第66話 第一王子派の切り札?
「そんなにアザレンカが勇者になるのが反対だというのなら、ホルツかルアレ、どっちでも良いわ。アザレンカと戦わせましょうか? アザレンカに勝てたら勇者にしてあげるわ」
女王様は、余程フェレッツとフルーレにお怒りのようだ。
そもそも、聖剣無しのアザレンカとどっこいどっこいの実力の、ホルツとルアレを、氷の聖剣を持つ今のアザレンカと戦わせるって、最悪の場合、死ぬかもしれんぞ。
「そ、それは困ります! 聖剣に選ばれた者と戦わせるなど、ホルツが死んでしまいます!」
「あら? ホルツには魔剣を与えているんだから大丈夫なはずでしょ? 私はあなた達が魔剣を返さないのは自分の子供達に強くなって欲しいからだと思っていたのだけど? ねえ? フルーレもそうなんでしょ?」
「それは……」
流石、女王様。
レミラス家とオルセク家が魔剣を返上しない事を逆手に取るんだから。
そうだよな。
あいつらには、魔剣があるんだった。
魔剣があれば、流石のホルツとルアレも……いや、死ぬか。
現に魔剣を使ったセリーナは、大して強くなかったし。
「ラックスとマットは、アザレンカの勇者復帰に、賛成よね?」
「ええ、勿論です」
「今のアザレンカ殿なら、申し分無いでしょう」
「そうよね。ほら、アザレンカの勇者復帰に反対なのはあなた達
「ぐぬぬ……」
「……」
決まりだな。
女王様の言う通り、中立派の中心である現騎士王と現大賢者が、アザレンカの勇者復帰に賛成しているんだから。
その事実にフェレッツは悔しがっているし、フルーレは何も言えずに黙っているしな。
「異論は……もう
アザレンカの勇者復帰は、決定的。
誰もが、そう思った時だった。
「お待ち下さい女王様! 良いでしょう! ルアレを偉大なる先代勇者、マルク・アザレンカに遠く及ばぬ、偽物の勇者擬き、アレックス・アザレンカと戦わせます!」
フルーレの言葉に、さっきまで静かだった玉座の間は、またしても騒がしくなる。
正気か? フルーレの奴。
ルアレを今のアザレンカと戦わせるなんて。
……忠告しておいた方が良いかもな。
「あのー? 正気ですかオルセクさん? 恐らく、ルアレがアザレンカに勝てる可能性なんて全くと言っていい程無いですよ? それに、アザレンカにルアレを殺す気が無くても、殺してしまうかもしれませんよ?」
「僕そんな事しないよ!?」
俺の言葉に、アザレンカは焦りからか、大声で俺に指摘する。
そんな事はよく知ってるさ、アザレンカ。
だが、聖剣は所有者の敵と見なした者には容赦無いんだ。
お前にその気が無くても、聖剣がルアレを殺してしまう。
仮にそんな事が起きれば、
「……プライスの言う通りよ、フルーレ? 本当に正気? ロイ程度の人間に怯えて逃げたルアレがアザレンカと戦えるとは思えないのだけど?」
「こんな大勢の前で、ルアレを臆病者扱い呼ばわりした事を、わたくし達オルセク家は決して許しませんわ! ルアレが、そこの勇者擬きの偽物に勝った時には、女王様には謝罪とそれなりの事をして頂きます! よろしいですわね!」
流石の女王様も、唖然としていた。
本気で、フルーレはルアレをアザレンカと戦わせる気でいるの……? と思っているのが見ただけで分かる。
女王様だって、本気でルアレやホルツをアザレンカと戦わせるつもりは無かったはずだ。
そう迫れば、アザレンカの勇者復帰を、第一王子派も認めざるを得ない。
そう考えての発言だろうし、女王様は間違っちゃいなかったはずだ。
ただ、フルーレが女王様の予想以上にアザレンカと聖剣をナメているバカだったんだ。
……つーか、止めろよ。
いや、止めてくれフェレッツ。
仲間が、犬死にしようとしているぞ。
オルセク派閥は、イーグリット王国内の約一割程度の派閥だ。
その中心であるオルセク家の跡取りであるルアレが、仮に死んでみろ。
オルセク家の後継者争いも起きる可能性があるぞ。
確かルアレには、弟か妹かは知らんが、兄弟が三人いるはず。
オルセク家の後継者争いとか、次の王争いよりはスケールの小さい話かもしれんが、オルセク派閥の支配下にある街が、戦場になってもおかしくはない。
これ以上、イーグリット王国内で面倒事を増やすな。
ライオネル王国に行ったマリーナとエリーナ。
それと、マリンズ王国の聖剣使い達の対策もしなけりゃいけないのに。
「……これは、我らレミラス家も腹を括らなければなりませんな」
フェレッツが何やら、ぶつぶつと小声で呟いていた。
頼む、呟いていないでフルーレを止めろ。
フルーレのやろうとしている事は、イーグリット王国に新たな火種をもたらしかねない。
だが、俺のそんな願いは儚くも消える。
「女王様、そして中立派の諸君。我々第一王子派がイーグリット王国の新たな勇者に相応しいと思っている人間を連れてきますぞ!」
フェレッツは、覚悟を決めた顔で高らかに宣言した。
勿論、フェレッツのその言葉に中立派や第二王女派、そして護衛の騎士や魔法使いだけでなく、王家の人間も驚いていた。
女王様も驚いている。
……そして、俺も驚いている。
誰だ?
第一王子派が勇者に相応しいと思っている人間って。
「我々第一王子派が勇者に相応しいと考える人間も聖剣を使えますぞ? 女王様?」
「一体……誰だというの?」
「それはお会いしてからのお楽しみですな! 行きましょう!」
「それではお先ですわ。女王様、そして皆様」
そう言って、フェレッツとフルーレは玉座の間を出ていこうとする。
だが、そうさせるつもりはない。
「おい待て、フェレッツとフルーレ。何で俺達が、お前らの都合に合わせなきゃいけないんだ?」
「聖剣に選ばれたぐらいで勇者気取りですかな? プライス殿」
「我々に意見とは、流石ベッツ家の人間だった人ですわね? 後、わたくし達を呼び捨てとは良い度胸ですわ」
二人は、呆れながら笑って足を止める。
二人の護衛の騎士や魔法使い達は、笑いもせずに俺を睨み付けているが。
落ちぶれたどころか、没落した家の人間だった奴が、我々に意見するなんておこがましいとでも思ってるんだろうな。
まあ、そんな事はどうでもいいんだが。
聞かなきゃいけない事もあるし。
「
「……そうだとすれば、何の問題があるというのかな?」
「マリンズ王国の王家とは、話が纏まっていますわ。友好関係にあるイーグリット王国の為なら、聖剣使いの一人ぐらい派遣致しましょうと仰って頂いています。心配は無いですわ!」
この言葉に動揺が走る。
そりゃそうだ。
とうとうコイツらは、堂々と言い始めた訳だからな。
第一王子派は、マリンズ王国と繋がっていると。
薄々気付いてはいたが、こうして堂々とマリンズ王国と繋がっていると宣言されると腹が立ってくるな。
……なら、潰さなきゃな。
「おい、フェレッツ。ルアレがアザレンカと戦うんだ。ついでにお前らが勇者に相応しいと思っている人間と戦わせてくれよ? 俺とな? 俺より弱い人間が勇者に相応しいとは思えないからな」
「ハッハッハ、調子に乗るんじゃないぞ! 没落貴族の落ちこぼれがァ!」
「わたくし達に歯向かう事の愚かさを、身を持って知ると良いですわ!」
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