第67話 困り果てる女王
「はあ……プライス。勝手に、マリンズ王国の人間と勝負するなんて決めないでくれないかしら? ……早めに潰すべき人間なのは、分かるけど」
俺達のやり取りを見ていた女王様は、俺のやろうとしている事を理解しつつ呆れていた。
更に話を続ける。
「仮に、プライスがその新しい勇者候補? を完膚なきまで叩きのめしたら、マリンズ王国の王家とかに文句言われるのは、私だって事を分かっているのかしら? それに、マリンズ王国にはユリアが嫁いでるのよ?」
女王は、俺と第一王子派が新しい勇者候補として挙げている人間が戦えば、俺がボコボコにすると思っているらしい。
まさか。
俺の全力を、みすみす他国の人間になんか、見せるつもりはない。
それに、第一王女がこれ以上酷い目に遭わない為にも、負けない程度で手を抜くつもりだ。
後、ステフから話を聞いておいて良かった。
ステフの話からすると、恐らく第一王子派がイーグリットの新しい勇者候補として挙げている人間は、所謂雑魚聖剣使い。
そう、ステフが雑魚聖剣使いと称している連中は、
つまりは、聖火が使えない状態の俺と戦うようなもの。
……うん、負ける方が難しいな。
「フッフッフ……ハァーッハッハッハッハッハッ!!!!!」
「フフ……ウフフ」
今度は、俺と女王様のやり取りを聞いていたフェレッツが高笑いをする。
そして、フルーレも笑みを浮かべている。
「プライス殿! 我々が知らないとでも思っているのですかな? プライス殿、そして元勇者アレックス・アザレンカの強さは第二王女のお陰だということを!」
「わたくし達が何の勝算も無しに勝負を挑む訳が無いですわ! 今回はイーグリット王国の新たな勇者として相応しいかどうかを示す戦い! つまり、今回の戦いは第二王女の強化魔法を使用する事は当然禁止! ならば、わたくしの娘のルアレやマリンズ王国の聖剣使いが、聖剣に選ばれただけの落ちこぼれと勇者擬きに負けるはずがありませんわ!」
「……」
「……」
そして、お互いこう思っているはずだろう。
コイツら、バカか? と。
確かに、ダリアの強化魔法が無い状態で戦うのは、ダリアに強化魔法を掛けて貰った状態の時で戦う時よりも、魔法の威力は落ちるし、魔力の消費は多くなるし、何より身体能力が大きく落ちる。
だが、そもそもそれ以前の問題なのだ。
フェレッツはマリンズ王国の聖剣使いを。
そして、フルーレはルアレを。
過大評価し過ぎなんだよなあ……。
バカなんじゃねえのマジで?
何を言い出すかと思えば。
特にルアレに至っては、ダリアの強化魔法の掛かっていない状態で、なおかつ聖剣を持っていない状態のアザレンカと、どっこいどっこいの実力だっつーの。
誰も、ダリアの強化魔法が掛かった状態のアザレンカとルアレの実力が、どっこいどっこいだなんて、思ってねえわ!
「……ああ、そう。……良いんじゃない? ダリア。この戦い、貴女は何もしてはいけないわよ?」
「……それは、構いませんが……。大丈夫でしょうか……? 特に、ルアレが」
「知らないわ。そんなの。……アザレンカ。お願いだから、ルアレを殺さないでね?」
「だから僕はそんな事しませんって!」
ヤバい。
そう女王様は思っているのだろうか。
頭を抱えながら、アザレンカに遠回しに手加減をお願いする始末だ。
そして、それはダリアも同じだ。
ダリアは、俺とこうして旅に出る前は、戦場などに同行しては、得意の強化魔法で騎士や魔法使いのサポートをしていた。
だから、この場にいる人間の中では、現騎士王のラックスと現大賢者のマットよりは少し劣るが、ある程度騎士や魔法使い達の実力を、把握している。
そのダリアが、マジでルアレを心配しているんだ。
ということは、……つまり、そういうことだろ。
……まあ、そもそも。
そもそもね?
王国騎士団、副団長であるフェレッツと王国魔導士団、副団長で賢者のフルーレが、ルアレの実力を把握出来ていない事に、問題がある。
マリーナが作った魔剣を持たせて、勇者(笑)とかやらせようとした時に、実力とか見ているはずだろうよ……。
氷の魔法のスペシャリスト、としても有名だったアザレンカと比べて、ルアレの実力がはるかに優れているだなんて思うわけねえだろ。
仮に、ルアレに実力があったら、式典の時に俺にブチギレて魔剣を使ったロイに恐れをなして逃げるなんて事があるはずが無いもんな。
後、このバカ二人はバレて無いと思っているんだろうが、フェレッツもフルーレもロイが魔剣を使った時に、しれっと逃げているからな。
そんな奴らが、俺の本気の実力を、火の聖剣の真の力を見ているはずもない。
「……あ、そうそう。仮にプライスとアザレンカが第一王子派が推す新しい勇者候補? とルアレに勝った場合、フェレッツは王国騎士団副団長、フルーレは王国魔導士団副団長解任だから。良いわね?」
「我々が、推す二人が勇者になれるのは確実ですからな! 構いませんぞ!」
「……ああ、ついにルアレが……オルセク家から勇者が誕生するのね……」
「……新しい副団長は、王国騎士団も王国魔導士団ももう少しまともな人を選ばせないと……」
はい、フェレッツは王国騎士団副団長、フルーレは王国魔導士団副団長クビ決定。
女王様も甘いよなあ。
この二人の事なんて、魔剣を使ったロイから逃げ出した時には見限っていたはずだから、さっさと副団長の役職を剥奪したかったに決まっている。
それを敢えて、負けたら副団長クビをちらつかせる事で、このバカ二人が副団長に居座り続ける事になっても、二人にこの勝負から降りる事を勧めているのに。
女王様の気遣いが分からん奴らだ。
そりゃ思わず、次はもっとまともな人を選ばせなきゃ……なんて頭を抱えながら言っちゃうよな。
「……あーラックス? それとマット? 副団長変わるかもしれない……いえ、副団長変わるから、候補考えておいてね? 団員の皆も誰が良いか考えておくのよ?」
……おいおい、女王様。
もう、俺達の勝ちは決まっているみたいな感じで話進めるなよ。
いや、勝つけど。
「騎士王殿! そして騎士諸君! 新しい副団長を考える必要など無いぞ!」
「代わりに女王様の謝罪スピーチを考えて欲しいくらいですわね!」
盛り上がっているところ悪いけど、中立派も
その証拠に、大賢者マットは苦笑いをしていて、騎士王ザラックスはドン引きしてるし。
「はあ……もういいわ……下がりなさい。フェレッツもフルーレも。勝負は、訓練所が空いてる日で、ルアレと新しい勇者候補が都合のいい日にやりましょう……」
「日時をこちらが決めていいとは! 早速確認しに行かなくては!」
「それでは今度こそ失礼ですわ! 女王様の謝罪スピーチ期待していますし、楽しみですわ!」
そう言い残し、上機嫌でフェレッツとフルーレ、その二人を追うようにして第一王子派の騎士と魔法使いが玉座の間から出ていった。
「ラックス殿、次の副団長はどなたが良いでしょうか?」
「やはり、中立派の人間を副団長にすべきですなあ……王国騎士団も王国魔導士団も」
あの二人が出ていってすぐだというのに、騎士王と大賢者は新しい副団長は誰にすべきか、と話し合い始めた。
……まあ、この二人はアザレンカと聖剣に対しての評価が高いからな。
ただ俺を、敵視しているだけで。
「……あなた達ももう帰って良いわ……はあ……頭痛い……女王の仕事増やさないでよ……」
「はは……」
困り果てている女王様に、苦笑いしつつ俺達四人は、玉座の間を後にした。
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