第74話 プライスVSフルーレ

 訓練場に入った俺は、目の前の惨状を見て予想通りと思いつつ、第一王子派に呆れていた。 


 流石に俺も予想外だった。

 第一王子派が、暴走したフルーレには絶対勝てないと思ってはいたが、まさか二十人対一人で数分も持たずに全滅とは考えられる訳が無かった。

 ……いや、だって魔剣持ってる奴複数人と聖剣持ってる他国の勇者に加えて、精鋭がいたんだからさ。


 三十分くらい持つかな? とかさ。


 あわよくばフルーレを疲弊させてくれるかも?

 とかさ。


 淡い期待しちゃうじゃん?


 で、これは何?

 数分持たずに全滅した上に、フルーレは元気な状態のまんまだし。

 ……まあ、そんな期待した俺が馬鹿だったな。


 「す、すいません……イーグリット王国の勇者様……た、助けて貰えますか……?」

 「……? ……いや俺、イーグリットの勇者じゃないですね」

 「で、でも……聖剣を持ってるし……聖魔法ホーリーマジックを使っていたし……」

 「イーグリットの勇者なら、訓練所ここの二階で女王様の護衛していますので……っと、マズいマズい……無駄口を叩いている場合じゃ無かった……」


 辛うじて生きていたマリンズ王国の勇者レビーが俺をイーグリットの勇者だと勘違いして助けを求めて来た。

 ……というか、よく生きていたな。

 魔剣で強化されたフルーレの風魔法攻撃を食らった上に、魔剣で四肢を切り落とされたのに。

 ……ホルツにも、一応色々とこの人の事を頼まれていたから助けなきゃいけないんだが……。


 「……悪いんですけど、レビーさん。女王様の命令でして……俺はフルーレのを最優先にしろって言われたんですよ。しかもこれは厳命だと言われたので、逆らえません。ですから俺は……貴女を……」


 ……あーダメだダメだ。

 ちゃんとハッキリ言わなきゃいけないのに。

 貴女を助けるのは後回しですって。


 「そ、そんな……イーグリットの女王は何故そのような事を……お、お願いします……た、確かに分かっていますけど……し、四肢を切り落とされたので、逃げるに逃げられないし……な、何より痛みが……」


 見りゃ分かるよ。

 てか、見てたよ。一部始終。

 俺だって助けたいよ。

 貴女の婚約者にも色々と頼まれたんだから。


 ……いや、これ以上レビーに期待をさせてはいけない。

 レビーを縋らせてはいけない。


 「今すぐ助ける事は出来ません。あの魔剣に操られている賢者を処刑した後であれば助けさせて貰いますが」


 覚悟を決め、助けを求めるレビーに俺は冷たく言い放った。


 俺も初めてなんだよ……女王様から絶対遵守の厳命が下るなんて。

 とりあえず、今の俺はフルーレを殺す前にレビーを助けるなんて事に及べば、女王への反逆と見なされて罰せられるんだよなあ……。


 それだけじゃない。

 フルーレの腕だけを切り落として、フルーレの事は生かしておくつもりだったのに、まさか女王様からフルーレ処刑命令が出るなんて思う訳無いじゃん?

 俺のプランがガッタガタだよもう。

 この人を助けてからフルーレの利き腕を切り落して解決! の予定だったのに。


 (「プライス、フルーレは殺しなさい。これは命令……いえ、厳命よ。この命令を破る事は貴方でも許されないわ。後、マリンズ王国の勇者を助けるのは後回しよ。第一王子派と共謀していた罰として、少しの間痛みに苦しめばいいわ」)


 ……マジギレした女王様、本当怖い。

 

 「女王様にもお考えがあるんですよ。……まあ、何故貴女が俺に助けて貰えないかと言えば、第一王子派と組んでしまったからですかね。知らないでは済まされませんよ。……あー、仮に知らなかったとしても無知は罪なり、という言葉があります。なあに、心配しないでください。貴女が嫁ぐ予定のウィーバー家が中心となっている中立派の人間がきっと貴方を助けてくれますから」

 「……お、お願い……ま、待って……」


 レビーはそれでも助けを求めて縋ろうとする。

 だが、俺は無視をしてフルーレの元へ行った。

 仕方ねえ貴女は……貴女が嫁ぐ予定のウィーバー家は……。


 マリア・イーグリットという一国の女王の逆鱗に触れちまったんだ。

 




 ◇





 「コロス……コワス……コロス……コワス」


 物騒な言葉を壊れてしまった機械のように繰り返し続けるフルーレの近くまで来た。

 距離は数十メートルぐらいかな。

 

 さて……どうするか。

 確かフルーレは風魔法の上級魔法の台風タイフーンが使えたはず。

 それに加え魔剣の力で、風の斬撃魔法とかいう訳の分からん魔法まで使えるようになってしまっている。

 

 斬撃魔法に関しては、レビーが聖剣で防げている辺り、俺の聖剣でも防げる……はず。

 ……問題は、魔剣の特性なんだよな。

 俺がフルーレにどれだけ恨まれているのかどうかで大分変わってくるぞ……。


 「……コロス!」


 先に仕掛けて来たのはフルーレだった。

 マジかよ。

 魔法じゃなくて、剣術勝負で来るとは俺も舐められたもんだ。


 「音速ソニック!」


 魔剣を持ったロイと戦った時と同じように、高速移動魔法でフルーレの背後へ移動する。

 フルーレの魔剣は、ロイの魔剣のような大剣ではなく、サーベルのような細い剣だ。

 恐らく剣術がそこまで優れている訳ではないフルーレの事を考えて使いやすく、なおかつ軽い剣をマリーナが渡したのだろう。


 サーベルのような剣を持つ相手と戦う時のセオリーとしては正面からぶつかって、力勝負で押し合うべきなのかもしれないが、フルーレは魔法使いだ。

 しかも賢者であったのだから、剣など長い間使っていない。


 魔剣の持ち主の反応速度を引き上げる性能を加味しても、背後からの攻撃ならばフルーレの魔剣が届く前に俺の聖剣がフルーレに届く!


 「……コロス!」

 「……チッ、甘くねえよな……」


 ガッギィンンン!!!!!


 ……俺も成長しているつもりだったから届くと思ったんだけどな。

 俺の聖剣はフルーレには届かず、魔剣で防がれてしまった。

 ……が、今回はロイの時とは違う。


 大剣と片手剣ではない。

 サーベルタイプの剣が相手だ。

 フルーレクソババア……たとえお前が魔剣の力でパワーアップしていようがな……。


 「押し込めんだよ!」

 「グッ!? ガッ……ガアアアア!!!!!」

 「そのまま、防いでいてくれてもいいぜ」


 自分が何故押されているのか分かっていないフルーレを挑発しながら、このまま俺はフルーレに止めを刺す。

 魔剣に堕ちた賢者を処刑するからよ。

 力を貸してくれ、聖剣。


 俺の言葉に呼応するように聖剣の纏う聖火は強くなっていった。


 「聖剣よ、俺に力を与えろ! 聖なる火を以て、俺に仇なす愚か者を焼き尽くせ! 連天滅火スカイ・バーンアウト!」

 「ガアアアア!!!!! コロス!!! コワス!!! コロス!!! コワス!!!」

 「連天滅火これはお前じゃ防げねえよ! 終わりだ! 賢者、フルーレ・オルセク! あの世でロイ達に文句を言うんだな!」

 「ガアアアア!!!!! グアアアア!!!!!」


 連天滅火を叩き込まれたフルーレは、断末魔を上げた後、一瞬にして聖火に包まれた。


 バキッ!


 ピシピシ……ピキッ……パリン!


 高く激しく燃え上がった聖火はフルーレの持っていた魔剣を壊し、訓練場にダリアが張った魔法障壁を壊し、そして消えた。


 ……あ、危ねー危ねー。

 フルーレを処刑する事に集中し過ぎて、うっかり訓練所ごと灰にしちまう所だったぜ。


 フルーレは……よし……完全に灰になっているな。

 ……とはいえ、イーグリットを支えた事もあった賢者の最期がこれか。

 晩年は、ベッツ家の計画なんかに賛同して汚してしまったとはいえ。

 聖火に焼き尽くされて、骨も残らず全てを灰にされて死ぬ最期なんてな。


 「……賢者フルーレ・オルセク。安らかに眠れ」


 彼女もまた、ベッツ家の計画に巻き込まれ、騙されてしまった被害者でもあるんだ。

 そこに関しては元ベッツ家の人間として申し訳なく思う。


 だから、さっさとマリーナとエリーナもすぐにお前の所へと送ってやるよ。

 その時、纏めてベッツ家の奴らに文句を言ってくれ。

 ……地獄でな。

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