第73話 役に立たない精鋭達
「フェレッツ様、本気で我々だけで魔剣に自我を乗っ取られた賢者と戦うおつもりですか?」
「勇者であるレビー殿が、そんな弱気では第一王子派の精鋭達の士気に関わりますぞ。それに、ここであの役立たずの賢者を始末しなければ、第一王子派は金輪際女王に意見出来なくなってしまう」
「……どのみち、いずれ意見など出来なくなると思いますけどね。話が違い過ぎます。聖剣使いがまさか三人もいたなんて」
プライス達が女王マリアに訓練所の二階でこの戦いを見守るように命令されている頃、現状の第一王子派の実質トップであるフェレッツと勇者候補であるレビーは揉めていた。
魔剣に自我を乗っ取られた賢者との戦いだというのに、この場にいる第一王子派はこの二人を始めとして、激しい口論になっていた。
フェレッツが女王マリアに我々だけで戦うと言ったせいだ。
そもそもフルーレが魔剣に自我を乗っ取られたのが悪いんだろ。
といった、レミラス派とオルセク派の責任の押し付け合いが主だったが。
「グガアアアアア!!!!!」
フルーレの金切り声と共に、ドーンと衝撃音がする。
このままでは、訓練所がフルーレの手によって壊されてしまうかもしれない。
「悠長にしている場合ではありませんな。このまま、我々が言い争っていても状況が好転することは無いでしょう」
「こちらには、魔剣三本と聖剣を使える勇者様がいらっしゃいます。いくら、賢者とはいえ負けはしない!」
「……出来れば、ご子息であるホルツ様にも戦いに出て貰いたかったが」
本来であれば、第一王子派の戦力となる魔剣は六本だった。
だが現状、使える魔剣は三本しかない。
現在暴れているフルーレに加えて、ルアレ、ホルツの三人が戦える状態ではないからだ。
ルアレは、アザレンカに先ほど負けて、魔剣を破壊された。
そしてホルツは、大勢の人間の前でプライスに完敗した事で引きこもるようになってしまったらしい。
フェレッツはこの事を隠しているが。
しかしこれでは、魔剣を持っていても戦力にはならない。
その為、現在使える魔剣は三本だけなのだ。
だが、魔剣に自我を乗っ取られてしまったフルーレがそんな事を配慮するわけもない。
今も暴れ回っている。
「レビー殿、行きましょう。心配などいりません。我々が力を合わせれば、勝てます」
「……勝たなければ、どのみち我々に未来はありませんからね」
第一王子派は口論を辞め、フルーレを止めに訓練場へと入っていく。
◇
「グガアアアアア!!!!! コロス!!! コワス!!! コロス!!! コワス!!!」
変わり果てた賢者の姿に、第一王子派の人間は言葉も出なかった。
目は真っ黒に染まり、意思の疎通は完全に不可能な状態になっていたからだろう。
騙された。
フルーレの姿を見て、フェレッツはフルーレとどう戦うかではなく、自分たちはマリーナとロイに騙されていたとようやく気付いた。
しかし、もう遅かった。
あの二人に騙されていただけなのです。
許して下さいと女王に今更頭を下げたところで、今のままの暮らしが出来る訳がない。
王国騎士団の副団長の地位を失うだけで済むならまだ良い。
それだけでは済まないだろう。
そう、分かっていたからこそ。
この場から逃げるという選択肢を選べなかった。
自分達は、負ける。
ということに気付いてしまったのに。
「全員剣と杖を構えろ! 先ほどまでの指示は忘れろ! フルーレ……いや、あのバケモノを全員殺す気で戦え!」
「……懸命な判断です。フェレッツ様の指示に従います」
「……なっ! 話が違う! フルーレ様を止めるだけで、殺しはしないはずじゃ……」
「うるさい! 変に手加減をすれば、我々が殺される!」
レビーやレミラス派の人間はフェレッツの指示を受け入れた。
気付いたのだろう。
手加減をすれば、死ぬのは自分達だと。
が、オルセク派はフェレッツの指示に反発をした。
「何をしている! 我々に強化魔法をかけろ! 分からないのか!? もう、あの女はイーグリット王国魔導士団の副団長で賢者のフルーレ・オルセクではない! ただの魔剣に自我を乗っ取られたバケモノだ! 殺すしかない!」
「我々オルセク派のトップであるフルーレ様を殺せる訳が無いだろう! フェレッツ、貴様! この状況を利用して、オルセク派を自分達の傘下にするつもりか!」
「この状況で、仲間割れなんかしないで下さい! 来ますよ!」
レビーが、仲間割れをしている第一王子派たちに忠告をする。
フルーレが魔法を放とうとしていたのだ。
防ぐ為に各々持つ武器を構え、フルーレの魔法に備える。
だが、無駄だった。
フルーレが放った魔法は風の魔法だった。
普通であれば、防げるはず。
しかし、放ったのは賢者と言われるくらいには強力な魔法を使うことが出来るフルーレであり、更に魔剣の力で魔法が強化されている。
各々持っていた武器は、フルーレが放った風の魔法により、真っ二つにされた。
唯一壊れなかったのは、レビーの持つ聖剣だけだった。
「な、何だと……? ま、魔剣がいとも簡単に折られただと……? お、おい、大丈夫か……? ……!?」
フェレッツの目に飛び込んで来たのは。
フルーレの魔法により、武器だけでなく身体も真っ二つになり、血まみれで倒れる仲間の姿だった。
「……フェレッツ様!」
呆然とするフェレッツを見て、レビーが悲鳴を上げる。
そう、フェレッツは気付いていなかったのだ。
自分が既に、致命傷を負っている事に。
「……グフッ。エボッ……イ、イーグリット、ば、万歳……」
心臓が破裂したのか、はたまた他の臓器が破裂したのかは分からない。
フェレッツは、体の穴という穴から血を噴き出し、倒れた。
即死だろう。
生き残っているのは、聖剣を持つレビーだけだ。
が、レビーは戦意を喪失していた。
聖剣を持つ者として、マリンズ王国で戦っていたレビーは聞かされていたからだ。
そう、魔剣の恐ろしさを。
レビーはマリンズ王家から、イーグリット現騎士王の家系であるウィーバー家に嫁ぐと同時に、魔剣の調査とある計画の阻止を命じられていた。
かつて、マリンズ王国の勇者はイーグリットの魔剣使いに殺されて敗北している。
その恐ろしい魔剣をイーグリットが量産しようとしている計画があると知ったマリンズ王家が焦らない訳がない。
だからこそ、イーグリットの魔剣量産計画を何とかして止めろと。
止められないにしても、遅らせろという命令を受けていた。
だが、もう遅かった。
レビーは、フルーレの姿を見てそう直感した。
この状況は、王家に聞かされていた魔剣使いに殺されたマリンズ王国の勇者が敗北した時の状況と一緒だったから。
勇者に同行していた仲間も精鋭だった。
だが、魔剣使いが放った魔法で一瞬にして精鋭達が殺され、勇者はあっという間に一人になる。
それでも恐れず、勇者は立ち向かう。
しかし、勇者は魔剣使いの魔法の前に敗北する。
今のレビーとかつてのマリンズ王国の勇者との違いは、一人になっても勇敢に魔剣使いに立ち向かうかどうかだけだった。
レビーは、フルーレに背を向け、逃亡していた。
もはや、勝てるかどうかではない。
逃げなければ、死ぬ。
だが、この場に立った事自体がそもそもの間違いだったのだ。
もう少しで、訓練場を出れるという所で、レビーはフルーレに追いつかれてしまい、フルーレの魔剣に両足を切り落とされしまった。
「あああああ!!!!! 足が! 足が!」
「コロス……コワス……コロス……コワス……」
悲鳴を上げながら泣き叫ぶレビーを見ても、自我を乗っ取られたフルーレには、届かない。
むしろ、レビーの悲鳴をうるさいと感じたのか。
黙らせるかのように、今度はレビーの両腕を切った。
勿論それで、レビーが大人しくなる訳がない。
レビーは断末魔の叫びを上げている。
「コロス……コワス」
フルーレがトドメを刺そうと魔剣をレビーの背中に突き刺そうとした時だった。
「
フルーレを火の魔法が襲った。
フルーレは魔法を躱し、その場から離れる。
「勝てる訳がねえとは思っていたが、まさか新しい勇者候補もここまで歯が立たないとはな」
第一王子派の惨状に呆れながら、訓練場に入ってきたのはプライスだった。
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