました。


 「それでは、命のオーディションの最終審査に移らせていただきます」

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