第12話
後日談。
あの逝上さんが去った後の話です。
すぐに大通りへと出て、タクシーを拾った私たちは隣街へと行きました。
タクシーを降りた先は、街の郊外の住宅地でした。一軒一軒が大きな家で、駐車場には車に疎い私でさえ知っている高級車ばかりでした。
「迷斎さん。本当に、ここに縁くんのお母さんがいるのですか?」
「ああ、間違えないここだよ――。ほら、あそこに赤い屋根の家が見えるだろう。あれが、少年のお母さんの家だよ」
そこには、一際大きな赤い屋根の家がありました。
「さて、行くとするか?」
「行く――ってまさか、お母さんに会うってことですか?」
「そうだよ。どうする少年? お母さんに会って行くかい?」
「僕は、僕は……」
翌日、登校中のことです。
「おはよう、お姉ちゃん」
この聞き覚えのある声は、やはり縁くんでした。
結局、縁くんはお母さんに会うことなく、昨日は児童施設へと帰りました。
「でも縁くん、本当によかったの? お母さんに会わなかったけれど――」
「いいんだ。突然、僕がお母さんの前に現れたら、びっくりするだろうし……それに、お母さんが幸せならそれで」
親が子供の幸せを願うように、子供も親の幸せを願うのです。縁くんは、お母さんの幸せのため、自分が会いたい気持ちを押し殺し、会うことを避けたのでしょう。
あの時、縁くんを助けることができて、本当によかったと心から思いました。
「じゃあ、僕はこっちだから。またね、お姉ちゃん」
縁くんは何度も振り返り、手を振ります。私も縁くんの姿が見えなくなるまで、手を振り続けました。
逝上さんの脅威は去りましたが、私はこの後の人生でも、自分の正義を試される場面に出くわすことでしょう。
しかし、逝上さんの言う、正義が間違っているとも思えませんし、私が間違っていたとも思えません。おそらく、正義とは正しいとか間違っているとかではなく、自分の信念を貫くこと――なのだと私は考えます。
逝上さんの正義が、人々を悪魔の脅威から救うことのように、私は自分の見える小さな範囲の人たちを、全身全霊を持って守ること――、それが私の正義であり信念です。
迷斎さんの言っていた、正義の絶対条件。
『普遍的』であり、『強く』なくてはならない。私はそこにあえてもう一つ、『信念』を付け加えることにします。
さてと、今日の帰りも迷斎さんの屋敷に向かわねばなりません。
とりあえずは、何でもない日常を楽しむことにしましょう。
アウトコレクター 弁天堂美咲と低級悪魔 一ノ瀬樹一 @ichinokokoro
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