第58話 氷の聖剣が抜けない!?

 アザレンカが、一向に戻ってこない為、氷の聖剣がある祠に、俺とステフは向かっていた。


 領主のホセさんの家から、氷の聖剣がある祠までは、一キロ程しか無いのだが、一応人の行き来がある道を少し通るので、ダリアが街の人に見つかってしまう可能性を考えて、ダリアはホセさんの家で留守番して貰った。


 「抜けないー! どうして抜けないの!?」


 アザレンカは、聖剣を抜くのに悪戦苦闘しているのか、街にまで聞こえてしまうのでは……と思ってしまうような大声で叫ぶ。


 「鞘には触れてるし、手に持ってもいるから、氷の聖剣に、拒否されてはいないようだな」


 アザレンカが、氷の聖剣に触れてはいるので、俺は一安心した。

 基本的に、聖剣に拒否をされている場合は、触れる事すら出来ないからな。


 火の聖剣の場合だったら火傷するし、雷の聖剣なら感電するし。

 氷の聖剣に拒否されたらどうなるんだろうな。

 凍傷でもするのかな。


 「抜けなきゃ意味ないって、鞘に入ったままの聖剣で、叩いて攻撃するんじゃないんだからさ」


 ステフは呆れながら、手厳しい事を言う。

 ……そういや、アザレンカは火の聖剣を抜けなかった頃、鞘に入ったままの聖剣で、俺をぶっ叩こうとしてたな。

 今思えば、危なかったんじゃね?


 そんなことを考えているとアザレンカのいる祠へと着く。


 「どうだ? 抜けそうか?」

 「うるさい!」

 「な……何だよ……そんな言い種無いだろ?」

 「あっ……ごめん……プライス。プライスに言ったんじゃないんだ。氷の聖剣が色々言ってきてうるさいんだよ……」


 聖剣が色々言ってくる?

 そういや、俺も火の聖剣を抜く前に、色々言われたな。


 俺が喉から手が出るほど欲しい力を与えてやるとか、ダリアを守れる力が欲しいんだろ? とか、俺をバカにしていた連中を見返すほどの力をくれてやるぞ? とか言われた記憶がある。


 「そうそう。聖剣を引き抜く前に、聖剣に聞かれるの。貴女の望みは何? って」


 ステフは頷きながら、自分が聖剣を抜いた時を懐かしむ。

 ……マジで?

 聖剣に望みなんて聞かれなかったぞ?

 力を欲しがってるのは分かっているから、さっさと抜けって言われたの俺だけ?


 「……俺、聖剣に望みなんか聞かれなかったぞ?」

 「え? 本当? 聖剣によって違うのかな? 私は聖剣に貴女の望みは何? って聞かれたから、迷わずプライスに会いたい、プライスと一生一緒にいたいって言ったよ?」

 「……ステフ」


 ああ、本当にステフにまた会えて良かった。

 こうして一緒にいれるって幸せだな。


 「な、何? 急に真剣な顔して」

 「いや、俺は本当に幸せ者だなって。ステフみたいな素晴らしい女性に、そういう事を言って貰えるって、男として最高だろ?」

 「もう……プライスのそういう所……本当に大好き!」


 嬉しそうにステフは俺に抱きつく。

 本当に、祠の近くに人がいなくて良かったと思う。

 こんなキレイな女性に、抱きつかれる所を男どもに見られたら、嫉妬されるに決まっているだろうし。


 「イチャイチャするなら、別の場所でやってよ! ただでさえ聖剣抜けなくてイライラしてるのに、更にイライラするからさ!」


 イチャイチャしているつもりなど無かったのだが、アザレンカにとっては鬱陶しかったようだ。

 確かに俺がアザレンカの立場だったら、間違いなく怒ってただろうな。


 「ごめんごめん、アザレンカ。それで聖剣はなんて言ってるの?」

 「……なんか、アナタのお願い事はな~に? って凄いイラっとする感じで聞いてくるんだけど……何? 聖剣ってこんな口調なの?」

 「私は普通に貴女の望みは何? って聞かれたけどな……。そんな変な口調じゃ無かったよ?」


 ステフとアザレンカはお互いの聖剣の口調を言い合う。


 何だそりゃ。

 聖剣って色んな口調なんだな。

 ステフの雷の聖剣は貴女、氷の聖剣はアナタ、俺の火の聖剣はお前。

 ……あれ? 火の聖剣って、よく考えると大分失礼じゃね?


 「まだ良いだろ。望みやら願いやらを聞いてくれるだけ」

 「そういえばプライスはどういう事を聞かれたの?」

 「何も聞かれなかったんだよなあ……それどころか、お前は力が欲しいんだろ? じゃあ抜けよ、お前に力を与えてやるからって、上から目線だぞ? そう考えるとアザレンカは、まだマシだろ」


 俺は自分が初めて聖剣を抜いた時を思い返す。

 うん、今思い返しても上から目線だったな。

 間違いない。

 なんなら命令口調だったからな。

 いいからさっさと抜けとか。


  (失礼な奴だな。お前には、ちゃんとお前が望む力を与えてやったではないか? 選んでやった事に対する感謝が足りんぞ?)


 ほら、これだもんなあ……。

 火の聖剣は……。

 俺にしか聞こえていないからって、好き勝手な事を言いやがって……。


 (まあ良いだろう。しかし、氷の聖剣も強情だな。そこの女勇者は……いや、今は勇者では無くなったのか。そこの小娘は、氷の聖剣の使用者として、十分な身分と目的があって、氷属性魔法を使えるのに何故だ?)


 おうおう、この聖剣はアザレンカに聞こえてないからって小娘呼ばわりかよ。

 一応、俺の前に選んでいた勇者の孫娘だぞ?

 アレでも。


 しかし、十分な身分と目的か。

 確かにアザレンカは、英雄と言われた勇者の孫娘だから、身分は申し分無いな。

 しかも、氷属性魔法も上級まで使えるし。


 なら、氷の聖剣が抜けない理由は何だ?

 聖剣を抜く目的か?

 ステフは、聖剣を抜く目的に俺と会いたい、俺と一生一緒にいたいという目的というか、私欲で抜けたんだからな。


 というか、聖剣によって言い方が違うのかよ。

 火の聖剣は目的、雷の聖剣は望み、氷の聖剣は願いか。


 「俺は目的があったから、火の聖剣に選ばれたっぽいんだよな。何よりお前には目的があるって、目的を重視している感じで言ってたし」

 「目的? 望みじゃなくて?」

 「願いじゃないの?」

 「……ややこしくなってきたな」


 ……大体一緒の意味じゃないのか?

 目的も望みも願いも。

 いや、違うんだろうけどさ。


 とりあえず、言い方は違えど、聖剣を抜こうとする理由の内容を、聖剣は重視しているんじゃないのか?

 ということは、アザレンカの聖剣を抜いて、叶えたいと思っている願いがダメなのか?


 「アザレンカは、どんな事を願いながら聖剣を抜こうとしているんだ?」


 聖剣は内容を重視している。

 そう考えた俺はアザレンカに聞いてみる。


 「そりゃ、決まってるじゃん! 先代勇者のような、立派な勇者になりたいって願いだよ! だけど、さっきからそれじゃダメね~ってスッゴくウザい感じで拒否するんだよ!」


 ……アザレンカがイライラするのも分かるな。

 俺も、聖剣にそんな感じで拒否されたら、間違いなくイライラしてただろうな。


 けど、先代勇者のような立派な勇者になりたいって事は。

 つまり、英雄と呼ばれるような勇者になりたいって事だろ?

 結構十分な願いだと思うけどな。

 何がダメなんだろう。


 「分かった! 先代勇者のような立派な勇者になりたい! だからダメなの! アザレンカ! 先代勇者を超える勇者になりたい! はどう!? これは立派な願いでしょ!」

 「そ、そうか! ありがとうステフさん! 先代勇者を超える勇者になりたい! 英雄と呼ばれた憧れの人を超えたい!」


 これは良いんじゃないか?

 願いとしては壮大だろ?

 聖剣も叶えさせてやりたいって思うんじゃないのか?


 が、しかし。

 全く抜ける気配が無い。


 「そうじゃないでしょ~? って何なの!? 結構、願いとしては間違ってないと思うんだけど!? ねえ!? 僕の願いって何なの!?」

 「そんなの俺達に聞くなよ!」


 とうとう、訳が分からなくなったのか、アザレンカは自分の願いを俺達に、考えて貰おうとする始末。


 この後、一時間近く考えたが、結局聖剣を抜くことが出来なかったので、ひとまずホセさんの家へと持っていって、皆でアザレンカの願いを考える事になった。

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