第61話 敵の戦力

 「ところでダリア様達は、この後どうなされるのですか?」


 ステフの、聖魔法ホーリーマジックについての話が一通り終わったので、聖剣と推薦状を貰った以上、言い方は悪いが俺達は、ウェアホワイトにはもう用は無い。


 それに、今のところウェアホワイトに、問題は無いし。


 それをホセさんも分かっているから、こんな質問をしてきたのだろう。


 「推薦状を六つの街の領主から貰った事と、アザレンカが氷の聖剣に選ばれた事は、お母様に伝えなければいけないから、一度王都へ戻らないといけないわね」


 ひとまず、ダリアが王の剣の儀式を受ける権利を得たこと、そしてアザレンカが氷の聖剣に選ばれたことの報告を兼ねて、女王様の元に行く。


 ダリアの方針に俺達は納得して頷いた。


 「その方がいいじゃろうな。第一王子派への牽制にもなるじゃろ」

 「牽制という目的なら、女王様にアザレンカへもう一回勇者の地位を与えて貰わないとな」

 「そうね。このままずっと勇者の地位を持つ者がいないのは、イーグリットにとっても良いことなんて一つも無いわ」


 ダリアの言うように、今のイーグリットには勇者の地位を持った人間がいない。


 十一人の新勇者?

 ああ、そんなのもいたな。


 残念ながら、俺とロイが戦い始めた時にアリス以外の勇者(笑)達は我先にと逃げ出した為、当然女王に失望され、無事次の日には十人の勇者(笑)が勇者の地位を剥奪された。


 そしてアリスも勇者の地位を辞退した上に、第一王子派がアザレンカに勇者の地位をもう一度与える事を反対した為、アザレンカは勇者に復帰出来ず。


 と色々あった為、結局勇者の地位を持った人間がイーグリット王国から、いなくなって一ヶ月以上経過している。


 「確かにもう一度勇者に任命して貰えるのは嬉しいですけど、折角ダリアさんが王の剣の儀式を行う為の条件を満たせたんですから、先に次の王に相応しいのはダリアさんだって証明をした方が良いんじゃないですか?」


 アザレンカの意見も一理ある。

 折角ダリアが、六つの街の領主から推薦状を貰ったんだから、第一王子派を黙らせる為にさっさとダリアが次の王に相応しいと見せつけるのも良いかもしれない。


 だが、アザレンカのその意見に爺様とホセさんは反対みたいだ。


 「アザレンカ殿の言いたい事はよく分かりますが、……それは悪手ですな」

 「……じゃな、四つの街が第一王子派、そしてもう一つの街は中立じゃが貴族寄り、更に第一王子派には魔剣があり、背後にはマリンズ王国の連中。流石に敵が多すぎるわい」

 「今の状況で儀式の強行などをすれば、内乱待ったなしですな」


 二人は首を振って、今すぐ儀式を行うべきではない。

 そう俺達へ忠告した。


 そして、それはステフもだった。


 「第一王子派の背後にいるのがマリンズ王国なら、その背後にいるマリンズ王国の人間が誰なのかを判明させてからの方が良いかも」

 「ステフも今すぐダリアが次の王に相応しいと証明するのは反対なのか?」

 「そう。相手次第では、イーグリットも対応を変えなきゃいけないと思う。……あ、そうだ。テレサ達がどんな聖剣を使うかとか、どんな見た目なのか教えた方が良いね」


 え? ステフはそんなに情報持ってるの?

 ここにいるステフ以外の人間全員がそう思っているだろう。


 そんな事を思われている事は気にせず、ステフは話し始める。


 「まずはマリンズ王国第二王子、フリード・マリンズ。プライスと同じく火の聖剣を使える。後は、チビテブ不細工で、髪が全く無いってくらいしか特徴無いな」

 「……酷い言いようだな」

 「それだけの事はしているからね、プライスが嫌っているイーグリット王国の、第一王子と同じくらいか、それ以上には酷いことしてるよ?」

 「そうか、それなら問題無いな」

 「凄い手のひら返しだね……まあ僕も第一王子は嫌いだから、そんな人と同じかそれ以上に酷い人なら好きにはなれなそうだな」


 口には出さなかったが、俺はこう思っていた。

 そんなクズなら、殺しても問題無いなと。


 聖剣同士の戦いで、手加減なんかしてられないからな。

 仮にうっかり死なせても、恨まれる人間が少ない方が良い。


 「あと第二王子は、今のマリンズ王国の王が若い時かな、王妃と結婚する大分前に遊びのつもりで抱いた女との子だから、表には出て来ないはずだったんだけど、聖剣に選ばれちゃったから第二王子として迎え入れられたの。第一王子よりも年が上なのに第二王子ってのもマリンズ王国では有名な話」

 「年は?」

 「確か、三十歳は超えてたかな? というか、体型が若い人とは思えない」

 「その上、禿げてるんだもんな」

 「……一応お姉様の結婚相手よ。あんまりそんな話は聞きたく無いわ」


 ダリアはこいつの紹介はもう辞めろと言いたげに、不機嫌になる。

 第一王女の結婚相手がチビでテブなだけじゃなく、ブサイクなハゲで、その上性格悪いし、女遊びが激しい奴だなんて、知らなかっただろうからな。


 ……しかも、第一王女は……ユリアさんはその男の子を身籠っているんだから。

 ダリアが聞きたく無くなるのも当然だろう。


 「そうだね、じゃあ次は第一王子バウアー・マリンズ。光の聖剣を使える、今のマリンズ王国の勇者だよ。髪の毛は真っ白な白髪だけど年は二十一歳。まだ、結婚はしていないけど恋人はいるはず」

 「第二王子より、十歳くらい年が下なのに第一王子なのかよ」

 「まあ、正妻である王妃から産まれているからね、第二王子の母親はマリンズ王家の人間じゃないからしょうがないよ」


 確かに、正妻である王妃から産まれた第一王子と側妻どころか妾や愛人ですらなく、王が若いときに遊び相手のつもりで抱いた女から産まれた第二王子じゃ、王や王家からの扱いの差が出るのは分かるが、違和感ありまくりだろ。


 十歳近く離れていたら。


 「強いんですか? そのバウアーってマリンズ王国の第一王子は?」

 「私やアザレンカ、第二王子よりは強いね。……プライスとは互角くらいかな」

 「多分、ステフは贔屓目で見てるから、マリンズ王国の第一王子は俺より強いんだな」

 「そんなこと無いよ! ダリアの強化魔法があれば余裕で倒せると思う! ……でもまあ、バウアーを倒したところで、テレサがいる限りマリンズ王国は揺るがないだろうけど」


 ステフはそう言って苦笑いを浮かべながら、マリンズ王国最強の双聖の姫を語り始める。


 「そして、マリンズ王国の次の王になると言われている、第一王女テレサ・マリンズ。水と雷の聖剣を使うんだ。特に強力なのは水の聖剣。……でも、あまりにも強力すぎてテレサが水の聖剣を使う事は滅多に無い。年は二十四歳だよ。あ、後テレサは結婚相手どころか恋人すらいないよ」


 ステフの話を聞く限り最悪だな。

 まさかそのテレサって女が、水の聖剣を使えるなんて。

 俺の天敵も良いところじゃねえか。


 「……ふむ、そんな者がマリンズ王国にいるとはのう。しかも水と雷とは。昔、水と氷の聖剣を扱う勇者がいるとは聞いたことがあったが、水と氷のような近い系統ではない聖剣を扱えるとは規格外じゃの」

 「恐ろしいですな、本当に」


 爺様とホセさんは戦々恐々といった感じだ。


 「……本当に恐いのは聖剣が二本使える事なんかじゃないよ。テレサは小国とはいえ一つの国を滅ぼした実績があるからね」

 「「「「「!?」」」」」


 俺達は驚くしかない。

 そりゃ、驚くしかねえよ。


 一つの国を滅ぼした。

 一人で国を滅ぼす位の力は持っているという事だろ?

 マリンズ王国の第一王女、テレサ・マリンズは。


 ……そんな怖い女に結婚相手どころか恋人なんか出来る訳がねーわ。

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