第62話 聖剣の真の力

 「もしや滅ぼされた小国とは、キハンイーの事か?」

 「あ、お爺様知っていたの? そうそう、色んな国のお金持ちが別荘建てたり、租税回避地として利用してた国だね」


 キハンイーか。

 確かにあそこは、そんなに大きい国じゃなかったからな。

 そこら辺の、大きな街二つ分くらいの大きさしか無かったし。


 「それは知っていたのじゃが、それをやったのが、マリンズ王国の王女だとは驚かされるわい。キハンイーは、国としてはさほど大きくはないが、金持ち達が凄腕の用心棒を沢山雇っていたはずじゃろ。まさか、王女がその用心棒連中ごと国を滅ぼしたというのか?」

 「そうだよ。たった一人で、キハンイーを人ごと全て更地にしたの。残ったのは、お金持ち達が隠し持っていた財産と瓦礫の山、……そしてマリンズ王国の人間だけって言ってたかな」


 ステフの話を聞けば聞くほど、マリンズ王国の第一王女、テレサ・マリンズが怖く感じるな。


 国一つを更地にしてしまうなんて、かなりの実力者だろ。


 「しかしそんな事をして、他国やマリンズ国民から、批判を受けなかったのですか?」

 「何を言っとる、ホセ。キハンイーは、悪どい金持ち連中の脱税の為にあったような国。それに、犯罪の温床でもあったんじゃ。あんな国を滅ぼす大義名分ぐらい、マリンズ王国が用意してない訳が無いじゃろう」

 「お爺様の言う通り。マリンズ王国の若い女性が、キハンイーの人間に拉致されて、奴隷として売買されている現状に、腹を立てたから滅ぼしたって他国には説明したから、テレサは批判どころか賞賛されてたよ。実際にそういう被害はあったし、キハンイーで奴隷にされていた女性達を助け出してるし」


 ……なるほどな。

 それなら他国が文句を言いにくい訳だ。

 人身売買は世界で問題になっている事。

 変に、キハンイーを庇うような発言をすれば、金持ち側、つまり奴隷を買う側の人間というレッテルを貼られかねないからな。


 「まあ、小さいとはいえ、国一つを更地に出来るんじゃ、そりゃ強力すぎて水の聖剣を滅多に使わない訳だな」

 「更地に出来るって、凄いよね。僕も水属性魔法を使えるけど、そんなの上級の水属性魔法でも出来ないよ」

 「よっぽど、強力な聖魔法ホーリーマジックなんだろうな」


 俺とアザレンカは頷きながら、苦笑いを浮かべてしまう。

 当たり前だ。

 こんなのが敵になるかもしれないなんて。


 しかし、ステフは更に俺達を驚かせる事実を話す。


 「……聖魔法だけじゃないよ。聖剣にはその上の魔法がある。そして、テレサはその聖魔法の上の魔法を使える。今のテレサの目的は、もう一本の雷の聖剣でも、聖魔法の上の魔法を使えるようにする事じゃないかな」

 「なんだなんだ? 聖魔法の上って? 今でも十分人間離れしてるだろ……神かなんかか? マリンズ王国の第一王女は?」

 「あれ? プライス知っていたの? 聖魔法の上の魔法を」

 「知ってるわけ無いだろ」


 知らねーよ。

 聖魔法の上の魔法なんて。

 神って言ったのは言葉の綾で、あくまで冗談だろうが。


 「だと思った……聖魔法の事を知らないのに神魔法ゴッドマジックを知ってるわけ無いもんね」


 はい出た。

 また新しい俺達の知らない言葉が。

 情報の共有って本当大事だね。

 俺達が知らない事ばっかりだから、ステフに説明ばかりさせることになるんだよ。


 「知ってるか? 神魔法って?」

 「「「「…………」」」」


 はいやっぱり、俺を含めてイーグリット出身の人間は誰一人知りませんでした。

 元騎士王や領主クラス、それに加えて勇者の孫娘に、王家の人間が知らないんじゃ、俺が知ってる訳がねえな。

 ……マリーナとかエリーナ辺りは知ってそうだけど。


 「気にしなくて良いよ。聖剣使いの中でも一握りしか使えない魔法だから。ただ、テレサは使えるってだけ」

 「……聖剣一本で国を滅ぼせる。それってもしかして神魔法の事を指していたのかしら?」

 「流石、ダリア。察しが良いね。そう、聖剣によって国が滅ぼされた言い伝えには、全て神魔法が関わっている、と言われているんだよ」


 ……おい、それは本当なのか?

 ステフの話、聞こえてるんだろ?


 俺は火の聖剣に問い掛ける。


 ステフが嘘を言っている、と疑っている訳じゃないが、聖剣に聞いた方がより正確だと思ったからだ。


 (神魔法について知っているとはな。流石、雷の聖剣に選ばれし者。お前と違い、博識だな)


 おーおー?

 ケンカ売ってんの?

 まるで俺が無知なだけ、だと言いたげな口振りじゃねえか?


 (お前の妻が言っている事は、何も間違っていない。国を滅ぼすとは、そういう事だ。はっきり言おう。今のお前には国を滅ぼす程の力は無い。)


 俺の言葉を無視し、火の聖剣はステフの言っている事が正しいと言う。


 ……今のお前には、ってことは俺もいずれ国を滅ぼすレベルの力を手に入れてしまうって事かよ。


 (それは分からん。そこはお前次第だ。その領域にまで達するのか、数ヵ国探せば、見つかるほどの聖剣使い程度で終わるかはな)


 そう言い残し、火の聖剣は何も言わなくなる。

 ……本当、こいつは……。

 もっと、聞きたい事なんか山程あるのによ……。

 後、教えろよ……聖魔法や神魔法の事を知ってたんならさ……。


 「……? プライス、どうしたの?」

 「……あ、いや何でもない。続けてくれ」

 「そう? それで、テレサの神魔法っていうのが、海神の三叉矛ポセイドン・トリアイナ。私が今まで見た魔法の中でも最強の魔法」


 ポセイドンか。

 流石、水の聖剣。

 海神の力を宿しているということか。


 ……ん? 見たことある?


 「一応、これでもマリンズ王国では、ちゃんとした聖剣使いだったからね。テレサに頼まれて、キハンイー公国殲滅作戦に同行していたの。まあ……私は見回りくらいで、何もしてないけど」


 よく考えればそうだった。 

 一応俺達は聖剣に選ばれた人間なのに、こんなに自由に出来ているのがおかしいんだよな。


 普通は、その国の王とかに仕えて、命令を受けたりするのが当たり前なんだから。


 「どんな魔法だったんですか? 水魔法も使える者としては気になりますね」

 「そっか、アザレンカも水魔法使えたんだっけ。……何て言い現せば良いのかな。神話を見ているような……神が人に裁きを下すような……そんな感じかな」

 「……??? ……分かった? プライス?」

 「安心しろアザレンカ。俺も分かってない」


 俺とアザレンカが、神話なんかを知っている訳が無い。

 もうちょっと、無知な人間にも分かるように話して欲しいな。


 するとダリアが口を開く。


 「……海の神、ポセイドンは怒り狂うと、嵐や地震、津波を引き起こす。ポセイドンの武器三叉の矛はそれを容易くする」

 「……何だそりゃ?」

 「昔、本で読んだことがあるわ。分かりやすく言えば、マリンズ王国の第一王女テレサ・マリンズが使う神魔法は、国が滅ぶほどの自然災害を引き起こす魔法って事よ」


 国が滅ぶほどの自然災害を引き起こす魔法だと?

 そんな魔法が人間に使えるのか?


 「ダリア正解。そう、テレサの神魔法、海神の三叉矛は、万物を木っ端微塵に砕くような強大な地震で全てを破壊し、全てを飲み込む津波を引き起こして、跡形も無く更地にする。残るのは、彼女が……テレサが残っても良いと思った物だけ」


 ……本当にそんな魔法が人間に使えちゃうのかよ。

 それもう、ただの神じゃねえか。


 神魔法、恐ろしいな。


 「あ、でもテレサ自体はそんな悪い人じゃ無いんだよ? それに大人の女性って感じの色気たっぷりのお姉さんなんだから!」

 「……あまり、仲良くしたいとは思えないわね」

 「大人の女性って……何か怖いなあ……」


 全くだ。

 いくら、美人に弱い俺でも食指が動かないな。

 そりゃ、そんな女、恋人なんか出来る訳ねーわ。

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