第68話 決戦は一般公開

 「全く……もっと早くあの二人は、副団長の地位から外しておくべきだったわね……」


 夜、ラウンドフォレストのいつもの宿屋で俺達四人は、部屋で話していた。


 といっても、主にダリアが現在のイーグリットの要職に就いている連中の愚痴を、話しているだけだが。


 「いやー本当だよね! イーグリットももうちょっとまともな人を選んだ方が良いと思う! だってあの人達が騎士、そして魔法使い達の組織のナンバーツーなんでしょ? 派閥やコネとかで選ぶのいい加減辞めれば良いのに」


 ダリアの愚痴に大きく頷きながら、ステフも現在のイーグリットの体質について、苦言を呈している。


 耳が痛いな。

  派閥やコネで、選ぶのは本当に辞めるべきだと思う。

  けど、現実はそう甘くはない。


 「その通りだが、今更イーグリットの体質が変わるはずが無いだろ。一年や二年とかここ数年とかそういったレベルじゃない。少なくとも爺様が現役だった頃から、派閥やコネで要職が決まるなんて当たり前だったんだから。それに、ある程度の実力はあるからそんなに文句が出ないわけだし」

 「プライスのお爺様が現役だった頃からって……それじゃイーグリットは最低でも数十年以上は、今のような派閥やコネで国の中心となる人達を選んでいたっていうの? バカみたい」

 「はは……言いたい放題だね……ステフさん」

 「言ってる事が、全く間違っていないのがまた腹立つわね」


 ステフの言葉に、俺はため息を吐くしか無かった。

  隣国のマリンズ王国出身のステフに、ここまで言われるってことは、現在のイーグリットが、相当ダメな国だという事の証明だし。


 「……まあ、だからって女王様の前であいつらを殺そうとするのは、やり過ぎなんだよなあ……ステフ。ウォーター。」

 「ひゃん!? 冷たいっ!」


 以前、ダリアとアザレンカにお仕置きしたように、初級水属性魔法を詠唱し、ステフの頭の上から水をぶっかける。


  あんな場で、フェレッツかフルーレのどちらかを殺すまでとは行かなくとも、怪我なんかさせていたら、間違いなく第一王子派と第二王女ダリア派の争いが始まっていただろうからな。


 「頭は冷えたか? この国が変わる事は無いから自分達の手で変えようってのは分かるが、物事には順序って物があるんだよ」

  「頭が冷えるどころか、風邪引いちゃうでしょ! もー冷たいな……」


 文句を言いながらステフは、当たり前のように服を脱ぐ。

  ……反省しろよ。

  後、普通に俺の前で脱ぐなよ。


 「鬼ね……プライス。そろそろ肌寒くなって来ているのに、貴方の魔法生成水を頭からかけるなんて。すごく冷たかったわよ?」

  「僕達もかけられたなあ……まだ暖かい時だったから良いけど」


 ダリアとアザレンカは濡れた体を拭いて、着替えをしているステフを見て、しみじみと懐かしんでいる。


 俺には、水属性魔法の才能は無いからな。

 どれだけ努力しても、上級水属性魔法は覚えられないし、今使える水属性魔法の威力も全く上がる気配がない。


  だから、いつでも美味しく飲めるように味、そして旅の途中でも体を洗えるように、お肌に優しく。

 それに加え、水温を自在に扱えるようにした。


  まあ、俺も着実に成長しているんだな。

  その証拠に、ステフが産まれたての子鹿のように、ガタガタ震えている。


 「酷い……結婚したら性格が変わる人がいるって聞いていたけど、プライスはそのタイプだったんだね……」

 「安心しろ。お前と結婚する前から、こんな事をダリアやアザレンカにやってたから」

 「そもそもそれがおかしいのよ……」

 「早速離婚? 離婚しちゃう?」


 呆れるダリアと嬉しそうに離婚だなんて、物騒な事を言うアザレンカ。

  縁起でも無いことを言うな。


  ただでさえ俺は複雑な家庭に産まれたんだぞ。

 スピード離婚とか、マジであり得そうだから余計な事を言うな。


  「罰として、今日は私と二人で寝ようね。プライスにも温めて貰わないと」

 「何が罰としてだ。お前は反省しろ」

 「酷い! もう寝る!」


  そう言ってステフは、ふて腐れて自分のベッドに入っていった。

  よし、これで本題に入れるな。


 「さて、本題に入るぞ。俺が戦う予定のマリンズ王国の聖剣使いなんざどうでもいい。問題はルアレだ。本気でアザレンカが戦う訳にはいかないのに、ルアレは魔剣を使うほど本気で、アザレンカを倒そうとしてくるんだからな」


  さっきまで、笑っていたダリアとアザレンカも真剣な表情へ変わる。

 格上なのはアザレンカ。

  だが、仮にルアレを死なせるなんて事があれば、大問題だからな。


 「絶対零度アブソリュート・ゼロが使えないのが面倒だね。人に向けて使ったら、凍死にならなくても凍傷はしちゃうよ……」

 「しかも、聖剣って同じ属性の魔法の威力引き上げるからな。その状態の絶対零度を食らったら間違いなくルアレは大怪我待ったなしだ」

  「う~ん、難しいなあ……」


 顔をしかめながら悩むアザレンカ。

  仕方ない。

  アザレンカが勇者という地位に復帰する為には、人格面も考慮されるのだろうし。


  先代勇者は人格面でも完璧だったからな。

 というか、人格面が考慮されないんだったら、女王様には非公式の場ではあるが、俺が勇者になればいいって言われたからな。


 だだ、人格面がね……。

  と遠回しに俺の人格が勇者には相応しくないと女王様は思っているのか、この話は忘れてとすぐに無かった事にしたが。


  まあ……その通りなんだけどな。

  マルクみたいに嫌いな人間でも、困っていたら助ける! なんて事は俺には出来ない。


 だから、いくらルアレが敵対勢力の人間だとしてもボコボコにして再起不能にしたり、殺したりなんて事をすれば、アザレンカは人格面で勇者に相応しくないと、勇者失格の烙印をまた押されかねん。


  「でも、あんまり手を抜くのも危険よ。一応、ルアレは魔剣を持っているのだから。ルアレを気にして、アザレンカが逆に怪我をするなんて事があったら、それは本末転倒よ?」

 「面倒くせえな……本当に……しかも、今回の戦い、女王様だけでなく王家の連中や貴族、それどころか王都の連中にも一般公開して見せるんだぜ? 何考えているんだろうな」


  夕方、一つ聞き忘れた事があったので、女王様の元へ俺一人で玉座の間へ戻ったら、今回の戦いの日時や場所が早速決まったらしいので教えてもらった。


 戦いの日は、五日後。

 行われる場所は王国魔導士団が所有している訓練所。

  それに加え、女王様以外の王家、そして貴族や王都の民達にも見せるらしい。


  最初聞いた時の感想は、正気か? の一言しか無かった。


  訓練所なんか、俺の魔法で破壊出来るレベルなのに、聖剣と魔剣の戦い、聖剣と聖剣の戦いに耐えられる訳が無いだろと思うのは当然だ。


 しかし、今回は大賢者や王国魔導士団の人間を含め、王都にいる多くの魔法使いが、力を合わせて分厚い魔法障壁を張るらしい。


 「だからさっきも言ったでしょ? 最近国民の意見をないがしろにしているんじゃないかという意見が出ているから、この戦いを自分達の目で見届けさせて納得させる為よ。十一人の新勇者! とかやったせいよ」

  「しかも、その十一人の新勇者に選ばれた内の一人をプライスが多くの人達の前で瞬殺したんでしたっけ? それじゃコネで選んだってバレますよね」

  「そうなのよ……。多分今回の戦いが一般公開なんて事になったのは、少なくともプライスにも責任があるわ」

  「えぇ……」


  嘘だろ?

  俺が悪いの?

 どう考えても弱すぎるクセに、あんな風に俺を挑発してきたホルツが悪いだろ。


  「でも、一般公開ならあんまり苦戦するのも良くないかもしれませんね……。あっ、そうだ! 仮に僕がルアレを怪我させても、プライスがいるから大丈夫じゃん! 僕を瀕死状態から回復させてくれた魔法をかければ良いんだよ!」

 「絶対嫌だね! 誰がルアレなんかの為に復燃治癒リラプス・ヒールを使うか!」

  「僕の為にそこは我慢してよ!?」


 結局、この日どころか戦いの日まで俺達の話し合いは纏まる事なく、決戦を迎える。

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