第6話
迷斎さんの屋敷には部屋が九つあり、ガラスの割れた音のした部屋は、物置となっている部屋でした。
以前、一度だけ部屋の掃除に入ったのですが、美術品や骨董品で溢れ返っていて、その価値がわからない私にとってはガラクタにしか見えませんでした。
そんな物置と化している部屋には、すでに迷斎さんが到着していて、割れた窓ガラスの下の方を見ていました。
「迷斎さん。何かありました?」
「……弁天堂。問題が二つ発生してしまった」
「問題? 一体何が起きたのでしょうか?」
「一つは――ところで、弁天堂は子供は好きか?」
「……え!?」
突然、突拍子もない質問に、思わず私は言葉を失いました。「迷斎さんは、好きですか?」と聞こうとしましたが、返ってくる答は火を見るよりも明らか。想像通りなので、言葉を飲み込みましたけど
「で……どうなんだ。好きなのか?嫌いなのか?」
「まあ、どちらかと言えば好きな方ですよ。ちっちゃくてかわいいし、以外と好かれる方ですし――」
「類は友を呼ぶと言うからな。まぁ、弁天堂の場合は、頭だけでなく、身体も幼稚だからしかなのないことだがな」
「セっ……セクハラです、迷斎さん!! それに、私の身体は出るところは出てます!!」
「出るところって、腹は出ていては良いものではないぞ」
「!?」
最近は、迷斎さんのアルバイトのせいで、運動をする時間もないので、少し太ったことは気にしていました。それに、もうすぐ夏になることもあり、本格的にダイエットをしなければと思っていたところで、返す言葉もありません。
「弁天堂の身体には、まったくもって興味がないので話を戻すと、私はまったくもって子供が好きではない。むしろ嫌いな方だ。うるさいし、汚いし、わがままだし、言うことは聞かないし、まったくもって嫌いだね」
うるさい、汚いを外せば、ほぼ迷斎さんなのですが、本人に自覚があるようには見えないので、黙っておきます。
それに、下手言い返せば十倍以上で言い返してくるので、私の心の平穏を保つ為にも、ここは黙っておきましょう。
「それで、迷斎さん。子供がどうかしたのですか?まさか、先ほどのガラスが割れた音って、子供の仕業で、そこに子供が居るとでも言うのですか?」
「感が良くなったな弁天堂。そのまさかだよ」
窓の下には、小学生ぐらいの男の子がいました。部屋の灯りが消えているので、ハッキリとは見えませんが、着ている洋服の所々が破れているようで、まるで野犬にでも襲われたようでした。
「僕、大丈夫? どこか怪我をしているの?」
「…………」
男の子は迷斎さんを睨んだまま、私の質問に答えようとしません。睨んでいると言うよりは、警戒しているようにも見え、その証拠に座り込みではいますが、お尻は浮かせ猫が座るようなポーズをとっていました。
どうやら、本能的に私よりも迷斎さんを警戒しているようです。
「どうします?」
「うーん……弁天堂」
「はい?」
「とりあえず任せる」
「え!? 任せるって何をですか?」
状況を理解出来ない私に、迷斎さんは男の子を指差し言いました。
「これだよこれ! 私は、もう一つの問題解決のために準備があるから、行くぞ」
「!?」
私と男の子を残して、迷斎さんは部屋を出ていきました。
男の子とは言え、知らない男と私を二人っきりにさせる迷斎さんの反紳士的な対応はさすがですが、男の子にとっては迷斎さんがいなくなったことは良かったようで、迷斎さんが部屋を出た瞬間、男の子は緊張の糸が切れたように大きく深呼吸し、床にお尻をつけました。
二、三回深呼吸をすると、落ち着いたようで、男の子は初めて口を開きました。
「お姉ちゃん……さっきの人は人間なの?」
それは、私にも解りません。
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