第5話
少し遡って、昨晩の話――。
僕は、死神の久慈さんに軟禁されていた。
理由は単純なもので、僕が自殺しないようにす る為である。
このビルには、テナントが入っていないフロアが多く、その部屋の一つに、僕は軟禁されている。
「有坂様には、些か強引な手段を取ってしまい、誠に申し訳ございません」
「そう思うなら、見逃してください」
「お気持ちは、重々承知してありますが、これも死神の仕事。世界のバランスを保つ為でございますので、ご理解ください。」
自殺を考えている僕には、世界がどうなろうと知った事ではないが、仮にも久慈さんは死神。あの手この手で、僕の邪魔をするに違いない。
何とかして邪魔されない為にも、少しでも久慈さんの情報が欲しい。
僕は、少し探りを入れる事にした。
「ところで、さっき言っていた命のオーディションーって何ですか?」
「ああ、命のオーディションでございますか……。何と説明すれば良いのか……」
「お願いします!」
「……解りました。死神が世界のバランスを保つ為に、命の調整をしている事は理解していただけたと思いますが、有坂様の様に予定にない死を選ばれる方もいらっしゃいます。しかし、それとは別に予定にない誕生もあるのでございます」
「予定にない誕生?」
「そうでございます。神といっても、万能ではございません。稀なケースではございますが、神自身が世界のバランスを崩すしてしまう事があるのです。その為、私達死神が死の候補者から繰り上げて、バランスを保つのですが、予定してない事態ですので、候補者複数名をオーディションにかけて決めるのです」
「だから、命のオーディション?」
「左様でございます。先に言っておきますが、有坂様は、今回の候補者には名前がありませんので悪しからず」
先に念を押されてしまったので、僕が代わりになる事は出来ない様だ。
それにしても、命のオーディション――とは、一体どんな基準で決めるのだろうか?
今後の参考にも、僕は選考基準に興味が湧いた。
「久慈さん、どんな基準で決めるのですか?」
「そうですね……。これまでの善行と悪行も選考の対象になりますが、やはり生きる気持ちがどれだけあるのか、これも大きな基準になります。生きる気力のない方を生かしても、それは他の命に対する冒涜ですから……」
冒涜――。
久慈さんからすれば、僕の様な自殺願望を持つ人間は冒涜者――、命のありがたみを理解していない愚か者――。
そう言いたそうに、哀れみの眼差しで僕を見る久慈さん。
その視線から、僕は思わず目を逸らしてしまった。
「ああ! 名案が浮かびました」
久慈さんが何かを思い付いた様で、指をパチンと鳴らして、僕にその思い付いた名案を語るのでした。
「有坂様には、今回の命のオーディションに協力していただくのは、いかがでしょうか?」
「……え?」
「ですから、私と一緒に命のオーディションの選考をしていただけないでしょうか?」
「な、なんで?」
「命のオーディションに参加する事で、命の大切さや尊さを理解していただきたいと思います。勿論、最終的な判断は私がいたしますから、ご安心ください」
「い、いや、ちょっと待ってくださいよ。僕に、そんな人の生き死にを決める様な事はできませんよ」
「では、こうしましょう。ご協力いただけるのでしたら、有坂様の死の順番を繰り上げる様に、便宜いたします。これでしたら、文句はないかと思われますが?」
僕の死は、五十年後まで訪れる事はない。
それならば、久慈さんから提案は、僕にとっては大変魅力的な提案であると言える。
僕の心を読んだのか、久慈さんは静かに問いかける。
「どういたしますか?」
僕は、久慈さんの提案を受ける事にした。
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